地震史料集テキストデータベース

[未校訂]（嘉永七年七月）
廿五日
快晴、残暑つよし（中略）
△当六月中勢州大地震の評判は其砌直ニ承るといえとも、遠境区々の噂に付、記録延置候所、此節勢州来状之写
当六月十三日昼九ッ時ゟ伊賀上野之城下大地震ニ而人家不残ゆり潰し、同十四日夜八ッ時ゟ伊勢四日市大地震ニ而出火いたし、即死怪我人数不知、しかし内越ゟ南は無難、是偏ニ　内外之御宮之御利益歟と諸人渇仰、則
一、勢州四日市七分之荒ニ而、人家三千四百五拾軒、即死怪我人六百九拾人
一、追分・神戸・白子・石薬師・塩野・亀山・坂之下当時往還衆人馬継立なし
一、奈良七分、家数弐千八百軒、人数四百人余
一、勢州古市九分、人家四百五百軒、人数六百七拾人
一、上野城下家数四千軒、人数八百八拾弐人
一、初瀬人数四百人余
右之通、此外未タ相訳との文面ニ而江・濃・尾州辺之事ハ未タ実事不相知といえとも、松坂辺ハ七月中旬ニ至迄毎日十四・五度之大ゆりニ而家内之住居出来かね、往来ニ小屋かけいたし、仮住居のよし冨田氏ゟ申越、此地震六ケ国とも又ハ八ケ国共申評せり
（中略）
（閏七月）
廿四日
曇（中略）
△閏七月十三日美濃路大水、百三、四十年来覚なしとの事也、○勢州・其外地震も殊之外大荒ニ而、先年之信州ゟハ増り候との事也
（中略）
（十一月）
四日
快晴（中略）
△今日四ッ時頃大地震、四十弐ケ年来覚なし、夫ゟゆり返し之小地震昼之内八、九度返、夜中明朝江かけ十四、五度返也
（中略）
十一月七日
快晴（中略）
△去ル四日地震之事、御府内も所々家根瓦等を落し、余ほと之ふるひのよし読売出ル、別而甲府御城所々崩れ、市中不残ゆり潰し、沼津御城市中・信濃飯田同断、都而甲・信・駿州辺迄大震ひ、人馬も損し候よし之評判、当最寄も小仏峠向迄ハ人家余ほと潰れ候趣也
（中略）
十二日
晴（中略）
△此度之地震に付、豆州下田湊大津波ニ而民家あらまし引去れ候所、江戸ゟ此節御出張御役人様方ハ御旅宿寺院ニ而弐里余引隠に付、先知いたし山上江御引取御無難、異船も前知船を沖中江乗出し無難との評判、其外奥州すしも大地震との評判也
（中略）
十一月十三日
晴、風あり（中略）
△馬喰町ちゝ清代八十八ゟ来状写　十一月八日附之状也
柏木様ハ長崎表御用済、当月八日韮山着、十二、三日頃御帰府之積御用状到来之所、当月四日大地震に付、豆州下田湊大津浪にて人家不残被押流、異船応接御用としてかの地御出張被為在候御勘定奉行川路左衛門尉様・御勘定吟味役中村為弥様・十人目附松本十郎兵衛様・御留役菊地大介様・其外御勘定方御普請役衆御詰合之内、川路様・松本様は御無難、其余御役人様方は行方不相知趣之風説有之、本所御代官様は六日昼頃ゟ俄ニ御登　　城ニ而下田表防方御用被仰付、翌七日明八ッ半時御出立、下田江御出張相成、東海道三島宿を始原吉原迄地震ニ付、大火ニ而皆消失、駿州大宮町辺は悉く潰家ニ相成、沼津之御城も皆潰之趣、尤韮山表ゟ之御用状之様子ニ而も駿・豆州は別而之大地震之由に有之、然ル所異国船而已平日之通無難ニ而、国地之船は御用船・押送り船・式大船ニ至迄下田湊ニ有之分不残被巻込候よしニ而一切相見江不申、既ニ四日大地震之三日已前、異人方ゟ三、四日之内天災有之様子に付、用人可仕と之御届下田御奉行迄達シ有之之所、右之通四日朝之大変ニ而下田湊は大騒動に付、御代官様ニもいつ頃御帰府ニ相成候哉難計、猶変事有之候ハヽ、可申上御心得之ため荒増如此
○右之外ニも風評種々有之内東海道廿五ケ宿潰、又は焼失いたし、飛脚問屋京屋・島屋之荷物計も五拾駄余失ひ候趣也
（中略）
廿日
快晴（中略）
△大坂表書状十八日頃やう〱着候所、同所并志州鳥羽湊等殊之外大地震ゟ津波ニ而人屋夥敷損し、中国ゟ四国・九州筋ハ未相知候得共、日本過半之荒之よし評判也
（中略）
（十二月）
五日
快晴（中略）
△上方筋地震津波追々評判高く、東海道筋宿々不残多少損シ、焼失等別而伊豆下田・新居宿前後大坂表大荒、四国・九州も同断之由也

（安政二年一月）
十七日
快晴（中略）
［　　　　］波之次第阿州徳島四□通崩れ、後出火、七、八分焼、同小櫛山不残崩［　　　］［　　　］浦［　　　］［　　　　　］大津波ニ而［　　　］通流出　　　、阿州地崩・津波大坂同様、土佐・伊予・讃州［　　　］相［　　　］兼候、豊前小倉四日地震、又七日四ッ時大地震、二ケ度城下大揺し、七、八分崩れ、同中津右同様、少々軽し、肥前・肥後［　　　］同様、筑前・筑後［　　　］大荒、長崎大波も委敷□尓今不訳淡州須本阿州同様、播州路明石・寺家・加古川大坂同様大地震、備前・備中・備後津波大荒に御座候、出火なし、地震かろし、長州路儀至而軽し、豊洲津波儀は尓今不相分大地震ニてあれ、鶴崎四百八拾余軒崩、死人三百人程、別府三百軒計崩レ、死人弐百人計、府内三百五拾余軒崩、三百人程死人、右ケ所之外格別之儀無御座候、大坂昨日調死人左ニ
千七百八拾人計、内弐百人は死骸なし、舟数破舟流失□しとも九百六拾八そう、瀬戸舟屋形船ハ別段
右之通大坂より申参り写ニ御座候、十一(大坂)月十四日出
（中略）
（二月）
廿五日
晴、南風あり（中略）○野崎・荻嶋両人共六日雨中京都出立、八幡圓福寺止宿、普済寺門中惣代南養寺ハ宮宿発病、名護屋ニ逗留、旦方惣代四郎左衛門・宗七両人罷出候趣ニ而斎会延年願出候処、かの地も大地震・津波等ニ而当春堺表之斎会も延年相成候由ニ而年延御聞済、返翰出候間、七日ニ大坂表安着之趣同日附書状江返翰相添、書状昨廿四日夜松村ゟ受取
（中略）
（十月）
三日
曇晴（中略）
△昨夜四ッ時過大地震、此辺灯燈不消、棚之もの不落ほとニ而去年ゟハゆるやかなりといえとも、夜中之儀ニ而騒動大方ならす、夫ゟ小震十余行夜明迄諸人寝ニ不附、最初大地震之後直ニ東方明し、必定江戸大火之やうす也、然ル所今日追々評判之所、　御府内大地震　御様子始諸侯方・市中共都而江戸中惣潰れ、惣崩れ、火事三十余ケ所との事也
十月四日
曇晴、御府内大変、殊ニ本所　御役所も皆潰れとの評判ニ付、御受印之儀ハ此方江引受、御帳面類預り置、秋山殿は今未明御出立、御帰府ニ付、当最寄村々御受調印并鮎代夫銭さし引等相済、夕刻ゟ周介同道布田江相越、白鳥方止宿候事
五日
晴、下布田組御受印并鮎代渡相済、四ッ時ゟ出立、新町昼食出府之所、代田橋半崩、車馬止新町横堀同断、石燈籠等皆崩れ、四ッ谷大木戸ゟ先水道万年筧崩れ、往来所々穴明キ、かうし町・十三町周辺ゟ御堀端迄半潰れ之家々多、四ッ谷御門石垣迄惣崩れ、　御門計無難、かうし町通り之内岩城表店は無難、夫ゟ山元丁ちゝ利同もと師匠岡村江立寄、いつれも怪我なし、半蔵御門も前同断大崩、代官町並木松根ゟ往来江倒れ伐片付、竹橋御門塀通り皆潰れ、同所辺御本丸御石垣無難、一橋御門外御石垣三ケ所大崩れ、石町・中久船町・冨田等へ立寄候処、人ニ怪我なし、尤土蔵は御屋敷方・市中共多少不残崩れ、川岸蔵通り一目ニ見渡、誠ニ浅間敷有様也、夕刻ちゝ江清江着いたし候処、同所始馬喰町都而無難、別而三田町辺壁痛ミ、家根瓦少々落候ほとニ而肴店ハ大痛也、田なし・所沢・砂川等ゟハ人足召連罷出、今日ゟ本所御屋敷取片付并表通り御囲ひ江相掛り居、今明日荒増可相済条、夫ゟ後ハ大工をさし出候事ニ可有之よし、右詰合中ゟ心添に付、直ニ書状相認、夜飛脚を以村方江申遣、夫ゟ日野・拝しま・福生等江早々通達いたし候やう留守宅江申遣、石畑村大工佐吉方江は持回りニ書状遣ス、八王子両宿も今夜遅着、是又飛脚さし出、今夜北筋村々出勤人足等大勢津久新・ちゝ清ニ止宿、殊之外混雑之中江時々少ツヽ地震之度々人々恐怖逃出し、騒動大方ならす、市中一統往来、又ハ川岸馬場等江仮小屋補理、老少婦人等ハ不残野宿也
六日
曇晴、本所向所々変事御見舞廻り候所、　御役所并御門・高島殿・中浜殿等皆潰れ、柏木殿・雨宮殿御宅は無難、外宅之衆も一同御無難之所、元〆長沢殿は皆潰れ、娘壱人死亡之よし也、尤其外は怪我人壱人もなく、火事と雨も無之、御用書物類も追々掘出し無難候事
七日
曇（中略）○大神八郎右衛門并周介同道浅草参詣、境内荒所見物、猿若町辺焼場ゟ真乳山、夫ゟ東橋向川岸通り見物之所、何方も同様之大荒、別而本所相生町辺大荒也（中略）
八日
陰、早朝ふく十同道お玉ケ池磯野文鼎に罷越、崩れ家修復取込之中にて一胗を受、調剤受取、ふく十・拝甚は今日帰村（中略）
九日
陰（中略）○木挽町川久江見舞、通り町南口も都而同様之大荒ニ而、其内ニも軒を並といえとも、家作之新古、又ハ地脈之違ニて荒方多少あり
十日
曇晴（中略）○御支配所村々地震之様子詰合之者惣代ニ而書面差出候やう御差図に付、当最寄村々、御府内とは格別之違ニ而家蔵壁・家根等ハ損候得共、火事并人馬怪我等も無之、急夫食等願出候はとニは有之間敷旨平九郎・木曽次郎兵衛両人連印書面上ル
（中略）
十三日
陰（中略）
△此度之地震、信州・勢州之震ゟは少し和らかならん哉推量いたし候得共、日本一之都会高貴市中之無差別四里四方之戸口を震崩シ、出火も三十余ケ所之事に付、誠ニ以前代未聞之珍事ニ而、死亡・怪我人・家屋之覆倒も更ニ尊卑之嫌ひなく、偏ニ其時之運ニ随ひ、安危有之、実ニ魂を消す計之有様也、御救ひ小屋浅草広小路・幸橋御門外之原・深川海辺大工町〆三ケ所江掛り候事、当時読売之次第御府内四里四方新地・代地・門前地共当時五千七百六十四町強弱共惣崩れ、土蔵数八百四十五万八百ほと、寺院堂社五千八百余、東海道神奈川辺強く、中山道大宮宿迄、日光海道幸手宿辺迄、葛西弐合半・行徳・船橋辺分て崩多
（中略）
十一月四日
陰、寒気つよく午時ゟあられ并氷降○今般死亡人追悼之ため御府内所々寺院ニおゐて当月二日施餓鬼修行被　仰付、為修行料壱ケ寺銀拾匁ツヽ被下置候旨ニ而御触御廻状中川原ゟ宮沢江受継、尤江戸中諸宗之大地合十三ケ寺也
（中略）
十八日
快晴（中略）○宮沢村国役御普請之儀ニ付、田村屋金右衛門相越、十六日御見分、御普請役佐藤友次郎殿・坂臺三郎殿御掛り高月村御逗留に付、次兵衛・金右衛門罷出、私領出金并地頭所地震変事俄之用金等ニ而甚難渋に付、川除御普請は可成丈御□（金カ）高進シ候やう歎願いたし候所、いつれニも本瀬突当殊ニ川下村々難義之場所ニ付、手堅く御普請可被仰付間、其旨可相心得段御利解ニ而翌日北川筋江御移り之よし也

（安政三年二月）
十一日
晴、清蔵・伊之助今朝ちゝ清着に付、訴答召連、　御役所江出、御吟味下ケ願書差出候処、明日出被仰渡に付、浅草参詣ゟ宮澤村御普請掛り山田艮之助殿御宅・下谷御徒町江出、夕刻帰宿、今日亀戸辺　御成に付、横山町通り其外共地震後之壁土張木等取払ニ相成、往来やう〱元ニ復し候事
（中略）
（四月）
廿三日
快晴（中略）○去冬地震災ニ而本堂・其外大破之所、開基管谷公ニも当時御仕法附中ニ付、寺元ニおゐて極々仮繕いたし置度候間、金子五百両借用いたし度旨談ニ付、普済寺祠堂金借用之上返済方ハ年々圓應寺江相渡候、其米壱俵代と年中入用壱分と合金三分ツヽは右返済方江廻シ、六ケ年之間受取、此金四両弐分引残、壱両壱分銭弐貫五百文ハ満願寺ゟ助合之積世話人宛之印書受取、金五百両也相渡、八兵衛方泊り
（中略）
（五月）
十二日
陰、地震災献金割高百石に付、永弐拾貫分当り組々割符勘定書抜、組々江さし出、向郷三ケ村江は夏成触一同割符書相廻し、武蔵野新田小前之儀ハ来ル廿日迄農業手繰次第相越候やう触遣ス
（中略）
廿日
晴（中略）○地震災献金高割之儀ニ付、柴崎新田其外入作人共召呼、三季取立之積申渡候所、外は一同承伏ニ候得共、新田萬右衛門は中藤新田名主弥一郎江相談之上可及挨拶よし也
（中略）
五月廿九日
快晴、日ニ増暑気つよし○地震災献金高割出金柴崎新田万右衛門難渋申出ルに付、今夜村役人談合之上、近日右新田小前一同召呼、心得方相糺可申事ニ評決
（中略）
（八月）
十三日
陰（中略）
△十一日附お玉か池準三方ゟ添書　去月廿三日頃ゟ東国筋仙臺御城下より野州辺迄大地震之由、尤　日光山は格別之事ニも無御座候由、此節ハ只々夷船之事のみ風評御座候
（中略）
八月廿七日
快晴（中略）
△御府内大荒之風聞、築地御門跡　水戸様御守殿倒れ、半蔵御門渡り御櫓倒れ、微塵ニ成、代官町御番所同断、大船吹附、永代橋中之間を破り、大橋を損シ、大小船所々往来筋、其外江吹上ケ、通路を塞キ、浅草観音堂のあれ地震ニ増り、尤本町・傳馬丁辺ゟ赤坂・かうし町都而建込候町家は無事、御屋敷方風損多、別而深川・本所・高輪・品川辺之荒ハ地震ニ増り、深川・木場辺ニ而ハ畳之上ニ而黒鯛・其外之魚を捕候よし、実以古今未曾有之珍事也
○当廿六日夜附準三ゟ来状、当廿五日夜四ッ時ゟ大風、雨篠をつき、当家なとハ板家根不残吹飛し、風雨畳建具をひたし、瓦葺玄関ニ而家内中夜を明シ、今廿六日見舞ニ出候所、下谷藤森先生は無事、本所網野氏ハ浜手ゟ津波さし上、玄関敷台迄水上り、天井も落ち、半潰れ也、芝新銭座　江川様御役宅も津波ニ而切組御材木・其外悉く引流し、　殿様御親類江御立退、柏木氏なと箪笥・葛籠等迄汐水入、哀れなる躰、深川仮宅板家根皆吹はなし、倒れ家多く、死人も夥敷よし、其内ニも深川・本所別而大荒也、出火四、五ケ所之内芝大門前第一之大火、神明計残り候よし、　御城内御無事のよし、浅草新堀なとハ大半潰れ、都而地震痛ミ之分皆潰れのよし、人死ハ地震之節ほとニは無之候得共、大風雨ニ付、外出不相成故、死人も多きよしニ御座候
（九月）
七日
曇（中略）
八月十九日附準三書状写　当十五日冨士森先生江入門相済候得共、水町方江大友玄庵帰塾次第藤森江引移可申候、○東国筋地震之風評も聢と不相訳候得共、去冬御府内之大変とハ事替りさしたる事ニも無之哉ニ候
（中略）
十月八日
快晴（中略）
△昨七日朝五ッ時頃地震、天水桶を震ひほこし、神棚灯明皿其外落之ほとニは無之、震り返しも一両度ニ而止、　御府内ハ此辺強よし也
（後略）



註：本史料は、武蔵国多摩郡柴崎村（東京都立川市）の名主で、日野宿寄場組合四十四ヵ村の惣代を勤めていた鈴木平九郎の日記である（増田淑美「公私日記の筆者・鈴木平九郎について」『多摩のあゆみ』三二号）。同じ日記に記された地震記事なので、嘉永七年七月二十五日の記事から安政三年十月八日の記事まで掲載した。なお、安政三年八月二十七日の被害記事は同年八月二十五日の台風の被害記事であるが、前年の地震との被害を比較している箇所があるので掲載した。