[未校訂] またこれより先、六月十四日には奈良・伊勢を中心に
大地震があり、安政地震の前ぶれとなった。後日の戒め
に次のように記している。
安政二卯五月四日に記ス
此に又日同暦寅六月十四日夜八ツ時より十六日之暮
まで七十三度震動致し候となる也。
大和國、南都(奈良)、同古市、木津辺、群山辺、何
れも大地震に而、民家震倒し或ハ焼失或ハ大地披破れ、
泥水吹き出し、死失人怪我人数不知。
伊賀上野、勢州四日市、同近在同様之大地震、人家
震潰し
加之出火にて焼失致し、死失、怪我人数知れず、然
れ共此辺ハ古来稀成地震とハ申ながらかくなるうれい
を知らず、また十月二十八・九日頃より少々づつ地震
有之人々に知る処也、然るに毎夜平生と事かわり潮干
又ハ井戸水濁り減し候由見知り候族も有之とはいへ
共、かかる大変の知らせとハ曽さら知らず、跡の後悔
言語に不絶、向後尋常にあらざる潮干等有之候へハ心
得べき事ニ候。