地震史料集テキストデータベース

[未校訂]一当浦慶長九年十二月十六日辰ノ半刻ゟ申上刻迠大地震
ニ而前代見聞（ママ）の大変同酉上刻月の出の頃ヨリ大浪海底す
さましく惣所中の泉より水わき出る所二丈餘り上り其外
地さけとろ水わき出さて〳〵言語を絶する大変其頃面々
等も遁去ル所寺ゟ申ノ方ニ当り古城の小山有是ヘにけ去人
数百七拾余人成夫も老人又は幼少人は道ニ而浪に打たを
され皆々流死す漸面々も本尊并当寺御建立の御證文知行
折紙弐通御棟札其外手廻ニ相当物迠取にけ命から〳〵遁
去候長福寺本尊ハ開山願主東林の本尊をおひにけ是ゟ上
まて早々可上候、能州てら〳〵へ竹を相渡シ、
に在所有日比原村と申道筋堤下ニ而本尊をおひなから老
人之事故足おそく終に浪にたほれて死ス東隣眞福寺宥眞
と拙僧事ハ本尊手廻に有應物を取にけ助命す三ケ寺結衆
之内にても大日寺栄宥ハ壱度本尊をおひ遁又々大師尊像
取に下り御影堂のおりたん迠大師をおひ引潮之砌故終に
浪に打たおされ流死御影ハ長福寺のかこひに懸り其節惣
寺分皆々たをれ申候山野に宿所三日三夜雪霜に覆扨々衆
人難儀いたし就中神変成哉当初の両社八幡祗園拝殿迠ハ
皆々流失本社之義は山手へ浪に打たをれて林の木にかゝ
り有其儘取立候殊に祗園宝物大般若六百軸ハ祗園内殿に
入有皆流失なく浦里氏子打寄悦者相不過之候夫より国家
浦里之祈禱に大般若転讀いたしはしめたく旨宥眞被相願
浦里六ケ寺結衆打寄候而於祗園致転讀正月十一日定日と
して致修行候相并三ケ寺も皆々浪に打たをされ候故追日
古道具取さわき柱おれ不足申候付日比原在所之内ニ而寺
山と申峠ニ而大松一本囉（もらう）多田氏庄之助殿ゟ御上
へ相窺ひ当寺取立被申候外寺々へも相応に上ゟ竹木を下
し其外所々は不申及米麦等も[渭津|いのつ]（徳島）ゟ船ニ積返所（廻カ）物
分御救被成候尤流失後早々見分奉行参候而の上之事ニ而
何角筆に記残度事ハ山々候得共言語にも難申筆にも難顕
事なれともせめては国元への通路のしるしに荒々筆を残
申候扨々あハれ成事後世の人々可驚事
第二度目書記　八ツ時宥眞同道ニ而町筋ニ而書也
第一山野凌之内ほうろくニ而食等煮焼して命をつなき申
候一代一生之内にこもかふりと成たる事平生のあやにし
きよりも大切成事の様ニと迚も〳〵申たる事ニ候古こも迠
も流したる事故大切成事至極〳〵
一当寺檀中流死人数老若四拾三人大日寺檀中弐拾三人眞
福寺檀中九人長福寺檀中六拾壱人里分寺方の檀中も入込
死申候自他共惣人数一千五百余人と申候あわれ成事を見
聞いたし候翌十七日八ツ時下り候而見申処城山より西北
方壱面の人の死骸目も当られす候東ゟ北往還道筋へかゝ
り候而も右の通ニ候其節久保村之内ニ而も弐ケ所惣つか
（惣塚（亡くなった人を一ヶ所に埋めて土を高く盛った墓））にいたし死人埋申候其後地
蔵石仏相立置候祗園西手之山きわ也
慶長九年十二月十七日
未刻記之
圓頓寺宥慶
追而書記
第三　十九日四ツ時寺内ニ而見聞いたし候
一惣代寺中の諸道具何に不寄こんらんニ入込地ヘ打埋め
申所壱尺或ハ壱尺五寸所々ゟ弐尺三尺も砂ニ打埋惣代の
諸道具在家等も取交ニ成て埋有を皆追而見出シ印有分は
持主か取印無きハ皆々人の物を我かものとせし成当寺迚
の什物椀等皆々損シ候而寺中に墓所等にかゝり有眞福寺
ハ長福寺うしろ大藪引廻有之同眞福寺の畑之内ニ流入有
いたミも少く寺ハねじれころひ懸有之諸道具等も寺に付
て流候哉茶漬椀類残有之取集候
第四　十九日同刻之時分成
一不思義成事有之当寺什物之大ぐわんす眞福寺什物之く
わんす是ハ両寺共寺内之内ニ砂に埋り有之候か少しもい
たミ無之十二月廿日七ツ時に堀出大日寺代々之什物多流
失申よしニ而候当所ニても寺中之中ニても正法寺ハ惣而本尊
等も流失其外諸道具何に不寄失申候町中在家にも少々宛
にても何角取集申人も有之又人のものを我かものとせし
人数多有之由ニ而越年より明年迠之内色々の詮義有之珍
敷事共承り申也
一拾五たんの廻船拾七反の廻船数艘日比原在ゟ奥へ入込
候而取さはき浜へ出シ其外小船等は政かち（現在は「[正梶|まさかじ]」と書く）のせきにかゝ
り有は人々之力にて手かきにして浜へかき出シ扨々大変
翌年の四五月迠ハ何角のさわきニ而候
同廿三日眞福寺寺内ニ而書也
一眞福寺寺内北之角ニ而古き茶坪壱つ十二月廿三日堀出
候殊之外むかし物と申也
同日
一当寺ハ慶長弐年之秋建立被仰付建立ヨリ八年ふりニ流失
候
一眞福寺ハ本具愛染坊と申旧跡を引直候而宥眞代ニ当寺
ゟ一両年も前ニ建立召され候よし両寺共建立して間もな
く流失いたし候
拙僧事ハ是より弐拾丁斗参圓通寺と申所に居申候宥眞手
引ニ而候
荒々書記候得共大変之砌気分故筆之立所もわかちかたく
候其上何角の事ハ見聞の度事にも書又ハ思ひ出度事ニに
も書記事成は前後有之付如此追而不入事なからも書記も
の也
（注、これに「拾遺」二六頁、上左二行目以下の文が
つゞく）