地震史料集テキストデータベース
[未校訂]元禄十六年癸未年十一月廿二日ノ夜小田原地震覚書
元禄十六未十一月廿二日之夜八ツ三分時、小田原大地震ニ
而、御天守 御本丸御殿 二ノ御丸 御屋形不残震禿、其上
出火有之不残焼失仕候、其外所々御門并塀・土居・石垣不残
震崩申候、御家中屋鋪并町屋迄不残禿申候、右之内焼失家松
浦平太夫・岩瀬織部・加藤孫大夫・渡辺十郎左衛門・服部十
郎兵衛・辻七郎左衛門・杉浦一学・大久保武大夫・近藤庄右
衛門・村越兵左衛門・坂部新右衛門・捨木治左衛門・武藤伯
庵・志摩新兵衛・中根弥五右衛門・中根郷大夫・石井清右衛
門・石原伴右衛門、以上侍屋鋪拾八軒、其外小川定右衛門・
柳橋半七町同心小屋不残、欄干橋町・中宿町・本町・宮ノ前
町・高梨町・青物町・千度小路町・茶畑町・代官町不残焼
失、筋違橋町少焼失、廿三日暮合過火消申候、廿二日夜八ツ
半時頃ヨリ出火
一侍中死人三拾四人内
男拾九人
女拾七人
一番帳外死人弐拾七人内
男拾壱人
女拾五人
一又者七拾五人内
男弐拾壱人
女五拾四人
一町中死人六百五拾壱人
一郷中死人六百拾三人
一箱根死人拾八人
一豆州死人七百七拾弐人
一府内寺社死人拾三人
一府外死人弐拾三人
一御厨死人三拾六人
惣合弐千弐百六拾壱人 右何も御領分ニ而外旅人四拾壱
人押ニ弐拾弐焼死申候
一御領分郷中斗ニ而惣禿家数八百三拾六軒
一関東八ケ国ニ而死人弐拾万七千三百拾三人有之由ニ候
一箱根・根府川其外所々御関所江之通り道大分震崩、石土落
崩、人馬通路難成故、早速御役人共被 仰付、道筋抜、極
月二日三日頃ゟ馬往来仕候
一右地震之儀為言上、梅原九郎左衛門廿三日之朝罷越、江戸
江罷越候、佐久間三右衛門儀も昼時罷立、為御機嫌伺江戸
江罷越候
一江戸江右刻限ニ強地震仕、御城廻・御門・塀・石垣等大分
崩申候由、御屋鋪無御別条上々様方御別条無御座候
一江戸御屋鋪東御長屋禿、死人も少々有之由申来候
一廿三日ニ致相談、箱根口御門内ニ茅葺之寄合所揃（カ）、廿四日
ゟ何も寄合御用相達申候、
一同廿五日ゟ箱根口ニ而町中焼候、町人共江施行之御粥被下
置候、大釜五口居、極月二日迄七日之内被下候、壱町之名
主罷出、何人と申達入物抔出請取罷帰候、一日ニ米拾俵余
入申候
一廿二日之夜、御本丸両遠見御番・二御丸裏御門番ニ而罷在
候御旗組之者近藤弥左衛門支配田口惣兵衛と申者之忰田口
彦六、御天守ニ御大切之御道具共有之由、惣而承及申候
付、一品成共取出可申と存、大須賀丹右衛門儀南之方之遠
見番より罷越候得共、大分材木落重り、参候事成不申候
内、小峯之方ゟ火之子飛参、御殿江萠付（ママ）焼申候付可仕様
無、常盤木御門・多門江罷越候処、田中伴兵衛儀も御裏御
門御番所ゟ欠付、両人ニ而御籏道具不残取出候内、北ノ方
ノ遠見番田口彦六も参少々取出申候
一右地震ニ而
殿様十一月廿八日御城江被為召小田原江之御暇被為進（カ）候、
同十二月朔日、又々被為召御拝借金壱万五千両被 仰付、
極月五日江戸御立、同六日小田原御着被遊候、御居所無御
座候ニ付、元御蔵ニ壱間半梁八間御小屋懸被仰付、御供中
は御蔵之内相拵致長屋ニ罷在候、十一日ニ箱根道御見分、
十二日根府川道御見分、其後御参府之儀御伺廿一日小田原
御立、廿二日之朝六ツ三分時金杉御蔵屋敷迄御着被遊、夫
ゟ御老中様方其外江御越之由
一地震出火ニ付、小田原町中江金子千五百両拝借被 仰附、
米三百俵被下置候、箱根町江金子三百両拝借、米五拾俵被
被（ママ）下置候
一町中御伝馬人足役勤候儀不罷成候故、右之通拝借等被 仰
付、馬三拾疋 人足五拾人宛十二月三日ゟ相立申候、并定
助郷之村々江金子百両拝借被 仰付候、問屋場無之候ニ付
中宿町ニ問屋場小屋懸被 仰付候
一御家中禿家之者共江段々高割ニ而金子被下置候段、十二月
十六日ニ被 仰渡、同十八日ニ金子請取申候、高割左之通
此度大地震ニ而小田原御家中禿、又は焼失ニ付、為御救
金子七百千五百両被為下置候割
高三千百石 高百石ニ付金七両宛
弐千石 百石ニ付八両宛
千石ゟ千九百石迄 百石ニ付九両宛
九百石ゟ九百九拾石迄 百石ニ付九両弐分宛
八百石ゟ八百九拾石迄 百石ニ付拾両宛
七百石ゟ七百九拾石迄 百石ニ付拾両弐分宛
六百石ゟ六百九拾石迄 百石ニ付拾壱両宛
五百石ゟ五百九拾石迄 百石ニ付拾壱両弐分宛
四百石ゟ四百九拾石迄 百石ニ付拾弐両宛
三百石ゟ三百九拾石迄 百石ニ付拾弐両弐分宛
弐百石ゟ弐百九拾石迄 百石ニ付拾三両宛
百石ゟ百九拾石迄 百石ニ付拾三両弐分宛
百石以下之御知行取并御切米取弐拾石御給金弐拾両以下、
無高下壱人ニ付金拾弐両宛
御切米拾石ゟ拾九石迄御給金拾両ゟ拾九両迄無高下壱人八
両宛
御給金五両ゟ九両迄御切米五石ゟ九石迄、壱人ニ付六両宛
御城米不掛、小給之者無高下壱人ニ付三両宛、但シ定番小
役人・諸職人迄、此内御長屋ニ居候者ハ組並之割被下候、
御城米不掛諸御同心之者共組頭は壱人ニ付壱両弐分、御同
心ハ壱人ニ付壱両宛、諸御同心之内只今迄一軒屋ニ罷在候
者とも有之候得共、自今御長屋御立可被下置候事
一家焼失之者共ハ、右御定之割一倍宛被下置候之事、但小田
原ニ屋鋪有之、其身定、江戸仕罷在候者、小田原之家焼失
仕候者は御定之外五割増可被下置候事
一父子壱所ニ罷在候者、父子共ニ御奉公相勤候之者子江は、
御定之割四歩一可被下置候、親隠居之分は御構無之、子ニ
斗御定之通可被下置事
一御役屋鋪罷在り、御台所ゟ御役家御建被下置候者ハ、御定
之割之内三分一被下候、其内家焼失之者ハ、御定之通被下
置候事
一御扶持方取之者は高ニ直し、右御定之割可被下置候事
右は此度為救金七千五百両被下置候割合、右之通
一御本丸七本松所ニ仮番所出来、侍番并御籏組之者御番人被
仰付、御幕打 御長柄拾五本、鑓印付其外三ツ道具建置
申候
一浜手御門口ニも御幕打・御長柄拾本・鑓印付立置申候、其
外大手箱根口・幸田南口其砌ハ御長柄拾本宛立置、御幕打
置申候得共殿様御参府以後其御幕も取、御長柄一本宛立置
申候
一御城御普請惣奉行渡辺十郎左衛門・大久保右門兵衛・真田
六右衛門被 仰付、中根弥五右衛門・小笠原太左衛門ニも
被 仰付候
一豆州御領分大分津波ニ而家を被引、死人も有之候ニ付、御
米六百俵拝借被 仰付候
一御天守ニ有之候御代々之御輪旨（ママ）御朱印御拝領之御腰物并
御召御具足、御拝借金御済被遊候御手形其外、稲葉丹後守
様ゟ相渡候御城付小姓具足五拾領・鞍五拾口・鐙五拾下
り・足軽具足三百領・御弓三百張・御矢壱万本・御長柄弐
百本、右何も焼失仕候右之外大鞁壱、鉄ノ楯壱、石火矢三丁焼失仕候
一御手前御長柄百弐拾本、二ノ御丸御屋形有之焼失、其外御
弓・鉄炮不残、馬出御門御土蔵ニ有之不残焼失仕候
一御城付大筒共ハ、渡辺十郎左衛門前々御矢蔵ニ有之候故、
御矢蔵ハ禿候得共焼不申候御数寄道具・御掛物類ハ二ノ御
丸御居間後ノ御矢蔵、又は杉浦平大夫ノ御矢蔵ニ有之焼不
申候、諸御同心共江相渡り候御道具大手御門・箱根口御門
ニ有之、焼不申候、御鉄砲合薬之分寺窪村煙消蔵（ママ）ニ有之候
故焼不申候
一箱根道筋御公儀ゟ為御見分、小長谷勘左衛門様十二月九日
ニ御越、御見分被成候、箱根道筋為見分、霜月廿八日蜂屋
太右衛門罷越、道作為奉行三浦弥大夫・伊藤文内被 仰付
被遣、湯本茶屋村々、先猿沢橋之手前大石出馬ノ通不罷成
候、夫ゟ観音沢迄之内殊之外道悪敷、馬之通不罷成候付、
猿沢橋之脇ゟ河原江出、観音沢之先江道を附、往来仕候、
夫ゟ箱根之方大石共出通り難成所有之、道之内も谷江崩候
処多有之候得共、彼是御附当分人馬之通り罷成候様ニ仕候
ニ付極月三日ゟ馬往来仕候
一箱根御関所少西之方江ころひ申候得共、別条無之候、御先
手御番仕候処ハころひも不仕候、御馬屋余程西之方江ころ
ひ申候、箱根宿御伝馬町百軒之内九拾四軒禿申候、宿はつ
れ茶屋町之内ニ而少シ残り家有之候、箱根宿ゟ御境目道通
大成破損無御座候
一殿様御在城中相勤候者共袴并立付或は旅袴勝手次第致着候
様ニと被 仰付候、列座共御着之節、進士門左衛門羽根尾
御境目迄罷越、杉浦一学山王口江罷出、渡辺十郎左衛門唐
人町口江罷出、蜂屋太右衛門御居所江罷出候、其外御家中
之者共、郡奉行・御屋鋪奉行・道奉行・町奉行・御代官掛
り所之為御案内罷出、其外之者共は不罷出候、六日ニ御
着、翌七日 御城廻御見分、相残候分八日ニも御見分被遊
候、御着城為御礼と近藤弥左衛門江戸江六日之晩方罷立候
一御在城中列座之内ゟハ、蜂屋太右衛門・進士門左衛門代り
〳〵壱人宛御仮屋江相勤申候、其外列座之者共不罷出候折
之為御機嫌伺と御居所御仮屋之事也江罷出候、御台所為火之番御広間向
侍六人被 仰付、壱人宛相勤申候、表御門は御役人之内ゟ
壱人、平御番ゟ壱人宛、御番所江幕を打相勤申候、御長柄
拾本、三ツ道具壱組立置申候、其外御門口之御番人御着之
節と御発途之節斗対之羽織・股引ニ而相勤申候、右之節は
代々番之者共ニ四人面番仕候事
一御切米弐拾石ニ御直シ、御広間御番被 仰付
「三人扶持
大須賀丹右衛門
一御切米拾五石被下、御広間御番被 仰付候
「三人扶持
田中伴右衛門
一御切米七石被下御徒之者ニ被召出候 田口彦一
「三人扶持
一地震ニ被打相果候者之子供不残親之跡式無相違被 仰付屋
鋪をも被下置候者共、進藤庄右衛門跡同源右衛門・大林佐
右衛門跡同左平治・宮川三成跡同常次郎・長谷川新右衛門
跡同伊三郎・青木森右衛門跡同左右衛門・御番帳外前田徳
左衛門跡同与次右衛門・松尾伊左衛門跡同曾大夫・小林与
次兵衛跡同伊野右衛門此外組付ニも少々有之候由
一小峯御城江程近候間、不残屋敷替被仰付候、御番頭被 仰
付岩瀬織部跡屋敷
源右衛門事
近藤庄右衛門
筑間何右衛門跡屋鋪 大久保善次郎
相馬定之丞揚屋鋪 横井甚五右衛門
竹下理兵衛跡屋鋪 加藤十三郎
金子一郎左衛門
屋敷内
五軒通入
元鷹部屋明屋敷 木村助右衛門
新蔵下明屋鋪 黒柳友次郎
右之通御替被下候事
一自 松慶院様其節御近習之者ニ被 仰付、御天守焼崩候跡
江罷越、御天守江御納メ被遊候 摩利支天之御尊躰御焼残
り被遊御儀も可有之候間、相求見候様ニ被 仰付、罷出候
間、尋候処、辻治兵衛、右御尊躰之御焼残被成御座候を見
出し、早速江戸江奉差上候得キ、当時 御天守江御納被遊
候摩利支天ハ、右御焼残被遊候。御尊躰を御腹籠ニ被 仰
付、尤御尊躰ハ七本松之枝ニて被 仰付候事
右之節蜂屋小作なとも相求候為ニ罷出候事
（藩士覚書 元禄～文化年間の文書書抜）
寛政四子年戸田様御老中之節被差出候書附控
（前略）
同断弐印小川佐一右衛門名前
貞享三寅年再小田原拝領仕、追々御加増ヲ以当時之高ニ被
成下候ニ付、夫々手宛ヲ茂申付置候処、一体之物成は旧領
肥前本唐津高八万三千百弐十九石余領知仕候節ゟ、都而
追々ニ収納高格別ニ相減申候、元禄ゟ宝永之頃は、米五万千
四拾石余、取永三千七百貫文余収納仕候処、元禄十六年大
地震ニ而、城回破壊家中屋敷及町郷ニ至迄、一宇茂不残震
崩、同刻出火ニ而、大実御届申上候通之義、其節金壱万五
千両拝借被成下、当座之御手宛仕、追々城廻普請金拾万両
余、町郷中迄之手宛金六万両余之入用と（カ）存、及大借引続宝
永四年富士山焼砂吹出、高五万六千石余之所、中ニは壱丈
余降積、田畑茂一円亡所ニ相成、又候其節夫食彼是夥敷入
用、尤其砌右郷村土地ニ相成、三河国・美濃国・播磨国・
伊豆国之内ニ而、代知被申置候処、右変地之場所、御威光
ヲ以出来之上、享保元年延享四年両度ニ不残御戻被下候得
共、大変已前之収納引合、米壱万百弐十石相減申候
（後略）