[未校訂]地震 弘化四年丁未三月廿四日夜四ツ時、川中島を中心
とせる大地震あり。善光寺町平押しに建家潰れ、引続く火
災にて全市焼失、生憎開帳中にて諸国参詣の男女宿泊繁昌
の折柄、町人旅人過半圧死す。
(中略)
此時松本も可なりの強震にて、連夜戸外に露宿す、土蔵塀の
くづれたるありたれど、北信に比し物の数ならず出川には多少の潰家あり
但し松本領内より善光寺へ参詣し、其儘圧死したる者九十八
人あり。領内としては川手生坂及小谷渓谷にて隤家流家死者
若干あり。此等へは藩より夫々救恤あり。尚潴水中新町方面
へ籾六十俵川舟にて差送りたり。又善光寺道者の生還せる
者、乞喰同様にて来り過ぐる者多く、其為め安原先きに小屋
を掛け、有志の寄附にて三町より役人出張、握飯草鞋及び行
先十里に付百文の割にて路用を給し、夕方以後に至れば指宿
して無賃宿泊を遂げしめたり。
右地震以後四月迄日夜小震止まず。其後回数漸次遠くなりし
も小震尚継続し、或人の記録に依れば翌申年迄毎月二三回の
小震あり、翌々酉年の二月迄にて漸く止みたりとあり。尚其
に依れば申年九月松本平降雪ありたる事、同月上田領塩尻辺
夥しく小蝶の舞出たる事、十月初松本清水辺螢飛びし事、冬
に至り気候温く、翌酉の春に到り始めて氷結ぶと見ゆ。此等
地震関係の有無、将来の資料にもと念の為め記し置く。