地震史料集テキストデータベース
[未校訂]新吉原
江戸町一丁目二丁目京町壱丁目二丁目西河岸 （ママ）町角町揚屋町
伏見町惣而中の町ゟ四方郭中残る所なく類焼ニ而、大門外御
高札并同所之外残り右側ハ不残焼ル、日本堤ニ而往来之地裂
死人怪我人有之
郭中ニ於て土蔵一ケ所も残り無震潰し、其上ニ火事成故怪我
人死亡の者夥し、町方江御届ニは
死人六百三十一人 男百四人女五百廿七人
怪我人 廿八人 男女不分
右之通有之候得共実ハ遊女八百三拾壱人
即死客人其外ひやかし見物四百五拾四人
即死茶屋男女禿若者其外諸商人千四百拾五人即死都合二千七
百人
一吉原ハ最初出火四口ニ而九分通り之死人之由、死人凡七千
人斗共又ハ六千人余共言也、死骸十二車引出し又々十六車
引出し候由
十月四日之書上ニ三千七百人之由京町岡本斗ニ而七拾人死
候由
一京町ゟ出火岡本屋長兵衛地震ニ而逃候ニ、大門へは遠く候
間裏口へ逃出し反橋を卸し田歩へ逃候積りにて家内不残出
候処ニ、土蔵二ツ潰れ家内残らす二タ夫婦孫共五人遊女三
十四人潰死焼死致し候由、右岡本大難一件ニ付珍事有之
一当春浅草観世音開帳之砌奉納の額ニ浅茅ケ原一ツ家の姥石
の枕ニて旅人を殺す観世音児ニ現し宿り玉ふ、姥是を殺さ
んとするに娘恋慕して是を助けんとする処の図哥川国芳筆
をふるひて書し額ニ而大評判なり、其節種々の俗評等有之
候処ニ、爰ニ四谷伊賀町ニ小塩又左衛門とて家相者有之、
其節此者之評ニ曰く元額は神前江馬を画て納し故ニ絵馬と
名付夫ゟ稲荷江は狐を画荒神江は鶏を画共、刃物を以人を
害せんとする額を未タ見す是大なる禍災の来るへき前表な
りといゝしとなり
一右岡本屋長兵衛娘二人有之、姉娘へ聟養子致し候処、聟姉
を嫌ひて妹へ手をつけ候故姉家を出て橋場の寮へ壱人隠居
致し居候処、吉原の家内は不残変死致し候得共、橋場の寮
ニ居り候姉壱人助り候よし
古しへの石の枕をかくぞとは
神の知らせか伊勢の岡本
一江戸町弐丁目三浦屋吉右衛門右地震之節穴蔵へ入候が宜敷
とて夫婦を始遊女五十人も有之候内ニ而頭立候分斗半分程
穴蔵へ入候処ニ、上へ家潰れ落其上焼失致し、不残穴蔵ニ
て蒸焼ニ相成候よし
家蔵を穴へ落せし報ひ来て
今穴蔵で憂目みうらや
一右岡本長兵衛菩提所は新鳥越二丁目浄土宗芝増上寺末順栄
山瑞泉寺檀頭ニて、右寺之咄しニ岡本ニ而は毎々より遊女
等病気之節は深節（ママ）ニ世話致し若病死の節は当寺江葬り候処
ニ、今度大変之節変死人八十七人有之候と専ら評判致し候
得共、是ハ虚説ニて実ハ当寺へ葬候は拾四人ニ而御座候由、
和尚咄され候よし
一京町壱丁目杵屋清吉遊女五十人斗有之候処、右地震ニ亭主
金七百両程財布ニ入首へ懸ケ逃出し候処ニ、道ニ振落し三
百両斗財布ニ残り居候処、大門外土手之割目江落込もかき
候得共出る事不叶候処へ、郭内の若者通り懸候ニ付、是を
呼留何卒引出し助ケ呉候ハゝ財布ニ有之候金を半金可遣由
申候ニ付、若者立止り清吉を引出し助ケ候ニ付、右約速（ママ）之
通り財布を取出し半金遣し可申と致し候処ニ、右若者財布
を奪取逃去候よし、然ル処同十八日大嵐の夜ニ召捕ニ相成
入牢致し候由
うす（そ）つかず呉れる積りを
皆取て持てきねやで
なんと清吉
一角町河岸小見世ニ而加島や平兵衛右大変之砌、女房山谷の
寺へ逃行候処ニ、懐妊致し居候が右騒きにて急ニ虫か（陣痛のこと）至り
候間、湯かん場へ欠込安産致女子出生致し候、吉原にて大
勢変死有之中ニて家内壱人も怪我無之其上娘壱人ふへ候
間、目出度とて墓場ニて誕生の娘故おはかと名付候処、親
類之者夫ニ而は悪敷由申ニ付、然らは火事の中ニて生れ候
間おかじと名付候処、夫にても悪敷由申候ニ付三度目ニ大
道ニて生れ候間お大と名付候よし
安〳〵と生る鹿島の常陸帯
産湯ニ遣ふ寺の湯かん場
一角町津国屋半三郎遊女三十人余有之、客愛想悪敷遊女有之
候とて壱人折檻の上裸ニ致柱ニ縛り置候処ニ、主人江段々
詫ひ候処ニ承知無之、然ル処右之大地震出火故弥々歎き願
候得共、不構打捨置荷物を運ひ出し候処ニ、梁落主人即死
致し其響ニて繩切れ遊女ハ助り逃出し候由
右女牛込
摂津国のなにはともあれ
助くべき身か助からぬ
難に逢ふさか
一江戸町壱丁目玉屋山三郎潰れ焼失致候へ共、家内壱人も怪
我無之山三郎ハ三十九才也、娘つる十八才也、是十八年跡
三輪の寮ニて生ル其時酉之待（ママ）ニて山三郎吉原ゟ三輪へ参り
候時、土手ニ而靏の声を聞候とてお靏と名付候也、右地震
之節つる琴の師匠へ稽古ニ参り候処、跡ニ而立懸置候琴の
糸三本切れ候間、不思儀ニ存し師匠へ迎を遣し帰りて怪我
無之、山三郎妹すミ三十才同町金子伊勢屋六兵衛妻也、然
ル処地震之節すミ逃出し候処、奥ニ先妻の小児を寝せ置候
を思ひ出し又々奥へ立かへり右之小児を抱出し梁ニうたれ
二人共死ス也、当所ニ稀なる列女（ママ）也
一江戸町壱丁目河岸名主武島仁左衛門火難には遁れ候へとも
家潰れ二人死ス也、是は先仁左衛門心懸悪しき者ニて其悪
報ニ候にや、老母は西村佐兵衛ゟ来り聟も西村之忰也、こ
の両人は別条無之、家付之娘当仁左衛門妻と忰両人打殺さ
れ即死也
此外ニ二軒焼残り候也
一吉原土蔵四百八十四潰れ、其内武島仁左衛門土蔵一ツ残家
内二人打殺さる
隣質屋土蔵一ツと居宅残ル也
京町壱丁目名主深山甚四郎残ル也
地震後吉原ゟ御届
一西洋流鉄炮 拾弐挺
一大小 九十二腰
一脇指 七十腰余
右之品吉原町焼跡ニ御座候
卯十月 吉原町
名主
一常磐津三輪太夫吉原ニ而即死宅ハ小日向之由
一右地震ニて吉原土手壱尺程地割、其穴江禿壱人落死し候よ
し
一江戸町壱丁目西河岸井筒屋長次郎此者母は元本芝魚問屋大
坂屋妾すまと申者ニて、芝西応寺町東町ニ妾宅住居致居候
処、大坂屋死去致右家を売払ひ女郎三人抱へ吉原へ小格子
出し候処ニ、此度之地震ニすま子打殺され候ニ付、西応寺
町家を買取候、薩州出入之山田屋小三郎是を不便ニ存し霜
月二日貝塚青松寺にて施餓鬼之節当□（ママ）存出しすま定（成）仏の施
餓鬼致し候処、同月廿八日小三郎娘すめと寝て居り候処、
座敷へすま幽霊礼ニ参り候由
一吉原江戸町二丁目岡田屋宗兵衛ハ怪我なく、隣伊勢屋六兵
衛は遊女四十人斗之内六人残、隣平野屋亀五郎遊女五十人
斗之内六人助ケやりて子供助ル也、後家母娘三人死ス、愚
の弟壱人残り岡田屋ゟ世話致し跡を立候由、右地震之節客
二人遊女二人寝て居て死し候よし
一吉原ハ五丁共潰家多く死人多し、毎夜入来る按摩其数を知
らす中に唯二人死せし由、盲人ながら能逃出せしもの也
遊女屋之内ニは京町壱町目岡本楼ハ二丁目松葉屋角町若狭
屋江戸町二丁目岡田伊勢屋三浦屋吉左衛門別而潰れ夥敷死
人多し、廓内ニ而焼亡人御調高六百三十余人、土蔵一ケ所
揺崩れし儘焼残る家は京町壱丁目下之方に二三軒残る、大
門外西側焼のこる、助る人ハ有まじと言しか又仮宅を出し
賑ひけれ共姿海老屋松葉やの両家は見勝りける
哀しミは曲輪をぬけよ
寒念仏
十月二日夜地震之節
吉原伏見町琴の会にて変死
山田流琴師南 浅草田町きく事
山田きさ
右は今日吉原伏見町明石稲荷の隣一中節師匠菅野屋□不明女二階
を借受琴の会を催す也、然ル処に江戸町壱町目玉屋山三郎娘
津類十八才、右山田門弟故ニ琴の後ニ参候処、跡ニ而床之間
ニ立懸置候琴の糸ひんと音致し切れ候故、山三郎不思議ニ存
し夜中の事故早速男共を迎ひニ遣し候処、猶又三度糸切候間、
山三郎も阿きれ今度は迎も不出所ニ、又々三度目の迎ひを遣
し候処、是ハ門々立居り呼出し連帰り候由、つる内へ帰りて
両親ニ対面致し候と右地震にて命助り候よし
こときれて仕舞の取て帰られす
[事|コト]のなひのか靏の齢ひぞ
同時ニ吉原□大黒屋庄六娘くに拾二才ニ而、乳母附添て右
琴の会江浚（ママ）ひニ参り候而又々夜ニ入遊ニ参り候処ニ、右地震
ニ出逢ひ家潰れ梁の下ニ相成候処、乳母ハ漸々這出し候得共
くにハ出る事ならす、其内ニ隣家ゟ火燃移候故、乳母ハ狂気
の如くニ而共々火ニ入死せんとせし処、大勢ニて是を押へ連
出し候由、斯而くに三十五日ニ仏参致し帰りニ入水致し死し
候処ニ其死骸源兵衛堀江揚り候よし
定まりしことじやとくには
おもわねと乳母の
入水はなんと庄六
右琴の師匠山田きさハ梁ニ打れ顔江疵付候得共存命なり
一中節師匠菅野やをハ死す（るカ）故、死骸を見分葬候処ニ、人ト間
違ニ而是は稲本の内芸者婦く死骸にて取違葬也
やお万神も見捨し災難に
師匠の礼を受る福なり
斯而五十日過而お歯黒どぶより菅野やを死骸出る也、是ハ地
震之節雪隠ニ入候処潰れ下水江落入也、其時面躰ハくずれ候
得共其節之衣類ニ相違無之候ニ付又々再ひ本葬を出ス也
吉原江戸町二丁目
佐野槌屋遊女 黛
今度浅草山の宿へ仮宅出し候処右黛は七才之時父母ニ別れ人
ニなるニ随ひ其性真ニして見めかたちもいと艶わしく、去丑
年ゟ遊女ニ出しか、常ニ親を尋ん事を心ニ懸しに、此頃地震
の愁ひありても何方ニおわすやらんと案事らるゝニ付、六ケ
所の御救ひ小屋へ大なる行平鍋千二百余を施し
御上より御褒美として銀二枚を給りしか、誠の父母に逢たき
故斯ハなせしとなりとそ
一右黛施しの金主ハ元御勘定奉行田口加賀守忰百助と申者ニ
而、実ハ孫ニ而五郎左衛門の忰也、黛に深くはまり込て金
銭を湯水の如くニ遣ひ捨甚々不身持之由、十月二日夜地震
之節も吉原ゟ立帰り怪我無之、下谷七軒町の住居も焼残り
候、実父五郎左衛門義ハ所々屋敷方へ仕送り用人致し大金
持之由、右百助弟啓三郎十七八才ニ而去秋中小日向浅井藤
兵衛直家督ニて二百五十両持参致し候処、兄百助俱々身持
不宜候間、養父半兵衛本家浅井何某俱三月十八日厳敷異見
を相加へ候処、啓三郎詫入其儘寝間ニ立入其夜密ニ塀を乗
越出奔ス、書置ニ養父并ニ本家江対し不始末の次第申訳無
之間海川の住居可致候由之書置也
当世三おか年
主人か能くて世間へ名を上け、客人かよくて全盛に名
を上る中ニ、其身悪敷夫ニ連添事幸不幸と雖、自ら罪
ニ落入事不便なれハ、追善ニもなれかしと爰ニ出ス
当世地獄の沙汰もおかね次第
熊野牛王所
御褒美 覚泉院下女
白銀十五枚 おかね
起請誓詞血判の本元なれハ虚言偽ハならぬ筈、是正銘の大忠
臣おかねをたんと貰ふ筈なり
新吉原江戸町二丁目
御褒美 佐野槌屋内黛事
白銀二枚 おかね
幼稚の時別し父母を慕ふのこゝろより御救ひ小屋へ土鍋を施
し親孝行の廉々ておかねを貰ふ、是少金を求て大金を遣ふの
利真実我力を以て致せし孝行ならす間、夫々田口加賀守孫ニ
而田口百助といへる者大金を出し致せし事ニて、是名聞全盛
の謀斗にて致せし事也
上総国夷隅郡山田村
御仕置 百姓久次女房
白鞘刃金 おかね
右山田村ハ大田喜城下の脇ニて、九十九里浜へ毎日〳〵夫婦
中能連立漁ニいて稼き候故おかねも沢山ニ取候得共、夫久次
大酒放蕩にて遣ひ捨♠（鉞カ）のかねより事起り、終ニ女房おかねか
身ニ刃の金のいる事、善悪共ニおかね次第なり
いでるにも入るにも兎角
おかねにてかねか先立
苦の世界なり
追而
神田小柳町おかね新道
藤間おかね
尤先おかね踊師匠ニて、名高し鍋町大新といへる道具やに囲
われ、おかねもふんだんにて名高く所の名迄おかね新道とい
ふなり
浅草観音生人形
近江のおかね
力斗ニて馬を止しニもあらす、目つき口つき笑をふくみし所
ハ誰か眼ニも生身のいき人形、余多之客を招き込当時稀なる
大評判大当り〳〵 釣りかね
三井寺へ行ふもいへぬ釣かねハ
皆鉄炮の見世に立なり
借りかね
雁かねの夏か来たとて帰されす
跡のつばめはなんとせふやら
（注、吉原の火災歴省略）
一安政二乙卯年十月二日夜四ツ時大地震、其上出火ニ相成廓
内不残焼失、土蔵凡四百八十余戸前、焼亡人六百三十余人
有之、尻火田町より竹門北新町芝居町南北馬道花川戸山の
宿迄焼ル也
吉原開発元和四年ゟ今安政二年迄二百三十八年
焼失二十壱度
右ニ付今度冥途細見記ニいへる小本柳下亭種員著述致し
其序文ニ曰
厭離江戸の街をはなれ西方ならぬ北方に寂光浄土の廓有
り、常ニ二挺鞁の音楽絶ス、虚空ニ惣花の花降て九品蓮花
の三つ蒲団ニ半座をわけて客を待、上品下品の名妓の名寄、
彼岸ニ因の春秋に品定めの差別なし、後生も吉原細見とて
衆生を導く便となセり、其細見ニなそらつて則吉原たいへ
んと表題ニ記せしは、此十月二日の夜震災火難ニ紫雲たな
びく極楽世界も忽ち黒烟むらかる地獄となり、揺潰れたる
家庫は針や釼の山にひとしく、火願（ママ）に赤き鉄漿とぶは血の
池ニもさもにたり、爰ニ等治の押ニ打れ、又焦熱の火にかか
りて思わぬ冥途へ住替なせし新亡者の突出しを業の秤の足
手ばかり視目嗅鼻聞出し鬼々家の主人は更なり三途川原の
遣手婆父母のため曲りたる名て塔積禿等まて、浄婆利の鏡
にかけて洩さす記せし一小冊、てれんてくだの偽なけれハ、
長ひ年季の法事はともあれまづ身代の百ケ日貸編笠の施主
ハなくら（てカ）も日本堤の、あいたる口ニ菩提をとわせ玉へかし
と、願ふも他生の□（ヨゴレ）閻魔の子とやひわん
安政二乙卯年初冬 雷門舎爺叟記
江戸町壱丁目左側入口
玉屋山三郎 無事
桜屋源次郎 無事
伊勢屋六兵衛
梅ケ枝 松か枝 禿小はぎ
海老屋弥七
津禰 禿清花川柳
相模屋新五郎
尾張屋八五郎
明石
吾妻屋甚蔵
尾張屋常次郎
染衣 はる
政木屋久次郎 無事
新丸亀屋丁兵衛 無事
木村屋新吉 無事
池田屋多け 無事
福本屋勘次郎 無事
浜松屋はる
福住屋嘉く 無事
松鈴木やひな
藤田屋吉五郎 無事
松喜屋勝五郎
江戸町壱丁目右側入口
大黒屋金兵衛 無事
大黒屋文四郎 無事
和泉屋平左衛門 無事
大口屋文右衛門
花の戸
角蔦屋万次郎
小菊 禿やよひ まめふじ
谷本屋弥助 主人死
禿 なの葉
尾張屋彦太郎
長門 小車 禿よしの
大杉屋いく
江戸屋こと 無事
相模屋勢津 無事
長谷川庄之助 無事
丸吉屋八保 無事
宝来屋銀蔵
福岡屋喜代 無事
新福本や福太郎
井筒屋長次郎 無事
武蔵屋嘉七
高田屋松五郎 無事
江戸町二丁目左側入口
金屋満左 無事
福住屋伊三郎 無事
和泉屋清蔵 無事
舛屋と代 無事
甲子や喜久三郎 無事
金沢屋久助 無事
さかいや七郎平 主人死
小紅屋仙太郎 無事
湊屋てる 無事
紀の字屋鉄五郎 無事
栖原屋くに 禿まめ
玉琴 若梅 小蝶 菊代 栄山
岡本屋兼次郎
高浦
喜久屋庄助 禿雪路
染川 浜之助 重岡 琴浦
佐野屋寅吉
亀川 小梅 若波
白崎屋清兵衛 無事
ひしや登代 無事
亀松屋庄助 主人死
新岡田屋市五郎
滝川 豊浦 勝山 禿もミじ
小雪 小雛 三吉の てらじ
武蔵屋喜く 無事
千歳屋はる
春梅 玉の井 増岡
杉戸屋茂十郎 無事
三河屋源兵衛 禿さんじ
若波 染春 此春 三ツ橋 清糸 染川
村田屋ひ那 無事
武蔵屋福三郎 主人死
千代靏 松人 小ひな 岩波
玉屋喜助
錦野 小てふ 禿のふ
堺屋はな
梅川 此糸
山崎屋喜兵衛 無事
江戸町二丁目右側入口
久喜万字や藤吉 無事
丸屋 熊蔵
若紫
佐野槌屋勢い 無事
政田屋勝次郎 無事
三浦屋吉右衛門 主人死
朝汐 道柴 夕渚 か不井
折立 妻菊 芳春 もと
平野屋亀五郎
若浦 代々歳 高篠 若浪 花の香
若靏 代々浦 若染 み津 三代吉
禿さくら もみち かきつ 阿やめ
まつの ちとり はる
伊勢屋藤兵衛
松か枝 三代吉
岡田屋宗兵衛 みき 禿かめ
千代春 長春 玉春 清岡 三代鶴
千枝 常盤木 春人 亀綾 小春
亀川 春日の 初岡 小桜 鈴菊
稲本屋庄三郎
香川 香扇 小門戸 花柳 若草
小桜 稲の尾 小雛 若浪 琴浦
綿野 勝山 揚羽 おたい
芸者きよとめ
禿たつた かすミ さくら 初音
通い
鶴吉屋具満
清滝 八重梅 浜菊 花里 花鶴
山本屋半兵衛
琴吹 清人 若鶴
山田屋登代
梅咲 小春 玉琴 初菊
佐野槌屋ぢう
満人 浦波 桜木 桂木 妻琴
巴屋徳兵衛 無事
加賀屋徳兵衛
菊野
桑名屋くに
玉照
角町 左側入口
松田屋家寿 無事
中万字屋弥兵衛 無事
万字屋千代 無事
叶屋安次郎 禿つるじ
はるじ
和国 花町 国人 浅妻 小てふ
ちよの
芳野 於米 豊春 松島
津国屋半三郎 主人死
花柳 誰袖 葭川 浦菊
八ツ橋 大井 滝川 禿ミどり
わかな
佐野倉や権三郎
清花 連山 千代春 禿よしの
万字屋粂吉
賑ひ
大黒屋亀五郎 無事
相田屋忠七
滝川 明石
松島屋安兵衛
増春
浜海老屋卯兵衛
大島 亀菊 乙衣 住の井 友住
小林屋吉三郎 無事
松坂屋加那 無事
安房屋孝助
佐川 禿かねじ
松村屋芳次郎
浅妻
新和泉屋辰五郎
小春
福岡屋とき 無事
重松屋清助
花咲
松村屋兼次郎 無事
佳吉屋すミ
城喜屋すゞ松橋屋熊次郎 無事
角町右側入口
武蔵屋金太郎
歌橋 茂々代 小鶴 弥生 禿すゝの
さくら
豊岡 清滝 房本 花の香 ちよの
まさし
佐川 勝山 浪花
若狭屋豊次郎
文月 小雛 花岡 染井 禿なミじ
たけの
もみぢ
陸奥 勝山 常盤木 小桜 ふえの
うめの
里見 梅ケ枝 都 春町 みどり
つるじ
かめの
初音 小きん やりてきよ
岡本屋勝次郎 無事
中大黒屋兵助
中川 竹篠 清人 村尾 禿ミきの
いくの
越前屋六左衛門 無事
近江屋美ち 無事
倉田屋喜代
加島屋平兵衛
清川吉野
ま起屋安五郎 無事
大黒屋栄次郎
若芝 桜木
坂本やつや 無事
大黒屋兵蔵
八千代 蔦松 禿阿やめ
蔦屋孫右衛門
花里
兵庫屋登代
山田屋吉兵衛
稲本屋与兵衛
松岡 寿 花鶴
越後屋佐助
哥川 小松
小大黒屋喜勢 無事
中吉屋登里
三吉野 梅ケ枝
住田屋天津
鶴本屋喜久 無事
佐野屋柳右衛門
歌菊
京町壱町目左側入口
岡本屋長兵衛 主人死
豊岡 篠春 豊照 豊里 豊浜
語らひ 千代浪 卯の花 爪崎 据川
若里 梅里 墨染 国歳 豊篠
梢野 花町 花野 増緒 重野
小ゆひ 都 くに 小せん ふく つる
まつ みき うた 遣手たつ
福本屋こう
花照 代々春 三ツ浦 きん州
橘屋綱橘 禿たつた
ゑいじ
若照 玉照 花敷 滝尾 みの
亀屋多満
芳里 道芝 薫 若松 小蝶 若竹
丸亀屋佐代
冨岡屋藤八
青柳屋粂次郎
藤枝 禿つ禰じ
上総屋荘治 無事
京町二丁目左側入口
大和屋石之助 無事
江戸屋亀五郎 無事
杵屋清吉 主人死
金沢屋庄助 主人死
大黒屋さだ 無事
大武蔵屋駒吉
相生 みさほ かよいし 一本 亀菊
浜助
丸屋栄竜
福司 紅梅
丸大黒屋熊蔵 無事
張金屋寅吉
若松 東路 初音 阿やめ
芸者 千代 やす さと 禿よしの
壺屋やゑ
小雛 菊川
新金本屋喜久 無事
金子屋重吉 無事
平野屋きん
梅の香
伊勢屋美千 無事
尾張屋三平 さだじ
京町壱丁目右側入口
大野屋稲五郎
語らひ 若汐 染衣 松ケ枝 禿もみじ
わかば
ゆきの
すゞの
八里梅 花梅 おきん
海老屋吉助
大丸屋冨蔵
琴浦 玉琴 花遊 禿小千代
たけの
おきな
黒梅 花照 やりて きん
姿海老屋久兵衛
白菊 八千代 葛城 七人 花菖
滝花 菅絲 玉柴 梅野 七町
若梅 七森 豊梅 豊浦 菅綾
管浦 玉春 人春 芸者よ禰
湊屋喜久
薫 藤野 禿すゞの よたれ
稲野屋直次郎 禿ゆかり
桝美屋重蔵 無事
京町二丁目右側入口
山口屋藤兵衛 主人死
玉章
藤本屋七兵衛
芸者つ年 婦じ
大坂屋喜の
松葉屋知賀寿 主人死
花松 菖木 志満 艶木 禿やよひ
かよ
梅の
花里 玉の江 菖蒲 はる かつミ
大槌屋惣次郎 芸者やえ
花里 小梅 哥川 禿わかば
あやめ
まつち
加賀屋藤吉
玉里 三芳野
若竹屋弁蔵 無事
稲毛屋いち
東雲 禿かねじ
伊豆屋嘉川
紅梅 禿きの
桝杵屋よ喜
雛町 清雲 増尾
平松屋清吉
尾張屋善七
仙山
新若竹屋徒禰 無事
満寿屋よ禰
哥川
中海老屋万吉
小桜 増山 豊浦 菊山 其山
局見世之部
山城屋浅吉 無事
吾妻長家 山口屋孝次郎 無事
鶴屋直吉 無事
世続長家 尾張屋勇吉 無事
桔梗屋彦次郎 〃
高瀬屋鉄五郎 〃
倉吉屋伊十郎 〃
三日月長家 丸屋十次郎
丹後屋新四郎 無事
岩本屋つる
大海老屋新助
稲毛長家 新桝屋勝次郎 無事
松崎屋ひやく
下野屋志ち
舛屋専太郎
金桝屋初太郎
同断 新海老屋こま 無事
房州屋熊次郎 〃
万角屋い禰 住の江死
せい海老屋粂次郎 無事
稲荷長家 津の国や吉兵衛 無事
山本や友七
升泉や孝七
勢喜長家 上州屋又四郎 無事
千代本や喜兵衛
松岡屋五八
三州屋婦さ
男芸者 花柳 鯉昇 女芸者 里う
世話人 岸川施餓鬼
土手動破之記
安政二年卯十月二日夜四ツ時地震揺初出火ニなる、角町ゟ江
戸町壱丁目二丁目京町壱丁目弐丁目伏見町二ケ所ゟ出火致、
揚屋町ニ火元なし、五十軒出火し畳屋ニて焼止ル、東側ハさ
しかけ店かこやニて止ル、廓内の土蔵二百八十戸前落る、遊
女屋九十七軒類焼、遊女五百三十六人客二百八十三人旅人客
七十六人あんま十九人夜商人二十人、都合人数千二十九人、
外ニ廓内怪我人九十壱人追々死骸掘出せしニ十九日迄ニ五十
六人出□不明なり
田町編笠施主之部
てんがいハ二階がつふれ、早桶ハ火先之〓、蓮台ハ戸板の怪
我人、とむらいハ冥途で八朔、どうめう鉢ハ遊女の泣声、六
道銭ハ抱主の金箱、づだぶくろハは禰橋おろさず、経稚（帷カ）子は
婦るつた土蔵、水葬ハおはぐろどぶ、火葬は明だる、土葬ハ
なまつの動き、石塔ハ鹿島の要石
浄閑寺従ママ町無縁之塔
横死変死遊女売女三百五十二人為菩提
墓所法舩（ママ）之部
諸行無常是生滅法消滅々已寂滅為楽
安政二乙卯年十月二日夜抱主屋山三崩蔵板
但袋ニ小袖を書、模様ニ蓮の葉ニ蓮花の散る所を書、冥途
細見と言
新吉原遊婦売女焼亡忌日定
新霊附 金三分 同 金弐分
遊女三人 同五人
新霊附 金壱分 同金二朱
〃三百六人 〃二百七十人
新霊附 金壱朱 同 青銅十文
〃百八十人 局壱人
新霊附 鎗手女 同 禿女
七人 二十三人
年中月々忌日
正月忌の内 三月死花ひらき
五月さみだれ泪 七月新盆会
八月白無垢着 九月禿菊散り
十月二日一周忌
日本堤 家崩れ候花有之
無縁坂 右ニ閻魔堂みる目かぐ鼻御法礼
双盤所 後ニ題目桜 念仏松
左りニ三途川老婆 後ニ衣掛柳
此所を十万億土道と云ちまた三途ニわたりて極楽を阿らわさ
す
ぜふはりの鏡 死出旅人の井
東門口極楽 東門の図紫雲たなびき蓮花散り候図有之
世俗墓之街 六道辻
左右茶屋之処塔婆也
行当り遊女墓 大施餓鬼遊女売女変死横死
花街楼焼亡
為菩提法射
燈籠法味
新盆仏土産
寺院在家
大施餓鬼養
十月二日
一周忌浮霊
一吉原西之方大音寺前町々大ニ崩れ焼失同前也
一田中新鳥越辺潰れ家甚多し
一千束郷長国寺鷲大明神本社破損、僧坊石碑大破損、此辺小
屋敷町家共大ニ崩れ竜泉寺町
一吉原日本堤田町編笠茶屋両側二丁袖摺稲荷ハ壱丁目三谷堀
之口辺迄焼ル、同所西の方残る町家大破損焼失同前也
一同北方隅田川真崎稲荷本社無別条、鳥居燈籠砕る
一同処浅茅ケ原四方民家多く崩
一同所橋場舟渡場南方銭座迄大川際焼る、同所西側福寿院法
源寺等大破損、僧坊崩る、同所門前町迄焼る
一同所今戸町蓮窓寺妙高寺長昌寺本堂破損、僧坊大破、其外
崩多し、安昌寺禰福寺潰所多し
一今戸橋北之方今戸町東側壱丁焼ル、同西側松林院本意寺（ママ）慶
養寺大破損、崩所多し、寺院等何れも碑燈籠悉倒れ崩乱也
一同南方三谷橋砂利場新鳥越一丁目同下瓦町待乳山東方村方
悉崩
一浅草馬道道哲木戸際ゟ焼、同所谷中天王寺門前代地町山川
町焼ル、同所西方寺之大崩ニ而止ル、同南方西側冨士下少
残り、夫ゟ吉祥院高うら徳翁院庚申堂延命院地蔵堂誠心院
無動院鳥寺教善院猿寺等何れも数百軒の裏店悉く焼る
一同南方浅草寺随身門前居酒屋迄焼る
同向側ゟ南方南馬道迄壱丁半焼ル
右前書道哲ゟ是迄南北九丁余焼ル
一浅草寺本堂無別条、諸堂僧塔共大破損、五重大塔九輪曲る、
又同所馬道東側ニ而又南方弁天堂善竜院百観音堂泉陵院泉
蔵院冨士修善院寅薬師妙徳院迄焼ル
同南方ハ医王院廿三夜堂マンダラ堂姥ケ池の旧跡一ノ権現
迄焼ル
随神門通東の方ニ而金剛院[覚|ガク]善院法善院妙音院郡松〓南側
自証庵地蔵堂迄やける也
一浅草雷神は神通ニ而地震を知る故ニ逃出たりとの大評判、
実仏師屋江行も自然の神通ありて粗此地震を知るか故ニ修
復の為ニ人手をかりて逃けたりとせハ是又一奇事なり
一本堂の裏の方ニ誰か納メたるか木馬壱疋在之此馬地震の翌
日能々見れハ四足泥ニ汚れたり、是観音の乗せられて出給
ひしニ疑ひなしと専らの取沙汰也
一宝永四年冨士山焼の節、浅間社前ニ在二疋の木馬壱疋三穂
明神の社前へ行後三穂ゟ知らせニ依而冨士山へ取帰ス、其
後又々三穂へ行余り之不思議ニ右之由を公江訴ル、今猶三
穂ニ在
一浅草観音西の方田甫加藤大蔵少輔屋敷南方慶印寺幸竜寺本
堂無異也、僧坊破損、日輪寺天岳院東光院同門前町海禅寺
下谷山崎町迄武家寺院町家共崩れ所多し
一同所蛇長屋誓願寺浅草坂本町浅留町大破崩所多し
一西方善徳寺慈源寺凉願寺源空寺本堂崩
一東門跡添地大破崩所多し
一幡随院門前町大破崩潰家焼失同前也
一乞胸山本仁太夫構内壱丁余焼ル也
一東門跡本堂少破損、僧坊大破損也、同所田原町口裏門同西
門潰れ塔中三院崩其外大破損、東方焼失同前也
一新寺町通菊屋橋西方寺行安寺東国寺門前丁壱丁焼ル、向側
堀端手前迄焼ル
一同寺町通本竜寺広大寺東岳寺大破損
同門前町崩家在
一西光寺西照寺下谷辻番屋敷等大崩れ
一西方永昌寺門前町宗源寺同門前町
一広徳寺下谷車坂町北方武家諸寺院町家等大ニ崩潰所多し
一入谷庚申堂北方正覚寺良源院等大ニ崩れ諸碑等散乱ス、三
崎稲荷同所金杉上下町随徳寺坂本東裏丁通り迄悉く崩れる
一下谷山崎町御切手町焼る
一坂本町ゟ御具足町車坂町ゟ正法寺門前町迄武家町家共大ニ
崩る
本所石原辺
石原片町不残潰、人死多し、屋敷は無別条、片町半丁ニ而五
十七人死し候由
小栗右膳六百石
宮本覚蔵小普請組ゟ御勘定へ出役相勤居候処ニ、右地震ニ家
を震潰され乱心致候哉、支配江書置を残し切腹致し候由
御届書
昨夜門ゟ玄関居間迄地震乱入致し空中を切払候得共一向形
チ相見へ不申候 以上
十月三日 宮本覚蔵
右之通頭名当之書置致切腹致相果候
遖（あつぱ）れにじしんに切し腹なりと
誉られもせず耻（恥）を覚蔵
一番場町土井能登守下屋敷向側ゟ出火致壱丁ニ半丁斗焼ル
也、土井屋敷ハ無別条、牛御前御旅所潰れ
一石原町徳山五兵衛長屋残奥潰れ
内藤山城守中屋敷二棟斗潰れ
大久保与三郎島田錦三郎皆潰れ
鈴木勝次郎屋敷ゟ出火、宇田了泰武者録之助三軒焼ル、柳
原百之助御殿潰長屋残、小松玄中皆潰れ
一津軽越中守半潰表長屋残内長屋潰れ
室賀美作守御殿潰れ長屋残ル
津軽中屋敷ハ大潰ニ而七十人余死す
曲淵求馬屋敷ゟ出火ニ而舘野忠四郎潰れ焼正木舎人共三軒
焼ル也
此辺竹島顓之助権田遠江守大潰れ也
其外近辺半潰多し
山本小膳御殿潰れ長屋ハ残ル也
一緑町三丁目片側潰れ死人多し
同五丁目ゟ出火致し花町迄三丁斗焼死人多し
十月十九日
火口番
須田久左衛門
米津 大善
大久保与三郎
水谷弥之助
十月二日夜地震ニ而潰家ゟ出火仕、西北風ニ而左之通
り焼失仕候
一本所石原片町表町家ゟ同所大御番組堀田原豊前守組与（組）頭鈴
木勝次郎屋敷并同処小普請組明キ支配武者錬之助屋敷迄、
凡幅二十間程長サ壱丁余焼失仕候
一同所新町大繩拝領町屋敷御賄陸尺関与作地面表町屋幅六間
長サ十二間之処焼失仕候
一南本所南番場表町屋ゟ同所北番場表町屋迄凡幅二十五間程
長三丁余焼失仕候
一北本所中之郷竹町尾張中納言殿家老竹腰兵部少輔下屋敷借
地、周防守父隠居松平弾正少弼住居、凡幅八間余長サ十二
間程焼失仕候
一本所緑町壱丁目ゟ同所二丁目表町屋迄、凡幅二十八間余長
サ二丁程焼失仕候
一同所四丁目ゟ同花町迄、凡幅四十五間初長七丁余焼失仕候
一同所花町表町屋幅八間余長二十間程焼失仕候
一同所三ツ目花町御書院番白須甲斐守組植村帯刀屋敷住居、
凡二十間四方程焼失仕候
一同所徳右衛門町壱丁目ゟ二丁目迄、凡幅三十間余長サ壱丁
程
一同所二之橋三之橋之間小普請組奥田主馬支配正木保太郎屋
敷ゟ同所小十人頭本多一学組島鐘右衛門屋敷借地小普請組
明キ支配内藤主水住居迄、凡幅廿間程長サ壱丁余焼失仕候
一北本所源森橋松平越前守頭取組合辻番所幅九尺長サ三間之
処不残焼失仕候
一同所南割下水御竹蔵後小普請組大島丹波守支配稲葉昇太郎
屋敷住居、凡幅五間程長サ八間余焼失仕候
一同所松坂町壱丁目御小姓組番頭土屋佐渡守屋敷住居、凡幅
九間程長十間余焼失仕候
一深川御船蔵前町ゟ同処奥町小普請組小金原弥八郎支配井出
鎌次郎屋敷ゟ火先二口ニ相成、左りの方本所小名木川太田
摂津守中屋敷迄、右之方新大橋籾蔵迄凡幅二丁程長六丁余
焼失仕候
大久保因幡守人数
井出鎌次郎手人数
右人数手人数打交、火ゟ東之方鎌次郎屋敷表長家二間半五
間程之処消留申候趣、見廻り之節申聞候
町会所掛
籾蔵見守之者
右見守之者ニ而西之方新大橋籾蔵五間ニ三拾間程之処防留
候趣、見廻り之節申聞候
一同所黒江町表町屋ゟ同所伊達遠江守蔵屋敷迄、同所松平加
賀守蔵屋敷内長屋ゟ同所河岸迄、凡幅壱丁程長サ壱丁半余
焼失仕候
一同所相川町ゟ北川町迄、凡四丁四方程焼失仕候
一同所黒江町ゟ永代寺門前町迄、凡幅壱丁半程長サ六丁余焼
失仕候
一同所南森下町裏町屋、凡幅六間程長八間余焼失仕候
一同所亀久町凡幅壱丁程長壱丁余焼失仕候
一本所中之郷代地町柳島出村町表町屋ゟ同所御代官竹垣三右
衛門支配所百姓家迄、凡幅十六間程長サ十八間余焼失仕候
一三拾三間堂町表町屋凡幅四間程長拾壱間余焼失仕候
一北本所代地表町屋ゟ蛤町迄、凡幅三十間余長サ壱町半程焼
失仕候
一南本所元瓦町ゟ小梅瓦町迄、凡幅十八間程長サ三十二間余
焼失仕候
一亀戸町番屋幅九尺長二間余焼失仕候
一同所表町屋凡幅六間程長サ二十六間余焼失仕候
一深川伊勢崎町表町家、凡幅十二間程長サ壱丁半余焼失仕候
一本所猿江町土井大炊頭下屋鋪表長屋幅三間長四十二間程焼
失仕候
一私共義御曲輪近辺相廻り候ニ付消防之働見届不申候
右之外火事場相替義及見不申候 以上
火口番
須田久左衛門
米津大膳
大久保与三郎
水谷弥之助
本所深川都而火口廿八ケ所也
両国橋向ゟ大川橋向迄大川端通
大概
一両国橋向本所尾上町元町藤代町家作土蔵其外半潰、稀ニは
建家有之候得共大破、尤出火は無之
一同所藤堂和泉守下屋敷過半潰れ表長屋二棟程相残り候、蔵
潰其外半潰大破等有之、出火は無之
一松前伊豆守屋敷何れも大破損、中御小屋等潰家焼失後、未
家作等出来少候ニ付御住居等も無之、右故ニ潰家等無之
一本所御米蔵何れも大破損、中御小屋等潰家有之御門潰れ出
火ハ無之
一大川端通り松平伯耆守下屋敷土蔵長屋等潰れ御住居向潰不
申大破損、表御門無別条
一松浦豊後守屋敷裏長屋不残潰れ、勿論表御門共玄関御住居
向潰れ不申候得共大破損、尤出火は無之
一松平右京亮下屋敷表長屋土蔵其外潰れ、御茶屋等少々相残
ル、表門潰れ尤出火は無之
一加納備中守下屋敷長屋土蔵其外過半潰れ御茶屋等少々残り
大破損、表門潰れ尤出火等無之
一船極印御役所并表門潰れ不申、同所手附手代等長屋ハ潰れ
候も有之、尤出火無之
一黒田豊前守下屋敷表門潰中長屋潰外長屋壱棟残り、御住居
向潰不申、尤出火も無之
一大川端石原町町家家作土蔵潰、其外半潰、稀ニは壱二軒位
相残り候茂相見へ候得共大破損、尤出火は無之
一内藤丹波守下屋敷表御門同長屋半潰れ、表長屋壱棟残り、
内長屋潰其外大破損、尤出火無之
一交代寄合最上熊丸屋敷近頃建直し候故哉、御住居向長屋等
格別破損無之
一阿部伊勢守屋敷表御門長屋土蔵過半潰少々ツゝ相残ル、尤
出火は無之
一松平大学頭下屋敷右同断
一南本所外手町辺町家大小、御旗本御家人衆過半潰、其外半
潰、稀ニは少々相残り候得共大破損也、尤出火は無之
一南本所番場町町家寺院過半潰、其外半潰、出火は無之
一同所大川端町酒井下野守下屋敷表門表長屋皆潰れ、御住居
向半潰、其外大破損、尤出火は無之
一大川端中之郷竹町家作土蔵神社寺院過半潰、其外半潰れ
一同所細川能登守下屋敷表門長屋皆潰、御住居向土蔵半潰、
其外大破損、尤出火ハ無之
一松平越前守下屋敷表長屋中土蔵共過半潰、御茶屋相残り大
破損、表長屋其外長屋少々宛相残り候所も相見へ申候、出
火無之
一松平周防守下屋敷中長屋潰れ少々出火、御住居向相残り大
破損、表門表長屋等相残り大破損也
一中ノ郷瓦町同元町同原庭町北本所表町辺町家神社寺院家作
土蔵其外過半潰、其余半潰、大破損中ニは少々宛出火等も
有之
一北本所表町松平壱岐守下屋敷長屋向過半潰又ハ半潰、御住
居向大破損、表御門無事、大破出火は無之
一同小梅代地同新町同松倉町辺町家其外組屋敷小間遣新組其
外御家人衆家作土蔵皆潰半潰大破損、中ニは少々宛出火も
有之
一本所石原辺大小御旗本御家人衆入交り町家寺院皆潰れ半潰
れ大破損、中ニは出火も少々宛有之
一中之郷横川町辺瓦焼場等過半潰半潰傾キ候処も有之、此辺
も出火等無之
一北割下水南割下水辺大小御旗本御家人其外皆潰半潰大破
損、出火は無之
一中之郷代地町吉岡町壱丁目吉田町壱丁目同二丁目北本所代
地町新坂町清水町長崎町壱丁目南本所三笠町壱町目同二町
目入江町辺町家土蔵家作過半潰半潰其外大破損、尤出火等
無之
一本所一ツ目通り同二ツ目通り同三ツ目通り大小御旗本御家
人住居向土蔵其外大破損
一津軽越中守屋敷外廻り長屋半分程皆潰、其外傾キ、御殿向
大破損、表門無別条出火等無之
一同三ツ目通り中屋敷皆潰、尤裏之方外長屋少々潰れ出火無
之
一本所横網町小泉町亀沢町辺大小御旗本御家人衆町家とも土
蔵家作皆潰半潰傾キ大破損、尤出火等ハ無之
一相生町壱丁目ゟ同五丁目まて御旗本御家人衆土蔵家作皆潰
半潰傾キ大破、尤出火ハ無之
一緑町壱丁目土蔵家作大半潰れ其外半潰傾キ候場所も有之、
同二丁目ゟ五丁目迄は潰之上残らす出火焼失す
一花町二丁之間壱丁半程潰、其上出火ニ而不残焼失也
一本所一ノ橋前後崩れ落往来留、其外橋大破無之船渡し也
一一ツ目弁天社大破、其外諸碑等悉く崩れ倒る也
一両国回向院本堂ハ前年類焼ニ而無之、鐘楼潰れ諸碑倒折る、
其外僧坊等大破損崩所甚多し
一本所相生町四丁目ゟ五丁目緑町一丁目二丁目迄焼ル、同処
河岸石垣崩れる同北方津軽中屋敷迄之内小屋敷大破損崩れ
等多し
東方松平筑後守下屋敷ハ永倉町入江町長崎町迄武家町家共
大破損崩所多し
一同東方緑町壱丁目二丁目焼ル三丁目ハ残り四丁目五丁目花
町迄焼ル、同北方松平能登守下やしき植村帯刀北方武家町
家共大破損所々崩所多し
深川辺珍事
一霊岸寺本堂中門無別条、表門潰れ、開山堂大破、地内数ケ
寺大潰れ也
一雲光院本坊ハ先達焼失、地中不残潰、地中照光院所化友禅
俳名豊道潰れ梁落下ニ相成候処、掘出され助り候嬉しき儘
豊道
つゝがなく動く斗を冬之蠅
友禅怪我致し候処へ法友翠風子訪らふて
尋ぬれハ無事を見せたり冬桜 翠風
一深川元町ニ銀座辻伝右衛門地面有之、間口二十間奥行十五
間ニ而、表店之者廿五人死裏店七十三人死、都合表裏にて
九十八人変死致し候よし
一深川大島町川徳と申米酒干鰯問屋有之、土蔵十二戸前有之、
然ル処何者の言出し候哉川徳ニて施行米出し候とて四日夜
数万人打寄候処、川徳ニ而は一向ニ不存言訳申候得共聞入
不申処、阿州屋敷役人罷出此節柄不届ニ付鉄炮にて打払へ
と数挺持出候処、川徳頻りニ差留自由ニ為致候処、凡五百
俵程持行候由、右之趣川徳ゟ早速御番所へ及御届候処近辺
御調之上大島町ニて拾五人被召捕入牢致し候よし
唯取て何かわ徳と思ひしに
罪深川で目ニ大島町
一深川辺を悪者百人程組押歩行所々にて米百俵程も盗取持行
候由、深川石場松平下総守屋敷へも押込候処、大勢ニ而追
払其上八人生捕候よし
一五百羅漢寺脇榊原式部大輔下屋敷ニ而米蔵有之候を見受米
被下候よし申参候処、右地震ニ而役人七八人番致し居候処、
夜分手込ニ致候間役人取捕へ又は追欠候間ニ、賊は大勢故
ニ替り〳〵ニ土蔵へ這入六十俵取られ候ニ付、役人申上夫
ゟ鉄炮を[餝|かざり]置候間、其後は壱人も参らぬよし
一深川法禅寺へ地震以前ニ侍四人押込金子借用致し度由和尚
へねたり候処、住持難遁故承知致し御用立可申候得共、此
節世上物騒ニ候間、金子手取ニハ無之卵塔へ隠し置候由申、
墓場へ連行て逃候積之処賊も是を察し、然ハ此処ニ二人残
り卵塔へ二人可参由申候ニ付、今は絶体絶命ニ而無是非墓
場へ二人を連行そこ爰とまご〳〵致し居候処、右之大地震
ニ而墓も打返り候ニ付、二人之賊も逃出し和尚も逃候処、
寺ニ居り候二人ハ家潰れ打殺され候由、右之御用番寺社奉
行太田摂津守江御届ニ相成候由
右は寺社奉行江御届ニ大音寺ゟ当寺は珍敷届のよし
墓場かと金は拾わす逃出して
命を拾ひか衛る盗人
一深川六間堀下駄屋問屋三河屋久右衛門土蔵ニ金五百両入置候
処、地震ニ而半潰ニ相成裏手ゟハ火事燃来候ニ付、右金子
出ス事不成誰ニ而も出し呉候者有之候ハゝ半金二百五十両
也遣し可申由申候得共出ス者無之、五百両焼申候
五百両金はみかわや燃て来る
火か久右衛門出しもせられす
一深川永代寺門前海手松平阿波守下屋敷潰れ即死十人怪我十
人有之
一永代橋東方御船蔵無別条
御船手組屋敷大破損
同南方相川町木戸際三軒残両側ゟ焼る、但此所東の方佐賀
町真田中屋敷地尻ニ而止、南方熊井町二丁同所玄正寺焼冨
吉町三丁蛤町三丁同所西光寺焼仲町通り一ノ鳥居焼落永代
寺西門前町三丁山本町西横町永代寺東門前町二丁焼八幡社
門前ニ而止ル
一冨賀岡八幡社無別条、拝殿破損御輿庫大破損、絵馬堂潰れ
大鳥居燈籠折る、神楽所其外崩所々大破損
一永代橋ゟ南方阿州中屋敷戸田采女正中屋敷松平下総守下屋
敷大破にて火災なし
一同所三拾三間堂棟の中ニ而裂軒口崩れ瓦前後江七分落、其
外大破
一同所木場ゟ此四方武家町家共崩家潰家多く、悉く記かたし
一同所和倉佐賀守代地本所石原代地平野町添地共焼る
一同所北西方今川町永堀町万年町正覚寺橋通り崩潰在之
一冨岡橋北方陽岳寺法乗院閻魔堂玄信寺心行寺海福寺増林寺
恵然寺正覚寺等大破損、此四方武家町家共崩潰家甚多し
一同寺町通浄心寺表門中門潰れ門前首題石倒れ折る、塔中三
軒及手水舎潰其外破損、本堂祖師堂無別条
一霊巌寺表門及塔中悉く潰其外大破損
一同所万祥寺善徳寺真光寺宣雲寺一蝶寺也大破損、灯籠碑等
悉倒れ折る事甚多し
一伊勢崎町一丁目弐丁目焼る也
一同所東方洲崎弁天社無別条、境内僧坊其外茶屋等破損也
一六万坪細川越中守下屋敷小倉同因州同林肥後守同増山同雲
州同 同北方石島町一ツ橋殿下屋敷本多豊前〓大久保佐渡
同会津同宇都宮同
此四方小屋敷民家共大破損崩家多し
一同所八右衛門新田民家多く崩ル
砂村亀高（ママ）大塚逆井元八幡小名木川筋迄之内崩家多し
同東方一ノ江村八十六軒潰る
右ニ准して知るへし
一扇橋近所ニ而伊賀下屋敷秋元同隠岐同永井同越後同大黒田
同、此辺武家町家崩れ多し
一上橋辺ニて仙台蔵屋敷久世下屋敷等又町家大破損、河岸の
石垣等不落所少し
一同所浄心寺前牧野備前守中やしき秋田朽木本多日向等大破
損
一同北方万年橋近所大破ニ而崩多し
一新大橋東方御船蔵無別条
同前町ゟ出火同所御船役屋敷八幡御旅所同御旅町
一同所南方要津寺小屋敷数軒焼ル、六間堀町三丁八名川町弐
丁
同所御籾蔵ハ半焼一ケ処、淡島神社火の中ニ而残る、同所
小屋敷数軒焼る
此辺悉く崩る、同所小屋敷数軒焼ル川向東の方北森下町三
丁焼、同処長慶寺ニ而止ル、南方北六間堀町南六間堀町四
丁南森下町神明宮火の中ニ而残る、同所小笠原佐渡下井上
河内下屋敷焼る、深川元町常盤町三丁同北太田摂津守中屋
敷焼ル、東方三軒町南方高橋ニ而止ル、此近辺大破大小崩
れ類焼同前也
一東方深川西町焼ル、此辺武家町家共大ニ崩る
一同北方徳右衛門町二丁焼ル、此辺武家町家共同断同所河岸
石垣悉く崩れる
一深川寺町辺は崩家尤多し、伊勢屋某大蔵三ケ所揺落し土瓦
ハ山の如し、急々取片付事不能五日之間捨置しが往来難成
故、漸々人を雇ひ土瓦を取除させるに、壱人の男を掘出
す、各大ニ驚き是を引出しけるニ暫たて、此男目を開キ辺を
見廻し爰ハ何処なるぞと云に、皆々弥々あきれ、夫ゟ土中
ニ在し躰を尋ルニ、土蔵の土落て押伏られし迄ハ覚へあり
其後の事は知らすと云
又長谷川町ニも同様之事在是も恙なし
一北本所石原牛御前旅所弁天小路壱丁余焼ル、此辺武家町家
共大破損崩所多し
一同中ノ郷石原町二丁焼ル南割下水辺ゟ所々武家小屋敷崩れ
町家寺院等の破損土蔵安体なるもの壱ケ所もなし
一同北方石原町荒井町二丁焼ル
一同北方北割下水瓦町壱丁焼ル
同所松平周防守下屋敷越前下屋敷細川能登下焼ル、料理屋
小倉庵焼ル
一同東方柳島妙見堂無別条外ハ潰れ、此辺勤士堀辺其外四方
之小屋敷民家潰家甚多し
一小梅村常泉寺本堂祖師堂無異境内大破損也
一本所五ツ目渡し場際五橋丁半丁余焼る、此辺以の外破損焼
失同前也、同処河岸石垣ハ大川迄崩れ所甚多く、川端物置
崩れ薪其外川中江落込散乱いふ斗なし
一亀戸天神社無別条、境内大破損同所門前町壱丁焼る、又一
同角自身番屋ゟ出火、此辺小火所々に在之、猶又近辺小屋
敷民家潰れ家崩家多し、凡焼失同様之所多し、亀戸西口の
鳥居折れ前之茶屋潰
一吾妻森木下川辺五百羅漢其外此近辺四方崩家甚多く潰家等
悉有之
一同西方法恩寺門前出村丁其外西側共焼ル
一向島辺三囲稲荷白髭明神社内木母寺梅若塚等
一小塚原町両側焼る、此地最揺強土蔵等残る所なし
同南方中村町大破損、潰家多く焼失同前也
同南方山谷浅草町二丁目南方元吉町新鳥越町四丁目
東禅寺春慶院道林寺其外此辺寺院等破損多し
一本所辺屋敷ニ而地震を其朝心付て重役之者ニ示して曰今朝
井の水濁り汐気あり是必す大地震之兆しなり、預り置所々
荷物を御渡し候へ、地震之節土蔵ハ頼ミニ相成難し御用心
候へと、重役密々嘲り笑ひて彼荷物を渡、是を受取て猶又
同役其外江大地震之あらん由を告る、何れも笑ひて何条其
儀可有抔言て不取敢（合）、其夜果して大地震あり、重役之土蔵
は揺崩し前言的中ニて嘲り笑ひたる人耻たるよし、幸ニし
て火災は逃たれハ若火難阿らは一物も残所なし、鳴呼危か
な〳〵
一本所永倉町篠崎某成人遊漁を好ミ、二日夜すゞこといへる
物ニて鰻を取らんと川筋所々をあさるに、頻りニ鯰騒きて
鰻一一（ママ）ツも不得、唯鯰三尾を得いろ〳〵思ふやう鯰の騒く
時ハ必す地震阿りと言ニ心付て、漁を止帰宅して、庭上ニ
莚を敷家財道具を出して異変備へをなせり、其妻ハ不審し
て密ニ是を笑ふ、然ルニ其夜右地震也住居ハ悉く潰れけれ
共諸器物ハ更に損せす
一猶又同夜近辺之人是も漁ニ行鯰之騒くのを見なから帰宅せ
す、又獲物も少き上に家財道具を残らす揺崩し深く悔ミし
となり
一本所中之郷弁天小路ニ八百屋新助と言者在、右地震ニ而半
丁余潰れ新助方も潰れて三人之子供ハ漸々はひ出し候得
は、妻やすは梁の下ニ閉込られ自由ならす、狂気の如くな
りて板材木土瓦を刎除除れんとする内、同所薪屋ゟ出火に
て次第火勢強く火ハ雨の如し、妻やすか言様妾を除んとて
時移らは御身を始三人の子迄危し、妾は覚悟也、然れ共火
を見て死なん事最も心苦しと言に、新助心得古半天を頭ニ
懸ケ置泪なから示て言様天災なからも比（非）業の死をさせん事
最恐し、三人の子ハ我能養育すれハ必心ニ懸べからす、是
ゟ割下水牧野氏を憑へし、御経をも上て成仏せよと言捨て
立退けり、其夜九ツ時過牧野方江尋来る者在、髪は残りな
く焼落、頭面ゟ半身黒彩りにして焼爛れたる容は実に幽霊
成へし、新助委細を問ふニ妻やすが言様火ハ段々燃来りて
梁の半迄焼し故押附たる処、甚軽し漸々火事を逃れたりと
語りぬ、是等も未タ運命之尽ざる者にして最目出たし
此度之騒乱ニ如此脱れたる、又井中ニ落入火災を除れたる
者其外いろ〳〵珍説阿り
子をたすけ
死だ女房かいきるとは
是徳水の弁天小路
深川木場にて小笠原隠居を赦ひ出し
鳶者へ十五人扶持被下候一件
一深川木場冨士見橋ニ二ノ組鳶ニ而善五郎と言者有、右地震
ニ而家潰しか妻子を助ケ出し仕合ニ怪我も無之、然ルニ隣
ニ物音高く聞へしかハ鳶口を持急き駈行見ルニ、小笠原左
京太夫下屋敷の玄関を残して御殿中残りなく潰れ、其中ニ
泣さけぶ声切ニ聞へしかハ、力ニ任セ大木板瓦等刎除、侍
女九人を赦ひ出し、猶又散乱の中ゟ女十二人を出しけるか、
老女か言やう早く妙月院殿を助ケ呉と言ふ、善五郎心得て
急ニ潰家の中へ潜り入、漸々尼公を救ひ出ス、是城主の御
母公也、侍女ニ侍セ玄関ニ安座し進せ、夫ゟ茶之間其外三
ケ所之火を消、又十一人を赦出ス、但此内五人ハ即死也、
此時上屋敷ゟ早馬到来し御恙なきを賀し奉るに、右善五郎
ニ救れたる由御物語有しかハ、同五日御上屋敷ゟ善五郎御
召出し在て、当座の御褒美金百両永代十五人扶持ニて作事
方頭取役被仰付候由
本所柳島にて幽霊金を渡せし一件
一爰ニ中村大作と言へる者十月朔日所用在り下総中山ニ参
る、然るニ次の二日夜大地震在り、依之下人十助ニ命し置
其儘江戸へ馳帰る、爰ニ十助は要事を阿ら〳〵ニ調へて五
日之未下りゟ中山を立出大急キニて帰りけれと自然時移り
て本所押上迄返る頃ハ四ツ過となりぬ、此時十助は大ニつ
かれ最教寺之南方野道ニ腰を懸暫し休居る内思はすねむり
居たるに、夜風身ニしむと灯燈の燃立ニ驚キ目を覚しける
に、ハツト燃し灯の影ニいつの程にか来りけん一人の若キ
女佇居たるに、十助ハ肝を潰し逃んとするに立事不叶、唯
身ぶるひして恐るゝ而已、此時女か曰妾は柳島ニ居る蜂須
賀小太夫か娘ニ而足下主人大作主ニハ由縁在有也、此一包
を大作主江渡し宜しく取斗ひを頼之進らすん（ママ）、亦是ハ足下
ニ進らせんと何やらん差出しけれハ、唯々怖さニ顔をそむ
け手を差出しけるニ、最重き一包なれハいかなる物そとふ
り返り見るニ、早女ハ扨置一人の影さへもなく手ニ一包を
持居たる也、懸る処ニ長居は無益と急キ我家江駈帰り、主
人ニ其由告其場の有様悉敷語りけるニ、大作ハ深く驚きて
先其包を開き見るに数多金ニ一書を添て在写左之通り
一十月二日夜地震ニて召仕又私とも一時ニむなしく相果候ま
ま此よし御知らせなし、今ハ家内ニ人もなく候得は早々御
かへり可被成候、尚いろ〳〵散乱し候ゆへ取集たくぞんし
候得共此身じゆう成がたく唯一包ばかり差上度候、あとの
事よろしく〳〵御取斗ひ候やう禰かひ上度候
三千より
一右小太夫は去寅年五月炮術ニ付浦賀へ参り候留守也、家内
ハ右女ミち子ニ侍女下男三人なりしか、地震ニて其家潰れ、
下女下男共即死、此みち女も足を打折其外五ケ所ニ疵を受
今ハ命も危しと思ひしかハ、一念力ニ漸く崩れ家をのかれ
出、右之如く苦痛を志のぎ志たゝめし内に臨終之時至りし
ならん不思議也
一夫ゟ中村大作ハ十助を供ニ致し、早速浦賀へ行小太夫ニ逢
一包を渡し、早速急船ニて江戸へ帰り崩家等取除見るニ、
三千女ハ五躰くだけて死し居一書を認づき容ハなし、唯々
父を思ふの一念なるへし
九月廿七日梵鐘御触
伊勢守殿御渡（省略）
安政二卯年六月朔日 日光御門跡ゟ阿部伊勢守殿江被仰
入候御使口上書（省略）
（注、以下〔地震一件〕［1］～［5］と同文の所、〔日記抄〕十月七日の廻状と同文の所省略）
大目付御目付江
此度地震ニ而家作共皆潰又は半潰之面々は、類焼ニ而休候日
数之半減休可申候事
但諸向一般之事ニ付引続相休候而は御用向差支ニも可相成
候間、申合割合相休候様可被致候事
右之通向々江可被相達候
十月
右書付大和守渡之
此度地震ニ付公儀ニ附候御礼事等当分之内両月番斗可被相越
候
但御勝手斗相越候廉も同断
右之通向々江可被達候
十月五日
右書付大和守渡之
（注、〔地震一件〕［8］［14］と同文、〔撰要永久録〕［5］と同文書省略）
十月六日
阿部伊勢守
伊勢守居屋敷地震ニ而及大破ニ潰家も有之ニ付、金壱万両
拝借被仰付候、其上格別之以思召時服十於御前拝領之
内藤紀伊守
紀伊守居屋敷地震ニ而皆潰其上類焼ニ付、金壱万両拝借被
仰付候
本多越中守
越中守居屋敷地震ニ而皆潰可為難儀と被思召、依之金五千
両拝借被仰付候
酒井右京亮
右京亮居屋敷地震ニ而皆潰ニ付可為難儀と被思召候、別段
之訳合を以金五千両拝借被仰付候
森川出羽守
出羽守居屋敷地震ニ而皆潰其上類焼等ニ付可為難儀と被思
召、出格之訳合を以金三千両拝借被仰付候
右何れも伊勢守書付渡之
十月七日
大和守殿
大目付江
今度地震ニ付十四日増上寺
文昭院様 御霊前江
御参詣御道筋等御差支ニ可有之候ニ付、御沙汰止被仰出候事
十月七日
右之趣御道筋之向々江も無急度可被達置候事
一増上寺御霊屋向地震ニ而御破損ニ付諸向参詣差留候旨、大
目付跡部甲斐守達し有之
十月七日
地震ニ付御祈禱被仰付候
黄金五枚 伊勢内宮江
同 五枚 同 外宮江
同 壱枚 山王江
同 三枚 靏ケ岡八幡江
同 三枚 伊豆権現江
同 三枚 三島明神江
同 三枚 豊前宇佐江
同 三枚 常陸鹿島江
同 三枚 下総香取江
白銀三拾枚 駿州冨士江
同 二拾枚 箱根権現江
同 二拾枚 神田明神江
同 三拾枚 護持院江
右御府内は寺社奉行江御達其余は宿次を以被仰付之
十月七日
十月七日
御使大沢右京大夫
白銀百枚 日光御門跡
日光御宮江
黄金五枚
比叡山江白銀三拾枚
上使安藤長門守
白銀百枚 増上寺方丈
此度稀成地震ニ付世上安全之御祈禱被仰遣之
十月六日
時服五ツつゝ 本多越中守
酒井右京亮
居屋敷地震ニ而潰候ニ付被下之
右於御用部屋大和守申渡之
同八日
同 五 遠藤但馬守
居屋敷類焼ニ付被下之
右同断
十月七日
大目付江相達御書取
諸大名上屋敷地震并火災共有之候向、格別可為難儀思召候間
勝手次第御暇可被下旨、最前被仰出候儀ニは候得共、居屋敷
中屋敷下屋敷共家作潰并火災有之実ニ居所も無之差支候向は
格別、長屋向等ニ而□相残居取繕ひ可也住居も相成候様ニも
候は、当時御人少之折柄可成丈当地ニ罷在候様有之度儀ニ付、
相願候向右等之所を格別ニ致勘弁、実ニ無拠向斗御暇被願下
様最前相達候向江品々可被相触候事
十月七日
右之通大目付江大和守達之
（注、〔撰要永久録〕［15］［19］、〔地震一件〕［19‐1］、［19‐2］と同文書省略）
十月十二日
一線姫君様御守殿此度之地震ニ而大破ニ付
今朝五半時之御供揃ニ而
御本丸大奥江為御逗留御登城被遊候
十月
（注、〔地震一件〕［21］と同文書省略）
十月十一日
牧野備前守
備前守居屋敷地震ニ而及大破潰家も有之ニ付、金五千両拝借
被仰付候
久世大和守
大和守居屋敷地震ニ而及大破潰家も有之ニ付、金五千両拝借
被仰付候
鳥居丹波守
丹波守居屋敷地震ニ而及大破潰家も有之可為難儀と被思召、
依之金二千五百両拝借被仰付候
遠藤但馬守
但馬守居屋敷地震ニ而潰其上類焼等ニ付可為難儀と被思召、
依之金五千両拝借被仰付候
本多安芸守
安芸守居屋敷地震ニ而及大破潰家等も有之可為難儀と被思
召、依之金二千五百両拝借被仰付候
右何れも伊勢守書付渡之
十月十三日
堀丹波守
其方儀居屋敷地震ニ而家作大破住居難相成ニ付、此節在所江
御暇之儀被相願候、無余儀筋ニ付願之通御暇被下候
右今般於大和守宅書付渡之
列座無之
但十四日出立也
同十五日
能勢熊之助江
四ツ谷御門内元御役屋敷此度松平玄蕃頭江被下候得共、其方
元組与力同心は先当分之内其儘住居致罷在候様可被申渡候、
引払方之儀は追而可相達候
十月十五日
十月十二日死人御届
一 七人 松平美濃守
一 六人 松平越前守
一七拾九人 内女 拾七人子供 八人 松平相模守
一百八人 松平肥後守
三拾五人品川二番御台場 同人家来
一拾三人 松平内蔵頭
一三拾九人 南部美濃守
一五人 松平隠岐守
一三人 酒井左衛門尉
一拾四人 榊原式部大輔
一百二人 松平下総守
一七拾九人 津軽越中守
一四人 宗対馬守
一二人 松平安芸守
一二人 松平越中守
一廿六人 松平伊賀守
一拾壱人 阿部播磨守
一三人 酒井修理太夫
一拾人 藤堂和泉守
一七人 小笠原佐渡守
一五人 加藤於兎三郎
一拾三人 加藤大蔵少輔
一五人 有馬知四郎
一拾壱人 松平伊豆守
一五人 松浦壱岐守
一八人 松浦豊後守
一廿二人 秋元但馬守
一八人 本多中務大輔
一五人 松平三河守
一拾壱人 太田摂津守
一六人 板倉周防守
一（ママ）六人 板倉周防守
一八拾壱人 堀田備中守
一拾壱人 堀田鎮太郎
一二人 西尾隠岐守
一三人 細川能登守
一廿五人 牧野備前守
一四人（頭注四人牧野遠江守） 岩城雅太郎
一三人 大久保佐渡守
一三人 加藤越中守
一拾人 小笠原左衛門佐
一拾五人 堀田豊前守
一二人 永井若狭守
一六人 堀 丹波守
一二人 堀 出雲守
一七人 内藤駿河守
一壱人 織田安芸守
一五人 織田兵部少輔
一廿壱人 増山河内守
壱人 毛利讃岐守
八人 堀 長門守
五人 六郷筑前守
八人 中川修理太夫
四人 岡部筑前守
一三人 保科弾正忠
一三人 新庄亀次郎
一二人 大岡越前守
一壱人 脇坂淡路守
一廿四人 井上河内守
一二人 柳沢弾正少弼
一五人 松前伊豆守
一三人 津軽本次郎
一五人 遠藤但馬守
一拾人 建部内匠頭
一九人 有馬備後守
一二人 大関信濃守
一七人 山名靱負
一二人 木下図書助
〆九百六拾三人
右之通大和守宅江御届
十月十二日
十月十七日御届
一三拾五人内男三十二人女三人 土井大炊頭
一八人 内男五人女三人 丹羽長門守
一五人 内男三人女二人 安藤長門守
一九人 内男三人女六人 永井肥前守
一百三拾九人内男 六十人女七十九人 松平肥前守
一五拾八人内男四十一人女十七人 酒井雅楽頭
一九人 内男六人女三人 小出信濃守
一七人 松平陸奥守
但深川蔵屋敷ニ而死す外屋敷ハ無別条
一五人 内男二人女三人 立花飛驒守
一二人男 堀田豊前守
一四拾人 男三拾二人女 八人 小笠原信濃守
一廿五人 内男廿壱人女 四人 松平駿河守
一三拾五人内男十一人女廿四人 水野出羽守
〆三百七十七人
一五拾八人 男二十人女三十八人 松平時之助
一三人 男壱人女二人 京極佐渡守
一拾人 朽木近江守
一七人 男 壱人女 三人小児 三人 松平遠江守
一三人 大久保佐渡守
一二人 松平薩摩守
一拾壱人 男九人女壱人小供 壱人 酒井右京亮
一九人 内田主殿頭
一四人 松平右京亮
一拾八人 中屋敷ニ而 本庄安芸守
一九人 酒井大学頭
辰之口ニ而
一廿八人 男 六人女廿二人 阿部伊勢守
辰之口ニ而
怪我三十五人 内女三人
本所十軒川ニ而死人三人内女壱人
怪我壱人石原ニ而怪我壱人
一九人 男 壱人女 八人 牧野備前守
実ハ死人三十五人之由
怪我三人内女壱人
一壱人 男死ス 久世大和守
怪我拾七人内男十四人女三人
一廿六人 男 十七人女 九人 内藤紀伊守
怪我拾人男七人女三人
一二人 男 壱人女 壱人 鳥居丹波守
一拾三人 本多越中守
馬五疋死ス
死人〆二百三十壱人
変死人
三千八百拾三人男千六百十五人女二千百九十八人
潰家
壱万四千三百四拾六軒
千七百二十棟
潰土蔵
千四百拾ケ所
一拾五人 土屋采女正
町方変死人怪我人書留
壱番組 日本橋北
一変死人 九拾六人 男四十七人女四十九人
一怪我人 廿四人 男拾壱人女拾三人
弐番組 両国橋辺
一変死人 八拾六人 男三拾壱人女五十五人
一怪我人 七拾五人 男四十四人女三十壱人
三番組 浅草辺
一変死人 五百四拾八人男二百六十九人女二百九十七人
一怪我人 弐百七拾一人男百五十二人女 百十九人
四番組 日本橋南
一変死人 拾七人 男 八人女 九人
一怪我人 五人 男三人女二人
五番組 京橋辺
一変死人 廿九人 男拾六人女拾三人
一怪我人 廿四人 男拾一人女拾三人
六番組 新橋辺
一変死人 五人 男 四人女 壱人
一怪我人 拾壱（ママ）人
男 拾壱人女 八人
七番組 霊岸島辺
一変死人 六拾五人 男廿壱人女四十四人
一怪我人 八拾七人 男五十壱人女三十六人
八番組 芝辺
一変死人 八拾一人 男三拾五人女四十六人
一怪我人 四拾壱人 男二十人女廿壱人
九番組 麻布辺
一変死人 拾八人 男 六人女十二人
一怪我人 八人 男五人女三人
十番組 白金辺
一変死人 拾人 男六人女四人
一怪我人 廿壱人 男 九人女十二人
十一番組 内神田辺
一変死人 七拾五人 男廿九人女四十六人
一怪我人 六拾五人 男三十八人女二十七人
十二番組 本郷辺
一変死人 廿西人 男 九人女十五人
一怪我人 廿壱人 男拾三人女 八人
十三番組 湯島下谷辺
一変死人 三百六十六人男百五十二人女二百十四人
一怪我人 百九十九人 男百二十壱人女七拾八人
十四番組 小石川辺
一変死人 三拾九人 男廿五人女十四人
一怪我人 四拾五人 男廿三人女廿二人
十五番組 牛込麴町辺
一変死人 六拾三人 男廿六人女三十七人
一怪我人 九拾六人 男五十三人女四十三人
十六番組 本所三笠町辺
一変死人 三百八十四人男百六十四人女二百二十人
一怪我人 三百九十弐人男二百三十九人女百五十三人
十七番組 深川辺
一変死人 千百八拾六人男五百廿九人女六百六十二人
一怪我人 八百廿壱人男四百六十一人女三百六十人
十八番組 本所中之郷辺
一変死人 四百七拾四人男二百三十四人女二百四十人
一怪我人 五百九人 男二百八人女三百壱人
十九番組 渋谷目黒辺
一変死人怪我人一切無之
廿番組 高田雑司ケ谷辺
一変死人 五人 男三人女二人
一怪我人 拾人 男六人女四人
廿壱番組 阿部川町其外寺門前
一変死人 六拾五人 男 廿八人女三十七人
一怪我人 拾壱人 男六人女五人
品川門前地
一変死人 六人 男二人女四人
一怪我人 拾二人 男 六人女 六人
吉原町
一変死人 六百三十一人男百四人女五百廿七人
一怪我人 廿八人 不分
変死人惣高
四千三百三人内 男千七百四十九人女千五百五十四人
外拾二人 男女不分
怪我人惣高
二千七百八拾四人内男千四百九拾壱人女千二百九十五人
男不分女分廿八人
今般地震并出火ニ付変死人怪我人取調候処凡書上之通ニ御座
候、勿論本所深川辺始メ怪我等未タ取片付行届不申町々多分
ニ候得共、死人之儀も此上相増可申哉、且又怪我之儀は親類
縁者又ハ近者等江立廻（カ）り候其町内ニ不罷在者も有之、未調方
行届不申町々も御座候間、得と取調候ハゝ是又多分相増可申
哉奉存候、依之別紙書を以此段申上候 以上
卯十月
下ケ札本文拾二人之者浅草田町通り往還ニ而潰家下ニ相
成、其上出火ニ而死骸[爛|タダレ]候ニ付、男女并町々多分をも（ママ）相分
不申候
十月 市中取締
世話掛
名主
十月
（注、蝦夷地関係一件省略）
御目付江
覚
当月
浄観院様十七回御忌御取越御法事御執行之儀此度地震ニ而
御霊屋向等御破損所有之御差支ニ付、御正当来正月御執行被
仰出候事
十月十六日触ニ而候
（注、〔地震一件〕［20］［21‐2］［23］［25］と同文書につき省略）
十月
神田橋御門当番
中川修理太夫
御目付衆ゟ外見張取払候様被仰渡候処、御請ニは御橋内は持
場ニ候間異変等ハ御届致候得共、是迄之外張御番所御取払之
上ハ、此方ニ而異変之節構不申候間、公儀持ニ被成下候様奉
伺候
然ル処其後何之御沙汰も無之夫成ニ相成申候
十月十七日
伊勢守殿
御目付江
浜大手御門番当分被差止候間可被得其意候、尤御番所其外引
渡方等委細之儀は御目付鈴木四郎左衛門松平久之丞江可被談
候
右ニ付平日御門開閉等浜御殿奉行支配向之者共ニ為相心得、
大御所番等ハ〆切置、張番所江右支配向之内少々相詰勤番為
致、見廻り其外心附候様、浜御殿奉行江相達候間得其意可被
談、且又掃除等之義小普請方持ニ相成候、御成之節は御先手
勤番相立候積相心得、小普請奉行御先手江も申談候様可被致
候
十月十七日 無触御書付
同断 御書付
遠藤但馬守殿御渡
浜御殿奉行江
遠藤但馬守殿御渡
戸田隼人正
水野監物
浜大手御門番当分被差止候間被得其意、御番所其外引渡方等
委細之儀は御目付鈴木四郎左衛門松平久之丞江可被談候
十月
（注、〔地震一件〕［24］［26］［27］［28］［29］［39］［40］［41］〔撰要永久録〕［30］［36］［37］［66］と同文書につき省略）
十月廿二日触ニ而候
備前守殿
寺社奉行江
天台宗 東叡山 凌雲院
浄土宗 本所 回向院
古義真言 二本榎 西南院
同宗 白金 円満院
新義真言 浅草 大護院
済家宗 品川 東海寺
漕洞宗 貝塚 青松寺
黄檗宗 本所 羅漢寺
日蓮宗 下谷 宗延寺
同宗 浅草 慶印寺
西本願寺 築地輪番 与楽寺
東本願寺 浅草輪番 遠慶寺
時宗 日輪寺院代洞雲寺
此度地震ニ而世上死亡之者人民不少之趣被 聞召、天災とハ
乍申不便之儀被思召候、依之死亡之為有之以思召、右於寺院来
月二日施餓鬼会修行可被仰付旨被仰出候間得其意可申渡候、
尤為修行料銀十枚つゝ被下候間其段可被申渡候
町奉行江
同文言
右之通寺社奉行江相達候間、町中江も為心得可為達置候
御勘定奉行江
同文言近在江も可被達置候
右書付備前守渡之
十月廿二日
（注、〔撰要永久録〕［33］［35］と同文書につき省略）
仮宅場所
浅草東仲町 同所西仲町
同所花川戸町 同所山之宿町
同所聖天町 金竜山下瓦町
山谷町 今戸町 馬道町
浅草田原町壱丁目 同二丁目
麻布宮村町 同今井寺町
根津門前町 同宮永町
谷中天王寺表門前 同新茶屋町
谷中惣持院門前 音羽町七丁目
音羽町八丁目 同町九丁目
同 桜木町 鮫ケ橋谷町
市ケ谷谷町 赤坂田町五丁目
本所八郎兵衛屋敷 本所松井町壱丁目
本所入江町 同所陸尺屋敷
同時の鐘屋敷 同長岡町壱丁目
深川永代寺門前 同所仲町
同所山本町 同所東仲町
同常盤町二丁目 御船蔵前町
同佃町 同松本町
十月廿八日
大目付江
御目付
此度地震ニ付御役宅向潰又は破損及ひ建直し候分、追々御普
請候、修復可被仰付候ニ（ママ）も候処、当時品々御用途多之折柄建
物間数等実ニ無拠ケ所之外も可成丈坪数減之候様致勘弁、御
作事奉行小普請奉行江申談候様可被致候、且年限ニ而は御普
請御修復取調相伺候向も坪減致勘弁可被申聞候
右之通可被相触候
右書付伊勢守渡之
（注、〔地震一件〕［30］［31］と同文書につき省略）
十一月朔日
地震潰類焼等ニ付、此節御役人其外共所々江立退当時
住居之分左之通
麻布笄橋下やしき 堀田備中守
本郷丸山中やしき 阿部伊勢守
永田馬場中屋敷 内藤紀伊守
赤坂氷川台中屋敷 本多越中守
牛込若宮下やしき 遠藤但馬守
牛込修理太夫下やしき内 酒井右京亮
麻布一本松下やしき 南部美部（ママ）守
牛込末寺町下屋敷 酒井修理太夫
三味線堀下屋敷内 松平民部大輔
本郷御弓町中屋敷 松平右京亮
済松寺領丁戸塚村抱屋敷 松平和泉守
青山下やしき 青山因幡守
巣鴨御駕籠町下屋敷 松平豊前守
千駄ケ谷下やしき 伊東修理太夫
本芝壱丁目下屋敷 間部下総守
大塚下やしき 安藤長門守
木挽町築地中屋敷 永井遠江守
同氏但馬守当分之内西窪下屋敷 松平市正
目白台下やしき 小笠原信濃守
四ツ谷南寺町下屋敷 森川出羽守
染井下屋敷 建部内匠頭
四ツ谷南寺町下やしき 永井若狭守
木挽町裏築地中屋敷（頭注、木挽町裏築地中屋敷増山河内守） 内藤駿河守
牛込御細工町下屋敷 小出信濃守
麻布広尾下やしき 堀田鎮太郎
四ツ谷内藤宿下やしき 有馬備後守
千駄ケ谷下やしき 丹羽長門守
築地下屋鋪長屋 織田兵部少輔
土屋采女正屋敷同居 高家 戸田日向守
下大崎村下やしき 交代 松平兵部
染井下やしき 本郷丹後守
赤坂御門内 松平万太郎
下谷金杉抱やしき 蒔田数馬助
駒込冨士前染添やしき 佐藤金之丞
木挽町七丁目 堀伊豆守
本郷二ツ目三ツ目間拝領屋敷 溝口五左衛門
駿河台サイカチ坂下 村越豊之助
小石川大塚抱やしき 服部了之允
本所緑町二丁目御書院番
酒井肥前守組京極雄太郎同居
長屋主膳
下谷久保町生駒小路町野左近組
御徒生田専助地面内
辻元為春院
愛宕下薬洲小路
御小納戸小出助四郎方
畑中善良
牛込御門内御留守居町
稲留久兵衛同居
佐藤道安
小石川伊賀坂上御切手番頭
大岡作右衛門地面借地
佐藤清五郎
神田松下町代地服部了元拝領
屋敷借地
坂春庵
小日向御絵師狩野探竜方 狩野探園
十一月二日
（注、一件、地震に関係ないため省略）
酒井右京亮
居屋敷大破ニ付、同姓酒井修理太夫牛込末寺町下屋敷当分住
居差向候儀と本屋敷ニ而致取次候処差支ニ付、今日ゟ右住居
ニ而御用向使者等取次致し候
十一月朔日
（注、〔撰要永久録〕［39］［40］と同内容の所省略）
十一月五日
立花飛驒守
其方居屋敷中屋敷下屋敷共地震ニ而大破住居も難相成候ニ
付、此節御暇之義被相願、無余儀筋ニ付願之通御暇被下候
右今般於大和守宅書付渡之列座無之
但十六日出立也
同 六日
寺社奉行
安藤長門守
大塚吹上下屋敷ニ而役所相立候
同 七日
松平玄蕃頭
西丸下南角屋敷堀田備中守へ今日被引渡候
十一月八日
小笠原左衛門佐
其方居屋敷地震ニ而家作大破住居も難相成候ニ付、在所江御
暇之義被相願候、無余儀筋ニ付願之通御暇被下候
右今般於大和守宅申渡書付渡
但十五日出立也
同 十日
一十月二日之儘地震ニ而相休居候処、十一月十一日ゟ初而三
奉行評定所白洲御吟味有之候
（注、〔地震一件〕［33］［34］［35］と同文書につき省略）
伊勢守殿
大目付
御目付
江
此度地震ニ而居宅皆潰又は及類焼候面々、并半潰之分江も拝
借金被仰付、御家人末々軽キ者江は為御救同断御金被下候旨
先達而被仰出候処、半潰迄ニ無之候而も居宅惣躰及大破候向
は是又可為難儀と被思召、格別之訳を以拝借被仰付、高並半
減之拝借被仰付、御救金被下候者江は同様半減之御金被下候、
其外先達而被仰出候通相心得、委細之儀は御勘定奉行江可被
可被談候
右之通万石以下之面々江可相触候
十一月三日
（注、〔地震一件〕［36］［37］［38］と同文書、及「史料」第四巻、四九〇頁下六行～四九三頁上最終行までと同文の所省略）
此度之地震ニ付
線姫君様御本丸御逗留之儀、水戸殿被相願候通被仰出、御
逗留被成御座候処、御守殿向御修復之儀精々被申付ケ成御
住居出来ニ付、明後九日御帰殿ニ相成候而も差支無之候、
此段申達候様被申付候
十二月七日
（注、「史料」第四巻四九三頁下四行から四九四頁上最終行までと同文の所省略）
御救小屋場五ケ所 町会所
建札辻々江
今般地震出火ニ而野宿之窮民とも右場所々江御救小屋取建
候間、勝手次第掛り之者江申立、小屋入可相願者也
東叡山火除地
上野御門主様御救小屋
此度地震出火ニ而窮民共為御救、右場所江御小屋取建候間、
勝手次第小屋入可相願もの也
田村権右衛門
役所
五ケ所
一東叡山火除地
一浅草広小路
一深川海辺大工町
一同所八幡社内
一幸橋御門内
已上
右小屋入之者江施行ニ致候名前
浅草御小屋
浅草西仲町家持
一金三拾弐両二分 堺屋安右衛門
一菓子二百六十袋
同仲町伊右衛門地借
一薩摩芋拾五俵 花屋重助
本郷春木町三丁目
庄兵衛地借
一味噌拾樽 大三津新三郎
同町
一莚百枚 堺屋伝蔵
九日ゟ廿日迄出ス
浅草駒形町家持
一味噂汁三桶 内田甚右衛門
武州足立郡鳩ケ谷
在上青木村池上末
一蒸芋三桶 宗信寺
下谷六軒町喜兵衛地借
一手拭壱筋ツゝ五百六十人 与兵衛
浅草北馬道家持
一味噌十樽 佐野倉安兵衛
馬道新町忠蔵店
一薩摩芋拾俵 久兵衛
芝口壱丁目弥兵衛店
一梅干小桶入三十五 平芝屋平七
青物町六左衛門地借
一銭三百貫文 広島や久兵衛
浅草東仲町冨右衛門地借
一漉返し三百帖 大黒屋平兵衛
同田原町二丁目家持
一沢庵十樽 三河屋喜三郎
銭百貫文
〓米屋町作右衛門地借
一沢庵七 美濃屋勝二郎
猿屋町壱丁目正蔵地借
一髪結床 当時浅草寺地中
預り人 勝 （ママ）院地借喜太郎店
小屋入之者共壱万五千人前 平五郎
髪施し結ひ遣ス 大吉
元旅籠町壱丁目
一茶三百袋 家主 茂右衛門
御蔵米八幡別当
一神奈川白米廿五俵 大護院
味噌香物料
銭廿五貫文
浅草仲町斉兵衛地借
一干魚六拾枚 隅屋勇八
〃西仲町
一鱒二百本 家持源兵衛
〃田原町三丁目
一銭拾貫文 万屋松五郎
東仲町
一漉返し紙六百帖 家主共中
米沢町壱町目平兵衛店
一薩摩芋三拾俵 米屋正三郎
塩三俵
佐内町家持鶴松
一銭五百貫文 後見 吉右衛門
南茅場町源三郎地借
石橋弥兵衛尾州住宅ニ付
店支配人
一銭五百貫文 亀七
芝御山内
一半紙三百帖 徳良
浅草花川戸町
一醬油拾五樽 家持 卯兵衛
同所東仲町
家持 久右衛門
一菜漬十五樽 次郎兵衛
一銭七拾五貫文 四郎左衛門
忠助
浅草山之宿町
所持地面ニ仮宅罷在候
新吉原江戸町二丁目
家持佐野槌屋せい
後見源右衛門抱
一京焼鍋三百五十枚 黛
日本橋通壱丁目
家持
一油薬六百包 山崎屋伊右衛門
本町三丁目宗助地借
一三臓円二百五十箱 清兵衛
湯島天神門前町
与右衛門店
一塵紙千九百八十帖 恵比寿や吉五郎
本郷喜福寺門前
庄次郎店
一薩摩芋三俵 三四郎
漉返し八百枚
神田鍛冶町壱丁目
五郎兵衛地借
一干魚八百枚 太郎兵衛
一薩摩芋三拾俵 石崎源蔵
湯島三組町権兵衛店
一菜漬五樽 近江屋藤兵衛
幸橋御門外御小屋江施し
木挽町五丁目上納地
一壱人ニ付銭二百文 家持 徳五郎
宛
手拭壱筋
新両替町二丁目半次郎地借
一当百三拾貫文 瓦師 六右衛門
小銭二拾貫文
佐々木道太郎御代官所
下総国相馬郡布佐村
一沢庵二樽、楽久二樽 百姓 七郎兵衛
生姜壱樽、梅干三樽
深川木場材木仲買
拾九人惣代同所吉祥院門前
一銭七百五拾貫文 家主 仁兵衛
芝御山内
一半紙三百帖 徳良
桜田善右衛門町
一沢庵二樽 家主 源兵衛
芝口壱丁目弥兵衛地借
一梅干百樽 平芝屋 平七
本郷春木町庄兵衛地借
一味噌拾樽 大三津新三郎
青物町料理茶や
一銭三百貫文 讃岐屋久兵衛
佐内丁家持鶴吉
一〃五百貫文 後見 吉右衛門
米沢町壱丁目平右衛門店
一薩摩[芋|イモ]百五十俵 米渡世 正三郎
塩十五俵
浅草御蔵前八幡別当
一神奈川白米廿五俵 大護院
小銭廿五貫文
海辺大工町御小屋施
下総相馬郡布佐村
一沢庵二樽、生姜一樽 百姓 七郎兵衛
楽久漬一樽、梅干三樽
春木町三丁目
一味噌五樽 大三津新三郎
芝口壱丁目弥兵衛地借
一梅干百 平芝屋平七
青物町六右衛門地借
一銭三百貫文 讃岐屋久兵衛
深川木場材木角仲買
十九人惣代
同所吉祥院門前
一〃七百七拾貫文 家主 仁兵衛
深川木場町家持
一百三拾貫文 万屋和助
芝御山内
一半紙六百帖 徳良
南茅場町源三郎地借
尾州住宅石橋弥兵衛
一銭五百貫文 店支配人 亀七
浅草御蔵前
一神奈川米廿五俵 八幡別当 大護院
小銭廿五貫文
佐内町家持鶴吉
一五百貫文 後見 吉右衛門
山下御小屋施し
青物町六右衛門地借
一銭三百貫文 讃岐屋久兵衛
芝口壱丁目弥兵衛地借
一梅干百桶 平芝屋幸七
上野北大門町
一金五両ニ 雁なへ 万吉
芋十五俵
山下瀬川屋敷
一銭三十貫文 甘緑堂善兵衛
南茅場町源三郎地借
石橋弥兵衛尾州住宅付
一銭五百貫文 店支配人 亀七
本郷春木町庄兵衛地借
一味噌拾樽 大三津新三郎
米沢町壱丁目平兵衛店
一芋百五十俵 米屋五三郎
塩拾五俵
薬研堀埋立地仁右衛門
地借
一薬小半袋百五十袋 大津屋庄兵衛
深川木場材木角仲買
十九人惣代吉祥院門前
一七百五十貫文 家主 仁兵衛
深川八幡社内御小屋施し
深川木場町家持
一銭六拾貫文 万屋和助
新右衛門町理兵衛店
鉄次郎
（マ マ）一ちり紙三百帖 八丁堀北島町
漉返し三十六帖 一筆庵英寿事
与五郎
宮様御小屋施し
下谷町二丁目三次郎店
一薩摩芋拾俵 清右衛門
菜漬壱樽
一芋二俵 某より
山下瀬川屋敷伝兵衛地借
一銭廿貫文 甘泉堂善兵衛
上野北大門町定吉地借
一芋拾俵 雁なべ 万吉
金五両也
湯島壱町目
一手拭三百廿筋 沢の井九兵衛
銭三拾二貫文
薬研堀埋立地仁右衛門
地借
一喜撰ゑり葉 大津屋庄兵衛
三十二斤半
但壱竈へ小半斤つゝ
十一月
（注、〔撰要永久録〕［79］［85］～］107］［184］［185］［195］と同文書につき省略、但［107］のあとに、次の狂歌がある甘口で育てぬさとふ忠右衛門自然威のつく虎次郎也）
十月二日地震出火ニ付無改物売ニ致候一件
一十月二日大地震之後同四日大伝馬町壱丁目品川屋久助と申
者江戸絵図江焼失致し候場所を色差ニ致、百文ニ付六枚ニ
卸売致候処、殊之外売れ摺間ニ合不申候や、馬喰町三丁目
両国屋庄吉と申者壱枚半続キ大地震并出火場所と認候品売
出し候処、是又存外売れ、摺間ニ不合程之事ニ而、両人共壱
万枚程つゝ摺り候由、是ゟ出火場細見記抔と申半紙本又は
種々色々出板仕候処、追々売上も宜敷候間、大錦或ハ絵図
大津絵節其外数枚売々（ママ）致候ニ付、絵草紙御掛りゟ行事江申
来り、早々右板木摺溜共取上ケ可申旨被申付候ニ付、銘々
板元江右之趣申入候処、此節此品御取上ケ相成候上は□□（カスレ）
差支難義仕候ニ付、一同ニ而御慈悲願可仕と銘々申候ニ付、
三鉄丸（ママ）詰十月晦日渡世相休両人共板元へ参り、一同明十一
月朔日ニ四日市梅屋と申水茶屋迄御入来被下候様銘々申置
候
十一月朔日晴天、板元廿壱人打寄其節当行事ゟ歎願書差出
可申筈ニ取極メ
行事
蔦屋吉蔵
辻屋安兵衛
其文左之通り
口上書を以奉願上候
一板摺職之者共奉申上候、此度地震之後私共渡世之儀問屋様
方ニ而御仕事無之必至と難渋仕候ニ付、無拠御改無之候板
木彫刻仕候処一同奉恐入候、然ル処今般御取上ケニ相成候
義少茂難渋可申上様無之候得共、何分当時職業取続難候間、
暫時之間御宥免被下置候様ニ御掛様江御歎願被下、御憐愍
之御沙汰被下度、一同奉願上候 以上
板木摺職之者
卯十一月朔日 願人一同連印
地本問屋
御行事衆中様
十一月二日前書面、行事江可差出候処、一同及相談ニ候得共
□合不仕候ニ付書面差出不申候、板木売残り相添蔦吉江同日
差出申候ニ付、其時板木番数六拾九番也
同三日ゟ新物夥敷諸々ゟ売出し候ニ付小売ニ而も改印有之候
品ハ仕舞置、改無キ小売ニ而も改品斗釣置、余り増長致し候
ニ付、当行事ゟ同九日行事蔦屋吉蔵代金次郎糴丸鉄
人形町通町浅草下谷神田両国辺絵草紙小売や見世相廻ル
合行事辻屋安兵衛糴山田屋覚蔵両人ニ而
京橋向芝飯倉赤坂麴町四ツ谷都而山の手不残絵草紙屋小売
見世相廻ル
右は今日中ニ売々（ママ）致間敷旨連印を請取候様御掛りゟ申達有之
候ニ付、問屋壱人糶壱人ニ而売ニ致候者ゟ印形請取候書面左
之通り、尤半紙横綴下題左之通り
地震出火無改物之儀ニ付一同連印
一此節地震出火等之絵図又は大錦ニ種々戯候品数多有之売々（ママ）
致候趣ニ付、右之類釣売先ニ今日中早々取上ケ差出し可申
旨北御廻り方ゟ被仰渡候間、私共買置候分一切残り分無御
座、且以後決而釣売ハ勿論買入申間敷候、若向後壱枚たり
とも取扱候儀有之候ハゝ、何様御申立ニ相成候共一言之義
無御座候、依之為念一同印形仕置候 以上
卯十一月十日 絵草紙屋
売々致候者
連印
右之通り一同印形相調候 以上
夕方立帰り 蔦
五ツ時同断 辻
十一月十五日 古組仮組之者相招候廻文左之通り
一以廻状ヲ申上候、然は御掛り名主衆ゟ無改之絵類之儀ニ付、
各々方一同相招急度御談可申旨御申聞有之候間、依之明十
六日正五時通り三、寿と申水茶屋迄無延引自身御出可被成
候、不参ニ而は御用向差支候間、右御心得印形御持参御出
可被成候、此段御達申上候 以上
卯十一月十五日 地本問屋
行事
右之通り相達候明十六日寿ニ而連印致候文面左之通り
連印一札之事
一今般地震出火ニ付絵図或ハ半紙本錦絵等無改之品数板隠彫
致し、中ニは問屋名目之者も職人又は素人名前ニ致し、猥
ニ彫立候趣御聞込ニ相成以之外不取締之義ニ付、古組仮組
共一同申談前々ゟ無改之品取扱申間敷候事は勿論ニ候処、
若心得違之者兼而被仰渡定法等相背候儀ニ御座候ハゝ、其
節□外は不及申何様御調ニ相成候共一言之義無御座候、依
之為後証一同印形致置候 以上
十一月十七日
一右最初十一月朔日御察斗之節ハ六十九番之処、売買致間敷
連印致候上ニ而、五貫文之過料出し候得は相済候事と天上
をくゝり、追々出板致し、二百六十四両（ママ・番）ニ相成候ニ付、御
懸り御廻り方立腹致され五人手分致され、手先之者五六人
宛召連、神田辺下谷辺日本橋芝辺馬喰町浅草辺ニ而絵草紙
や九人御召捕、茅場町大番屋へ腰繩ニ而連行爰ニ一夜差置
也、手先三十人も参り候由頭分豆店之（ママ）外
十二月四日八ツ時過
北御廻り方
高部次郎左衛門
大八木四郎三郎
神田孫一郎
鈴木伝兵衛
新島鉄蔵
御召捕ニ相成候者左之通り
上野元黒門町家主
一地本問屋世話役 上州屋金蔵
高部様池端名主岡部氏迄同人呼
池之端仲町家主
一問屋仮組 越後屋鉄次郎
高部様右同断
前書金蔵儀高部様御糺之節私義当節暮し方難渋致し候ニ
付、無拠売々（ママ）仕候趣申上候処、高部様被申候ハ、其方兼而
被仰渡も乍相心得問屋世話役も致而乍居右様不埓事申候は
甚其方心得違と叱られ、初筆ニ相成候外八人之者ハ一同奉
恐入候と御答申上候故子細無之候
堀江六軒町家主
一地本問屋世話役 山本屋平吉
神田様鈴木様御両人ニ而当人を
葺屋町自身番江呼
芝三島町武兵衛店
一地本問屋 丸屋甚八
右町名主益田弥兵衛方ニ而大八木様
芝神明町清助店
一右同断 万屋吉兵衛
同所御同人様
通三丁目文右衛門店
一仮組問屋 遠州屋彦兵衛
大番屋ニ而新島様
神田鍛冶町壱丁目
一右同断 清水屋常次郎
名主小藤ニ而高部様
浅草並木町弥七店
一右同断 湊屋小兵衛
浅草広小路自身番ニ而神田様鈴木様
馬喰町弐丁目庄右衛門店
一地本問屋 西村屋与八
馬喰町一丁目自身番ニ而右御両人様
右之者此度地震出火之後、種々新板無改之品々出来仕、余
り増長致候ニ付、絵草紙掛名主并地本問屋行事蔦屋吉蔵・
辻屋安兵衛両家ニ而度々相制候得共、内々売々（ママ）致候ニ付、
右品御買様ニ相成、即日前書九人之者御召捕ニ相成、但十
二月四日斗（ママ）事也、一通り茅場町大番屋ニ而御立合御調ニ相
成同夜所々近辺之自身番江御預ケニ相成、同六日御掛名主
支配町々名主御廻り方江歎願書差上候、其文言左之通り
名主ゟ
御廻り方江歎願差上候書面
今般地震并出火ニ付、品々心付致無改之絵類彫刻致売々（ママ）候ニ
付、私共取調板木取上ケ取計方御内慮奉伺候分、是迄弐百六
十四番有之、右様無改之品地本問屋并仮組之者共猥ニ売買致
し増長致候間、行事共々厳敷取締方申談、行事共々仲ケ間一
同小売者等迄夫々取締方申談連判証文有之、以後仲ケ間一同
右躰不取締之義無之趣行事共ゟ仲ケ間一同小売者申立候、右
証文写相添私共ゟ御聞ニ入置候処、今般御買様之上、上野元
黒門町家主金蔵外八人之者共御召捕ニ相成無改之絵類取扱候
始末御尋請ケ、以私共ニ茂深恐入篤と取調候処、金蔵外八人
当人共義は兼而行事共ゟ厳重ニ申談も有之、既ニ証文調印致
置候義ニ付堅相慎、無改之絵類は此節人々買進し候品故、銘
々召仕之者共心得違仕、絵草紙糴売之者共ゟ買取、主人共江
内々見世ニ而隠買致候を御買様ニ相成候義ニ而、実々主人共
不存義ニ有之候得共、右様召仕之者共見世ニ而隠売仕候を不
心付罷在候段不取締之故之儀、此上吟味ニ相成候而は、当人
共は勿論、行事共ニおゐても重々奉恐入候、依之問屋仮組一
同之者共打寄、跡ニ取締方之儀猶厚申合、聢と規定取極メ金
蔵外八人之者共身分別紙之通御慈悲奉願候、右様跡々迄取締
相立候義ニ付、何卒此度之儀御憐愍之御沙汰被成下置候様、
私共も此段奉願上候 以上
上野元黒門町
家主 金蔵
外 八人
右支配町々 名主
絵草紙懸り名主共
卯十二月六日
歎願書 地本問屋
仮組問屋
一地本草紙問屋両組一同奉申上候、私共仲間之者共綿絵其外
新板物彫刻渡世仕来り、改懸り名主中之改印無之不正之品
猥ニ彫立隠売致候義堅致間敷処、今般地震出火等之絵図綿
絵無改之所数多取拵売々（ママ）致間敷旨申談有之候間、一同仲間
者共行事共方江連印差出其段申上置候処、上野元黒門町家
主金蔵外八人之者共右売々（ママ）致候ニ付、御買様之上一同当月
四日御召捕ニ相成驚入奉恐入候、右は兼而一同連判仕置候
間、金蔵外八人之者共義は一切取扱申間敷候、地震絵類ハ
此節人々買進し候品故銘々召仕之者共心得違仕、絵草紙糴
売之者ゟ買取主人共江内々見世ニ而隠売致候ヲ主人不存義
ニ有之候得共、右躰召仕之者共隠売仕候ヲ不心付罷在不取
締故之儀、此上吟味等ニ相成候而は、当人共は勿論、行事
共一同重々奉恐入□何卒格別御慈悲を以、金蔵外八人之
者身分御憐愍之御沙汰一同奉願上候 以上
地本問屋
同 仮組
前書金蔵外八人之者共御召捕ニ相成私共重々奉恐入候間、右
様銘々取締も相立、猶精々私共茂心付可申候間、何卒御憐愍
之御沙汰偏ニ奉願上候
石町家主
卯十二月六日 連印
五八組
連印
右之通歎願書差上絵草紙御懸り鈴木市左衛門様馬込勘解由様
外名主様方格別之御骨折ニ而歎願書差上候処、御廻り方御一
存ニも難相成事と相見へ、北御番所様江御伺ニ相成候処、数
板出来致ニ付、此分ニは難差置候得共、地本絵双紙懸り名主
其外右支配町々名主共并右町役人地本問屋仮組問屋一同相揃
以来取締方相立候趣歎願致候ニ付、此度之儀ハ用捨致し候間、
小売者共迄行届候様可致候条被仰付、一同大番屋ゟ同日夜六
ツ半時ニ当人共引取申候、誠ニ以前代未聞之事江戸中絵草紙
ニ相携候者壱人も心配不致者無之、別而当人共家内ニ而は神
仏を祈親類打寄、誠以気之毒千万之次第なり
其節落首
こわひ事冥途之旅の大番屋
売たお方は阿れごろうじろ
数多喰ふ鯰ニ九人当られる
板元仮宅へ遊ひニ行けれハ
泥水へおよきに行か鯰連
召捕ニ相成けれハ
味じの能き鯰か小手へかゝミつゝ
時刻も四ツニ入れるかや場町
絵草紙渡世之者一同無改之品売々（ママ）致間敷旨連印右書面
左之通り
地震出火等之儀を絵図或ハ錦絵ニ認メ無改之品数多彫立売々（ママ）
致候ニ付御察斗有之、板木摺留御取上ケ右錦絵売買御差留之
趣問屋行事ゟ私共壱人別厳敷御談御座候処、委細承知仕、以
来釣し売は勿論聊取扱申間敷旨連判差出置候処、其後不得止
事隠売致候者御座候ニ付、既ニ当月四日北御廻り方江御買様
ニ相成上野元黒門町上州屋金蔵始メ外八人御召捕之上御吟味
ニも可相成之処、仲間両組其外町役人迄一同驚入惣連判を以
種々御歎願奉願上候、以来右渡世之者不取締之廉聢と相願候
趣意取極メ申立候ハゝ、御慈悲之御沙汰にも可相成哉之旨被
仰渡候ニ付、向後地震出火等ニ不拘都而無改之品売買致し候
者有之候ハゝ、親疎之無差別銘々供吟味穿鑿致候様仕候ハゝ、
此上不取締之儀有之間敷旨申上、御懸名主中御執成を以、御
召捕之者御免ニ相成候、然ル処今以心得違之者有之、右品仕
[舞|マヒ]置尋参り候買人ニ寄内々売遣し候者も有之哉と風聞御座
候、以の外之儀ニ付猶今日私共一同江御念ヲ入御談御座候趣
篤と承知仕、私共隠売毛頭不仕、且近辺同渡世之者、若内々取
扱候義及聞候ハゝ、早速問屋行事江申立候様可仕候、万一此
上私共壱枚たりとも取扱候義相知、何様御申立ニ相成候共一
言之義無御座候、依之再応連判差出候処仍而如件
卯十二月十日 石町 絵草紙渡世
調印
右之通書付行事両人ニ而為読聞連印致し候 以上
其節壱人分茶代百文つゝ凡百四十五人余参り候
中ニは不参之者有之候風聞也
地本問屋行事
和泉屋市兵衛
蔦屋吉蔵
糴売渡世之者無改之品売々（ママ）致し候ニ付、一同連印書面
左之通り
此節地震出火ニ付絵図又ハ大錦之類無改之品数板出来、御掛
り衆ゟ御察斗有之、板本摺溜御取上ケ御調中、猶亦隠売致候
者、当月四日北御廻り方御様（ママ）シ買之上既ニ九人御召捕ニ相成
候処、御仲間一同町役人衆迄惣連印を以御歎願ニ付、御掛り
名主衆御執成被下候処、右渡世兼而被仰渡 （ママ）振近頃不取締ニ
相成候義聢と相改候廉際立此後不取締之儀無之様行事衆は勿
論、御仲間一同其外者迄正路ニ渡世相守候ハゝ、御宥免可被
成下御慈悲之御沙汰ニ付、依之惣連判書面差上御聞済ニ相成
候処、今以買人寄隠売致し候者御座候風聞御座候由、以の外之
義ニ而再応御仲間并ニ小売先一同連判を取、其筋江御差出ニ
相成候段、私共義は糴渡世之義別而心懸ケ、万一無改之品被
相頼候共一切取次売不仕、若内々ニ而彫刻致候者有之候ハゝ
其板元御行事へ無用捨早速申立候様無油断可仕、若等閑ニ致
し置候哉、取扱候義御聞取御糺ヲ請ケ候節は、糴渡世御差構
は勿論、何様御取斗被成候共一言之義無御座候、依之為後日
連印一札差上置候仍如件
十一月十日 絵草紙糴売渡世
一同連印
卯十一月二日ゟ絵草紙問屋行事江無改之
板木摺溜取上ケ候当十二月十三日迄
一惣番数 三百廿八番
絵図半紙本大錦其外 板本八拾七人
卯十二月十三日通三丁目寿と申水茶屋ニ而、絵草紙御掛り
名主馬込勘ケ由様益田弥兵衛様御両人、并地本問屋行事立
合板元当人家主同道ニ而被参候
一私共義今般地震出火ニ付種々思附致、無改之絵類彫刻売捌
候趣入御聴、板木摺溜共御取上ケ始末御糺受奉恐入候、此
節私共地震ニ付家作震潰又は及大破家族共怪我致し候者有
之難渋仕候折柄ニ付、地震之絵類彫刻売捌キ候ハゝ、差向
利潤ニも可相成と心得違仕、不宜義とハ存候得共、各々方
御改も不請右絵類之義ニ付而ハ兼而前々ゟ被仰渡ニ有之候
処、右躰猥ニ彫刻致売捌候段、無申披重々不埓之至奉恐入
候処、此度之義は各方格別之思召を以御手切ニ而御聞済被
成下摺溜御取上ケ板木削去以来、右躰無改之品急度取扱申
間敷旨被仰聞奉畏候、為後日仍而如件
十二月
安政二卯年十二月十三日十四日両日
寿ニ而板木削去
絵草紙懸り名主立合
右削り候板木凡四車も有之候、其内用立不申板木ハ此時打割
役ニ立板木ハ此時之行事へ取上ケ
目出度事済ニ相成候
卯十二月十四日 落着
押へても鯰の絵だけつかまらす
尻尾は絵懸り鹿島でハ頭を押へ
板元の名代を出す地震の絵
鯰之絵だけぬらくらと尻を出し
絵草紙屋鯰の味を今度知り
此頃の摺や鯰で飯を喰ひ
尻か出て鯰蛙とせりハ志やれ