[未校訂](四井屋久兵衛覚之事)
一八月廿日 雨天、未刻過より東風つよく暮方雨頻ニ降、
戌刻前東南風和らかに吹変り、暫時之内大西之烈風に
成る、此時数多之漁船風波のために乗沉めんとするも
有、又は波をすくふて櫓を押切やう〳〵磯に馳付とい
へとも、夜中なれは思ふまゝに成かたく、破船ニおよ
ふもあり、櫓をうしなひかいを折、様々難儀して命を
全ふ追々陸へ逃上る、其外浜辺に有之候納家大半吹崩
るゝ、町中の屋根ハ瓦を吹飛ハし、大木は吹倒るゝも
あり、川筋浜近き田畠ハ所ニ寄潮込入大混乱なる事と
も也、尤当夜両度におよひ地震有之由ニ候へとも、時
刻も知りかたく誰か聢と覚ゆるものなし、右之外大坂
ニてハ安治川橋落大小船々破船有之、是又騒動のよし
相聞へ候、同夜亥の刻頃より風次第に和らき後西風と
なりて鎮りぬ
関東大風雨之聞へ有之上、此辺右之天災ニて騒動にお
よひ候故にや、米相庭日々ニ高直、翌廿一日加賀米六
拾弐匁九分、正米引方ニハ四匁三分位、此外右ニ准し
抜群高直と相成候