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項目 内容
ID J0900580
西暦(綱文)
(グレゴリオ暦)
1707/10/28
和暦 宝永四年十月四日
綱文 宝永四年十月四日(一七〇七・一〇・二八)〔東海以西至九州〕
書名 〔大地震の大変記〕○高知県香美郡夜須町
本文
[未校訂]予が十五の年書へき日記一日暮一年繰終六十余年の星霜を
積る、有夜(ママ)の寝ざめに浮世の有様を考へ見るに、古きを本
とするといへり、折にふれ昔かたりを聞たる人有と思ひ、
七十六歳の春雪ふり物さびしき折柄、硯引よせ覚し事のあ
らましを記畢ぬ
明和五子正月吉日
独楽軒
安方斉
大地震の大変記
附たり浪の寄せ来る千石[穂|ホ]天より[当|アタ]ふる出家のたから
御[神詠|シンエイ]の上ミの[句|ク]計
附たりよみかけて置御心根を[下|シモ]で請たる正直の[頭|カウヘ]
弥陀の御願の四十八
附たり十方衆生やす〳〵と極楽へ行みちしるべ
寺物我物の独論
附たりかづをに聞住持の袋口相手になれと叩く灰吹
[時風|ハヤリ]病ハ邪気より起ル
附たり奉加の割方細末にして呑込した即座の妙楽
[雲空|コクウ]に登る[竜|リヤウ]の[勢|イキヲ]イ
附たり[黒衣|コクエ]にかわる出世の[非|ヒ]衣
駕籠の[御簾|ミス]もる六助が[俤|ヲモカケ]
附たり手つから下る五両の金請ていたゝく情の袂
東西〳〵
追付始り
一心だに誠の道に叶ひなばとのたまいし御詠歌正直の根本

一弥陀頼む人ハ両夜の月なれや雲はれねども西へ行也と
有、乞求て行極楽成へし
一〓に土陽香我美郡下田村の郷に公家氏といふ百姓有、其
名喜右衛門といふ、嫡子孫市といふて本家相続の人な
り、二男幼少より出家を望み、久枝村法釈坊の弟子と成、
後夜須村常住寺へ元禄の始より入院して此寺の住職
たり、名ハ頼秀といふ、生[得|トク]誠直の人也、檀中寺下の人
人昼夜咄に来る、□上の咄を聞や否何の遠慮なく是非を
分ツ事即座明白也
一宝永四年亥十月四日四ツ時過大地震半時計、天地も崩る
る計也、衆人顔を見合セ是ハ〳〵といふ計也、家ハ即時
つふれる様にゆり候故、皆々はだしにて外へかけいづる
に、杖を突か垣にてもおさへ取草なくてハ立事ならず、
予なとハ坪につくなみ大地へ両手をつかへ居候、其時寺
ハはやつふれる早つふれると申計也、尾祢を見れハ[簑|ミノ]を
さかさまにしてふるふがごとく、大ゆり[止|ヤミ]て後ぬいしも
との間こと〳〵くぬけ出見苦敷事たとへるに物なし、暫
して三十余丁隔たる浜より浪が入ぞと呼声里人呼続き、
千里の山奥まで纔時に呼伝へる、聞人遠近の考もなく我
先にと山上に逃去る。子ハなく〳〵親を呼親ハ子の行衛
を尋死するハ今となけきかなしむ有様、[焦|しやう]ねつ地[獄|こく]のく
るしみも是にはいかてまさるへし、ほとなく海より弐拾
余町浪入来る。否引事常にみちる所より三町余干潟と成
る。横浜沖に黒熊といふ[碞|イワ]有、三月三日、正月十五日の
干塩にも磯根見る事なきに、此時磯より沖干潟と成浦人
寄合不思議也と申あへりを後に聞、其時頼秀被仰候ハ岸
本常楽寺流れて[嘸|サソ]難儀可被致、我ハ見舞往くへし汝等か
よふにおそろしがり候てハ内へ入事不成、外に居候ても
不済、家来とも火の本能いたし小畠へ莚を敷、みかんの
枝に茶びんをつり茶なとわかし留守致へしと被仰聞、取
も取あへす常の装束にて否寺を被出西地へ渡り、山の麓
をつたひ岸本へ趣所、早一番の浪に岸本中民家ハ言に不
及常楽寺へも浪入、一浦不残山上に逃登り被居候を尋
合、扨々けしからぬ大変にて御座候、先以無恙御立退目
出度候、本尊如何被成候哉と尋申時、されば其儀取あへ
ず此所へ来ると被言ければ、さらハ本尊此所へ御供可仕
候、[鑰|ジヨウ]ハいつれの所に御座候哉と問、答て客殿の釘に懸
置家来源七御供仕候様に法印被仰けれハ、源七申様命有
ての奉公あり、勿躰なしと答ふ、其時頼秀被仰候ハ、汝
計ニあらす我も参ると源七召連寺の向の竹林より見渡せ
ば、一番の浪に王子の沖海のごとし、寺も座上五六寸計
浪湛たり、急源七鑰取来候へと被申ければ、[乳|チ]のあたり
へ立塩中へ渡り込鑰取来る、汝一偏に手柄成と[褒美|ホウビ]し
て、比沙門天の御戸を開衣に包山上にだき上たまふ、法
印喜悦限なし、頼秀も随喜の泪を流し畢ぬ。
一同日七ツ半頃又浪が入と浜より呼続声夥し、夜須の郷三
十余丁備後の下まで浪先来る、其中に戸井流水門の木道
具流寄る。拾取候もの後に寺へ売に来る。昔ハ今と違大
き成釘過分在之候
一手結横浜の間に知切村有、女童の[謡|ウタ]ふを聞けば手結と横
浜一ツならよかろ、間の知切レがなかよかろと[諷|ウタ]しか、
其時本村ハ浪に流川と成纔在所はづれの人家残、今東の
山上に民家多し、其頃まて横浜へ浪の打懸る岸今の町並
より一丈余高く草木生重り小山を見ることく成けるに、
川浪に浜崩れいまハ片なたれの浜也、大浪の時打越す故
其後に御公儀へ塩切を願御普請被仰付今の横堤也
一八幡宮の御旅ともいふ御[輿|コシ]やすめともいふ大松壱本有
今の御旅昔の社地、本廻り五尋計高さ五丈程、十方に枝たれ一町四
方に葉を敷て雨をも洩さぬ計なれハ笠松と名附たり、地
下の子とも常に此所に遊ふ、夏に至れば四国廻国なと夜
を明し日を暮すの景地也、浦の子とも木登り遊ふといふ
時ハ松の枝先より登り遊ふ、有年国主豊房公江戸より
御下国の砌、此松御覧可被遊御趣御立寄被遊甚御 愛被
遊、松に寄て御詠歌
来て見れは旅のつかれもおもほへてしはし心の休むか
さ松
とよみおかせ玉ふ。其後御上下の度毎に立寄せたまい、
名残を御惜み給ひし也、枝先砂中に入事を御いとひ被
遊、宝田林の[檜|ヒノキ]を伐らせ枝毎につか木を御立置被遊候
に、二番浪に松かくれ見へ不申、引塩に根の砂を引崩し
松ハ赤岡沖に流れ年久海中に有、魚夫引網のさまたけと
成難儀致由、其木朽捨りたるや沙汰不聞
一其後殿様登りの時、甲浦にて雨天晴間なく順風不宜数日
御滞船被遊御日和乞の御歌
君に今つかふる道のそれのミか民草思ふあわれをもし

御一首甲浦の明神様へ御誓願有、社人ほう幣を捧御神楽
をそふしたもふ、不思議成哉翌日は晴天順風にして一日
一夜の中大坂着被遊候事、今におゐて水主かん□其沙汰
致事也
一其後頼秀法印祐応に又段々と暇乞して立帰る道筋、暮に
及ひ物の色気見分ケかたき時分に帰寺被致、子とも等い
またそこに居候哉急寺内へ来候得と被仰聞、其身ハ[直|スク]に
座上に上り落重る[煤|スス]幾偏も掃のけ闇灯に火を入、常の所
に座し夕飯ハ如何と尋給ヘハ、台所より出来居申と答け
れハ出し申様に被仰、常の通りに食したもふ、子とも等ハ
いかにと被仰候へ共、私なとハ一日のおそろしき事にむ
ねつかへ食ハたべともなく候と答へけれハ、其時頼秀被
仰候ハ汝等ことくの臆病ものハまさかの時に用に不立、
大丈夫の人といふハケ様の時也、時変の時ハ[虚|ケヨ]実相顕と
被仰候、扨今帰る道にて田の畝に文箱流寄る有取帰候、
扨々夥敷財宝流寄事何を拾ふと勝手次第呵人なし、然共
皆人の惜むもの可取道なし、我此文箱何心なく取帰候、
塩にぬれ候間能水にて洗ひ〓へ持来へし、おふせにまか
せ開き見るに、元禄十六未年銀札通用被仰付其時の銀札
入也、其中に稲の千石穂壱つ有、是ハあち成物を拾ひた
る事かなと被仰候時、家来佐五右衛門答て是ハ目出(度)
事にて御座候、比沙門様御たすけ被成候故福を御あたへ
被成候と申、頼秀[実|ケニ]さも可有と被仰候、又壱つ紙に包た
る物有、開き見れは小キ火打也、是ハ合点の行ぬ事と被
仰候ヘハ、又左五右衛門是ハ日の出のかねと申給ひ候ヘ
ハ祝込メ申もの成と答ふ、然ハ二品とも不被拾候、急本
尊の前へ備へ打ならしをならし来候へと被仰候へとも、
跡のゆり直し間なく今時の大地震位子ともおち壱人も参
物なし、自身本尊へ持参被致候、其後間もなく福増と成
田畠銀米等集る事脇目の積りより百倍増家来弐人常に居
候、抑此僧入院以来年々山を切開大きなる地取をかまへ
寺建立被致、其後本堂前より南へ地取して造立被致、其
跡へ蔵を被建本尊阿ミた如来の再興有、[寄羅|キラ]を磨余寺に
ことなる事目(出)度く、五台山末寺五十余ケ寺の内の
福増也、享保六辛丑八月五日せんげ被致其跡檀中立会相改
申所即座手に入貸米百四石田地五十石程在之旨本寺へ指
出す、其外かし米四五拾石も可有歟、是ハ常ニ寺へ[懇意|コンイ]の心の施主多し、其中に千貫万〆(貫)の身上たる人も有、又今
日を送りかぬる人も有、持た上にも持たい物ハ金銀米銭、
今日の凡夫壱人も不好ハなし、是ハ皆我[欲|ヨク]の邪気より起
る信心成べし、しかれとも[化令|ケリヤウ]ハ誠を引の本、つい人目の
信心も能へん数染ぬれハ糸の心へ[藍|アイ]のしむことく成べし
恵心僧都の歌に
世を渡る橋と思ふて踏みしに誠の道に入そ嬉しき
渡辺の網か歌に
道ならぬ事な叶へそさりともと思ひたかへて我祈ると

よみ人しれず
さりともと祈る心も断ニ背ぬ道を神や請らん
右二首手の裏表意味ハいかゝ
ある仏者の歌
おけ登る麓の道ハ多けれと同し雲井の月を詠る
雨あられ雪や氷とへたつれと落れハ同し谷川の水
右二首上より見ると下より見ると同し心兎角一心の居
へ所也(後略)
出典 新収日本地震史料 第3巻 別巻
ページ 497
備考 本文欄に[未校訂]が付されているものは、史料集を高精度OCRで等でテキスト化した結果であり、研究者による校訂を経ていないテキストです。信頼性の低い史料や記述が含まれている場合があります。
都道府県 高知
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