地震史料集テキストデータベース

[未校訂]　さらに、嘉永七年一八五四
十一月四日、朝四ッ時少々前（午
前十時ころ）大地震があり、御本丸・二之丸御殿・大手
御門・三之丸御門・御鳥屋が大破し、島崎の武家屋敷七
軒、その他御長屋三軒が半潰し、赤沼村九軒、飯島村五
軒、中金子村一軒、下金子村四軒に薬師堂が潰れ、田部
村二軒、小川村六軒、文出村二軒が全潰した。半潰の家
がほとんどであった。さらに昼夜ともに時々余震があり、
家々では小屋を作り、家人は残らず野原や田圃に出てい
た。このため藩から本潰の家に米一俵半、半潰の家に二
斗拝借、ただし米一斗ずつ年賦で返納という貸し付けが
あった。同年十一月、赤沼村の「大地震ニ付大破書上帳控（5）」
によると、家つぶれ九軒、壁土が全部落ち、戸障子くだ
け柱軒が大破したもの一〇軒、戸障子がこわれ、壁土所々
落ちた家一六軒、大破ではないが所々いたんだ家一三軒
で、人や馬に怪我はなかったと、村役人から代官所へ届
けがでている。
　また、嘉永七年十月「表日記（6）」に、「十一月四日五ッ半
（午前七時）過ごろ大地震で、戸障子などがはずれ壁が
おちた。近村の民家にも潰家がでたが、御屋敷（大祝家）
は格別の被害がなく、「御朱印様」（朱印状）が無事であ
るかどうかを、さっそく御宮へ行って検分をされた。」と
あって、大祝の役所では真っ先に、朱印状を守護してい
る。この時の地震は「安政地震」と呼ばれ、マグニチュ
ード8・4で東海・東山・南海諸道、家屋倒壊範囲は伊
豆から伊勢に至る沿岸と、甲斐・信濃・近江・越前・加
賀に及び、津波は房総から土佐に至る沿岸をおそい各地
に大被害をおこし、地震は翌五日、七日とおこり被害は
一層大きなものとなった。
　このように見てくると、平坦部の
沖積地で地質が軟弱でスクモ層など
のある村々に被害がでている。
　なお、安政の大地震の時には、鰍
沢（山梨県鰍沢町）の高島藩の御用
御廻米問屋雨宮家の御米蔵も大
破した（7）。その他、安政二年一八五五
十月二
日、江戸に大地震がおこり、木挽町・
矢之倉・渋谷の高島藩の三江戸屋敷
が大破した（8）。さらに安政五年四月五
日には、理科年表によると、「信濃諏
訪、上諏訪にて三、四軒つぶれる」
とある。
地震災害に対する対策と見舞
なお、「高島城本
丸絵図面（9）」（一間
六分の割）に、図8のように本丸の
中央の中庭に、藩主のための[平家|ひらや]の
地震部屋（八畳敷）が設けられ、[溜|たま]
りがついている。近くには建物がな
く、地震に対してじゅうぶん用意し
た部屋を設けていたことがわかる。
　嘉永七年一八五四
十一月二十一日、赤
沼村の「大地震ニ付村定倹約帳（10）」
図8　高島城本丸の地震御座敷
「高島城本丸絵図面」（一間六分の割）（安間家文書）による。
巻末史料参照
に、
（1）　博奕、諸勝負事は一切しない、もし背く者があれ
ば三貫文の過料をとる。
（2）　酒平日は一切呑まない、もっとも婚礼の時は冷酒
三献、肴三種に限り、他の祝事愁嘆不幸に飲酒は一
切いけない、もし背く者があれば過料二貫文をとる。
（3）　衣類は綿布に限り、もっともかぴたん（メリヤス）
くらいはよい。
（4）　塔類は休むように。
（5）　正月餅飾りならびに小正月餅飾りは一臼限り、も
し背く者があれば過料一貫文をとる。
（6）　年祝は休むこと。
などとあって、地震の際によく被害を受ける赤沼村では
厳しい村定めをしている。
　地震災害に対して、どのような品物が見舞品としてや
りとりされているかなどを、嘉永七年十一月四日の一四
○石の藩士有賀家の「大地震ニ付御見舞帳（11）」でみると、大
地震について、藩から二〇両を無利足一五か年賦で借り
ている。そして、同僚の武士や出入りの町人などから、
飯・茶漬け・茶碗・徳利・酒一樽・牡丹餅・草履・土瓶・
煮しめ・とうふ・ねぎ・強飯・縄など、日常使用する用
具や食料品などを見舞品として受けとっている。他の一
般庶民の場合も同様であったと考えられる。