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[未校訂]八四四 島原眉山崩壊と津波の襲来 「草稿本」永青文庫蔵
狸翁覚書一寛政四子年正月十八九日頃より肥前国嶋原雲仙嶽燃る
事、平日ニ大に異也、二月ニ至候てハ炎弥増ニ熾に相成、
当地よりも火の影夥敷見へ、恐敷形勢也、閏二月ニ至り
てハ猶不止、三月朔日より地震強、当御国中も不怪事
ニ而、昼夜ニハ十五六度震ふ、又一時の中に五六度震ふ
事も有、日夜に替事なし、同月五日の午の刻頃、殊更
強く震る、棚の物も落、汲置処之水悉く溢流る、同日
酉・亥両度猶々強く、あさま成ル家宅ハ悉く倒崩る、
此時に至而雲仙嶽遠方より見る処、黒煙天をおほひ、
農・商等者女童を引連、熊本・高瀬・川尻辺に逃来る者
日々に多し、此砌、村井椿壽の門人の医師彼国に有、
椿壽に書を以て告ていはく、雲仙の怪異逐日夥敷、嶋
原城下人家惣て転倒、町・小路共に地裂而陥り、丘陵崩
て平地と成事数ケ所、たま〳〵残家居も人有家稀也、
悉災を避而四方へ散乱す、公子・貴族と云共船に乗、密
に他邦にかくる、只嶋原君君臣のミ纔ニ城を守護し給
ふと云々、又云、雲仙の側に普賢岳有り、古来より大
石有、其面幅五六間、長十八間余有由、然るに此頃震
動之内、此石自然ニ陥る、其深キ事七十間の碇縄を下す
に猶不及と云々、当国の中ニ而も所により地震の強弱有
之由、八代辺殊更強く震ひ候故、主（松井）水殿上下男女共ニ北
丸へ被移、当番の面々ハ大庭に仮屋を建て、是に宿直
す也、此砌嶋原へ被差出たる外聞の口上
申上口上之覚
嶋原雲仙嶽燃候様子并此間地震々動之様子、其外之儀
とも彼方之様子委敷承繕罷帰候様被仰付奉得其意、私
共三月四日之暁、弐町川口出帆仕、五日九時分嶋原へ
着仕、石垣町城嶋屋利吉方へ宿仕候而、御城下所々打廻
り承繕候趣、左ニ申上候
一正月十九日より雲仙普賢岳焼立申候而、夫より所々燃
上り、今以焼留り不申候、最早燃留り申候と奉存候
一当月朔日七時分、前山と申山燃立申候、御城下より麓
迄三丁程有之候、前山麓より四合目上東平一体ニ燃立、
御城下より之道法三丁程も有之候へ共、山登の道法ニ而
差渡ニ者間近く見へ申候、同朔日八半時分大地震、夫よ
り今ニ無絶間震動仕候、御当地之地震よりも格別強く、
不浄かめ等も残少くゆりすて申候
一御屋形并ニ御家中ハ何そ別条之儀無之由承及申候、町中
端々之小家等ハゆりくつし候も有之候を見及申候
一町内家蔵古く見へ申候ハかべ引割、瓦等落候様子見及
申候
一町在道筋之内少々引割、又ハ地形下り候所も有之様子
見及申候
一所々石垣等崩落申候、昨五日七時分浜辺御番所石垣崩
落候を見受申候
一家々ハ住居難成、又ハゆり崩され候者共可有御座や、
浜辺に苫吹破れ、板戸の壁等ニ而小屋懸仕、余計之人数
出居申候、其外ニも縦横ニ縄張等相見申候付、所之者へ
相尋申候処、急ニ浜辺ニ出浮候節之覚悟ニ而場所取仕置
候由咄也
一嶋原様御船と相見、開扇之御紋付茶巾立候船、御召小
早船ともニ拾壱艘、御城下湊につなき居申候、尤急ニ御
出船之御覚悟と承候
一右之外鰯網こときの船十艘余、右之茶巾を立、同様ニ繫
居申候
一御領分浦々漁船之由、数百艘紙はたを立、湊に懸居申
候、役船之御用意と相見申候、加子一人に米一升宛日々
ニ被渡下候由、右之加子大体惣人数三十人程も有之由
承及申候
一右之通御船之御用意等ハ御座候へ共、嶋原様御退被成
候様子者承及不申候
一若殿様・御姫様ハ此間脇方へ御退被成候由、風聞仕候
へ共、はきと相分不申候
一御家中之様子密々承繕候処、御女中ハ密々御退被成候
様子ニ御座候へ共、是又はきと相分不申候
一御隣国より船等被差越候様子者見及不申候へ共、天草
富岡よりハ少々船も参居候様子及聞申候
一彼湊に大船二艘繫居申候、御米を積居申候、定而御用意
と奉存候
一御家中之様子ハ委敷承繕も成兼候へ共、町内ハ極々不
如意之者迄家内一所に居申候へ共、身上大体之者ハ船
の手当も仕、家内之者并家財又ハ粮物等船積仕、浜辺ニ
船住居仕、又ハ御当地・天草其外思ひ〳〵に立退、亭
主〳〵迄家番仕居申候
一今日稼之難儀之者も都而手業を相止、渡世方難儀ニ御座
候付、御救米にても被下置候御様子ニ而、昨五日端町小
屋へ立寄居申候処、一前ニ付米一升宛渡候間、入物持参
ニ而町頭方へ参候様ニ触廻居申候
一地震鳴動之様子聞合申候処、彼方之時刻、此方之時刻
同前御座候
一彼地へ滞居候内不絶震動強く、彼方ニ而ハ空ともなく地
の底ともなく、とことなく鳴響仕候へ者、即時に大地震
御座候、小地震之時ハ鳴響無御座候
一正月・二月之内ハよな砂等降申候へ共、近頃ハ薄らき
申候由ニ御座候
一此節新焼立候前嶽、煙之中赤色立候得共、火色ニ而ハ無
之候、青黄赤のましりいろにて御座候、尤所に寄候而ハ
夜々煙の中ニ火色候由御座候
一作毛痛有無承申候処、只今迄ハ何そ相替候儀無之由承
申候
一前条申上候通、御城下町ハ山の麓ニ而御座候処、山中
所々フスボリふくめき申候付而者、足の下吹破り可申哉
と騒敷、心細キ事ニて、誠ニ彼地の様子哀至極之様子ニ
て、言語にハ難申尽御座候
一死人怪我人等者無御座候
一私共儀、昨五日早朝ニ灘中ニ而船底瓦板烈敷鳴申候付、
甚心遣仕、彼方へ着船之上、問合申候処、同時ニとの船
も瓦板鳴申候由、地震之響船底ニ答候と奉存候
右者嶋原雲仙嶽荒候様子、此間之地震其外之様子、嶋原渡
海仕承繕候様子、右之通御座候
寛政四年三月六日
弐町村
源七
甚之允
斯有所ニ四月朔日暮六前頃、雲仙嶽崩落而海中ニ入、肥
前・肥後の海辺大津波漲り起て、海辺之人家尽く没溺
す、肥前より御達ニ成候書付之写
朔日之暮頃、熊本より西に当て大雷の轟ことく暫
鳴動す、諸人天を仰き驚こと限なし、此日朝まて
雨、午時より晴天なり
一山崩而所々ニ大中小之山出来候
新山五十八高サ四十間より十間迄横七十間より十間迄
中山百十六高八間より三間迄長三十五間より廿間位迄
小山弐百四高四間より三間迄長十五間より十間迄
牧島三十高九間・横三十間余五十間迄、内五ツハ草木有
放小島百余高三間位長七十間より五間迄
山地吹崩候所入り一里程 吹崩候跡池数八十三ケ所
一あふせり谷に出候毒石平二間四方とも見ゆ、此近辺ニ
至り候鳥獣の類悉く死す
人死九千三百五十人 内三百廿人旅人
流家三千三百軒 但、寺社共
馬屋小屋千六百八十余軒
船数三百廿艘 内旅船九十艘
蔵数三百七十四
怪我人七百九人
新ニ出来候山・島共五百八
死牛馬四百九十疋
右者嶋原より御達前右之通之由、嶋原御用聞馬場助左
衛門書付之写也
一御国海辺死人・牛馬等惣高左之通
合 家数弐千弐百五拾弐軒
死人五千五百廿七人
牛馬百三十疋
外ニ溺死四十人程
右之内荒尾一手永
一上沖洲村 家四百五十五軒 死人四百三十三人
一清源寺村 家二百八十五軒 死人四百五人
一平原村 家三十九軒 死人三十六人
一塩屋村 溺死壱人
一長洲町 家七百六十六軒 死人五百四十三人
一腹赤村 溺死七人
一折地村 同弐人
合 家数千五百四十五軒
溺死千四百七十二人
馬死六十八疋
田畑荒地弐百六拾町五反
潮塘損所弐千六百三十五間
船数百三十七艘
外ニ西川安太夫家内育共十五人溺死
薮田齋嫡子参会溺死
堀部九右衛門右同三人溺死 古川小源太右同二人溺死
合志李碩右同五人 古庄常陸介右同五人
古庄松玄右同四人
長州浦御番野田伊兵衛右同四人 松尾伊太郎家来宮原傳吉母一人
永屋清右衛門家来荒木左助子二人 庵地一ケ所三人溺死
此分者召仕奉公人を除く右之通也
怪我人ハ長洲一村 及千人不遑記
一堀内作右衛門ハ此時高橋町奉行也、高橋ハ水溢れ逆流
して町内ニ漲といへ共別儀なし、此時同役長塩壽八よ
り堀内へ紙面写
御別書拝見仕候、頃夜之津波ニ而御近辺村々打崩、溺死
等有之、所々損申候由、扨々苦々敷儀絶言語申候、誠
古今未曽有之大変只々恐入申候、併御支配所御別儀無
之由、先ハ御安心可被成候、近辺も不怪事に而御座候、
然シ町方ハ少も無別条安心仕候、鍋・塩屋村より新浜・
沖洲上下不残打崩、漸名石之鳥居と古川小源太か蔵一
ツ残申候、死人ハ元より数不知、数百軒之家一軒も残
不申事故、人数ハ夥敷と相聞申候、生残たるハ三四十
も有之様子相聞申候、夫も大方怪我致居申候而、古川小
源太老母壱人存命、右者寸志御侍故不怪大家ニ而御座候、
同所小川春齋家内、当年四歳相成申候小児一人存命、
右小児存生不思議也、両足を柱にはさまれ其侭打流れ、
翌昼頃泣声聞申候付、流家を崩し見候処、右之通両足
挟まれなから存命故、扇崎村庄屋方へ連越申候而療治
仕候、則私方出入之医師療治仕候、沖洲上御番野田伊
兵衛家内八人之内、自身一人扇崎村へ流付、所々乍怪
我存命、沖洲真宗寺住持一人扇崎へ流付存命、其外不
残溺死、沖洲庄屋家内弐十三人之内、自身並ニ弟等共ニ
存命、清源寺浦西川尉太夫家内不残溺死、下人十人之
内両人存命、玉名郡ニ而一二を争大家、此節只一波に打
崩され而礎も残不申由、天命ニ而可有御座候へ共、扨々
墓なき事共御座候、堀部九右衛門家内之内、二男十二
歳かニ相成候由一人存命之由、右之外清源寺浦ハ別而烈
敷、死人夥敷由、長洲ハ少波弱相聞申候、併十ニ四ハ打
崩候由評判承申候、上御番所別条無之、御茶屋も別条
無之、松尾伊太郎も相替儀無之由承申候、併死人ハ夥
敷儀と相聞申候、已上
四月三日
長塩壽八
堀内左衛門様
嶋原候へ為御使者後藤太兵衛御使番出立、川尻ニ至出船
之儀厳命有といへとも、御船頭曽而不請合故ニ引返し、
筑後より陸地を廻津浪之後も雲仙のあれ、かはりなく、海上不穏ゆえなり彼方ニ至、御
城より六里程脇ニ山田と申処ニ而御使者相勤申候、御饗
応も有之、御吸物・御酒等給候内、幾度もゆりこぼし
候程の地震度々致候由、四月八日熊本帰着彼方之様子、後藤物語始末
一四月朔日之朝川尻より御迎船如例出船ニ付、貴賎拝見
夥しく、直ニ川口へ多く逍遥致之処此儀ニ逢、溺死段々
有之候由
一村山七太郎・糸川牛右衛門・杉某出漁ニ而高橋川口ニ出
居候処、村山ハ裸にて活命、杉ハ渚の大木に打懸られ
落命、糸川ハ行方不知、赤尾左助、松井殿同道ニ而荒所
の跡見物之処ニ、男女死骸の中たま〳〵糸川の死骸を
見、哀惜之情ニ不堪と云々、加三渕家士也々美も溺死
一嶋原領之人民恐怖の余り災を避而熊本へ逃来り、つな
みの後も山鳴海荒事未止故也、其頃、長六橋下河原ニ歌
舞妓・あやつり・相撲等見せ物芝居興行ありし小屋等、
未解して有し故、此内に被留置、一人前日米六合宛御
救被下候由、此外御領内も海辺之老若しるへ〳〵に便
りて悉く府中に出候由
一四日迄ニ政府ニ達する処之死人七千八百余人と云々
一三角定番大槻仁右衛門家宅従類共、只一波ニ没溺し、嫡
子何某如夢漂ひ居候内、肩に懸物あり、岸涯に打上ら
れて見れハ八歳の幼息也と云々
一友岡宇之允、大槻か婿也、大槻菩提所西岸寺なる故、
大槻方の死骸不残棺に納而友岡方ニかき来けれハ、妻女
是を見るに、父母兄弟の棺五ツ並たり、哀慟に不堪悶
絶すと云々
一白浜浦番加藤権助挙家無残潮に溺、漸自身一人助命と
云
一高橋川口にかゝり居候買船廿五反帆、浪に乗して町内
へ押上、橋の下迄流れ来り打詰ける故、外之通船を塞
くと云々
一御奉行松下久兵衛、津浪之在所〳〵出在見分有、且御
郡代其懸り々々出張して日々救米被渡下、残居所之人
民分散なき様に被示諭と云々
一藤本礼助三日ニ忍而嶋原ニ渡海、彼地之様子を見るに城
の上の眉嶽半崩れて、城下町ハ纔に鉄砲丁一町のミ残
る、城ハ赤門の石垣迄敗壊して本丸ハ存在ス、然共更
に人影を見す、海上一里計ハ今日に至迄湧て湯のこと
し、有馬城跡等崩て海と成、二三十尋の常海一里余之
内ニ大小之新島六十余有、松柏・葛蔓等或ハ横ニ生ひ逆
に生ひ、其新島よりも所々煙立、汀渚を見レハ死たる
魚鳥数不知と云々
一沼山津会所廻文ニ明俵三十二万俵代銭三十二貫目、但
一俵ニ付七銅宛、右之内拾三万弐千俵上益城、右ハ今度
古今無類之津波ニ而所々夥敷損所ニ付、錢塘手永潮留被
仰付候間、右之明俵早々錢塘会所へ可相払旨、尤此節
之儀者古今無之大変ニ付、何も加勢と存無滞可心得旨、
平太左衛門殿被仰渡候、右払込候上代銭被渡下旨、御
郡代より之達也
一飽田郡錢塘一手永の損所田方八百町、高ニシテ壱万八
千石余と云々
一此間ニ至、浦々より商買する所の海魚、或ハ人の爪、又
ハ髪毛等腸に交居候ニ付、是を食したるもの忽其毒に
当ル者多し、熊本中ニも数人吐逆の煩に逢ふ、田中柳宅
いはく、人の肉を喰たる魚、更に毒不可有、さつする
に普賢嶽の崩より出たる大石ニ触れたる魚鳥こと〳〵
く死と云、然時ハ毒石の気を得たる魚、害をなすか、
疑らくハ砒♠石ならん、暫海魚を食する事なかれと
云々、依之魚店に海魚なし、漁者業を失ふと云々
一三月晦日普賢嶽の峰より大キ成帆懸船三艘、空中を走
り下り海に入、諸人是を見て大に怪む、翌夕大津波也
一名石大明神之神体ハ扇崎村の砂中ニ埋御座候、夢想之
告け有之、所之百姓託する所を掘うかつに、果て仏体
並ニ銭三万五千文を得たりと云々
一八代より主水殿使者を以て握飯・香の物等船一艘ニ積
嶋原へ被送、四月三日之朝彼地ニ着、彼表之上下甚悦而
謝すと云々津波後三日食を絶居と云
一御国中塩値段、俄ニ高値ニ成、翌年より渡り塩値段増ニ
成
一天草郡の内、西北之海付十三ケ村亡所と成由
一同年七月十八日堀部九右衛門二男御中小姓被仰付、古
川・西川等跡目被仰付候
一海辺死骸夥敷事故、もより〳〵大成穴を拵埋候由、以
上四ケ所
一沖洲ハ上下共ニ清源寺之上ニ所替、塩屋村ハ鍋村之脇、
長洲ハ元之所ニ家立候也
一翌年二月迄も雲仙嶽焼而諸方ニ燃出、嶋原城下の井水乾
キ、正月末ニ筍多立申候由
一同年九月四日御拝借金三万両被蒙仰候
一翌年之春、右津波之節溺死之者共之為ニ大石塔御建被
仰付、其節埋候四ケ所ニ被建之、石面ニ平かなニ而なむあ
みたふつと記し、脇面ニ津浪ニ依而没溺之事を記被置候、
四月朔日右石塔の所々へ三ケ寺ニ被仰付、仏事執行厳
重ニ被仰付、御郡代拝有之候也、群参之諸民流涕して難
有事と申合候と也
此追善の法事の時、西光寺の坊主詠せし由
見し人ハあとかたもなき浦浪の
よる〳〵月や独りすむらん
つらきそよ月日計ハ立浪に
なかれてきえし人の世かたり
八四五 津波につき上納減免の願 「覚帳」永青文庫蔵
乍恐御内意奉願覚
飽田四手永海辺村々、今度大変ニ而潮塘筋数千間破損仕、
田畑打ほき打剝、其外潮塘一円ニ津波打越申候ニ付、潮泥
砂居込、溺死・流家等之儀ハ追々御見聞之通り、言語ニ絶
申候仕合ニ御座候、麦種子都而取損候付而ハ急飢之者共余
計之人数御救被仰付、御慈悲を以及餓死不申、重畳難有
仕合ニ奉存候、潮入高共何分相勤得不申候間、諸上納銀并
諸品払物・水夫役等、潮入村ニ掛り候儀ハ御免被仰付被下
候様奉願候処、御割賦之品其外共御郡中無類之村々より
加勢之申談仕、御難題之儀願上不申様、委御付札を以御
達之趣奉得其意候、御割賦之出銀・諸払物、其外御郡中
割合出銀・役人馬等之儀、潮入高を除、御郡中毛付高ニ割
賦之儀稜々相しらへ、私共打寄重畳申談候処、余計之稜々
ニ而潮入高ニ掛り候分、毛付高ニ割冠候儀、何分凌兼可申旨
当惑仕候、乍然潮入高之儀ハ田畑・居屋敷迄も潮下ニ相
成、麦種茂取損、夏作根付仕候而も生立有無茂難計、諸出
銀之儀何より産出可申目当も無御座、役人馬等も相勤不
申候儀ニ付、何分潮入高之儀ハ一切御免被仰付不被下候而
ハ、いか躰ニも取計難及、了簡当惑仕候、依之恐多難奉願
存候得共、御割賦之出銀等別紙書付前之稜々、何とそ来
五月迄御割賦御免被仰付被下候様奉願候、尤潮入高・毛
付高取分之儀ハ大変之村々願之趣ニ付、当時上地御内検
衆被差出しらへ方被仰付候付、右しらへ相済、高取分相
決候上、毛付高御達可申上候付、宜被仰付可被下候、且
又右之外、御郡中割合出銀・海辺塘筋御普請方抱夫給銀
等之出銀・諸役人馬等ハ潮入高を差省キ、御郡中毛付高
ニ割冠ニ相勤候様被仰付可被下候、則諸上納銀稜々并諸払
物別紙書付壱通、且又大変之水夫村根頭小前帳一冊相添
差上申候間、此段幾重ニも宜被成御参談可被下候、為其乍
恐覚書を以奉願候、已上
寛政四年七月
小山立助
永井宇賀次
右田金助
大賀仙助
河喜多 藤平殿
内藤平左衛門殿
御郡間
八四六 津波につき作馬代拝借銀の延納願 「覚帳」永青文庫蔵
乍恐奉願覚
一銭弐貫五百弐拾目
但、近津村、去子四月津波大変ニ而作馬弐拾七疋都
而溺死仕、其後一向相求得不申、高地難受持及難渋
候ニ付、今度作馬廿壱疋買求候代銭一疋ニ付百弐拾
目宛、乍恐拝領拝借奉願候分
内
壱貫弐百六拾目
乍恐被拝領被下候様奉願候分
壱貫弐百六拾目
乍恐来辰年より丑年迄、無利十ケ年賦返上納
ニて被為拝借被下候様奉願候分
「（朱筆）△」右者五町手永近津村之儀、畑畝数九町九反余・野開畑六
町六反余作廻、農隙ニ者漁稼を以御百姓可也ニ勤続居申
候所柄之由ニ御座候処、去ル子四月津波大変ニ而、惣人
数三百七拾壱人之内弐百六十三人溺死仕、生残候者共
百八人ニ相成、惣竃八拾五軒之内八十竃流失仕五竃相
成、有馬廿七疋都而溺死仕、全体及死亡候処ニ御影を以
生残候者共、及餓死不申候様取続居申候処、竃潰ニ相成
候もの共受持之地方、高主無之明高ニ相成候ニ付、村役
人共取計を以、生残候親類・縁者共へ割付申候ニ付、無
拠高地受持居申候処、何レも家内人数之内溺死仕、生
残候者迄ニ而者、自分〳〵受持之地高も作廻兼候仕合
ニ而、昼夜精力を尽シ稼申候得共、人数不相応之請持高
ニ而地方ニ溢レ、中々作廻シ応不申、本畑弐町三反余・
野開畑三町弐反余作荒ニ相成、右ニ懸候分之御年貢・諸
出米銀・諸公役銀并野開運上銀共ニ弁上納仕、零落之病
根ニ相成、年々御年貢及不足、村役人共種々手段を尽、
才覚上納仕、右之外諸上納銭等都而村方才覚を以上納
仕、内証者右躰返済方も一向償出来不仕、如何成行可申
哉と逼入居申候、委敷様子者別紙申上候通ニ而、誠以嘆
敷次第ニ御座候、右之仕合ニ付、只今迄之通ニ而押移申候
ハヽ、必定村方及亡所可申哉と奉恐入候、依之右作荒
分之地方、本畑・野開畑共ニ荒地被立下、年季受開明ニ
被仰付被下候ハヽ追々ニ開明、零落之病根を相除キ、
漸々と御百姓ニ成立可申哉と見込申候ニ付、去冬已来
追々村方江茂入込、委ク見分仕、働人成長之見込等を以
開明之積仕、壱人別差寄開明之儀、重畳申談候処、開
明之儀者子供も成長仕、漸々と働人も相増申儀ニ付、昼
夜を不限出精仕候ハヽ年限之通開明可申と奉存候得
共、津波已前迄者作馬廿七疋所持仕居候処、都而溺死仕、
其後何分相求得不申、当時ニ而者一向作馬所持仕候者無
御座、耕・肥シ共届兼、毛付分之作方も以前之通能熟
不仕、年々不毛上ニ而極々作徳乏敷、第一粮物不足仕、
及難儀候仕合ニ御座候処、右荒地追々と開明候而も、作
馬所持不仕候而者作毛生立不申、向々作廻届得申間敷と
奉存、当惑仕候段申出候趣無余儀様子ニ付、乍恐何レ之
御銀ニ而茂、作馬代銭弐貫五百廿目程被為拝領被下候様
奉願候処、御大切成ル高地、荒地ニ被立下候様奉願候
上、馬代銭拝領願之儀者不容易儀ニ而不都合之筋ニ付、右
願者差省キ、開明迄之仕法を付、御達申上候様被仰渡願
書御下ケ被成下、御委細被仰付候趣奉畏、乍憚御尤之
御儀奉存、右之趣村方へも委敷申付候処、何レも奉得
其意候、此上兎角可申上様無御座奉恐入候得共、右ニ申
上候通之仕合ニ而、何分作馬所持不仕候而者前ニも申上候
通、只今作廻シ候毛付分も、耕・肥共ニ届兼申候ニ付而者
追々開明候而も何分作毛生立悪敷、作廻届兼可申と奉
存、当惑仕候段嘆出申候ニ付、尚又精々僉議仕候処、右
作荒分荒地ニ被立下、年季受開明ニ被仰付被下候迄
ニ而者、何分向々御百姓ニ成立申候見込無御座、於私外ニ
仕法も付不申、甚行当申候仕合ニ御座候、併其侭ニ押移
候而者必定及死亡、逐年御難題ニ相成可申と千万奉恐入
候、依之再応奉願候儀、重畳恐多奉存候へ共、口ニ書上
申候作馬代銭弐貫五百廿目之内、壱貫弐百六十目者乍
恐被為拝領被下、残半高壱貫弐百六十目者来辰年より
丑年迄、無利十ケ年賦返上納を以被為拝借被下候様奉
願候、願通被仰付被下候ハヽ尚亦精々相糺、夫々配当
仕、作馬相求メさせ、追々迄御百姓ニ成立候様ニ取計申
度奉存候間、御格別之御参談被成下、幾重ニも御憐愍之
筋を以奉願候通被仰付可被下候、則拝領・拝借之小前
帳相添差上申候間、重畳宜敷被成御達可被下候、為其
再往覚書を以申上候、以上
寛政七年三月園田養介
内藤市之允殿
佐久間平太夫殿
御郡間
「（朱筆）△近津村作馬代僉議付札」本紙御郡代より相達被申候近津村之儀、已前者多人数
ニ而、農隙ニ者漁稼等を以可也ニ押移居候処、津波之節溺
死仕悉竈潰ニ相成、活残候者者三ケ一ニも至不申、作馬
も不残溺死仕候由ニ御座候、然処村役人共取計を以、及
死亡候もの共之地方を活残候者共へ割付受持せ候由、
不得止村役人共右之通取計為申儀ニ而者可有之候得共、
少人数ニ而地方ニ溢レ、如何躰ニも作廻シ得不申、本行之
畝数作荒ニ相成候由ニ而、右之地方者荒地ニ被立下、年季
受開明之仕法被仰付候様、左候ハヽ年限内ニハ人畜も
相増、地味等も仕直シ可申段、別紙を以願出申候、右
荒地一件之儀者、例之通御郡間限僉議仕及達申候、本紙
作馬代拝借之儀、委細書面之通ニ而無拠様子ニ相聞申候
間、別段を以願之通御本方より拝借被仰付度奉存候、
御郡横目杉野儀平次書付も相添申候、宜様被成御参談
可被下候、嶽村願之儀者、荒地一段之儀ニ付差出不申候、
以上
御郡間
此儀、願之通ニ者難叶、願高全ク来辰暮より十ケ年賦上
納を以拝借被仰付候条、可有其御達候、以上
六月廿五日 御勘定方御奉行中
御郡頭衆中
此儀、願之通ニ者難被叶、願高全ク来辰暮より十ケ年賦
上納を以拝借被仰付旨候条、御勘定所請方承合、切手
仕出受取候様ニ可有御申付候、以上
六月廿五日 御郡間
八四八 五町手永近津村災害復旧拝借銭の延納願
「覚帳」永青文庫蔵
乍恐奉願覚
一銭六貫九百四拾目
但、津波大変ニ付、為船作料去ル丑年より二十ケ年
賦を以、御銭八貫六百七拾五匁被為拝借置、四ケ
年返上納仕候、残分本行之銭高、乍恐当年より十
ケ年之間返上納御免被仰付置被下、来ル辰年より
二十ケ年賦返上納年延被仰付被下候様奉願候分
一同弐貫弐百六拾八匁
但、去ル辰ノ春、為作馬代銭拝領拝借奉願候処、
願之通ニ者難被為叶、同暮より十ケ年賦を以弐貫五
百弐拾目被為拝借置、一ケ年返上納仕候、残分本
行之銭高、乍恐当年より十ケ年之間返上納御免被
仰付置被下、来ル辰ノ年より十五ケ年賦返上納年
延被仰付被下候様奉願候分
右者五町手永近津村之儀、高八拾三石四斗余、田畝壱
畝・畑畝九町九反余・野開畑三町六反余請持居、農隙
ニ者漁稼を以御百姓無支勤続居申候所柄ニ而御座候処、
去ル子四月津波大変ニ而惣人数三百七拾壱人之内弐百
六拾三人溺死仕、生残候者共百八人ニ相成、惣竈八拾五
軒之内八拾竈流失仕五竈相残、有馬弐拾七疋都而溺死
仕、全体及亡所候処ニ、御影を以活残候者共及餓死不申
様取続居申候由之処、右村畑地之内、都而村之左右高山
片腹之地方ニて御座候処、竈潰ニ相成候者共請持之地
方、都而明高ニ相成候ニ付、活残候親類・縁者共江割付、
無拠高地請持せ申候処、根元三百七拾人余ニ而請持居申
候地方、百八人ニ相成候内働人三拾五人ニ相成、中々作
廻応不申、子ノ夏作以後、本地畑・野開畑共荒地ニ相成、
右分之御年貢・諸出米銀・諸公役・野開運上銀共弁上
納仕、漸卯夏迄小屋懸同前ニ取建候竈弐拾九軒之者共、
毛付分之御年貢茂都而村役人才覚を以上納仕、何分及不
足申候分者五町手永為御救立、去ル巳年より御米弐百
八拾石宛、十ケ年之間被為拝領候内を以拝領仕せ、子
暮より寅暮迄三ケ年之間ハ表向上納者立塞キ置候得
共、右拝領米之儀者寅ノ秋迄ニ年限明キ、右躰取計茂尽
果押移申候而ハ必定及亡所、村潰ニ相成申外無御座、至
而急迫之様子ニ付、先右作荒地分之儀荒地被立下、年限
開明ニ被仰付被下候ハヽ年々人数茂相増、子供茂成長仕、
及人力昼夜出精仕せ申候ハヽ年限之内ニ者、漸々と御百
姓成立可申哉と奉存候ニ付、先荒地立願之儀、私所替被
仰付、翌卯春奉願候処御役人衆被差出御見分之上、極
荒地ニ相成居申候分、本方畑弐町三反三畝余・野開畑三
町六畝余、地面相応開明年限御極方被仰付、荒地ニ被立
下、且又作馬代銭茂拝領拝借奉願候処、願之通ニ者難被
為叶、十ケ年賦を以御銭弐貫五百目余被為拝借被下、
御仁徳之程、兎角を難申上何れも難有奉存、此上者及人
力丈ケ出精仕、右年限之内開明、御百姓ニ成立候様勧農
之教諭を加、私儀者勿論手付役人共必多度差出、昼夜不
限出精仕せ申候得共、人数不相応之請持高ニて毛付分
之地方も手入・肥等届兼、弥増零落相募申候ニ付、入百
姓届候者茂御座候ハヽ荒地を請持せ、御百姓御仕立被
下候様奉願度、手永中段々承繕候へ共、近津村之儀、
深谷迫相之村立ニ而左右至而険阻、高山片腹之畑地ニ而住
馴候者ニ而無之候而ハ、農事之働茂成兼候程之所柄ニ御座
候得者、入百姓望之者茂無之、村人数茂急ニ相増可申様茂
無御座、尤活残候人数百八人ニ而御座候処、当時之人数
百弐拾六人ニ相成、拾八人相増申候得共、子供迄ニ而働
人急ニ相増不申、元来多人数之村方ニ而地方作足不申所
柄ニ御座候処、右之通、当時ニ而者地方ニ溢、御百姓共弥
農力相衰、亡所同前ニ相成、甚以及難渋居申候処、去ル
卯秋以来無類之凶作、就中畑作之儀者皆無同前之不作
当夏迄四ケ年打続、且又右村御百姓共何れ茂畑地之内
柑木を仕立、一廉之余産ニ相成、専御年貢・諸上納ニ相
立来候処、去々辰正月之厳寒ニ而悉枯失、夫而已ならす
去々夏非常之水害ニ而村中之谷川水溢一面ニ洗崩、倒家
等茂段々出来仕、其上左右之高山所々崩落、折角開明候
地方、大石落込候坪々茂多、一体上土洗流、畑園之石垣
等も所々及破損、又々余計之荒地出来仕、言語同断之
様態ニて荒地ニ被立下候即年より、右之通非常之天災迄
を受、当前〳〵より作食茂及不足候仕合ニ而、全体地方
之産物より御年貢上納相立不申、都而才覚上納仕候ニ付
而者其身〳〵ハ勿論、村役人共心根を尽、及力者才覚上
納仕候得共、中々皆納仕得不申、及不足候分者菜種子請
米を茂付渡申候得共、右者格別之品ニ付、応不申、米高
付渡候儀も難成、残分之儀者不得止事、私才覚を以、
年々表向ハ皆納仕せ申候得共、去暮ニ至り船造料并馬代
銭両条拝借返上納之儀、何分私才覚茂届兼、無拠乍恐
追々年延奉願候、右之次第ニ而追操滞分茂余計之儀ニ相
成、何れも及滅亡申より外無御座、村役人共及了簡不
申、進退差逼途方ニ暮候仕合ニ付、乍恐被為加御慈悲被
下候様必多度歎出申候次第、少茂相違無御座、当春以来
粮物茂一向所持不仕、一日過詫ニ而漸人命を繫キ居申候、
誠以御百姓共之艱難苦痛一々難尽申上、既当利境御算
用前御年貢上納之手当全体無之、是以無拠私より才覚
上納仕候より外無御座、於私奉当惑候仕合ニ御座候、畢
竟右村、津波大変之儀者外々見合茂無之、至而之大難ニ而
全其砌及亡所候得共、種々被為付御心被下、御影を以
飢命者遁居申候ニ付而ハ片時茂早、後来成立之仕法を付、
御達不申上候而者難叶、至而急迫之様子ニ相聞申候得共、
其砌五町会所之儀、色々繁雑之筋有之、其上津波村々
も多、彼是以先役も何分届兼、当前〳〵之補迄ニ而押移
候様子ニ相聞候ニ付而ハ、私所替之砌より段々被為付御
心被下、先作荒地分之儀、荒地ニ被立下年限開明被仰
付、且馬代銭等も被為拝借、旁被為付御心被下御影ニ而
村潰ニハ至り不申候ニ付、何とそ年限之内ニ者可也ニも成
立せ申度、専勧農之教諭を加、私儀者勿論手付役人共必
多度差越、種々心力を尽申儀ニ御座候処、前ニ申上候通、
格別之大変、其上初年より様々無類之天災打続、当前
〳〵粮物茂所持不仕、何分御百姓難取続及飢候仕合ニ付
而ハ、右村之儀者格別御囲籾粟をも拝領奉願、御影を以
取続、其外種々才覚を以漸是迄飢命を凌せ申候仕合
ニ而、全体労果農務之基を失候御百姓共内輪之難渋言語
同断之様子ニ而、誠以見ニ難忍哀至極之次第ニ付、追々御
内意申上候処、去々春以来数度御出在被成下、委細者御
見聞被成下候通ニ而、何分其侭ニ押移申候而ハ無程及村
潰申より外無御座、寔以奉恐入候仕合ニ御座候、右之通
ニ付而者不容易御儀ニ奉存候得共、乍恐別紙年限御免下
を茂奉願候通ニ御座候、依之千万恐多奉存候得共、追々
被為拝借置候船造料并作馬代銭拝借返上納分之儀者、乍
恐此節直ニ拝領捨ニも奉願度奉存候得共、何れ茂御格別
結構ニ被為仰付置候御儀ニ御座候得者、右躰御難題之儀
者何分難奉願奉存候間、本行ニ書上申候通、当暮より十
ケ年之間、上納御免被為仰付置被下、船造料返上納之
儀者来ル辰年より二十ケ年賦、作馬代之儀者右同年より
十五ケ年賦ニ年延被仰付被下候様、乍恐奉願候、如願被
仰付被下候ハヽ此上私右村江必多度付添居候程相心
得、昼夜農業出精仕せ、右年限之内ニハ人数茂相増、子
供茂成長仕、作り子・奉公人も抱込候仕法を付、且又右
願之通被仰付候上者入百姓等之取計茂出来可仕と奉存
候、其外種々手を尽、何れ之仕法を以茂年限之内ニ者御
百姓ニ成立候様出精仕せ度奉存候間、乍恐幾重ニも宜敷
被仰付可被下候、右躰願筋之儀、不容易儀者兼々被仰付
置候事ニ付、少ニ而茂御難題薄取計申度、種々尽工面候得
共、右之外如何躰ニも御百姓成立之見込無御座、先者急
迫之場ニ至申候間、不得止事奉願儀ニ御座候条、乍恐此
節被為付御心不被下候而者御百姓共散乱仕、無程及村潰
申より外無御座候、左様ニ成行候而者如何様ニ茂取治可申
筋も無御座、御大切至極之儀ニ奉存候、誠以此節御百姓
共身分極、於私茂同前之儀ニ而昼夜不安仕合奉存候、御
時節柄重畳奉恐入候得共、御格別之筋を以、願之通被
仰付可被下候、左御座候ハヽ於私此上弥以差はまり出
精仕、不依何事心を用万端出精仕せ、往々御難題ニ不相
成様、永久御百姓ニ成立候様出精仕せ度念願ニ奉存候
間、幾重ニ茂御憐愍之筋を以宜敷被仰付可被下候、為其
乍恐覚書を以申上候、以上
寛政十年八月
井上平八殿
園田養助
右之通願出、本行両条之拝借之儀者元来別而結構被仰付
置候事ニ付、尚年延・畳置等之儀者御達難仕御座候得共、
近津村難渋之次第者追々御内達仕候通ニ而、津波之砌莫
大之人数及死亡、一家全存活仕候者者無之程之事ニ而全
体気力涸瘴仕、其後作廻届兼、作荒之地方茂出来仕候付
而者年季請開明奉願置候処、一昨年之洪水ニ而開明置候
分も亦々荒蕪仕、弥以気力を失、只今分押移候ハヽ必
多物人気衰、村潰ニも至り可申哉、往々之処何分難及了
簡、精々詮議を尽し候上、別紙御免下奉願置候通御座
候間、右拝借両条之儀も格別之御参談を以御免下、年
限中畳置被仰付置被下、尤作馬代之儀、其年限明キ候
年より拾五ケ年賦被仰付被下候様、左無御座候而ハ御
免下被仰付候而茂、右躰返納之稜々多御座候而者成立之
仕法、見込之通取計申儀何分届兼申候、委細者別紙御免
下願書ニ右書を用置候通之儀御座候間、重畳於私奉願
候、尤御免下年限之儀も御惣庄屋より拾ケ年と願出候
得共、御達之趣も有之、五ケ年先御免下被仰付被下候
様奉願置候事ニ而、右拝借之儀茂同様被仰付被下度、此
段可然様被成御参談可被下候、以上
九月
御郡方御奉行衆中
井上平八
本紙拝借二稜年賦、去暮上納分も追々依願当暮迄被延
置たる事御座候、然処近津村之儀者津波之砌、及亡所候
所柄ニ而、今以無類難渋ニ付、当年より十ケ年之間上納
御免被仰付置、来辰ノ年より二十ケ年賦・十五ケ年賦
と両様被仰付置候様、右ニ付而者御免下年限之儀も十ケ
年と願出候得共、五ケ年先御免下被仰付候様、井上平
八より被相達置候ニ付、右拝借之儀も同様ニ被仰付度
趣、委細平八達之通候得ハ実ニ難渋之様子ニ相聞、御免
下之儀も五ケ年之間、平八達之通被仰付候由ニ付、書面
之趣も難被閣可有御座哉、右村ニおいてハ万端夫々仕
法付候様申談被成居候趣ニ付、外々見合ニも相成申間
敷、別段を以御郡代達之通、本行二稜、当年より五ケ
年之間上納御免可被仰付哉、左候ハヽ去暮上納分当暮
迄被延置候分者相究候通、当暮ニ至上納いたし、当年分
より来ル戌年迄御免被仰付、亥ノ年より下地究之通、
年賦ニシテ是迄上納残之年限ニ皆納いたし候様ニ御達可
被成哉、願之通ニハ難被叶儀ニ奉存候、尚御参談筋も可
有御座哉
御勘定頭