地震史料集テキストデータベース
[未校訂]弘化四丁未年大地震萬事覚書
一弘化四丁未三月廿四日暁四ツ時頃ゟ半節、其節早キものハ
祢、又ハ起居もの多ク候所、大地震ニ而、家内ニ居事叶不
申、村々人（カ）々（カ）庭ニ出申候、尤其節之荒候有様、坂下廓下手
前始戸障子折、又ハ壁上ぬりいたし候ハ不残落、又ハ家居
ふるひ又柱木折、尚鴨居等落、土蔵ハ壁ハ一同ゆり落又わ
れひひ付其儘置候義相成不申候、又ハ長屋等饋（潰カ）雪隠至迄饋
（潰カ）れふるひため等われ候義、八九十位之者へも不聞前代未聞
様合申合、尤其節荒しんとうらいちん山谷共一時斗止ミ不
申候、中ニも難渋人□（ムシ）手前居屋土蔵壁われ、雪隠ふるひ
長屋も少々損し申候、治右衛門家居板敷落ふるひ、当時難
出来、右同断市郎右衛門同断藤五郎長屋饋（ママ）、其外人々難義
いたし候、右ニ而北廓之内ハ格別之義無之候、又大地われ
候義、金右衛門庭抔ハゆりわれゟ泥ふき出、雪隠前泥流申
候、然共其わりひひ斗御座候、又手前雪隠ノ下ゟ南覚右衛
門屋敷辺迄ハ段の重（カ）候所われ口五六寸ニも相成、深さ突立
見候ヘハ、壱二尺も有申候
一中廓ニ而治右衛門仙次郎喜惣次、□（ムシ）ハ土蔵壁ゆり落こまい
斗相成□（ムシ）、喜惣次方ハ居店ら（カ）んま等も□（ムシ）落申候、又ハ
原廓ハ市郎右衛門□（ムシ）抔右同断、別而両人は□（ムシ）さ（カ）れ
る与見へ申候
□（ムシ）本人ゟ□（ムシ）家居土蔵長屋□（ムシ）大損シ難儀候
一押野村ハ格別大変ニ而、家居古土（カ）漸ゆり饋（潰）シ、長屋土蔵ハ
其儘四五丁も前江泥水ニ而押出し、又ゆり入申候、別而彦
蔵ハ居家土蔵ゆり流、自らハ家饋（ママ）候節、家下ニ相成、即死
いたし相見へ不申、漸泥中ゟ掘出し候抔と申義、即死之者
外壱人、其外あやまちいたし候者三四人御座候、依御届ケ
申上（カ）候処（カ）、御上様ゟ御物（カ）議（カ）、尤夫ゟ以前大庄屋山崎参十郎
殿御出張人足抔出申候
一花見村大荒居家口三拾軒ゆり饋（ママ）、住居不相成、家二三軒長
屋等ゆりたをれ申候
一堀之内之義覚右衛門家居始五六もゆり倒、別而喜ソ次と申
者家居ゆり饋（ママ）、親子三人即死いたし候、内両人ハ小供ニ
候、其外家居手入不致住居ノ家ハ十軒斗御座候ニ付、殊ニ勘
蔵家抔も板敷落候様子、并（カ）覚右衛門居家土蔵壁二ツ共裂（カ）落
一正科之義も右同断、当時住居ノ家ハ少々御座候、饋（ママ）家七
八軒半饋（ママ）十軒斗、死人弐人村ニ善光寺へ参候而、笹（カ）平ニ而
（ママ）宿饋候テ死候者弐人、外ニ怪我いたし候者同所ニ而弐人、
又居村ニ而家饋（ママ）半饋（ママ）、外よう壁落候者大半□（判断不能）等迄右同断
ニ而痛無之家居無之ニテ、長屋雪隠等右同断
一宮本之義も津（カ）□（ムシ）次始初家居土蔵長屋至迄饋（ママ）、当時其儘住居
家ハ稀ニ御座候、又神明宮ノ杉大木二本折、右杉神宮寺ノ
（カ）客殿くり共ニ相饋（ママ）申候と、其杉壱本ハ四両きりう（カ）りも御座
候、併大変ニ人ノ怪我ハ壱人も無御座候
一
（ママ）一曾根原閏田
一松崎村高橋矢原
□（ムシ）萩（カ）原村御宮下押出申候（カ）へ（カ）は（カ）、小□（ムシ）所ゆり割れ等多
し、家居等損し候由、尤右ゆり割れゟ水出多分押出候
右ノ内右村内外ニ格別之義無之□□、尚塩川原下押野上押
野ニ（カ）而（カ）も格別之義無之候
一林中村内多村十日市場村中ノ郷村右四ケ村ニハ格別之義無
之場所、尤（カ）土蔵壁ひび等并痛候所も有之、其外居家上の
□ （カ）等落□（ムシ）御座候
一池田町村之義も右同様併大家方ニハ居家壁上のり等落、上
蔵壁ひひ人、其外かわら落候様子
一北山村之義小条藤八郎強損し候、弥多分無事之家居少ク（カ）御
座候、尤（カ）段
（カ）一地震ニ而山二ツ割れ押出候、犀川東松代御〓 （ママ）村家居
軒人人（ママ）馬疋人
（ママ）人数右長屋雪隠共ニ不残
一何村
右三月廿四日夜五ツ過頃、地震ゆり出シ、 （ママ）頃迄ニ向犀
川押出突埋高サ （ママ）長サ弐拾四五丁程間突埋申候、右順候
場所続候（カ）三ケ所突埋申候、右廿四日夜五ツ時頃ゟ四月十三
日昼 （ママ）何頃迄突切り十三日 （ママ）頃迄ニ
右之節迄ニ水高居揚候順々ニ而、右十三日切候節迄ハ宇留
賀村牧（カ）郷会迄居上り申候
右同（カ）断（カ） 高橋土岐左衛門
一番組御代官様并御部屋様五人様、四月四日暁ゟ大日向村庄
屋六右衛門殿御止宿ニ而同十四日迄御逗留ニ而、十三日、
頃切（カ）レ（カ）候間、居上り候水嵩引水ニ相成候ニ付十四日池田町
村小条伴之助方御言（カ）文（カ）ニ而御引取被遊候
東側御領所下生（カ）坂村も、右御領所御代官様并御脇様御出張
被遊
当御役所江も当組御代官高橋土岐左衛門様御部屋様御出頭
高橋隆蔵様荒井左七右衛門様寄藤慎平様岩井浦右衛門様柳
野鈴五郎様右五人、四月三日申之刻御出立ニ而新田町村御
泊りニ而池田町村小山村懸り宇留賀村へ御越被成候
右大庄屋方廻状
此度犀川筑堰（カ）未不切申ニ付、為御見分□左之通
当組
御代官
高橋隆蔵殿
荒井佐七右衛門殿
寄藤慎平殿
岩井浦右衛門殿
柳野鈴五郎殿
右之通昨三日中ノ郷御出立ニて宇留賀村江御越候間、村々
役人中為御伺公（カ）可被罷出候、尤昨夜ハ新田町村ニ御泊りニ
而、池田町村小山村へ御懸ニ而御越被成候間、承知可被致
候 以上
四月四日 山崎参十郎
辰ノ刻 上原仁野右衛門
沼足村ゟ 池田町村迄
右村へ 庄屋
組（カ）頭
（カ）依之翌五日村々庄屋組村一同宇留賀村江御伺ニ罷越候所
追々地震折ゆり候付、山々崩候場所ゟ石土砂多分立風ニ吹
立候、殊古坂并東金之二山之□場所土砂石崩候、其上□
□と二山ニ所々もり口、四五尺位長何程ニも不知ト、山
内幾重ニも相見へ候ニ付、急御宿大日向村庄屋六右衛門方
江被仰付候、
右之意文右衛門御伺ニ参申候、古坂ニ而御代官様御伺申上
候、夫ゟ村宿之義、尚又福沢も安偖不相成ニ付、古坂ゟ川辺
ヲ下候処水末福沢御頼申人家付不申、夫ゟ武太夫方へ泊り
申候、折節村宿藤介（カ）参り被居候ニ付右村々へ猶又相尋申候
跡ハ、早先頃水つき候ニ付、村内人別ニ右上ノ山へ小屋懸い
たし居候所、又々水つき候より順ニ上へ登り候、尤荷物百
駄（カ）武太夫方江船ニ而送り、其跡ハ右小屋場（カ）運ひ候、只今ニ
而ハ村宿抔ハ家棟木も随分高キト相見へ候様ニ候と被申
付、村宿迄ハ下り不申候、尤質屋ニ而百駄（カ）之□判断不能（荷カ）物弐太夫方
送り候様子被申候、右ニ付致（カ）□帰（カ）村（カ）いたし大日向御宿立
寄度、大庄屋仁助（カ）殿ニ御渡候付御一所ニ而池田へ懸り、切
（カ）明へ夜□頃帰り候
尚又御再御触、御領江隣江候松代御領分村々之者、此度
之地震ニ而家饋（ママ）、又ハ水中ニ相成、夫喰茂無之飢およひ候
者江ハ露命為 喰物可被下御詮義ニ候間、当座之夫喰村方
ニ而取請、右躰之者有之ハ、取扱ひ可申候、尤村名人別名
前入用高、追而取調可申出候様被 仰出候間、此段承知い
たし早々可被申達候、以上
四月六日
辰ノ刻 山崎参十郎
池田町村ゟ 上原仁野右衛門
萩原村迄
右村へ
庄屋
組（カ）頭
中
（カ）追而刻付いたし、早々順達可被致御留村ゟ相返し可申候
御代官御逗留ニ相成居候ニ付、尚又御伺ニ被罷出候而可然
且又我等共も出役先ニ而御用筋も有之候へハ、明日大日向
村江可被罷越候、以上
山崎参十郎
七月八日 上原仁野右衛門
辰刻 青木□郷カ村迄
林中ゟ
右村へ
庄屋
組（カ）頭
中
（カ）一弐拾九軒 宮本
内十一軒 居宅
二軒 葉小屋
七軒 半潰
一三軒 青木
（一八軒本潰 加蔵新田
即死三人
けか弐人
牛馬四疋
一半潰八軒
中綱村
一本 潰二軒
海之口村
一六人 善常寺召（カ）使
（カ）一四拾七軒 切久保新田村
（内二十 本
二十七半
即死 女五（カ）人
一四十三軒 大塩村
土蔵十六
蔵屋壱ヶ所即死八人
水車壱ヶ所
屋敷存（カ）し六軒
堂壱軒□
判断不能一半潰六軒 切明新田
一本潰十七ヶ所
一半潰十 軒 新行新田村
一土蔵 三ヶ所
一死人 十人
一本潰二十九軒 二重村
一半潰二十九軒 六人即死
一土蔵十ヶ所 三建寺
一堂 壱ヶ所
（表紙）「大地震絵図前書一
大地震
信濃国犀川
廿日留ノ絵図前録（前略）
一此度水留り候事、四月二日ニ橋木ニ水先上り、三日御領内
舟場村迄水先見エ、四日舟場村ヲ越野平下迄水入に相成、
御上様にも御心配不浅から、誠ニ川辺村之村々、昼夜之地
震ニてやせおとろ江、又此上ニ水入ニも相成らハ、我か生
シ古きやうをも立ぬかんと心くるしき其中ニ、御出張様の
御厚情、誠以百姓一同慈悲ハ上からとハ此御事なりと、生
死を出ス心地なり、時に五日ニ相成、右水入場見届ケ可致
段被仰聞、寅蔵通船ニ乗り下り、新町迄川辺村々下絵図
ニ致し、御目ニ懸候処、新町より岩倉抜所聢与分り兼候段
申上ル、去ルニ依岩倉孫瀬抜込、土手高サ何程斗ニ候や、
見留可致段被 仰付、新橋勘右衛門宇留賀村庄屋久左衛門
同村寅蔵、右三人又々通船に乗下り、川辺村々再見致し、
上条村安養寺浦山ニ舟を付、岩倉山に罷越堤し土手ニ下
り、委ク見留水際より弐丁程之内ニ中高の平見致し、三丈
五尺水増シ候得ハ、水口ニ相成り候段、御代官様江申上
ル、四日六日夜より水少々岩之間ゟわき出ル数十二三ヶ所
合セテ此水車屋坂に等しく、元河原より水口迄三丁、是よ
り大石迄二丁半、石（ママ）之中壱町半一ノ土手水越候処ニ、壱町
余り水口弐拾間、此内久保ニ相成ル処十二三間、岩倉山の
方抜所ハ一ノ土手之方江押込、此場ハ横向に少シねぢりた
る形を、花倉山ノ方江土石わくれ上り候分ハ五丈余り、此
水口岩のかさね土山之辺り、流行水末迄見渡スかたちハ、
両龍の形と等しく、両川辺のわくれたる土の重ネ、浪の
こさし[虚空蔵|コクウソウ]堂北ノ方抜込、大松木之下ニ成し、何事やら
んと平一面に祓いの有様ハ雲のかたちを評したり、犀川筋
迄押出ス土砂向山迄押上る、其勢イ大留りに抜水やらん
と、支ル心地壱露もちらさす押留ル、又々虚空蔵山東ノ方
続キ抜うたひ、桜井家数三十軒抜行方無、山之中場少々津
ニ石かかりまくり、立たる土浪をかさり、家雲のかさなる
如ク、中ニ押はらみたる其風柄風に乗行、雲の勢岩倉孫瀬
ヲ中ニ取巻、左右ニ雲ヲかためたる其有様ハ、龍の雲をか
こいシに等しく、左ニ図ス、誠ニ天なる哉妙なる哉、此度
之一件十三日八ツ頃迄増水を、四月五日之下絵図ニ候、山
清寺人口より二三丁上より書始メ、此所迄水先もとわすか
たりも、誠に神の告ニ有十三日引水、此処迄水先付上り、
直ニ引けるハ前代為し少ナき、ありかたき御事なり
弘化四丁未年
四月日
信濃国安曇郡
宇留賀村役人
牛越寅蔵作書
弘化四未ノ年明れハ
嘉永と改ル
嘉永元戊申年
八月写之
渋田見
庄人
師岡姓