地震史料集テキストデータベース
[未校訂]第二項 弘化の地震
1 南郷村の記事
弘化四丁未年三月廿四日夜五ツ半時頃大地震にて当村にて
居家廿三軒潰れ土蔵物置其外廿六七軒も皆潰れ其上人も八
人許即死田子川下三才通り三拾間余堤なしに相成三月廿四日
の夜大地震にて犀川山中虚空蔵山と云ふ所犀川へ押出し水留
り四月十三日迄の日数廿日前日松代御役所にて数万の人足御
連れ御見分遂に十三日の夜五ツ時長沼赤沼一面の洪水と相成
当村騒立水門へ罷越し候へば神代村中尾村より水五六尺も高
く一度に熊取川水門の西にて拾五六間許一時に水門と共に押
破り田子川浅川も弐三所押破り忽に村方川崎中村入川一面の
水と相成其節拙宅台所迄水入り其節新蔵坊ひかへ堤迄綿畑不
残水入其の場所諸材木桶挽臼何と申すものも諸道具夥しく附
上三才村中程迄下駒沢村東方不残水入り信叟寺東迄一面此方
にも材木夥しく西条西薬師山押出し上駒沢村向にて浅川弐拾
間余も押切れ下駒沢村へ押出し誠に〳〵目もあてられぬ。此
の平一面に大海とも相成心地其跡片付旁潰れ又は小屋掛三十
日許は生きたる心地は更に無御座余り大変故一年残し置申居
我宅親類にても不残潰れ善光寺両家上今井赤沼石村黒川地潰
れ皆下に相成死人拾三人子供□人誠に〳〵に火のきえたる如
くにて我が宅は無難にて尤も居家物置土蔵は皆かしがり遂に
職人を頼み直し置き南郷村分東田方は浅川へ砂多分押出し川
床高く相成り田方は皆池に相成り致方も無御座故赤沼石村へ
談じ上浅川赤沼分石村南郷村三ケ村分不構砂附寄候場所三ケ
村にて掘上漸く田植等いたし其の年は秋取立は漸く八分位上
中の人誠に〳〵難渋の年越仕翌年も田方は又池に相成浅川原
へ長沼分下南郷村分堤へ三尺四方の樋を拵へども雨降り候節
は樋押明砂入いたし水門尻を掘仕候等いたし亥年三月廿四日
夜三登山吉村へ押出し吉村屋敷八拾間許砂の下に相成人数も
八九拾人も即死死人不相知皆土の下に相成目もあてられぬ有
様其砂を雨降り候へば皆熊取川へ押出し候故水門尻高く相成
普請は村方人懸にて前前致し候得共雨少々も降り候へば元の
如く高く相成三年は普請余り大変故向年のため一筆残し置候
間以来子々孫々心得のためなり
（内山茂樹氏の古文書に拠る）
2 石村の記事
弘化四年三月廿四日の大地震は今までにない強震と言われ
ている。随つて其の被害は実に大きかつた。北石村六十三軒
の内倒潰家屋は実に四十三軒、倒潰しなかつた家は二十軒と
いう惨状であつたという。其の時長秀院の七堂伽藍も殆ど倒
潰した。猶此の強震で髻山に大きな亀裂を生じたので其れが
何時麓の原池へ擦込むか知れない。そうなると一時に濁水が
押寄せて来るというので人心は戦戦兢兢としてしていた。村
人は殆ど北方の山の神高地へ避難小屋を造つて何日も居た。
此の地震で潰れた家は次の通りだという。
弥三右衛門（菊地耕三）、儀兵衛（飯田友治）、弥左衛門（矢
島信）、初右衛門（山田光次）、市右衛門（山田愛雄）、利右衛
門（須田保雄）、茂兵衛（山田伝治）、亀次郎（矢島清隆）、新兵
衛（矢島安之助）、平次郎（須田精司）、源兵衛（中山正司）、太
兵衛（須田一郎）、宇兵衛（須田隆治）、宇太吉（矢島仁）、兵右
衛門（須田長之助）、武兵衛（宮沢要）、定吉（宮沢栄一）、源右
衛門（宮沢道代）、幸次郎（春日武一郎）、勇五郎（矢島忠良）、
喜七（中山長治）、伝蔵（須田正登）、佐兵衛（小林栄太郎）、太
右衛門（池田渡）、磯五郎（小林磯五郎）、彦之丞（宮下高之）、
由蔵（宮下国司）、栄吉（小林国治）、与吉（小林佐市）、新次郎
（高橋和十郎）、里さ（高橋金左衛門）、善蔵（立谷市郎右衛門）、
弥左衛門（丸山久作）、兵蔵後家（小林梅吉）、与右衛門（矢島
直次郎）、仁右衛門（山田仁右衛門）、弥兵蔵（市川勝俊）、五
郎兵衛（市川良雄）、許右衛門（中沢為作）、讃岐女房（野黒義
徳）、良法尼（観音堂）、大日堂（大日堂）、十六世良雄（長秀
院）
此の地震で潰れない家は次の二十軒
徳左衛門（小林九市）、助左衛門（山田清実）、常右衛門（須
田長重）、藤右衛門（矢島広吉）、領右衛門（市川伊助）、久之
丞（杉村義夫）、久平（矢島金治）、紋右衛門後家（市川静夫）、
角右衛門（宮沢啓三）、長兵衛（矢島信太郎）、吉五郎（小林豊
吉）、栄次郎（小林栄治）、庄蔵（山下戍）、良慶（矢島豊治）、
彦太郎（野黒彦太郎）、太右衛門（矢島善作）、仙右衛門（小林
新之丞）、兵左衛門（市川栄治）、丑太郎（宮沢助三）、宗七（野
黒袈裟治）
注、六十三軒中現在の調べによると廃家十一軒他所へ移転
家が十軒ある。弘化四年丁未三月廿四日夜四ツ時
大地震家潰今般相改書記す
居宅〆五拾八軒、同断拾軒損じ、土蔵〆二軒、酒屋但し一
軒潰れ、郷蔵同断、物置〆八軒、灰置場〆三十軒、御高札
潰れ
長秀院潰れの覚
客殿、衆寮、鐘楼堂、門、物置、長屋、材木小屋、鎮守宮半
潰、観音堂、六地蔵、庫裏、〆拾壱軒、大日堂潰れ
神社の部
飯繩山本社始神主まで不残潰れ申候
粟野神社本社無事 前宮鳥居潰れ
今般地震潰れに付役 御上様御手当被下候事
一金弐分……長秀院
一金弐朱……神主
一金拾五両弐朱也。右金子村方江被下候に付配販賦普請多
分に付御拝借金拾五両願の通り被下候。但し此金五ケ年
に上納被仰付候。極難之者江壱人に付白米一升、銭百文
宛被下候
〆米五斗 〆銭五貫文 〆五拾人江配賦
弘化四年未四月廿八日
庄屋 徳左衛門 改
組頭 弥左衛門
同 長右衛門
百姓代 安右衛門