[未校訂]義道侍腹
君か為 をしからさりし命とハ
地震津浪に 出食ぬ人
安政元年寅中冬春のゆふへに四国北(地カ)及大地震始り翌卯中冬ニ
至まて昼夜止時なふして幾万人の愁ひ大方ならす山川海郷浦
市中一円たり鳴呼かなしひかな (ママ)歎へし哀むへし高府の下町
一度に崩れと川と□(ムシ)立火焰乃□□は親子兄弟夫婦子孫主従尊
卑の差別なく家に打たれ木に鋪かれ土蔵をかふり二階に其儘
逃行もの亦は火道を切られ叫ひくるしむ有様は八艱地獄に呵
責の有様たま〳〵のかれ生有も我身を夢とも現とも志らぬ迄
に□□(ムシ)夫をたつね子を尋ね□さねともなくこゑの山路に充
て哀と光陰の移り替も世の習ひ死に遅れた老若男女半死半生
の者ともは元の屋しきに杭を建柱となして苫を霰(ママ)雨露を凌も
凌ぬも喰事は更□(ムシ)あらされは御補の粥により少は□(ムシ)ゆる〳〵
と年も替れば卯のはるに門松たてす七五三引す死なれ□(ムシ)尊霊
へ念仏申斗るにかゝる大変に落ふれたる人気越表ん為絵本大
変記と題号して児童の機嫌直し町〳〵を繁昌のこと祈らむた
め人々の筆跡を求め白紙の残りたらん所へ百人首に事よせ狂
歌を加へとつと笑ふハ□子大国福のかみ[三|さん]旦那さんお気に佐
わるは御免そふ老三指百拝
[明畑|あきばた]の仮屋の□越もる霜に
[都万|つま]や子供の尻は冷つゝ
天地[転倒|てんだふ]
柿本一人者
ゆる迚も[起|おこ]してくれる人はなし
なか〳〵しよ越[独案|ひとりあん]じる
田子のこへいれて城下へ出て見れば
たゝ丸[焼|やけ]乃[灰|はい]は布りつゝ
[山辺商人|やまべのあきうど]
山合の太夫
やまも岩もくつれておつる大地震
はけしかれとは 祈らぬものを
潮江の河原に出しておく[荷物|にもつ]
大汐見れハ志ろじろと□□
鰯志[場家|しやこばの]村
恩をしてあみとられし浪に数〳〵の
見れは[拾|ひる]ふてあ満の命
[網引仲間|あみひきのなかま]
[貧家|ひんか]の[幸|さいわい]
和かい穂はほ梨多立□(ムシ)て良志かも騰万
地震に与幾とひと茂いふ奈理
くる以浪直りにけ梨といふうちも
むたひ[七度|なゝたび]ゆら怒よそなき
[浦辺|うらべ]小町
[久鋪振小屋出|ひさしぶりのこやで]
本の家に移りけれといふものの
己が身おもヘハ[寝|ね]られこそ勢年
[関泣|せきなき]
[妻|つま]や[子|こ]ら汐と火事に別れては
命有りやト又[泣|なく]もかな
非人
[満|みち]々りはらにハかゆの有ものを
いつも地震の汐ひくからた
[哀|あはれ]ともいふべきひとは[死|しに]うせて
身のほど志らぬ[破我|ばか]ぞ残れ里
[不孝之朝臣|ぬかふのあそん]
[無難|ぶなん]の[家持|やかもち]
[潮江|うしをえ]にワたせるはしの中[程|ほど]で
あかきを見れ[婆余|ばよ]ほど焼たり
[辺路宿|へんろやど]
[土佐|とさ]なだは辺路ふ道へ汐か来て
まづおとまりと志ばし[留|とど]めん
[其時|そのとき]は[死|しな]ぬ覚悟ニ己屋をたち
[踏|ふみ]あらしたる[麦|むぎ]をしぞおもふ
[瓦葺之難大臣|かわらぶきなんだいじん]
[孝行息子|かふ〳〵むすこ]
婦た[親|おや]を野に負ひ出して[介抱|かいほふ]す
我身ばかりに雪は[降|ふり]つゝ
高知[市人|いちんど]
[逃|にげ]わかれ[小高坂|こだかさ]山の[峯|ミね]におる
[汐干|しほひ]と[聞|きけ]ば[早帰|はやかえ]り[来|こ]む
[織延内侍|おりのべのないし]
思ふへは[今機織|いまはたお]りてなにか勢む
[綿|わた]は[高|たか]ふてあはんとぞおもふ
[棺屋安売|くわんやのやすうり]
ゆるからに[数|かず]人々の[死|しに]ぬれバ
安うりにして[逃|にげ]んとぞおもふ
[家中先生|かぢうのせんせい]
此[度|たび]は[負|おい]つかたひつ[提|さげ]さして
人におくれな逃よとぞいふ
庄屋[見識|のけんしき]
[源|みなもと]のきれて[流|なが]れぬいづみ[口|くち]
[苗代水|なわしろみづ]にこまるかといふ
焼跡小屋懸朝臣
春雨の降夜淋し佐万佐りけり
人魂も出りや幽霊も来[怒|ぬ]
浦辺朝臣
浦[家|か]屋の軒による浪よるならて
夢ならなくに人や流れん
汐こぬといふてもきかす逃たよと
たゝ子供等をづきて移れり
落♠自悟(カ)
高持大津内侍
心あてに逃しやにらむ[機|はた]屋にも
おり[捨|すて]て有志ら糸のくだ
坂上声々
あた呼ひになるとも志らす大汐と
麓の町へふれる高声
春道津良幾
山道は去年の地震に岩こけて
たちんもあわぬ物と成け里
貯之置風
誰もかも志る人そな支宝永の
汐のはなしニ記録出しつゝ
山路深籔
其わ来また大ゆ里と人毎に
虎の住居にすむよしもかな
卯の春季
冬の日は唯ゆりなから明ぬれと
春めきもせて家やめりつく
施行
白粥の釜をかけたる大手筋
取巻人を我鬼とそ思ふ
大震
わらはるも事はおもわす飛ひ出ん
人よりも我命をしけれ
ゆすらるゝ身を波おもハす近付仍
うたれて死る思そかなしき
盛乃仲間呂
汐こんとわめいて逃る人声に
家内残らす立出るかな
億病家主
かなしけれ焼る人ぞ木に敷れ
我身斗の事ニあら祢と
大屋乃戸口
ワが家は汐干しニ見ゆれとも
人の住居のなるよしもかな
葛島家持
年季奉公朝臣
弟来て焼たる跡を尋れ婆
只兄姉の骨ぞ残れる
強欲大臣兼輔
北風に棚曳火事の絶間より
逃出る人乃顔の黒さよ
高岡も町の家蔵さけにけり
其儘にしてたてすも有哉
前中納言政安
下地家持
床下に汐満来ればかれきすこ
鱧鰺もわくさより〳〵と
思ふえはまた此頃も恐ろしや
うしと見しよの大地震かな
一人寝後家
須崎浦人
我家は戸島の沖へ流されて
潮見えたりまた隠れたり
桂浜家持
浪のおと絶て干塩に成ぬれば
津浪恐れて山の間に〳〵
新宅家主
百鋪や古き軒端は崩れても
人の命の有そ目出たき