地震史料集テキストデータベース
[未校訂]（日記中に挾まれていた書状）
（嘉永七年十一月四日、五日）
尚々父上様へも変之様子なく皆々無事之由ニ而有之聞も格
別□被奉願候付、変事相認ニ付難解義も□間如
成□候、御安下可被下候
以幸便啓上仕候、以来益御安健可被成、御出勤奉賀上候、然
而去ル四日より広嶋大地震左之通、凡有懸申上候
霜月四日辰ノ刻ノ頃地震起り、此地震広嶋ニ而ハ近頃覚不申
位之強震ニ御座候処、直ニ相静り跡は相替義も無御座、翌五
日出勤仕居候処、申ノ刻大地震起り、兼而御承知之通御国は
格別之地震は無之処柄之様ニ存居ニ付、初之程ハ皆々居合居
申候処、追々震ハ強く相成、家内見廻し申候処、既ニ壁抔も
倒レ懸候様ニも相見、最早叶不申と存、皆々直ニ庭へ飛下り
暫く見合申候処、相静り申ニ付御用向に相済也六ツ時過御役
所引ケ帰懸り見受申候処、古家抔は段々損し相見、栗林上よ
り弐番目之御櫓チレ〳〵ニ相崩レ居申候、是等差向大損しケ
所ニ相見申候、夫ゟ帰宅仕、諸評承合を申し処六丁め辺ニ而
ハ国泰寺新開下も関殿別荘辺、少々地割レ中ニハ水吹出し人
家少ししすみ、又は座板かへり、右別荘大手物置等倒レ并畑
之損しハ多分之事ニ御座候、其外色々損し之義相聞へ申候得
共追々可申上と奉存候、然ル処、右震動いつかふニ居合不
申、少之震ひ不絶有之夜戌亥ノ刻又大地震弐度有之、最早上
ミ下モ共住居難出来、老人子供女人抔ハ藪へ這入、又は野へ
畳を敷屛風建具等ニ而囲ひ相凌、大分家ノ内ニ住居候者多
し、尤亭主分ハ火要心等も有之ニ付、大地震之度は（ママ）かけ出終
間ハ家内ニ住ミ人も中ニハ有之、私義も右同様内居申候へ
共、いつれも枕を付候様之義は無之、昼着之まゝ巨燵ニ居眠
り之位之事御座候、翌六日ニ至り候処震動今ニ静り不申、折
々ハ女人なとハをとろき之位之震も有之、此日も出勤仕、帰
り懸見受申処、町家は虚地無之付往来へ小屋懸等いたし相凌
き由、扨帰宅仕候処いつれも右同断、銘々小屋懸等之凌きい
たし、私共は昨夜同様本寝も不致、只地震をおそろしく相伝
ひ候処、少々震動ニ而此夜も明ケ、最早弥以地震相静候事と
存候、皆々平日之心ニ而私義も出勤仕、尤出懸堀江殿へ寄り
詰所ニ而相咄し候之内、凡巳ノ刻之頃又候大地震有之、此時
も皆々藪なとへかけ込凌候位之事ニ御座候、尤五日夕之分と
ハ震ハ短く相静り申候、人家土蔵抔も下地よりゆるみ居ニ付、
此分ニ而は諸方損しおゐ（ママ）に相成申候、扨此夜ハ度重り皆々極
々相をそれ、只様野宿構にお□□相成、本筋ともハ格別多
く、春先花見之仮茶之（ママ）ことくニ相見申候、同夜も勿論枕付不
申夜明し之処、格別之義も無之、今八日ニ相成申処震動追々
相静り、先ツ只今之処ニ而ハ地震居合申候右之趣御座候得
共、親類や其外熟懇中皆々相替義無御座候、藤田氏とも相替
義は無御座、尤堀江殿ニハ御居敷内段々損し有之、同方土蔵
も□所相損し候由ニ御座候、六丁め辺ハ差寄これと申程之損
しニは相見へ不申、右五日夕并昨七日昼大地震之分つのり候
時ハ途中も歩行出来不申、皆途中ハすくミ相凌き程之事御座
候
一只今聞懸り申上候通、斐土橋中ほとくぼミ之由相聞申候、
其外御城内は別而損し多く由御座候、見懸候処ニ而ハ八千
蔵并三之丸御蔵瓦すり木損しニ御座候、都而町家よりハ家
中土蔵等損し多く方々御座候
一諸々ニ而家倒レ候処も四五ケ所ハ相聞候得共、未タ聢と見
受不申付追々可申上と奉存候
一怪我人ニ而色々御座候由ニ御座候
一上方辺も大地震之由風聞御座候得共、如何御座候、此先ニ
而ハ専と評仕候
一右地震中神々ニ而祈禱有之候得共、漸く四日朝ゟ八日朝迄
ニ凡相静り申候、実以世中おそろしき事ニ御座候、当所ニ
而人掛□らしき処御座候故、大地震中より只今まても変事
積ミ申取沙汰いたし候得共、如何有御座候歟、先ツハ只今
まてハ差たる義無之
右要用迄ハ一々□□□申上候、尚追々細々可申上と奉存
候、別之申上□申上候□
十一月八日 保三郎
蔵太郎様
尚々御地も必々（ママ）大地震□専と風評仕候私も御□□御要
慎第一奉願候、藤田其外千蔵才兵衛へも其□□□宜申段通見
被下候 以上
別紙
本文小屋懸之内昼夜とも食事いたし候人も有之、地震は居合
申候得共、今晩之処ニ而ハ右小屋懸も別而相増し申候、扨先
刻より相聞候由ニ而ハ火事有之由風聞いたし、皆々門へ用水
扱（ママ、汲カ）置申候、実ニ此有様懸御目に申度、□様事たいそうニ相成
人掛此間やより虚ニ相成居候得共、何事も無之と見候時は実
ニ〳〵馬鹿〳〵敷事ニ御座候
別紙
書落申候、野住并船住居多く事ニ御座候船は壱艘も明キ無
御座候
一近所満井義にハ右小屋懸之内ニ而産有之、其外之御奥辺ニ
も同断有之由相聞申候