地震史料集テキストデータベース
[未校訂]二八 安政五年五月、地震被害者へ支給の救籾受取証文
差上申御請証文之事
私共村々、当二月廿六日暁大地震ニ而種々災害を請、夫食ニ
差支必至難渋仕候ニ付、御手当之義奉願上候処、一村限巨細
御見分御糺上、可也ニ取続候者并ニ三才以下小児之分等御
除、其余之者共江凶年手当囲籾之内を以、左之通御渡被下
置、一同難有奉請取候、然上は早々飢人共江割渡、追而小前
帳差上可申候仍而御請印形差上候 以上
午五月
人別弐百七拾八人
内八拾壱人 寺人別并村役人其外可成ニ取続候者三才
已下之分除之
残飢人別百九拾五人 平十郎・和右衛門・太右衛門除之
内
男五拾八人
此米五石八斗
但
日数五十日一日壱人ニ付
米弐合
女百三拾七人 六十才已上拾五才以下男之分
此米六石八斗五升
但
一日壱人ニ付
米壱合宛
〆米拾弐石六斗五升 茂住村
此籾弐拾五石三斗 但五合摺
（東茂住区共有文書）
三七 安政五年二月震災について牧村百姓某の見聞記
（表紙）
「安政五午年
一お志新のこと
二月廿五日」
（大地震）
一お志新んのこと
午年二月廿五日のよるの、八どき、上こくに、お志新ん、ゆ
りこわ志、内（家）をゆりこわ志、牛壱びき、内（家）にをされて、志（死）ぬ
なり、内のかないわ、六人わ、つぶれたなかで、ひをきや志（火を消し）
、
こわ以ことやりな、
でるとこわな志、これま、ど志ることぢやいな、をもう（思う）、う
ちに、とうに、くれて（とほうにくれて）、志あん志かねてをるとこい、とな
りの啓蔵様の、志（租父）さまが、かどい（外へ）、は志りでて（走り出て）、下の志う（衆）、
をるか、どを志や、で（出）んかと、よぼりなされる、そのおと
を、ちからと志て、つぶれたなかから、ゐざりでる、みれば
西漆山の、勘七わやけるなり、
となりの志さまわ、こい、こいと、いわれるなり、たのむ、
う（言て）たのむとゆて、となりの、かどで、み志ろをひき（莚を敷き）、は志ごを、
たを志、そのゆゐて（上で）、よをあか志、山をみれば、をの、むな
いたいら、いまふきい（へ）ぬけさがり、かわをとめ、おふち（大淵）にな
る、それをみてびくりいた志、村志う（村中）が、こびらい（へは）ぬげあが
り、村志う、正どく（諸道具）、くらのもの、くひけ（食糧）、かずきあげ、一日（一
日中）ひんなか、をりま志て、それから、わがやい（へ）、かや（え）り、そ
ろそろ、正どぐ、くひけもちかや（え）り、まだいろかと、をもひ
て、うちうちの、かないが、みを正ぞく、あ志ご志らいいた
して、廿日ばかり、よをあか志、まいひね（毎日）、かみほとけ、た
のみま志て、まだちいさい、志新ゆりはな志、をきに（大きに）、きが（気が動
こくし）をどになり、あ志ご志らい、ほどぬきて、をびを志て、三十
日あまりよをあか志
（牧区庇 昌家文書）
三八 安政五年五月 高原郷中震災被害木取調書上帳
（表紙）
「安政六未年五月
郡高原筋震災木取調理方書上帳」
吉城郡小島郷
谷村
字そんぼう谷
一槻根返木壱本
但
長七尺
目通七尺廻り
同 郡高原郷
東漆山村
一杉石打痛木弐本
但
長三間ゟ三間迄
目通弐尺廻ゟ九尺廻り迄
同 郡
吉ケ原村
自山除地
一槻石打痛木壱本
但
長弐間半
目通壱尺廻り
同所
一槻根返木壱本
但
長弐間半
目通七尺廻
同郡
牧村
字まぶ谷郷植木
一杉立枯木五本
但
長九尺ゟ弐間迄
目通七尺五寸廻りゟ四尺
廻り迄
字ごんずい谷郷植木
一杉石打痛木壱本
但
長三間
目通六尺廻り
同郡
割石村
字砂抜ケ
一杉根返木壱本
但
長弐間
目通三尺廻り
同郡
朝浦村
字井ノ下郷植木
一杉立枯木壱本
但
長九尺
目通六尺廻り
同郡
西漆山村
字一本栃
一杉根返木壱本
但
長八尺
目通八尺廻り
杉立枯・根返・石打痛木拾壱本
但
長弐間ゟ四間迄
目通弐尺廻りゟ九尺廻り
迄
槻根返・石打痛木三本
但
長六尺ゟ弐間半迄
目通六尺廻りゟ壱丈壱尺
迄
右は、吉城郡高原筋村々山内ニおいて、書面之木品震災ニ而
根返・立枯・石打痛等仕候ニ付、御公儀様御入用向被為在候
ハバ為御救之相当之御永を以、御買上ケ被仰付度奉願上候
以上
安政六未壱月
山方五ケ村惣代
大洞村 久次郎㊞
同断
中洞村 与七㊞
同断
宮之前村組頭 久左衛門㊞
同断
一之宿村名主 清左衛門㊞
高山
御役所
（県立図書館陣屋文書）
三九 安政五年高原郷震災被害取調表
安政5年高原郷震災難渋取調表
村名軒数数焼失皆潰半潰無難人口計男女惨死計男女其ノ他
跡津川223163171848722
佐古14590885038211
大多和6330351916
土4004281315
鹿間9027713536
割石160214925141吉ケ原1001422怪我1
ニツ屋20111367
東漆山120120916031
牧5140362115
西漆山281121501578374633寺1軒
杉山11326723834
横山140212864640
茂住3933332781451§3
中山191117984751
四〇 安政六年四月 高原郷中震災被害木取調請印帳
（表紙）
「安政六未年四月
吉城郡高原郷村々震災木取調請印帳」
私共村々、去午春地震之節、石打・立枯其外年暦を経候根返
木之木品、先達而中南方弐拾五ケ村江被仰付取調書上候二
付、此度御見分御座候処、左之通相違無御座、然ル上は挽板
二御伐出被仰付候歟、又は小白木二取立、右山方村江稼方被
仰付候共差支之筋無御座候、依之御請印形差上申候 以上
吉城郡
跡津川付
覚
字志そら
一杉根返六本
但
長四問ゟ八間目通り五尺ゟ九尺
字大洞
一伺三拾本
但
長弐間ゟ六間目通り壱尺ゟ六尺
字おりつき
一杉立枯弐拾六本
但
長四間ゟ五間目通り五尺ゟ八尺五寸
木四月十一日
山見大多和村
吉兵衛㊞
名主舟津町村
平次郎㊞
組頭
三右衛門㊞
百姓代
次郎助㊞
左古村
字宮之尾
一杉根返木弐拾六本
但
長三間ゟ五間迄
目通三尺ゟ七尺迄
楢之木
一同五拾九本
但
長三間ゟ五間迄
目通四尺ゟ八尺五寸
同所
一栗根返木壱本
但
長三間
目通九尺
（安政六）
未四月廿一日
兼帯山見
大多和村
吉兵衛㊞
名主
長蔵㊞
組頭
市助㊞
百姓代
利右衛門㊞
（県立図書館陳屋文書）
安政五年四月
一茂住銀山村山内増谷銅鉛山地震潰敷取明方願書
乍恐以書付奉願上候
吉城郡茂住村銀山茂住谷筋小字増谷銅鉛稼方奉願上候処、先
般御見分被成下之処、地震ニ而山崩敷内・居小屋共皆潰いた
し候得共、近々取明稼方仕度奉存候間、御運上永之儀は、被
仰付次第急度上納可仕候間、右之段以口上書奉願上候 以上
安政五午年四月
稼人
船津町村
東屋
文七㊞
同断
一之宿村
清左衛門㊞
高山町
屋貝文次右衛門㊞
高山
御役所
（大野郡朝日村新井家文書）
万延元年十二月
一四 安政地震北飛驒震災木を江戸深川材木商人の
買上記録
飛州震災木ニ而板子取立納板
御買上御聞済ニ相成候分
一黒部根返木百五拾七本
但
長五間ゟ弐間迄
目通り壱丈五尺ゟ五尺廻り迄
此取立
無節挽割板数五千弐百九拾七枚
但
長六尺五寸
巾壱尺五寸ゟ壱尺
厚五分ゟ九分
万延元年七月
六 広瀬旭荘先生記「日間瑣事備忘録」（日記）抄
七月二日（万延元）
寅牌蓐食。待微白而発。朝気冷凉。始覚秋爽。過原上数
丁。微下。一渓劃路。声如驟雨。渡橋。左傍山脚。右有
人家者三所。曰伏水。曰小井戸。曰船戸。秧田如帯。皆
引山泉。川則低干田。水涯峭壁。対時二十丈許。上戴喬
木。其梢猶未及田也。溝洫下注皆成瀑布。地勢微開。人家
数十名猪谷。有関。唯設一小門。左有監門宅。使主税
就焉。出富山吏所授過関券。券曰大坂伏見坊書家広瀬謙吉
及其徒高田主税・清水又五郎・剃髪知道。将之飛州。須許
過関也。監門手券問。医家乎。主税曰券書曰書家。復爰
疑。監門曰善。既出。主税曰彼不識字。唯為誤[而已|のみ]。余
曰盍疑剃髪也。隔川亦有人家。名西猪谷。両谷之間。
巨巌自水心突起不知数。衝波撃盪。忽白忽緑。而路益
々高。水益々早。左右山崩処。比昨日更甚。山皆欝葱。高
四・五十丁許。而自項至踵成条白者。即崩処也。一里之
間。崩処多則十四・五。小則七・八。或億万砕石畳畳相偎。
或地骨高厚数十丈者露出。小渓截路。下至其頂而成氷簾。
随処皆♠。而越中・飛驒分界処名千貫棧。崩処尤多。隔川
見瀑。皆長数十丈。而脚下亦有一瀑。蓋地震（安政五年二月地震）後新成者。予
曰。此地山水本不凡。然非纒地震。安能如此奇哉。驕夫
曰地震非唯添奇。亦為我輩善途矣。何則初途直臨水上。
趾外無余地。雖我輩慣過者。毎俯瞰惴然生悸。今趾外
見石。稍与水隔。足雖末安。然目既不駭也。隔川望過
西路者。朝陽照背。如不堰熱。東路則山陰冷凉。苦楽
逈絶。轎夫曰晩行則相反。凡行十四・五丁。又有関名（荒田口）横
山。飛驒吏人所守。連柵繚繞。頗厳於猪谷。然不呵誰。
知道先入門。与史語良久。呼曰入。乃入。皆傴僂過吏前。
知道睡（カ）吏所授過関券券曰大坂伏見坊儒人広瀬謙吉及其徒
三人。有事干高山。今日過関俟。知道曰飛驒国法。逆旅
不受無過関券者也。行数丁地名杉山。旧有藤橋。今則
既絶。越飛間以藤橋籠渡。為尤危険処。藤橋者横巨藤数条
作橋。践此掫揺動。如将絶焉。籠渡者横巨絚三条於空中。
縛其両端崖角。而以籠盛人。繫干絚面引之。距水数百
尋。水心石角如剣鋩。逆波衝折。電掣雷吼。行客無不目
眩神褫者。他邦人聞此。多停飛驒之遊。予在越中。人或
以此諫止。然此行幸板橋成。而二者廃矣。余既以為幸復
憾焉。又数丁。地名茂住。人家数十。憩一店。既出見華
屋。轎夫曰。此家富甲飛越。去年官以一歩銀三両二歩。
兌小判金一両。此家出小判四千両矣。恕山曰然則家貨不
下万乃矣路益危険。崩処益多。行里許。渡渓。万木蔽天。
盍寺跡也。有孤店。与川稍遠。一渓自東来。勢甚壮。過
店前。穿孔石間。唯見雲花翻舞。而不見水色者百間許。
而連川。一峰嶄絶。直自渓上起。路自峰左他山。盤旋
上四・五丁。右折既高於峰頂四・五十尋。而川自峰右趾来。
与渓廻峰三面。峰青渓白而川蔚藍。崩処万石崔巍。皆成堊色。
望如絵亦一奇観。過崩処数丁。路傍有石仏。地稍下稍平。
有村名牧。休店頭悪蠅螫人。甚於蚊虻。欧公謂。蠅無蚊
虻利嘴。実未必然也。隔川正見崩痕。自頂至麓如瀑布。
主翁曰前山我飛北、山中尤高者。曲折上則二・三里矣。四年
前地震時（安政五）。我家忽飛退一丈許。然幸不潰。時夜半也。若昼
間。則人皆出山渓間。死者当十倍焉。俗曰天道不殺人
信也。余問爾時何如其家人皆出。答曰唯疑天柱折。地維絶。
人物界無復唯類。耳目所視聴。唯念仏耳。震凡百余日。初
日尤甚。後稍減。余問翁ニ年。答曰猶少。余曰学我何如。
曰奴七十九也。春来風邪未痊。故未至前山頂。恕山笑曰。
翁健且容貌疑与先生伯仲。而長二十六歳。此地百歳以上
人必多。翁曰然。轎夫皆午睡。移晷而出。七・八町。渡橋。
地名漆（漆山）。路傍立木標。書距高山十里。本文即百年前県令長谷川氏所立行人
加為千。又十余丁。村名二谷（二ツ屋）。地勢稍下与川近。主税等浴
焉。又稍上三十丁許。村名無水（水無）。以地高不見川也。山皆峭
崚。青挿雲間。蠅蚋益多。払且行不得佇止。又数十丁。
地名吉原。山脚有平地数項。見♠痕而蕪。轎夫曰初有人
家。地震時為巨巌圧而壌人殲焉。入林中。巨木蔽空。路
陡下二・三丁。出干渓涯。有茶店。昨日来沿道遇。負槻
板者。槻邦名結耶木（けやき）。板長六尺七・八寸幅半焉。厚可四
寸。凡五・六十末畢。余曰必土民献東本願寺者。至此店
側見方裁槻材。土人曰初水涯長林一帯皆大木也。槻尤大以
十人手囲之。猶末周之。四十年来祭為神。近本願寺災。
人或謀斬而献之。然以神故憚焉。偶有未曾有之洪水。槻自
僵。我輩皆悦曰。神亦仰仏徳矣。主税不悦曰。此侫仏者
妄説也。轎夫請曰。前路太危。且歩。店以南又上。臨川崩
処尤多。踏石不踏土。一轎夫曰震地中某過焉。為石被
圧而死而甦。至今胸悸。瀑布無数。蓋震後新成者。其尤広尤
長者。則古来所有。曰鹿間。巌角高聳。水数派分飛。中間
有類床処。水随焉而復揚。皆十余丈。其前老樹支柯。密葉
如縫。深陰凄然。加以水気。満身起粟。有橋。橋下浪花
如雪。掬之冷干雪。行数丁。左見人家。上轎。路属山
腰。復臨川上。川広数丁。中有八・九嶼。頂巌如銕色。立
五・六丈。上戴青草。下拖白沙。修短広狭不一。而高相
若。轎夫曰旧一帯平岡。為洪水所堕成此状俟。下至平
地。人家夾川。左百余戸。右三倍焉。所謂船津駅也。両市
間有藤橋。近日代以靉靆橋。結構未畢。橋距水可二十
間。巨石破水而出。深而清。連楼枕岸而起者数十。亦消夏
佳境。黄昏投逆旅。今日行程七里。午未之交。地益高寒。
土人不識蚊。
安政五年十月
六〇 酒造高三分の一減石につき取締方申渡請書
申渡
当国之儀、例年国用之夫食四五分通りは美濃・越中之国ゟ買
入相続いたし候場所ニ候所、当年は右両国共地震・大風・出
水等有之田畑多分相損、其上夏中雨天勝、不時之冷気ニ而作
方不宜、旁米穀払底ニ付、領主ゟ津留等申付候向も有之由、
依而ハ万一国用之夫食不足いたし候而ハ不容易儀ニ付、当
冬造酒之儀、天保十三寅年相触置候通り三分一減石いたし候
は勿論之儀、右之外をも可成丈ケ相減可申候、若心得違過
造等致候もの於有之ハ、吟味之上急度可申付条、前書之
触書之趣堅可相守旨、造酒人共江可申渡、尤銘々造込高
来十二月上納節迄ニ届書差出可申候
右被仰渡候趣承知奉畏候、依之御請印形奉差上候 以
上
安政五午年十月
舟津町村
名主
平次郎㊞
高山
御役所
（船津区牛丸正信家文書）