[未校訂]安政二丁卯年十月二日の上剋、地震の為に横死せし人数多あ
る中に、其夜迄もきげんよく□□遊など持て遊び居たる小児
も圧れ死し、又□□□ゟ帰り来り明日も早ふ出て何々の用向
もなさんと親子妻兄弟にも語らひ酒なと飲て寝たる主人もう
たれ死し、又翌日ハ物見遊興の約束したるも死、又老たる親
の御勤も仕舞、夕飯も聟娘と俱ニたうへて、機嫌よく寝て間
もなく死したるもあり、死の縁無量にしてあるも、悪因縁な
れハ是非もなき事ながら、一日のかん病もせず薬一ふくあげ
もせず、御病気て有しなら遺言も遊ハされ親類縁者の事迄も
仰らるゝに違ひなし、我身に有からぬ事も又出聞申て置へき
に、かゝる非業の死をうけて心も残り給ふらん、死ぬ其時の
くるしみハどれ程にてありしそや、孝行とてハいさゝかもな
さるゝうへに、御苦労をかけ申せしハいくたびかと後海(悔)し
ても、ぜひもなく我身の悪しきに気がつきて、とも〳〵死な
んとせしを人々のとゝめて孝心を感心したるもあり、又何と
も思ハずに居る者もあるを、千に一ツ書て子孫のしめし心得
に残し置のみ
山
一主人の横死を見て殉死せし人
〻
一地震の時不実の働をしていとまの出し人
会
一地震の時物を盗みてしばられし人
山
一己ハ怪我をして主人を助けし人
善
一己ハ梁を受死て若君御兄弟を助け忠義の名を残したる婦
人
□
一娘の焼死するを見てすくさま井戸へ身をなけ死したる父
山
一気の違ひて死た人の名を二三人いひて昼夜たずねあるき
し人
〻
一石仏を背負ふて母と妻ハ居ぬか〳〵と尋ねあるく人
根
一顔も頭も大疵をうけて妹と両人破れし着物を来てあるく
人
谷
一寺の門内に何も敷物も無くしてだまつて居(坐)つている老婆
浅
一年老目もみへず貰てあるく女
〻
一小児を抱き四五才なる子の手を引もらひあるく人
下
一怪我をした夫を妻と弟と負ひりやう(療治)しに行し人
浅
一四五才なる子共両人又外に壱人もらひなれぬ様子にて居
りてたまつて居しもあり
一夫婦別をして国へ引込もあり
一取逃欠落をする人
一行方しれざる人
一恥もかまハず無心にあるく人
一居すりにあるく人
一小盗をする人
一地震を幸ひに借た金をふんで仕舞ふ気でしやう〳〵とし
て居る人
言
一誰とも知れず人に掘出されし人
金
一酔て家のつぶれたるも知らて掘たされて酔ひさめたる人
一女郎買に行て死したる人
藤
一 吉原へ行かんと山谷堀迄来りし時地震に而直ニ帰し人
貰
一囲者の家にて俱に死したる□(三カ)人
角
一三味線の浚に行て大勢死し後壱ケ月程立て野(や)ふの中より
一人出たる女
一出所に困り井の中へ五六人入て焼死せし人
一そだてたる娘の死したるを歎きて三十五日にふと出てか
へらず多分身をなげたらんと云乳母
幸
一二階から飛下りたる三人の内壱人即死たるもあり
大
一家のつふれる音を聞人の死ぬくるしき声を聞て
気をうしなひし人躰に何も負ハず疵もなし
下
一世の無常を歎し逃世の身と也回国に出し人
〻
一親兄弟夫に別れ剃髪して尼僧の弟子と成し婦人
一静なる所に庵をしつらへ横死の為念仏怠らす唱へ居る人
一家蔵も立派にこしらへ広ざしき茶座敷迄もさま〳〵手を
尽し庭石草庵の類も余所になき好事家といわれし人地震
類焼に合て皆々失ひ目の覚たる人
一沽挙状・貸証文・腰の物・櫛笄の類皆々類焼して惜む念
日々止さる人
田
一婚礼の道具を持行し男蕎麦やニ而地震に逢ひ三人死婚礼
先ニは何事もなきもあり
いくさ
一駕籠かき初て茶やへ泊りてうたれ息子両人死し
□
一地震さハぎを幸ひにして男の所へかけ出して行し娘
直聞
一浅草へ泊るへき所少しも近くして置へきと千住金子や江
泊り逃出し其夜直ニ杉戸宿へ帰りたる盲人手引両人
家
一あんまハ動かす居て助り主人ハ大小を取ニ行て打れ大怪
我をなされしと云
なた万
一外へ逃出し軒にうたれ死したる女両人
地□□
一土蔵の壁にうたれ死しせし人
向
一寝間へ大金を置寝る時内ゟ錠をおろせしと明る事出来ず
して死す
本
一火の中なる座敷ニ残り居て蒸焼になりからだ中火ぶくれ
になり十五日目に死す
佐
一病人の伯母を負ふてうろたへ池へ落入五日立て死ス
川
一外へ逃んとして井戸へ落る死女
一行
一地震のさわきを知らず朝迄寝て居たる子僧
小梅
一完示(ママ)ゆかすして布団を冠り死せし老人
梅
一驚き気ぬけもし好類酒ものめなくなりし人
善
一主の為に死スハ此時そと覚悟しころび〳〵廊下を行まさ
かりにて槻の戸を打破り奥様其外大勢助けし人
〻
一死て二時半程立し女子を掘出して気附の灸をして手を尽
せ共届かず皆々当惑せし所へ近辺の武家来りとてもなき
命あらハ我カツを入て見へしと一心をこめて二度入しが
きかず三度目に猶々こめて入れしに息を吹かへしけれハ
皆々落涙して喜び其人を神の如く尊敬しとかと
一挾まれし娘を父の出さんとせしに火のさかんに来りける
ゆへ我を捨置てとゝ様ハ早く逃るべしとしきりにいふゆ
へぜひなく五六間跡へしさりけるに手頃の丸太を見て娘
をじり〳〵火にて焼ころすより此丸太にて一思ひに親の
手に掛打ころすべしと立よりけるに火の粉と煙目をふさ
ぎ見る事もならざるゆへ一心に成て打たるに娘はころり
とぬけ出たれバ死骸を抱き火の中をはしりみれバ娘は存
命にてありけるゆへ天地になき喜びをなし大音にて唱名
を申伴ひ親類の家へ立退信心深く相成たりと
一梁に片足挾まれし娘の足を切ても助け出さんとうろたへ
挾れぬ方の足を切しに其儘くたりと成ける所へ火の来り
けれバ羽織を頭へうちかけ父外両人は逃けりと也
水を乞ひけるゆへ右の羽織へどぶの水をしめして呑せたるとや
両人は当家の人足ニ而役ニたつ人也
柳
一はさまれし娘の首を持て引出さんとして首の筋を引切死
伏見
一片足こがしてよふ〳〵土手まで逃出し三日目に死したり
谷
一金を取に戻りつぶされ此金をやらんによつて助けくれよ
といふうち火の来りけれハ出さんとせし百姓の男とても
叶ひ不申と言て皆々逃去主人ハ死したる
大口
一挾まれねども潰れたれハ籠の如く出所ハなきに客は女郎
を助けくれといひ女郎ハ客を助けくれと我に言たれとも
火の早く来りて両人共焼死したり
岡
一腰の抜たる老父を出さんと聟息子娘小児下男乳母焼死遊
女禿〆四十七人死ス
〻
一惣領のおき(さ)れ息子別宅して日々浅草御坊江参詣怠らすせ
しか引出されて無事也 小児一人死ス
三
一穴蔵へ家内の遊女其外の者を入れ四十一人死夫婦も死□
面あしき抱女四五人出て助る
浜
一せつかんの為女郎をしばり置て皆々逃出し主人ハ金と証
文を取ニもどりつぶされ死スしばられし女らハ退れ出助
りたり
若
一主人ハ会所より戻りたるに家ハつぶれ病人の女郎召仕男
壱人助り跡は皆々死たり
家の中にて助けてくれといふ声の聞ゆれは、火の来るゆへ三人
ニ而迯たり
さか
一金も沢山地面六ケ所有て又新たに大土蔵を立つふされて
焼死す頭のしれざる人
一死人にハかまハず金をさきへ終末(ママ)する人
一我けがをせしもいとハず金の事ハ猶わすれて死したる人
にとりつきすがりて飯もたべす泣て斗居て葬式の出てよ
りふら〳〵わずろう人
一日雇人足に出多分の手間代を取て是迄の借をそろ〳〵か
たつけ着物の一枚ツゝもこしらへ毎夜酒を買て夫婦と喜
ふ人
一此うへに又何ぞあつたらかう〳〵して大もうけを仕様と
欲心増長する人
一ぜいたくな家業ゆへ喰かねると言て居る人
一つぶれて家蔵を安く買て金をもふける人
一衣類道具銅物を見なほす人
一地震と火事にまぎれて来た物を引ずりこんでよい事にし
て居る人
一あつかつた物をわすれたふりてつかつている人
一ぬけ物を安く買つて喜んている人
一紛れて来た者を尋ねてわざ〳〵持せてやる人
一まぎれ来たる物を門口へ札を出して持主を待て居る人
一安いと云てぬけものなと有聞てかハぬ人
一家業違ひの事を請負て大金をもうける人
一山がはずれて大損をし欠落をする人
一我口を聞てもふけて損を人にさせる時ハ面白おかしく言
ふらして退れている人
一死た目上親類の事ハあきらめよく地震の物入をうめやう
〳〵と人を偽り噓をついて金を借出す工夫をして居る人
一町内近辺の商人もさま〴〵に成たれハ此時をつけこみ人
の得意を我得意にし賄賂を遣ひて人を追立てもらひよい
場所へ普請をして大きく家業をせんと思ふ人
一地震の夜近辺の人々の困り居るを助出して小家を手伝ひ
寒からぬ様ニして喰物をとゝのへ茶酒むすび餅香の物梅
干など自身して持てゆき人々へ振舞力をつけあるきし人
一門口へ水茶酒餅らうそくむすび梅ぼしたくわん漬をふる
まひし人
一御小家へ入て喜び国恩を拝し居る人
一安く買置しわらじを高く売て喜び居る人
一安く買置しわらじを常の直に売て人の喜ふを見て喜ひ居
る人
一我家の大破も置て親類知る人ニ早く逢て無事を喜び見舞
物も遣ハし町内近辺御小家無縁の者途中にて見当りし難
渋人江未(身)銭を度々給したる人
日々思ひにたへず、泣てハ仏壇に向ひ戒名を拝し、是迄有か
あしかりし事をざんげしおわびを申し、縁ある寺々へも回向
を願ひ参詣怠らず、命日〳〵の御斎も親類・懇意の人・親の
友たち・不断出入せし人・古く仕へたる奉公人などへも振舞
万事柔和にして言葉に角なく癇症を出さす、真実大恩を知り
て回向もし、日々を暮しゆく人ハ、死したる跡の孝行也、第
一己ハこゝろも晴々として、天地へ対し人にたいして畏る事
なく、死なれし人迄もしつけ方のよろしき故とほめらるゝ
也、是を孝心と言
一邪欲の人の持前ハ、毎日かなしや〳〵と泣て居たとて死
人の生かへつた事も無、寺の御経も届くやらとゞかぬや
らよしあしいふて、つかひもこず、世間て勤るに依て仏
事もするやうなもの、ほんの入れ仏事とやら、夫よりハ
勤家業に精を出して金を溜るが上分別、家に然(ママ)のある時
ハ、なんのかのと金をつかわするが、人のならわせ歎きに
つけ込、売僧もあるによりて、其心得こそ肝要といふ人
一地震に打ころされしと思へハ、どのような人に悪くいは
れても、恩をわすれても、義理をかいても、畜生といは
れても、法をわすれても、平気な顔をして金がほしゐ
〳〵で、天罰の来る事を知らぬハ死た気で欲心のまさり
たる人
一我も地震とも〳〵打殺され焼ころされしとて、詮方なき
に、家も少々ハ損し身内に怪我もなく退れしハ、誠ニ
〳〵難有く、我善心にあらずして命の助りしハ御先祖御
両親の恩徳の御かげ成べし、罪深き我なれバ此後いかや
うなる大難来り、是にましたる非業の死をせんも難斗と
敬仏、法を信し慈悲心の満々と極々の難渋人・貧しき怪
我人を聞て尋て、歩みてひそかに施し、我名をいはず、
人に頼まれしといつて名聞にならぬやう陰徳をし、横死
の回向施我鬼塔婆も所々へ願ひ度々弔ひ施せし人あり
是ハ死したると思ひて金銀をなじまず善事を行ひし人
也ありがたき事也
先の人は死したると思ひて鉄面皮になり猶々
財欲深く世の情をしらぬこそおそろし
元祖大師御詠
あはれみをものに施す
こゝろより外に仏の
こゝろやはある
悪敷と知りつゝあしき事をし、罪を作るは何ゆへぞといふに、
金銀をほしがり衣食住の三ツを人に増(優)らん事を願ひ、みめよ
き女を愛し、遊芸を好ミ、奢を好ミ、自分の勝手ニハ散財す
れども、貧しき者に施す事を嫌ひ、なすべき人の世話もせず、
善悪もたゞさず、へつらふ人のひゐきをし、勢ひにまかせ下
の者を侮り言すゝめ、人の愁ある共心配して助け済さんとい
ふ慈悲心なきハ、不実慢心吝嗇の気の所作也、此塵ほこりの
つミして天よりいましめをうけたりと思ふべきに、天災の損
を取返して全ふするが先祖への孝と人に語り、猶々吝しよく
非道を働き、子孫の災となる事を知らす、自力心の発するハ
是なるや非なるや、師のなきが故也と或人の仰られたり
よの人に目をさませよとゆりおこす
地震ハ天の制度成べし
地のいかり己のむくゐとしらされハ
財欲のみに死をバなげかす
大慈悲をうけ居る母の御嗔を
あやまりはてゝ常に称名
地震して世に現れし地獄修羅
目の前に見てもやまぬ欲心
雷や火事や水よりつき深き
自身のこゝろこわしあぶなし
天地の御恵にて生育なす人を、地の怒らせ給ふて、何万人と
なく命の終るハ、天地の殺し給ふにあらす、又家蔵財宝を火
の難にて失ひしも己のなし置し咎の報なりと知りて、仏道を
信す、今の世に善きと言るゝ人も、前の世に悪しき事あらハ
わざハひ身に報ふ、又今の世に邪智奸佞の悪人といはるゝ人
も有、難にて助り居るハ前世によき種蒔たる故也なれと此末
ハ極めて悪き報来也
涌蓮上人御詠
うなつけハうなつくかけによしあしの
むくひも後の世にあるとしれ
宇たて人たゝ目のまへに見聞する
ことより外になしと思へば
善人うたれて死し、悪人の無事也、又地震につゐて多く散財
するも、多く財を得るも、皆己が心なるが故に、我ハ仏道
を尊む也、皆汝より出て汝へ帰れハ此後いかなる大難来るや
知れず、能々慎之柔和真実に万事行ふへきに、親子・兄弟・
夫婦の非業に死したるも、日ニましうとく成ゆき、そこにも
五人かしこにも十人といへるを聞て世間並の事に思ひ、愁傷
も浅き人こそ鬼畜にはおとりたれ、大恩ある人の菩提も表向
のみにて、弔ひ慈悲情もなく癇症を出し、少し気に入らぬ事
あれハ目に角を立、頰をふくらし、口をとがらし、礼も義も
知らさる事浅猿し、又後々ハかよふ〳〵と手前勝手のよきや
うを考へ、早く年月の過よ過なばとやらんかくせんと心の底
に笑ミ喜ぶハ道知らすの持前也、朝夕の勤行も信は入らで、
損じたる家蔵・雑具・焼たる衣類なとの事を深くおしみわす
るゝ間ハなけれど横死せし人の事ハ言出しもせす、たま〳〵
訪来る人の亡人の事悔みいふ時ハ、残りおしきやうに歎くと
いへども、聞ともなや早く帰れかしといふおもゝちして、人
の深心を破り、かたじけなきと思ハざるハ亡人を思ハざる心
のあらハれし也、為になる事をいふ人をうるさがりてとふざ
け、功言令色にして諂ハるゝを喜び、咎もなき人の失を聞出
さんと気をもみ、邪推を廻してそしり、人に咄せば聞く人も
又本理善悪ハ知るといへども、合せ口上のみをいひて、よら
ずさはらずの挨拶をし、異見(ママ)もせずに置ハ、直る時節を待心
ならん、義理情をかきても金を溜ねバ年回法事も勤らずと仏
の事にかこつけ、死したる人ハ悪業あれハいましめを受け給
ふ、是自業自得なれバ深くなげきかなしむハ愚痴也、又わが
身の他所に行て是程の地震とも思はず居しハ罪咎のなきがゆ
へに天のとがめにあふ事なしと、己をよきものにして、死し
たる人をあしさまにいふ事言語にたへたる不忠不孝不実不貞
なる大悪人也、磔獄門火あぶりなど斗悪人と思ふべからず、
おの〳〵の心に思ふる身口意の諸行皆々陰悪なれハ刑悪人ゟ
重かるべし
無縁の人御小家の人々へも色々なる品物を施したるハ慈悲
名聞にかゝわらず難有事也、そしる人あり共施さぬ人より
ハ雲泥の相違なるべし、名聞の衣類にもせよ着れハ寒さを
凌き、喰類ハ飢を凌き、金銭は諸用をとゝのふ、受る人の
為にハ慈悲心名聞心のへだてはあらじ、そして人ハ吝にし
て道しらず也
施板行の中に咄家志ん生の名前もあり
先年身投女を助けし事あり
よし原江戸町弐丁目
佐野槌(ママ)
御褒美 遊女 黛
銀三枚
頂戴仕たり
此もの己か櫛笄をかた物にあづけ、金子をとゝのへ所々の
御小家へ見舞ものをつかわしたりと也
よし原仲の町
大黒屋又兵衛
召使 源助
主人江忠義を尽し候段渡世柄不似合
寄特成義ニ付
御褒美
銀五枚 被下置候間難有
可奉存と
被仰渡書ニ
あり
川竹の濁りの中にすめる身も
人のあはれをともにくむらん
さま〳〵にいふ人のあるよし聞て
識るとも貧にハ恵め仮の身を
たてゝ無慈悲とそしらるゝより
賤しき者さへ施し追善もいとなむ中に、横死幾万人の中へも
入らす家内に死人もなき人、崩れし家蔵の物入ハ有とも、供
養施をするハ人の道也、其上宿業を減し徳を積む時節の到来
せし也、又といふて是程の大変もあるましく、亡霊の施餓鬼
怪我人・貧窮人へ施すハ乍恐御上の思召にも叶ひて御褒美頂
戴いたせし人の名前番家〳〵へ出しも多く有之、当時善根を
なしたるハ後年に及ひ家の誉、子孫の申伝へにも相成事なる
に、人の愁傷も察せず、仏道にうとく、邪見吝嗇なる者ハあ
るにてか、其報来りし時思ひあたり後悔すへし、盛なる者ハ
必衰へ、横道なる人ハ必天罰をうくる也、故に尊き方ニも仏
道を勧め給ふなり
夢問答
震動に退れて命ある人ハ
死した無縁の追善もせよ
つぶされしうへに火事にて皆
焼けし困窮人へ施もせよ
不善人かへし
邪
非業の死類焼するも己が咎
のかれし我に罪とかハなし
正
前の世によき事ありて退れても
此ゆく末ハ何て死ぬやら
邪
切られ死し水死焼死をするとても
約束なれハ退れさらまし
正
憐みをものに施すこゝろなら
思ハす己か難ものかるゝ
邪
御先祖にゆつられ我も溜る金
もつたいなさに施ハせす
正
財多く持て陰徳せぬ人ハ
入息ありて出す息ハなし
邪
我金をわれかやろうかやるまいが
人にさしつをうけすともよし
正
亡霊の回向施し勧るは
地獄や餓鬼に堕さじかため
邪
畜生や餓鬼になるそと僧
いふて金を出させて我か奢か
正
おのか身も四恩の恵み施を
うけて居なから知らぬ愚さ
邪
父母かこしらへて出た此からた
こちか四恩を頼んたてなし
正
抱き育て尿病ひも親の慈悲
其大恩を報せぬハ (ママ)鬼
邪
犬猫も雀鴉も子をおもふ
こしらへし親のじひハするはず
正
鳩に礼からすに反甫(哺)の孝あるぞ
人と生れて孝ハするはず
邪
孝不孝勝気強きも吝いのも
おのが受たる気質にてある
正
気てなせる悪い事なく師をとりて
学へハ自然道に至らん
邪
師をとりて学はんとてもよく聞けハ
不埓欲心真の師ハなし
正
真の師ハ近く有ても慊心の
人ハ我から嫌ふものなり
邪
真の師へ慊心やめて近つけハ
何やかやとて物も入へし
正
金銀ハ好み給ハす壱人ても
信得させんと思ふ真の師
邪
後の世は何になろふと目の前の
欲をかハ(ハカ)くか我々の常
正
金出せと退れぬ地獄金出せと
ゆけぬ浄土へ御名唱へゆけ
邪
金づくてゆけさる故に供養せず
施もせす唱へ極楽へ行く
正
供養施を惜無心に信ハなし
真ハ邪念仏にや覚束ぬもの
邪
極楽も地獄もない少々こころつきてともしあると
うたかふゆへに信ははいらず
正
極楽も地ごくも知りて深山に
難行捨身 今の世にある
御仏も又祖師方も御修行を
なし給ひしハ我々の為
御軍のはけしき中ニも怠らす
日課念仏の御恩尊き
三毒の人もたちまち宿善の
開発してや懺悔点心
非を悔て仏門に入る難有や
只深心に 南無阿弥陀仏
終
問ひ答ふうちハ長夜の眠にてすめハ
カア〳〵起されにけり
北風の寒く入而息吹かへし出せハ
くるみの あまがなくも
日々〳〵に彼の国さして歩行身の
よきもあしきも旅のなくさみ
西岸
金久直三人江
下知したる文あれハ他見無用の事