地震史料集テキストデータベース

[未校訂]（雄勝山下家先祖代々記）
一安政三年辰年気候能作物豊作に相成、然るに七月二十
三日昼九ツ時地震揺揚り、併大地震と云にも無之候、
九ツ半頃に相成大津波急に押来り、居家より三尺高く
水押揚げ、数度押揚げ、夜の四ツ半頃まで十四、五度
押揚げ、誠に大変成事言語可申様無御座候
何れに其節六十四、五年先の津波よりは、一尺位も高
く水押候事に相見得申し候、手前の婆妻子供抔揃へ別
家忠太夫家に迯申し候
縁板離され、翌朝抔は家へ入る事不叶、漸く二十五日
朝より火を焚申候、手前之者共は物置に止宿仕候、隣
地の人々は鹿込の畑へ火をたき、二日目の朝迄家へ戻
らず、其節は別家より飯抔貰へ漸々に暮申候、若し此
以後の津波も難計、参り候はば畳を何分にも早く高き
所に揚申候方と存候
一当村極貧の者共へ、手前より籾一俵宛弐拾俵手当仕候、
追々に相至り、御代官様御出村、手前御庭に御臨み御
助救に相成候、其後難渋の御百姓へ、辻堂御倉より籾
四十二俵御手当に被下置候事、尚亦追々水押揚り者共
五十人へ、籾百俵辻堂御倉より御手当罷成候事、何れ
年数過ぎに相成候へば、又々津波参者と心得、参候節
は用心大切に可申候、其時の津波は昼の事にて人畜に
怪我無之、夜抔にては不叶事に御座候
誠に聞伝にも無之候事之津浪と聞申候、乍去明神浜、
唐桑抔は少々位之事に御座候、手前は大痛位之事に御
座候、乍繰事も、年数相暮し候はば聞而気を付可申候、
何年にも聞伝無之津浪に御座候