[未校訂]文化元歳子六月四日秋田地震せしが、此鳥海山の麓本庄
酒田に到る迄大地震にて、山崩れ谷埋れ、平地裂て泥を
涌し、山崩れて川筋を乱し、田畑に水溢れて耕作を損ず。
人家の外神社仏閣に到る迄残僅に転倒す。
中にも此女鹿鹽越辺は殊に大変なり。屋舎の崩るゝ時老
人小児の類皆疾く出得ずして圧し打たれ、又出たれ共材
木の倒れ掛りて打殺さるゝ者共数を知らず。上代に斯る
地震未聞と万民肝を冷しける。此の時の地震の体、是則
ち地震にあらずして地雷たるべしと老父の物語也
此三四歳前より鳥海山に火有、昼夜止まず、其勢熾也。
山を焼く事夥し。火炎の高さ数十丈、歳を経れども猶滅
せず、嶺を崩し砂石焼石灰雨の降るが如し、故に人近づ
く事を得ず、田圃を埋む、郷民嘆息計なり。時に此変出
来し、故に斯の如くの地震をなせしは、鳥海山の焼る所
ならん。
角館東洞庵主人著