地震史料集テキストデータベース
[未校訂]（宝永四年十月）
同四日未上刻 国中大地震未下刻ゟ寅刻迄津浪打寄る事昼
夜十一度也中にも第三番目之浪甚高し
国中破損之所々
安喜郡
甲浦 亡所潮ハ山迄御殿并寺院三ケ寺水主之家三軒残る
番所一軒道具計残る舟越と六所ハ潮入ルれ共家不
流
白浜 亡所潮ハ在に無残家ハ少残る
河内 此村之土地ハ所々入込有之故詳難記大体三ケ一之
亡所潮ハ山迄
生見 潮ハ田町ニ而家ハ無
宝（室）津 耳崎ゟ打入潮ニ添（湊カ）之東水尻と云所之家流ル
元 磯辺之家少流潮ハ田丁三ケ一迄慶長九年之潮ゟ六
尺卑シと云
奈半別（利）浜之在家亡所御殿之辺家流潮ハ田町無残
唐浜 潮ハ山迄家少残る
下山 無事但幸野家ハ流
伊尾木 潮ハ山迄家少残
松田嶋 松田嶋窪田茂亡所柄川本村無事
土居 本村無事玉造半亡所
安喜浜 半亡所潮ハ田町十丁程迄新城新在家亡所
赤野 潮ハ田町迄流家少
和[食|ジキ] 潮ハ田町ニ少入
（注、「谷陵記」には次の村についても記載されている
野根、崎浜、椎名、浮津、羽根、吉良川、三津、津呂、田野、安田）
香我美郡
手結 亡所潮ハ山迄上家少残
下夜須 半亡所横浜知切之家ハ悉流潮ハ大宮之庭迄此浜之
笠松流屈枝幡（ママ）根無双之名木也可借
豊房公御哥 きて見れは旅のつかれもわすれて
しハしこゝろハやすのかさ松
岸本 亡所潮ハ山迄
王子 潮ハ田町迄家ハ山上ニ有故無事
赤岡 潮ハ在所無残流家三ケ一
古川 半亡所流家無
芳原 亡所浜之並松之外ニ古田出る畔の形顕然たり、地
壱反計ハ並枩（松）の西之甥（ママ端カ）ニ有庄屋屋敷より申酉当庄
屋屋敷ハ古之土居跡也き、廿代計ハ並松東の端少
西へよりて同所ゟ辰巳ニ当る里人共此所砂浜を高
潮推流けれハ今にしてハ此古田の幾ハく底より出
たるといふ事を不知但此松杉は昔より当所の墓地
にして常に七八尺堀るといへ共終ニ如斯の土なし
爰を以相計れハ深き壱丈の内ならん今按ニ右之古
田秦氏の地検帳ニも不載何れの代没せしといふ事
も拠なし上ニ三囲の松樹生立ぬれハ決て三四百年
来の物にあらす
野市 潮ハ芳原境迄家少流
物部 三ケ一亡所
上田村 在家中半迄潮入流家少
下嶋 亡所
久枝 同
下田 同
前浜 半亡所
長岡郡
里改田 潮家迄
浜改田 潮ハ田町無残家ハ中半残なう流失
十市 潮ハ田町中半迄
池 潮ハ田町ニ少入
仁井田 潮ハ山迄在家ニハ三ケ一
種崎 亡所一草一木無残南の海際ニ神母示社残誠ニ奇也
溺死七百余人死骸海際ニ漂泊し人々哀備（傷カ）に不堪
下田 潮ハ田町無残
衣笠 同
五台山 潮ハ山迄家々も
吸江 同
八頭 潮ハ山迄家ハ軒を浸す有ニ（ママ）至迄干落されは里人所
を失ひ山居穴居の有様目も不被当
桂嶋 同
高須 同
介浪 潮ハ田町中半迄
大伴 同
土佐郡
布師田 潮ハ田町中半迄家ニハ少
一宮 潮ハ仁王門迄
茢（薊カ）野 潮ハ田町迄
比嶋 潮ハ山迄家にも
秦泉寺 潮ハ田町迄
江ノ口 潮ハ在所無残家ハ三ケ一
高知 堅固ニ設たる家は地震ニ倒れ或破損御城は全し潮
ハ町は真如寺橋より北見通限江ノ口堀筋は常通寺
橋ゟ潮江川ハ常通寺嶋限新町下知ハ海ニ成
潮江 潮ハ山迄家ニ茂
右内海分ハ初之打入し日ゟ定潮と成聊も干満なし
潮江下知新町ゟ江ノ口・一宮・布師田・大伴・介
良・下田・衣笠迄一艘の浪（ママ）ニ成船ならてハ通路なし
吾川郡
横浜 潮ハ山迄
瀬戸 同
浦戸 亡所潮ハ山迄但家ニハ三ケ一家具斗残勝浦浜も亡
所
長浜 潮ハ雪蹊寺之院内迄西ハ日出野限又ハ民家ニも流
家少
東諸木 潮は大堤限戸原の家少流
西諸木 潮ハ大堤限西南之在家ニハ入
甲殿 亡所潮ハ山迄
秋山 潮ハ甲殿境の田町迄
仁野村 亡所潮ハ山迄
西畑 潮ハ山迄流家少二淀川の潮ハ八田村の渡場迄
（注、「谷陵記」には御曼瀬についても記載がある）
高岡郡
新居 亡所潮ハ山迄山服（ママ）の家少残
宇佐 亡所潮ハ橋田の奥宇佐坂の麓萩谷口迄山上の家壱
軒残在家の後の田町へ先潮廻しける故通路を失ひ
溺死四百余人
滑（渭）の浜 在所尽く海ニ没深サ五尋六尋ニ成る
福嶋 同溺死百余人
竜 亡所青竜寺宮殿斗残蟹か池海ニ没
井尻 亡所
浦ノ内 谷々多キ村なれハ詳ニ難記大体潮ハ山を限海際の
家不残流
東奥浦 潮ハ山迄東横浪西横浪の家は道具斗残る鳴無大明
神の拝殿ニも潮入潮田ハ海
西奥浦 潮ハ山迄家ハ高キ処故ニ無事潮田ハ海
押岡 潮ハ在所中半迄流家無
神田 亡所谷ニ民家田苑少残
吾井郷 潮ハ石越坂麓松か瀬川の奥迄家ハ少残
土崎 亡所民家田苑海ニ没山上家少残
多ノ郷 潮ハ本村ハ賀茂明神の奥を限大間ハ山迄流家鮮し
大間ゟ名越の麓迄一面の海ニ成往還山を廻る
池ノ内 潮ハ田町迄当所の池今在家の二ツ石と云所ゟ突抜
海ニ成家ハ無事
須岐（崎カ）亡所潮は山迄池田村の池を近年新田となす其深サ
弐間横三間斗当所の故倉（カ）といふ所へ届ル初の地震
ニ橋之落けるに依て湊ゟ湧入潮ニ溺死する者三百
余人今在家も亡家
下分 亡所潮ハ山迄坂の川と云山谷の在家少残樹木竹尽
く流
下郷 半亡所潮ハ上分村の大境遅越の川限
野見 亡所潮ハ山迄
大谷 亡所潮ハ山迄山服（ママ）の茅屋三軒残
安和 半亡所潮ハ焼坂の麓迄山服（ママ）の家ハ残
久礼 亡所潮ハ南は逢坂谷迄中ハ常源寺の植松限北ハ焼
坂の麓迄市井三ケ二海ニ没死人弐百余人
凡国中潮入所々溺死する者五人十人或廿人有、種
崎・宇在・福嶋・次（須カ）崎・久礼の大なるを書して小
を書さるハ事繁多なれハ畧し
上加江 亡所潮ハ山迄
小矢井加 潮入けれとも無事
大矢井加 同
志和 亡所潮ハ山迄
小弦津 潮入けれとも無事
大弦津 同
与津 亡所潮ハ山迄
幡多郡
鈴 半亡所潮ハ山迄
佐賀 亡所潮ハ伊与木之大境白石迄山間之家少残
井田 亡所潮ハ山迄白浜茂同
有井川 半亡所潮ハ山迄家ハ山上ニ有故多く不流一宮親王
の古跡多く埋没ス衣掛岩と云岩も定潮高ク成ニ依
て不見
上川口 半亡所潮ハ山迄家ハ山上ニ有故中半残
蜷川 潮ハ田町下迄
浮津 亡所
鞭 潮ハ山迄山上之家ハ無事
口湊 潮ハ山迄流家鮮
入野 亡所潮ハ山迄此浜は松林八幡賀茂之両社潮入とい
へ共不流賀茂ハ式社也石松林ハ鞭より下田野口迄
連続し其樹の直き事竹之如にして且長短もなし一
国の壮観也しか所々切損し或打折根こきにし又ハ
根を洗出しける故大半ハ枯木と成林の中間に古よ
り潮満来れハ横廿間斗の江湾有けるが高潮ほりう
がち横四五十斗（「谷陵記」では四五丁）海と成田丁六丁程上之浪打際ニ成
此村の地高千三百石谷々に残ル所の田畑纔に九十
石里人生業を失ふも理也
鹿持 亡所潮ハ山迄山上之家ハ全し田町ハ一面の浜ニ成
矢玉猿飼といふ所の山間の薄田少残る
下田ノ口 亡所
上田ノ口 潮ハ銅山之下迄流家鮮し
田ノ浦 半亡所潮ハ飯積の麓迄平地の家ハ流
出口 半亡所潮ハ在所のひくき所迄
井屋 同
下田 亡所潮ハ山迄山際之屋（道カ）具斗残家少有
鍋嶋 潮ハ田丁家も窪田ハ海ニ成
小津賀 潮ハ田町迄家ハ無事窪田ハ海ニ成
竹嶋 同
井沢 同
佐岡 潮ハ田町際迄家ハ無事後町之潮ハ敷地の中沢岩田
の境大用寺の門前迄
中村 地震ニ家三十弐軒倒（「谷陵記」では三カ二倒ル）潮ハ田町窪迄渡川之潮ハ岩崎
脇田の池限
宇山 潮ハ田町無残津野崎境へ十三端の船一艘打上ル家
ハ高処故無事
津野崎 潮ハ田町無残家ハ上ニ同
不破 潮ハ八幡之並松迄家ハ上ニ同
坂本 潮ハ香山寺麓迄家ハ上ニ同
山路 本村の潮ハ田町迄木戸と云所ハ家悉流但窪田ハ海
ニ成
真崎 潮ハ山迄家ニも流家鮮
深木 潮ハ山迄家ハ山間故全し田地中半海ニ成
津蔵淵 半亡不（所）潮ハ山迄田町中半海ニ成
初崎 亡所潮ハ山迄一草一木無残
布 本村亡所山後ニ茅屋二軒残名鹿も亡所
下茅 亡所潮ハ[〓木|チンヤノキ]迄浜より行程壱里故の市井海ニ沈
鍵掛 亡所田苑一面浜ニなる
大岐 亡所潮ハ山迄念西寺并民家三軒残此外一草一木無
残田苑一面の海と成
（「谷陵記」では田苑は一般ニ浜と成り浩々として暗に胡国に迷ふ、南の山下に湊生す）久百 亡所
津呂 在所高き処故無事
大谷 同
以布利 亡所潮ハ天神山の峠国丈斗下迄市井海没
（「谷陵記」では五尺斗下迄市井海となる）窪津 亡所潮ハ山迄一王子の社迄残
伊佐 無事
松尾 同
大浜 亡所潮ハ山迄
中浜 亡所潮ハ山迄
浦尻 同
清水 亡所潮ハ越浦境の小坂を打越山間家少残鹿嶋宮流
越 亡所潮ハ山迄賀具見の通路船を用
賀久見 半亡所潮ハ山迄山間の家ハ残
養老 亡所
下猿野 半亡所潮ハ田町無残
三崎 亡所潮ハ山迄山半服（ママ）の家ハ少残田苑ハ一面の浜ニ
成竜串の奇石埋没ス
爪白 半亡所潮ハ山迄汀の松樹悉流失
下川口 亡所潮ハ山迄上之家少残
片糟 亡所潮ハ山迄
貝の川 同
大津 同
小才角 同
才津野 潮ハ田町無残家ハ無事
尾浦 亡所
西泊 同潮ハ山迄
周防方 亡所
小間目 同
赤泊 亡所
柏嶋 嶋の四面潮湧出し堤と一艘に成しかとも在家ニハ
不入今年八月十九日大風雨浪高く汀を打はき魚の
網代を損没し民家不残潮ニ浸し漁師生業を失す悲
歎せしとも此度の難ハ遁る
天地 亡所一切無事
橘 亡所
柏 同
榊 同
福良 同山渓の家少残
小尽 亡所
湊 同民家田苑海ニ没
伊与野 潮ハ田町無残家ニ入れ共不流
田の浦 亡所
小浦 同
内浦 同
外浦 同
呼崎 同
坂下 同山服（ママ）の家少残
宿毛 亡所潮ハ和田の奥或ハ牛の瀬川を限初の地震ニ士
館悉炎車輪之如にして良久波上に浮沈し後ハ悉く
土居の前に漂ひたるに第三番の津波に沖へ流出て
土居斗残椛浦・宇薄・藻津悉亡所
江戸江之注進山内主馬殿出足
覚
一流家壱万千百七拾軒
壱軒 浦戸御殿
四拾弐軒 御船屋并役屋敷
八拾九軒 浦之分一并御米蔵番所共
五千百拾七軒 郷
五千八百四拾六軒 浦
七拾軒（七拾五軒「谷陵記」）寺社
一潰家四千八百六拾三（六「谷陵記」）軒
五軒 御船屋
百七軒 侍屋敷
弐千十弐軒（弐千弐拾弐軒「谷陵記」）町家
千九百九拾四軒 郷
七百拾四軒 浦
四拾四軒（弐拾四軒「谷陵記」）寺
一破損家 千七百四拾弐軒
三拾弐軒（三拾五軒「谷陵記」）御船屋
拾弐軒 赤岡ゟ野根迄御殿分一共
九拾三軒 侍屋敷
千五百九拾八軒 民家
七拾五軒（七拾七軒「谷陵記」）町家此外小破之家并残無之
千五百廿三軒 郷
四軒 寺社
一死人 千八百四拾四人
五百六拾壱人 男
千弐百八拾三人 女
一過人 九百弐拾六人
八百九人 男百拾七人 女
一流死牛馬 五百四拾弐疋
百廿八疋（百六拾八疋「谷陵記」）
牛
三百七拾四疋 馬
一過牛 六疋
一流失米穀 弐万千弐百四拾弐石（弐万四千弐百四拾弐石「谷陵記」）
米 壱万四千百八拾四石
籾 七千九百四拾石
麦 千九百九拾弐石
大豆 百廿六石
一濡米穀 壱万六千七百六拾四石
米 八千四百拾八石
籾 八千弐百三拾壱石
麦 百拾五石
大豆 百廿六石
（流失大豆を重複記帳カ）一流失塩 四百八拾石
一同 茶 三百三拾九丸
一同 鰹節 五拾万八千節
一流失并破損船 七百六拾八艘
百七拾弐艘 御手船
百三拾六艘 商船
四百六拾艘 海船并艜共
一流失網 四百三拾九帖
一浦之塩道具 不残流失
一流失村木（ママ材カ）五万四千六百本
一同保佐松節共六百八拾三艘荷
但壱艘拾端帆積ニシテ
一同起炭 弐拾艘荷
一損田 四万五千百七拾石余
一井関川除堤破損 四千百九ケ所
一流失板橋 百八拾八ケ所
一同筧 九百十弐艘
一同井流 六拾七艘
一亡所之浦 六拾三ケ所
一半亡所之浦 四ケ所
一二ケ所（ママ亡所カ）之郷 四拾弐ケ所
一半亡所之郷 三拾弐ケ所
一山分之山崩畠作之雑穀大分損失仕
一湊三ケ所大破
右之外国中往還道筋及大破往来不自由之所数ケ所御座候
以上
古人の言伝ふ此年九月末ゟ犰（熱）へ事極暑の如く十月初ニハ小
児ハ川へ出て水をあひ帷子を着せしとかや、第一不用心な
るものハねり塀ニ而地震のするや否潰れぬ常ニも塀の下ニ
ハ不居事といへり、扨又津波ハ孕山ニ而一打ツツ波打し故
城下ヘハ潮のの（ママ）はへ来り南堤の上又ハ潮江山へ遁行けると
そ、巴堤押切下知寺町悉く浪入破損す、種崎・浦戸の大船
は一宮辺へ押入ぬ、種崎ハ其頃東に町在し故仁井田山へ遁
る間に皆浪に取られしと也、其後西へ家作りし今の如く成
し也