[未校訂]明和□月廿八日大地震あ□の頃例年の野分を
催す事多く雲丑寅より起り又卯の方辰巳の方と所を替て黒
雲夕方に飛朝風荒吹てやまず六月中ハ夕立を毎日催せども
一向雨なし七月中旬一ツの白星昼見るゝ人々挙て是を見る
白瀬氏揚州伝雲気論を以評して云時今秋なれバ陰気上昇して
天は清見之時也然共秋いまたわづかに深キニ非す此ほと大
白星と云む順なる故也地に付て騒き事あるへしと云り七月
廿六七日より辰巳の雲烈しく其雲の色夕日の如く雲の端赤
くやけて中ハ黒きも正色ならず下戸の酔に苦むか如し世間
の風気暗気也廿八日午の八刻頃沖の方夥敷鳴り響て直ニ地
震に成る未の半頃迄也家々瓦落壁崩日さし落水湧き小屋た
おれ人怪我多く人皆家を出外ニ在りといへども足本定らず
小児を抱き老を助け泣叫ふ声地震の声と打交りて物の分は
なし漸震ひ静になりて沖より汐さし来ルを恐れて多くハ大
武寺へ迯込者或は米を持端(ママ箸)茶碗等を持老を背負ひ子供を助
中にも病人なと大に窘(くるしめ)りけり年旧き人立塞りて云様六十年
の昔の地震是より大なり然れとも汐さし来て死たる者なし
却而迯たる者ハ過チ有之皆家〳〵に静り候へ大武寺とて夫
程高きにあらずあやまちて怪我すると制けるハいとたのも
しかりけり地震止て三時計りして一人駈出し大音声に只今
方財の沖遙に山の如く汐さし上たり此所家一軒も助るべか
らず或ハかく山をさし多くハ船にのり色々騒止まず爰に又
老人□(云カ)今度の津波東海(カ)山半□ぬれ来るとも此所の家に怪我
ハなきそ静まれ〳〵と制す又云古の地震此町の夷の石檀汰
なり今度の地震は夫より少し此老人請合也又両乙名も騒く
者の怪我を恐れ家々の火用心を恐れ大音にて皆々我家と一
所に死ヘしと格悟して騒な〳〵と制し家々にはしごを掛て
もし床の上に波来らバ家根に昇るべしと触廻れり稀なる事
騒動するも道理なり又年ふるき人の昔を覚へて制したる事
故必老人を麁略にすべからずと申けり扨汐さし来り然れど
も町をも通らず浜々の岸に来て一折におって打あげたり御
高札の下立浪のよれ来れり追て来る浪次第〳〵に小くなり
けり此度井戸の水一向へらず古の津浪の時井戸〳〵の水一
ツもなくなり候と云譬ハ大なる樋の水を動すに始の一ツは
大に波立次第に小くなる心也
昔の地震六十一年に当ル其時の地震ハ始ハ静に久しく中頃
より冷(凄)ましく軒も地につく様に東海山見へぬといヘハむか
ばき其外の山々上にさし上る様子ゆるやかに凡一時の大震
ひ也今度の動ハ始より火急にして力つよき凡半時の動也
一此地震せんとする前東海辺の魚類すさましく踊りはねた
りと也
一田畑の人此地震の始土中ゟ泥水ふき出〳〵地震天地にふ
るひ侫に左右に動けりといへり
一地震止て小地震昼夜四五度程時々動く其年中小地震折々
動けり怪事ニ思ひしに老人云是も又古かくありしと云ひ
しにぞ人々安心せり
一廿八日夜に入て稲妻ひまなく雷沖の方より鳴り渡りて雷
雲に随ひ夜中鳴止ず
一廿九日尚曇天雨風時々来り地震に損せし壁垣なと修覆せ
んとすれども心天気につれて落付ず夜に入雷数声老若男
女等食事すゝまず
一八月朔日夘[東|ヒガシ]の方より雲しげく雨すさまし巳の上刻風辰
巳にかハリて大風雨に成ル昼より雨止て南の風すさまし
水ハ岸に湛へて夕汐に洪水出んとす此風沖今少し高ク吹
かバ大洪水也然ども沖近き故頓て止べしと云ひし老人あ
り日西山に傾く頃西にかけて天気晴たり水もいでず
二日現(珍の誤記カ)しく日天の光を得て悦大方ならず
○地震八ツのころなれハ此風前に合ヘリと云ヘリ古ハ地震いつも大風
○隣国豊後日向大隅薩摩つよし此国抔ハ死人多かりしと也
日向山付ハ[軽|カロ]ク海辺ハ重事也四国地軽し京大坂軽し九州
地震也
同年八月十四日頃ゟ朝夕潮の満る事常に倍せり大武浜は皆
足をぬらし渡る事也地をゆりさげたるか潮地震故まし動か
何レ常にかハれり十月頃より段々少くなり追々常の如し小
地震いまだ不止後にハ人馴て驚かず六十一年以前大地震ニ
而津浪同説