(前略)
一、癸未冬の大地震の時にや有けん。間部越前守殿は大奥の塀を乗越る程にして、御寝所に行て、御縁頬より声掛て、越前守にて候。大変に付御守護の為に参り候。御寝所まで推参の御咎は、追て被仰付可被下。大変故御守護に推参仕候と申されけるとなり。其頃の美談なりし。跡の御咎に身命を惜まぬ所をほめたりとぞ。
一、右関東大地震の時、諸国飛檄多し。箱根御関所大久保加賀守番頭、公用私状にかぎらず、飛脚をとゞめて封を切て内見し、上封して箱根御関所番頭誰内見と、上封じに書付て、飛脚へ渡て往来させたり。大変のみぎりなれば、いかなる異変もはかりがたければなり。若悪敷にならば自尽するばかりとの覚悟、器量の武士なりとの称誉なり。
(後略)