地震史料集テキストデータベース

[未校訂]一下田にて海溢之節夷船ヲ見るに洪涛ニ♠□之時ハ筋違
位ニ立てて覆沒と見へ候由其節死人も数多有しと云舟
惣長サ三十五間之所舟底十五間程破れにて水入候ニ付
鉄のふみ車三両にて無間断水ヲ搔イ干（ホす）し候所車弐両ヲ蹈
破リ残リ壱両にていかにも困リ候間早速上陸之願ハ済し
可被下使節之義故是迠ハ食料等一切御無心不申候得共
此度之変難にてハ糧食等も不足いたし難澁至極ニ付使
節之御取扱ニ不及漂流人の御取扱ニ而異議不申上候間何
卒早速御聞済被下度尤下田湊ノ狹小之場所にて波荒く
兼而難船之慮（カ）ヲ□れ居候処果而此度之次第も有之候間駿
州辺か浦賀辺之可然寛大之湊江引移リ申度凡三ヶ月も
上陸之上破損之諸所修理仕度之よしに而船首フウチヤ
チン三十余年舶上に居候得共此度之様成義ニ逢候ハ初而
なりとて心配之色面ニ顕れ其他之夷ハ勿論愁素之様子ニ
て顔も青サメ居候由右之通□色ハ卑屈候得共入用之品
の願ハ銅板長四尺巾弐尺厚サ弐分之品七百枚其外釘材
木等莫大之目論之由変難転して大怨ヲ懐キ候事ニ相見ヘ
申候右ニ付川路等申出候ハ夷船次第滲漏弥増候間必死
と存詰之上ハ困獣反嘽之程も可慮事故修補之地所等之
義ハ早速御達と申出ると云浦賀のくり浜ニも可相成哉
一浪華之震ハ四日ハ潰家等有之程者無之所五日午ノ刻過大
震にて屋舎傾倒火事も出来候得共先ッ防キ留候得共津
波起リ来リ停泊之廻船千石己上己下数十百艘木津川安
治川江漂ひ入リ舟ニ岸觸破壊いたし小舟ニて地震ヲ避居
候者も数多之所皆々のり敷れニ而一家不残没溺之類も
不少七日□□之比ニも追々死骸ヲ引上候所山をなした
りと云可憐宝永之大震ゟ已来之事にて百五十年也と申
候大坂城ハ瓦壁等ハ落候得共石壁等ハ崩れ無之由　京♠
ハ小震
天廟之懸所ハ不震と云紀州ハ大震志摩の鳥羽之湊ハ人家
過半波ニ被引たりと云鳥羽ハ美き所と見へ下田にて夷人共鳥羽港ヲ御免に被下候と申候由
肥
後も大震なりとて飛脚来着仕候得候（ママ）薩州も震へるへし
と薩藩之士咄申候四国も無事ニハ無之沙汰也然レハ此震
ハ東海南海西海ニ亘リ之事なるへし北海之沙汰ハ不承候
へ共稀世之大変恐愕之至ニ奉存候成程□様ニも可有之
哉
祖宗之法ヲ動シ国禁ヲ弛メ候事当今之様成事ハ無之間
天下震動有之と云ふ成事と寒（ママ）心仕候
十一月廿四日