[未校訂](飛島新田関係文書)佐野家文書
安政二年御用並願書留
卯 正月 吉日
忠長
◎大地震に付拝借金願
一 先達て大地震に付き 飛島新田郷々荒地出来仕り候
に付き 拝借金願書二通 佐野治右衛門方より受け
取り 奥印いたし
二月二十七日 慶七郎を以て願書差し出し候
一 右拝借金千両也 当卯より子迄十か年の間 再願
五月七日調いたし 同九日慶七罷り出で認め 御預
かりに成る
一 当年より調達金千両の方へ三両ずつ割を以て 年々
下さり候筈に相成り申し候
一 右に付き 飛島新田□調口へ急々御下げ下され候様
慶七 佐屋へ六月二十二日罷り出で 御掛り永田市
蔵へ内聞いたし候処中々六つか敷くなかなか行
き届かず引き取り申し候
◎伏稲御達し
恐れ乍ら御達し申し上げ奉り候
田畑
一 田八町五反一畝二十歩 山田之郷 伏稲の分
〆
田畑三十四町二反六畝四歩の内
一 田九町五反六畝十三歩 長尾之郷 伏稲の分
〆
田畑七十町一畝十五歩の内
一 田十九町八反九畝歩 松之郷 伏稲の分
〆
一 田三十三町八反三畝六歩 梅之郷 伏稲の分
一 田三町八畝十一歩 同所埋め田 伏稲の分
内
一町一反九畝二十二歩 江掘禿れの分
一 田三反二畝三歩 同所埋め田 伏稲の分
〆
田畑八十八町四反九畝七歩の内
一 田三十町三反二畝十歩 竹之郷 伏稲の分
◎凶作に付き御手本米納入願
恐れ乍ら願い上げ奉り候御事
当新田の儀 去る寅年 両度の大地震にて 田面一円震
い下がり当春夫々地直しも取り計らい申し候処 其の後
追々地下がりの様子にて 植え付け後も度々降り続き申
し候処 悪水落ち方宜しからず深溜り仕り 尚又去る八
月二十日 大風雨にて立毛吹き折れ伏稲に相成り 生穂
等多々出来 甚だ心配仕り候 別して下廻りの儀は 格
別の凶作に付き 御見立免願い上げ奉り 御見分も成し
下し置かれ 有りがたき仕合せに存じ奉り候 付いては
当御(1)物成の儀 前顕に申し上げ奉り候通り 大風当たり
並びに生穂等相成り 米品甚だ悪敷く心配仕り候間 恐
れ乍ら御(2)手本米差し上げ候間 何卒 右御手本にて相納
め候様仕り度く願い上げ奉り候
尤も 右様御願い申し上げ候とて 米拵えの麁略に仕り
候儀は御座無く精々立入り 米拵えの方入念取り計らわ
せ申すべく候間
右願いの通り御聞き済み成し下し置かれ候わば 有り難
き仕合せに存じ奉るべく候 以上
卯 十一月
飛島新田庄屋治 九郎
《注》(1)御物成…生産物に対する税
(2)御手本…見本
安政三年御用並願書留
◎大地震地下がり場所重ね田願
恐れ乍ら御答旁御願い上げ奉り候御事
飛島新田下手地下がりの場所 江掘り立て土を以て重ね
田に取り計らい 右掘り禿れ場所御定引けの儀 去る冬
願い上げ奉り候処右は重ね田の儀 水場は格別 其の余
重ね田の儀はまれにて 一昨年の地震にて地下がり深溜
り 立毛損亡いたし候段は 当新田のみにも限らず 昨
年は一般風水災の年柄 旁今一両年も篤と見様の上 弥
地下がり水腐れいたし候わば 置き土直し等 程能く
御(1)年数引を以て取り計らい候様行き届き間敷く哉 篤と
勘弁仕るべき趣等仰せ渡られ 承知仕り 猶更地主共
追々打ち寄り勘弁仕り候処 昨年は一般風水災の年柄に
て 古田向きにても水腐れの場所もこれ有る儀には御座
候得共、当新田下手の儀は 多分の地下がりは相見え
昨年も申し上げ候通り 重ね田願い上げ奉り候辺は 水
深にて立毛水腐れ仕り 取り入れ米御座無く 第一御上
様御損亡 次に地主は勿論 作人共は植え付け実成り候
迄は炎天耕作等 誠に骨折り 肥物仕入れを始め容易な
らざる心(辛)苦 皆水の泡と相成り 中には露命の繫ぎ方も
これ無き(2)[為体|ていたらく]の者も御座候て 悲嘆の絶え申さず い
ずれ 昨年風水災は一段とは申し乍ら現在当新田下手格
別の地下がり相見え 昨冬以来 水涸れの時節にいまだ
田方水附き居り 田麦まき付け 菜種植え付け等も行き
届かず 今以て小道等通路も行き届き兼ね候場所もこれ
有り 高み場所は水涸れの模様等毎々替わり申さず 作
人共日夜討ち詰め相嘆き 此の姿にては必至渇命に及ぶ
べきものも出来 地主共においては 植え付け等も出来
申さざる様に成り 地所其の侭指し置き候ては 取り入
れ米これ無く 随って小作手当筋も行き届き兼ね候次第
に相成り 兎や角談判のみ仕り居り候得共 先般願い奉
り候重ね田よりは外に仕法絶えて御座無く 置き土の儀
は場広の処 近辺土場も御座無く 迚も行き届き申すべ
き業とは存じ奉らず候 左候とて 此の侭指し置き候て
は 更に手差しも相成り申さず 不毛の地 作人難渋見
逃しがたく 地主も相続行き届かず 余儀なく猶も重ね
田の儀 恐れ多くは御座候得共 願い上げ奉り候 付い
ては右に申し上げ候通り 旧冬以来此の節迄に 重ね田
取り計らい申さず候ては当年植え付けも出来申さず 既
に作人ども彼是れ嘆き立ち人(3)気治まり申さず 地主ども
実に全体不時に物入り多く いずれも労れ罷り候上の儀
自(4)分賄金を以て重ね田仕らせ候儀は甚だ難渋 相好まず
内輪にて実は捨て置き申し度き心底に御座候得共 只今
迄不納の場所にも御座候夫々作人附きの地所 打ち捨て
候ては作人も必至難渋 拠無く他借仕り 重ね田仕り度
く 先願にも申し上げ候通り 此の水涸れ時節ならでは
行き届き難き業にて 作人共打ち詰めやかましく 右
段々仰せ渡されの趣は御座候得共 重ね田に取り計らい
場所相減じ候共立毛植え付けも出来候わば 御上様にも
御益相成り 地主手前も大金を懸け 重ね田取り計らい
候功相顕れ 聊かながら取り入れも出来 左候わば作人
どもにおいても 取り続き方に相成るべく並びに人気治
り 又彼是れ時日移り 当年も取り入れこれ無き様にて
は 難渋の上の極難渋 旁十(5)術尽き果て候 勘弁にて多
分地下がりの場所より少しずつ重ね田に取り懸からせ申
し候間 此の段 御用捨成し下され 右段々申し上げ候
通り成り次第 何卒深く御賢察遊ばされ下され 格別の
御勘弁を以て 重ね田取り懸かり申し候段御宥免の上
御聞き済み成し下され候様仕り度く 全地主共□挙を以
て取り計らい候訳に御座無く 拠無く恐れをも顧みず
右次第御慈悲に御憐察 御評儀成られ候様 只管嘆願奉
り候右願いの通り御聞き済み成し下され候わば
御影(陰)を以て地下がり場所植え付けも出来 聊かながら御
上様御益も相立ち 地主小作共取り続き申すべきと
重々世々有り難き仕合せに存じ奉り候 以上
辰 正月
右新田庄屋小八郎
治九郎
木村小兵衛
佐野平
山田貫一郎 様
御陣屋
右の通り二通相認め 二十三日 慶七郎 治九郎 代両
人 鈴木与市様御預り相成り申し候
《注》(1) 御年数引…数年の間年貢を免除
(2) 為 体…(好ましくない)ようす、ありさま
(3) 人気治まり申さず…落ち着いてはいられない
(4) 自分賄金…地主自身の資金
(5) 十 術…万策
◎堤通り御普請願
恐れ乍ら御請け旁願い上げ奉り候御事
飛島 服岡両新田御普請の儀に付き 今般御談の趣 畏
み奉り候御時節柄の御儀に付き 強いて願い上げ奉り候
儀は恐れ入り奉り候得共 御談の趣地主始め段々申し相
い仕り候処 最初願い上げ奉り候通り 地震以来は御堤
通り格別の地下がりにて 此れ以後去年の如き高波等こ
れ有り候ては所詮凌ぎ難きと新田住居の者共一同恐怖仕
り 片時もはやく高上げ御普請成就いたし候様 村役人
地主手前へ取り 頻り相嘆き申し候に付き 此の侭差し
押し難く 実以て迷惑仕り候 斯く迄危き大堤通り 一
旦御見分成し下され 其の後御延引相成り候ては 御百
姓相続何となく踏み込み薄く 先ずは一同逃足の人気に
相成り 容易ならざる儀にも存じ奉り候 猶又地主始め
相談仕り候処 前文の次第にて迚も難渋 最早此の上は
拠無く同時節に付き 何卒両新田地主より金千五百両調
達仕るべく候間 御普請御模様の儀は 頃日御談の通り
五千両程の御仕様を以て 早速御懸かり下され候様仕り
度く 一同挙げて願い上げ奉り候 付いては前顕調達御
下げ金の儀は両新田御収納を以て 当冬御下げ金成し下
され候様仕り度く 格別御評議を以て右願いの通り 早
速御聞き済み下し置かれ候わば 御仁恵御影(陰)を以て百姓
相続仕るべく候間 一同有り難き仕合せと存じ奉り候
以上
辰四月
飛島新田庄屋佐五郎
治九郎
小八郎
木村小兵衛
佐野周平
服岡新田庄屋栄三郎
御普請方
御役所
右二十日 右御役所御玄関へ差し出し 同日帰宅仕り候
恐れ乍ら御答旁願い上げ奉り候御事
当新田御普請の儀 先般より追々願い上げ奉り候処 御
時節柄の儀に付き 仰せ聞かされの趣畏み奉り候 付い
ては内輪段々申し合い仕り候処 何れにも最初御願い申
し挙げ奉り候通り 御普請成し下し置かれず候わでは
安堵の筋に御座無く候得共 今般種々御利解仰せ聞かさ
れの趣 是れ又恐れ入り奉り 且つ先願の振り押し立て
強いて願い上げ奉り候共 御評議中手後れ相成り候ては
万一の儀も計り難く 其の段も深く心配仕り候に付き
先々差し当たり候仕様別紙の通り 急卒御取り懸かり
下し置かれ候様願い挙げ奉り候 右願いの通り御普請成
し下し置かれ候わば 御入用の内半数調達仕るべく候間
右の願いの通り 急々御聞き済み成し下し置かれ候様
只管願い上げ奉り候 以上
辰 四月飛島新田
服岡新田庄屋惣代佐五郎 印
同断次九郎 印
御普請方
御役所
貼り紙
先願申し上げ奉り候調達金の儀追々相労れ候地主
共も御座候共 五千両余の御入用にも相成り候に付
き 種々繰り合わせ千五百両調達仕るべき旨申し上
げ奉り候儀に御座候 然る処 別紙の通り普請模様
減じ方願い上げ奉り候に付き 内輪申し相い仕り候
処 凡そ三千両程の御入用にも相成るべきやに存じ
奉り候 左候わば 右に準じ調達も減金願い上げ奉
り度き儀に御座候処 御時節柄へ付き 御理解の御
承状奉り候に付き前顕御入用半数金千五百両先
願の仕法にて調達仕るべく候間 呉々も早行御取り
懸かり成し下し置かれ候様願い上げ奉り候