地震史料集テキストデータベース
[未校訂]○三月廿四日ハ明王院菅神の神事とて地蔵堂町より横町上
町中町まて家毎強飯もちひなとこしらへて客をまねく
おのれもあちこちよりまねかるれとこゝちすくれねは
慇勤なるかたへハゆかて清野屋善太良方へゆきて保正
甚兵衛かおれるはなれ座敷へ按摩をよせてもみさすり
なとさせて居たりしに戌の時頃にもあらん西の方より
地震来て煙草五六すひかほとしハしかほとやますゆり
かへしといふハ殊につよく人こと皆おとろき外に出て
内にあるハまれなりときこゆされともものをそこねる
ほとのことハあらされとおのれも家に立かへる隣家の
婦女子らもさきの地震におそ寝（ママ）ることも得かなハしと
て河内屋嘉兵衛かもとに打寄□を招くゆきてミれは地
震に家の潰れんことをのミおそれてこゝろもおちゐさ
ることにきこゆれは家あたりの大に地震ふりてこゝろ
なき人の我から怪我せしことなとかたりあひてしハし
時をうつせしに又折〳〵地震ふりてかたへの人をおと
ろかすことすへて三たひ暁のかねをきゝて家にかへる
先に地震ふりたるよりのちなるハいとかたきことなか
らかうをりをりふるを思ひは何れの地にか家蔵をたを
すほとの大地震ふりたる所もありしにやきつかハしそ
は大地震の後陰陽の気おさまりかぬるものにありと見
えたり一旦地裂るほとの大震何れの国にありとも其後
大震ハなき理と思ハる猶古今の説をたつねさくりて其
理を窮めおくへし
一廿九日午時後先の大震より少しおくれるほとなるふり
有其間も先なるよりミじかし同日暮又震有昼のより小
なり翌日昼頃又小震両度あり廿五日より此日まて昼夜
小震をり〳〵ありと人はいへとあるハ外に出て覚えす
又ハ寝てしらさることもありしと見えたりされハ我た
しかにしれるはかりを書おけり
一廿九日朝通（カ）郷喜助天ヶ澤よりの状をとゝくきのふ中ノ
嶋より参れりといへハ在所なとの震をきくもつとも尋常
の震より大なれは人々皆外に出て此わさハひをさけたれ
と潰家なとひとつもあることなし近邑又おなししかし
信濃国にハ山脱なとのありしと見えて大震後信の河の
水泥の如くになりてなかれ来るよしかたれり
一晦日の朝甚兵衛来よべ小沼新田弥忠次等震の話ありと
きけは其夕宿にゆきて其談をきく廿五日朝刈富川の堤
に上りてミれは前夜の震に河水壱丈はかりもこみあげ
しとミえたり其水莖のあとありといふ堤一ぱいなりし
やととへハ土居足四尺はかりもありと覚ゆといへりさ
らは平水より七八尺もこみあけしと思へり又いふ信の
河の水平水にて赤く濁れり又いふ三条にて繫舟から舩
は綱をきり石なと積てあるハ沈ミしといへりこもれる
へき理ありと覚ゆ又中ノ嶋今町の風呂屋にて湯入の
も震（ママ）におとろき大勢裸身にて前へ飛出し震やミて内に
入るとき前をもかくさてありしことをわらひあへりと
いふこは一畳の話なれと大勢といへるハわろし震ハ亥
の時過なり其頃ハ今町にてハ入浴三四人にすぎす中ノ嶋
ハ大かた風呂ハ仕舞たる刻限なるへし
一廿九日夜嘉兵衛話す上京の人帰リ来信州善光寺にて潰
家壓死のもの数多ありしといへる由又聞なりと話晦日
□の話ニもきのふ□（猿カ）橋へ行て此事きけり是も上京人
のかへり来て物語せるなりといへり
一震あらは火処にすり鉢を冠せおくへし出火することな
しと此事時に臨ミおほかた出来かたかるへけれと懲震
秘鑑にかくへし
一三月廿四日夜地震ニて水上ハ山抔くつれ□（候、カ）や廿五日信
の川平水ニて常ならぬ赤水流候間不審に思ひ候処今廿
八日の噂にハ信州飯山御城下并隣郷弐ヶ所地陥リ本多豊
前守様御城破損山脱とろを吹出し候由
善光寺にてハ人家くづれいまた地震止さるうち出火焼
死のもの壱万余人町中の川へ飛入死せるもありはたこ
や有之場所言道町等皆焼失
高田今町土蔵廿七潰れ候へ共人に怪我死ハ無之廿五六
日頃迄大川水色春の出水の節と違ひ赤水ニなり多く出
候此一條新潟人の書おける写といふものを抄書す
一指物丁仁八忰万蔵新潟并途中ニても□三月廿九日新潟にて同所白山権現
蒲原六□宮託宣□（通、カ）新潟町地震ニて難遁趣ニ付同所のも
の不残同夜戸障子を外シ外ヘ出納涼台に上リ居烑灯を付
一夜不寝レ罷在殊の外騒敷けれ共同夜者何の変も無し
廿六日より廿八日迄信の川筋山崩候様子ニて水色替リ
川中一円水増居 新川茶店にて出羽国人の話私共九人
連にて善光寺詣致同所ヘ着はたこや藤屋平左衛門方ヘ
止宿致さんと思ひしに同夜七百人程の泊にてとめかね
候断ニ付坊所ヘ参見苦敷けれ共止宿いたし端近の間に寝
たりしかるに四ッ時頃畳弐尺程持上られたる様に見何
事やらんと驚しに家潰れ其下になるされとも怪我もな
けれは他をかへりミす漸にして潰家を遁れ出三人にて
町をめさし飛出し候へハ是も又一円潰居山手ヘ逃んと
すれは地裂てあれは漫に足も踏かねかれこれするうち
荷物なくてハと思ひ付泊リし坊へ立戻リ見候処連の内壱
人木舞をとりぬけ屋根を破リ辛くして逃出たりといふ
所へ参リ其者の出たる破間よりくくり込心あてに荷物
をさがし持出四人心を合如何なさんと語リ合為し内出
火して大門ヘ火移リ一円燃立たる火明リにて道を求メし
に似たれとも不知案内の所なれは何れとしせるあても
なく夜あくるまて東西南北もわかて□（そ）路をたとる思ひ
ニて道ヲ行か□（と）思ひ□（候）潰家をわたりしハしハ正気ハつか
てありしなりさて四人の内善光寺にて親子わかれしも
ありすへて五人にわかれて立かへり愁傷いとあハれに
きこゆ藤屋平左衛門家内十四人の内亭主斗助命七百人
ほとの止宿に五十人斗さへ助からす其他壓死出火ハ権
堂宿よりと承飯山城下山かむり一円潰又家無之由尤十
里四方ほとの間ハ目もあてられぬ事とそすへて変死の
人数弐万人もあらんと申せりとそ帰路宿々にも破損ハ
あれとも善光寺の大変にあひてハ在々の小破ハ目にも
かゝらさりしといへり
一四月二日出槇平書状同五日善太良方ヘ達十日町より出す廿九日九ッ時地震にて高田八
十五軒程今町弐百五軒程潰れ候由信の国ハ上ハ稲荷山
宿より下ハ飯山迄凡八里四方の地潰家あり丹波島水上市
□□道山抜にて犀川せき留此節丹波島ハ歩行渡りのよ
し
氐計按るに大地震志て地裂一旦地気を発してほとも
なく其間遠からさる地にて亦□潰家ありしといへる
説いまた見聞なしさて又海辺砂地にて大地震と申い
よゝ疑ふへし今町は湊なり潰家出るほとの大震あら
は津波の有へきなりさる沙汰もあらすハ恐らくハ虚
談を伝へしなるへし清のやハ高田より一日路の十日町
にて槇平きけるまゝを書おくれは其説を是として人
にも咄せるハ一応ハもつともなから廿九日九ッ過の震
を晦日朔日の両日に高田方より慥之便ありてしれし
よしにも書とらされハ普通の雑談をきくかまゝにし
るせるならは信仰もうすきをたしかなる事と思ひて
清のや是を風聴なさハ人のあさけりもあらんか心す
へし
又いふ地震ハ人体の一ツの腫物と同理ならんか地の
裂るハ濃汁の出るなるへしいまた濃汁出きらぬに口
をふさく時ハ又いたみ有手伝てふたゝひ口をひらく
又濃汁出れとはしめのより勢ひなし伏する地気上へ
発せんとて地をさく其筋にあたる所家を倒し山を崩
すさけたる地泥水等を吹出して其口を塞く故に発し
尽さゝる気又出んとすれと一旦大震をなせは勢ひな
しされハ大震の後又大震ハあらさるへしと思へり
又いふ伏せる気其勢ひつよしといへとも大山ハ容易
くくつかへしかたきものなるか今年の大震西方飛驒
境に発し東方信の飯山辺にて止む飛驒信のもつとも
山厚し端山ハ崩すへし大山ハ動すへからすされハ破リ
易キ平地を破リ気を発すれハ秋山三国峠まてハ及はさ
るなるへし
又いふ地震ハ海潮の勢ひをもて伏気を押出すなるへ
しさらは西方海の波浪ハ東海より勢ひつよし故に西方
より押すものハ必剛強なるへきか以上の四條ふと思ひ
出て書つけおけは其何たるあたらさるやハしらす後
の心得にかくなむまつハ人にミすることをはづ こ
は古の説にかゝハらす文政の大震によりて考出たる
ものなりよく〳〵ためし置て後史書の説にあハせ見
るへし
一四月六日穴澤忠治より文通之内私共御支配川浦最寄大い
たミ注進申参引請元〆出役被致候何かと当方も□願罷
在候
泉町源兵衛儀当正月廿六日出立京大坂反物仕入罷
越信州通リ帰路途中去月廿四日地震之模様道々見
聞候始末書取
一去月十八日京都出立三条町之者四人一集五人連ニて罷
下候途中去月廿四日藪原止宿仕候処夜四ッ時頃大地震
ニ而一同共外ヘ逃出候処暫之内不相止尤同宿之儀潰家ハ
無之亭主申聞候者七十余ニも相成候へ共是迄ケ様之地震
覚不申旨申聞然ル処三条町之もの先年地震ニ何れも潰
家ニ相成候義ニ付此度甚案し候趣ニ而夜通しニ罷帰可申
旨申聞候ニ付私儀も一集夜八ッ時頃同所出立鳥居峠ヘ相
掛リ候処往来所々ひゞ割れ有之奈良江ヘ参候得者夜明同
所も別段潰家等相見不申夫より本山洗馬江原村井右
宿々罷通候得共別条無之同夜者岡田止宿之事
一同夜も三度地震有之何れも外ヘ逃出候得共潰家等無之
同宿之内大坂并尾張之もの泊合申聞候者善光寺参詣之
松代真田信の守 拾万石
小諸牧野遠江守 壱万五千石
飯山本多豊後守 弐万石
上田松平伊賀守 五万三千石
松本松平丹波守 六万石
すさか堀富丸 壱万五千三石□
帰り稲荷宿丸屋八左衛門と申旅籠屋ニ而六十人余止宿
之処潰家ニ相成漸拾壱人さへ助リ不申大坂もの三人連
之処壱人死失尾張之者九人連之内八人死失いたし候由
一松本様御城下土蔵三十位潰れ町家庇廻リ等大半痛之由
御城下近在当分之潰家ニ而怪我人死失人等余程有之
候由（上段）「御城下近在云々源三不申由ニ付少目」
一廿六日苅屋原峠会田宿別条なく青柳宿麻見宿庇廻リ等
多分之痛相見同夜ハ麻見宿止宿致候事
一廿七日上方筋之もの大勢善光寺参詣之ものト一集さる
ヶ馬場峠ヘ差掛候処過分之山鳴ニて地響いたし其上善光
寺之方一円煙リ立居候故右ニ怖候哉迚も参詣不相成由
ニ而髪を切上ケ候由ニ而山中ヘ捨候ものも有之賽銭之由ニ
て百銭或ハ小銭等銘々山中ヘまき直ニ其場より一同引返
申候夫より稲荷山宿ヘまゐり候処宿場不残潰家焼失多分
之死失人有之漸町端ニ至リ七軒さへ残家無之夫より本道
罷通候図之処丹波島ヘ松代□（様カ）より御。出役有之人留之
由承候ニ付案内之もの頼廻リ道いたし小。市村と申処へ
出同村不残潰家焼失夫より犀川罷通候処白河原ニ相成川
上山崩候由善光寺ヘ罷越見受候へハ坊所町家共不残潰れ
焼失ニ而于今燃立申候死失人山ノ如積。重置首或ハ腕足
所々ニ有之誠ニ目も当られぬ次第尤本堂并山門別当大勧
進而巳其儘ニ相成居石燈籠ミじに砕ケ居其辺在々不残潰
家ニ相成夫より一里程下吉。村へ罷越候処同村之儀人家
八拾軒位有之候由之処不残めり込泥冠リ一向家形相見
不申牟礼宿へ参候処不残潰家焼失ニ付同宿ニ野宿いた
し候事
（欄外）「○源三云
松代御出役丹波島ニて善光寺ヘ入人を止メ候為メ□
方旁出役之由申之
○同上
小市迄者不登して川を渡候由全空川ニて無之足壱
尺斗もぬれ候由
○同上
死骸積重置候ニ者□町を通リ候節未タ火気もしめ
さすかはねハ二階と下なるが自然ニ重り居たるに
て人の手ニ重たるにハあらす
○同上
吉村ハ地陥泥に相成往来不叶脇道通リ候由」
一稲荷山宿より善光寺至四里同所より野尻迄六里都合十里
ノ場所大半潰家焼失残家僅さへ相見不申往来筋ニ牛馬
多分死失此辺川水はどろニ而飲用ニ不相成候
（欄外）「か州様江戸御登廿四日坂本御泊大聖寺様二三日
後れて御立善光寺御泊ニ者無之候へ共野陣」
一坊所四十八軒有之由之処不残潰レ焼失坊主漸拾壱人さ
へ助リ不申候
一川中島辺之儀犀川水干上リ候ニ付若一時ニ流出候而者津
波同様ニ相成候処男女不残山ヘ逃行亭主前之もの一人
残居家之取始末可致若一時ニ水出候節ハ相図ののろし
掲候間其節一同山ヘ逃行可申旨御役人御差図有之候由
ニ而山へ逃行候ものニ行逢候事
一廿八日牟礼宿出立関川迄四里之場所往来宿々大半家潰
焼失関川迄参候処昼時ニ候得共一同疲ルニ付同所止宿尤
同所少々痛候て格別之儀無之御関所前橋○落申候加
賀様御家中之由鉄（砲脱カ）為持候御方駕籠拾挺余程之御同勢ニ
而御○関所前ニ野宿被致候同夜二度地震有之候へ共別
條無之事
（欄外）「源兵衛いふ
○橋ハ修覆中なから渡来候由
○かゞ衆の野陣者宿之前にての事ニて番所前ニ者無御
座」
一廿九日関川出立大田切小田切二股関山罷通リ候処庇廻
リ等痛有之候ヘ共[潰|ツブレ]家ハ不相見越後ヘ入候而者信州と違
ひ潰家等無之新井宿ニ昼支度いたし居候処又々大地震
ニ而同所大騒キいたし候ヘ共潰家等無之夫より高田ヘ参候
処昼時地震ニて御城下町拾五六軒潰家出来其外○曲リ
家余程相見夫より今町通リ可致心得候処同所も昼時之地
震ニて大半潰家焼失之趣承候尤高田ヘ参候節最中燃立
居候間本。道を廻リ春日新田ヘ出夫より黒井宿ニ泊リ候図
之処同所四五十軒潰家○焼失ニ而迚も止宿相成兼候ニ
付片町迄参候処同所潰家等無之候ヘ共近辺之騒ニ而何時
潰家ニ可相成も難斗ニ而宿中之もの野原ニ銘々小屋掛住
居いたし居明家致置候間私共儀定宿ヘ罷越止宿之儀頼
入候ヘ共前段之次第ニ而断候ニ付無餘儀右定宿裏之小屋
脇ニ野宿仕候
（欄外）「○源三云
高田者不潰者皆傾家ニ相成修補を不加候而者住居出来
申間敷□（段）
○黒井者焼失者不致」
一片町之○端レ往来筋窪云云場所地裂水砂吐出し往来不
相成様相成居候事
（欄外）「○源兵衛云
潟町下手何と申村ニや至て地窪之処地裂水出申候」
一今町川端ニ高田様御蔵所有之由ニ候処石ニ而畳上候川中
縁石垣崩れ○置米弐千俵位川中ヘ落入候由
（欄外）「○置米ハ積置候蔵米のよし」
一高田より春日新田通リ片町辺之往来村々三軒より五七軒
位ツゝ潰家相見申候
一晦日片町出立海辺北国通リ罷越候へ共潰家并痛所等一
向見受不申候事
一信州飯山本多豊後守様御城下廿四日夜之地震ニ而御城
めり込御家中町家共不残潰家焼失にて過分之死失人有
之由尤殿様ハ御在府之由相聞候事
弘化四末年三月十一日夜□（ムシ）より出火
折節出しの風裂敷暫時焼失之事
丸家拾壱軒
御長屋
竃数二十八
御長柄小屋一棟
新発田藩中焼失場
絵図原本半減縮写
三月十五日夜画氐計
一善光寺宿稲荷山宿ニて助リ候者之内髪毛不残焼又ハ片輪
ニ相成半死半生ニて逃帰リ候ものニ多行逢候事
（欄外）「○災に逢片輪付もの大方駕篭にてかへり候由」
一藪原宿より善光寺迄廿四五里位都合四十里余之場所此
度之地震ニて潰家痛所出来候事
〆
右源兵衛見聞形書取御入覧申候
名主善之助様
黒川順太郎
近藤泰蔵
戸田條左衛門
青木郡三郎
弥御多祥珍重不斜候然者此度信州筋大地震ニ付変事聞
合として彼地へ拙者共急出役被仰付候処いつれも彼地
理不案内勝ニ付御事多之中何共乍以外信濃絵図を始道
之記地名諸様之もの都而心得ニ可相成分帰宅迄御借請
申度此段咄合之上御頼申候間何分宜御頼申候尤可相成
者今日暮前迄ニ御見出し置被下候ハゝ使之者上ケ可申候
已上
四月六日
但六日夜信濃地図かし遣し両道一覧壱枚宛進せ申候
一八日只左衛門ニいさなハれ五十公野山へ行るす（カ）へ石川
氏より書にて下拙借屋義三郎と申もの只今大坂より帰着
ニ付明朝信の路の地震の模様得と承リ書取官ヘ差上度就
夫不案内の地や何卒信の越後の地図をかり受度旨申越
地動作歌 甕雄
ぬはたまのよるひるといはす、ひと日おちす、なゐの
ゆりぬれ、うつそみの、人とある身ハ、たふときも、や
つ子かともゝ、むらきもの、こころともなく、たまき
はる、いけらむかきりハ、こともなく、もなくもかもと、
まくらつく、つまやもかれて、しきたへの、家をもさ
かり、人みなのかりほつくりて、よのほとろ、つまも
子ともゝ、ひきゐて、たひねをすれは、ますらをと、
思へるわれも、たわやめの、思ひたわみて、つねにゆ
ふ、おひをもとかす、うつら〳〵、まろねをそする、
いへにはあれとも、あとゐへに、つまも子ともも、ね
たれとも、やすいもなさす、あかしつるかも
口達扣 四月十一日
去ル廿四日大地震ニ而信濃国字天狗山虚空山在右より抜
落犀川突合川路も築止メ其外三ヶ所同断ニ而右川上三ヶ
所凡六万石之場所ヘ水押開キ数十ヶ村深淵之湖水と相成
丹波島渡場流水無之歩行渡リニ相成候故右通水路此節
専堀割ニ取懸居候由然ル上者前書湛水一時ニ流下ニ可相
成哉又者別場所押切如何体信濃川急満水可致も難斗ニ
付於組々急水之用意無手抜急々取斗可致事
但此節流水之水合見□追而願場廻村之節可申聞事
氐計云此御触村長の油断をおとろかすへし実にハいか
なる大水溢来るとも妻有の素滝にさゝへられ越後の水
害ハあるへからすや此をさることゝして油断をなせる
内雨強く降りて魚沼川志部海川の出水あらはいかてそ
の防をなすへき預防のわさは邑長の常の心とすへし又
天狗山虚空山その地をしらす我此犀川の埋しときゝて
水内橋ノ左右の崩もやせむと噂せしことありこはさハ
らハ崩れもやせむと見て来しなれはなり上件の地者其
地のことにもあらんか尚よくとひきハむへし但かの御
触ハ田宮得一郎ぬし大坂よりこの頃帰来てかたられしよ
り出しとそ又此湛水糸魚川の方ヘおつへくやと噂あり
とて山中ぬしなとも其説にかたむかれしよしきけり信
濃は飛驒につゝきて皇国の高地なり故に諸国へおつる
川々おほかれと姫川の水源と犀川の間にハ幾重の山あ
りて犀川のいかて湛るとも頸城郡へおつる道理なし武
士たる人なとの隣境の地理をしらてかゝるミたりこと
の給へるハいときゝにくきものなり塞かりし川の破れ
て一時に水押来りても我国の河水手伝なくハ洪水の間
長かるへくもおもハれすさらハいかにも心をつけてふ
せかるへし河水の屈曲の地にてよく〳〵、こゝろを用
ひなハなとか後患あるへきやはと思へり
○村松潰家百四拾軒程中村潰家百弐十軒程笹口潰家百
□六（五、カ）十軒程荒井潰家弐百三拾軒程
○上越後信州地震記小田島義兵衛より参候分
岩蔵不残岩砕ケ矢代廿五軒家潰死人拾八人しの根村二
百軒余之処皆潰死人不知数追分宿皆潰稲荷山不残潰死
人千八拾人程丹波島宿廿軒潰れ同渡場者水一向無之猿
ヶ馬場稲荷山通リ今に鳴渡リ丹波島の上ニ虚空蔵山天狗
山くつれ出し水突止メ水内橋之下山崩にて水止リ丹波
島下タ今井にて水留リ松代様飯山様松本様御領分六里
四方水湛水底ニ相成右村方新町始廿八ヶ村沈み込飯山
様御城下町者不残潰れ焼家壱軒ニ人壱人位の事さへ無
之飯山様松代様松本様御三家にも本ノマヽ山ヘ逃登リ被遊候由
尤飯山様松代様者御城潰れ候由善光寺斗死人書上三千人旅人不知数凡弐万人程死亡候家数弐千三百軒程有之よし片はしに五十軒残リ候由藤屋と申旅籠屋三軒にて死人千人斗道端へゆり出され死人二日程焼居申候御堂
者壱尺余かしかり山門者柱黒く焦居申候二王門潰焼荒
町宿潰死人不知数吉村五（ママ）六五六百軒も有之処潰其上山
崩泥三尺余も家の上へ押出し候由人馬共死亡数しらす
牟礼柏原少々残リ野尻関川二股関山不残潰松崎荒井ま
て過半つふれ野尻七家七軒残リ其外不残潰寺壱軒潰山
ぬけ土の下になり寺ノ内廿八人死亡高田より三里隔
り□（吉、カ）田村百四十間潰難波山より酒屋の大釜の如き売リ物
飛いたし直ニ大地震に相成候由荒井宿西の尾と申山三
晩程鳴り大池三ツ出来高田領の腰付楯の村にハ臭水出
候場処不残ゆり崩レ矢代宿ヘ松代様より御出役有之往来
御差留の御高札相立川中島に残リ百姓山ヘ登リ高田様御
領分大関村拾八軒潰れ人数弐十壱人死亡申候山崩れ一
村不残土下に相成リ西大瀧村之者七人連にて善光寺廿
三日泊之処五人者廿四日朝出立之処途中にて死失申候
残弐人之内壱人者死壱人者権堂ヘ遊ひに行たすかり申候
川浦御支配所之内弐百八拾六軒潰れ八百六十七軒半潰
大聖寺様廿四日能生宿御泊リ□三から本ノマヽ野入ふとん巻其
内夜分御泊リ之由四月五日迄之内早飛脚三度御差立之
由御帰城被成度趣御願之由
三条人之書状四月二日佐兵衛供同様之飛脚と申者帰候
咄桂誉重ぬしより
信州表之儀佐兵衛外ニ供同様飛脚壱人遣し置候廿四日
善光寺より七里上□（を、カ）みと申宿ニ泊リ地震ニ合候ヘ共右宿中
皆潰候所右両人泊リ居候宿二階ニ罷在候由家者潰れ候
ヘ共二階ニ而少しもけか等不仕両人共一切不相替無事ニ御
座候趣ニ而右供之者昨日七ッ時頃帰宅仕一同大安心仕候
同人より信州之様子承リ候所善光寺飯山いなり山牟礼〆
四ヶ所共皆潰焼失死人幾万人ニ候哉不相分善光寺宿中人
数三ッ一も相残候哉之由ニ御座候善光寺在「すゝ花川と
申所山崩ニ而川留リ廿四日夜より廿七日朝迄水流不申五ッ
過ニ漸破れ候由妻有十日町辺者水流れ不申由之所廿七
日一時ニ七尺も高ク流来候よし同日信の川泥水ニ相成当
方ニ而も嘸山崩と相察申候所右之次第ニ而御座候
信州第一美濃地と申長六十間大橋谷より谷ヘ之懸橋御座
候処右山双方より突出し丹波島川せき留メ□（今、カ）流レ不申趣
右川上いなり山在新町村大町村其外弐ヶ村〆四ヶ村右
川水たゝ（ママ）ひ候故山崩ニ而家潰れヲ追々（本ノマヽ）水増四ヶ村とも水
底ニ相成申候由此跡何方ヘ破れ出候哉と一同大心配之
由ニ御座候信の一国之大変ニ御座候信州者咄しより大変
ニ而聞立□（らカ）れす候程之儀ニ御座候佐兵衛帰リ次第御□（地カ）遣
し申候間云々」以上
（欄外）
「○信の地名考みのち郡に水内村あり此地北ハ戸隠の
峻嶮により東南に犀川を帯び西に堺川東にすゝは
な川有之一島の如し云々
○美濃地ハ水内なるへし地名考に水内はしあり土人
撞木橋ともよへり中略此地処山はなはたせまり犀
川の水たまりて落ッかの北峰の半腹をうかちて□
酉より卯の方へ行事五丈四尺それより曲りて南ヘ
大橋をわたす長サ十丈五尺廣壱丈四尺欄基の高さ
三尺橋と水とのあひた尋常の水にて五丈余にいた
る碧潭渦見るに肝まさまし」
桂氏聞込伊勢参金比羅参リ之もの帰リ懸地震の夜善光
寺止宿いたし候か段々有之候□右之ものニ限壱人も怪
我なく帰リ申候由
一水原人の話せることゝて地震の夜善光寺の宿屋潰たる
時客の内大工ありて屋根を破リ相客にしめしていふ各
我あとにつきて来ま□（ムシ）助け得させんと高声によはゝれ
ハ我も〳〵と其後につきて遁れ出し□（ムシ）其大工も道具
なとも持たてありなむされとも家を造リ又壊ことがお
のが持まへなれはから手□（ムシ）ても此わさハ素人にまさる
へし此話ハ虚実ハとまれかくまれ実にさることゝ思ハる
其功甚大なり是をもておもへハ旅の道連ハ才子をいさ
なへるかた何事にも利あるへし世の臆病等七曜晴雨考
をミて此後も地震ありといふことをり〳〵ミ□（ムシ）又い
かなる大地震やあるきつかハしといふ其答に地震ハ気
の滞れるか一時に発するなりときけりされはかくまて
大ニ発してあれハ滞も残リ少になるへしかゝれハ又発す
るとも何ほとの事かあらん人も巨萬の金銀を貯ひても
一旦大つかひして後残少になりたらハ又大つかひハ出
来ましく先々当分者大地震の種なく候ヘ者深く案し候者
無益也と談して止む
（中略）
○同（四月）三日七日戈助よりの書通に今町にて去月廿四日夜より晦日
夜迄昼夜四五度ッゝ地震にて家の内に居るものなく皆
表裏小家を懸夜を明し候体なれとも居掛支配下共無事
町方にて女共八人善光寺参詣大地震ニ逢三人ハ逃帰リ廿
八日夕帰宅其途中食物もなく笠わらし抔売者もなく二
夜野宿致たる事なれハ其艱難いひも尽されすとそ此三
人如来堂に籠リゐて助かりしとそ残五人のものハ其家
〳〵より迎のもの尋行て当四日かへれりとそ五人共皆
焼死骨を皆負てかへりしといふ死を遁るゝもの上町三
笠や源兵衛妻当未三十六横町善吉娘せい当未弐十四片平町藤兵衛
妻未四十三四位死骨にてかへれるもの横町庄兵衛母未五十一位柳橋
村出横町勘助妻未四十三片平町喜六弟横町三次良妻未弐十八
片平町丹蔵後家未六十余坂井口藤兵衛妻未五十六以上八人存
亡之者如此
（欄外）「石田甚兵衛云五人之者銘々宅より人参遺
骨を尋候へ共三次郎妻櫛の巻かね有て相知れ其他
四人の骨ハ一トくるみにいたし柏崎ニて分骨致候
由米山より上ハ野宿同様にていまた心地ハなかり
しと愚家出入藤兵衛申候と申所」
○同九日出長沢書状地震の沙汰善光寺町旅籠や綿や仁兵
衛方ニて□（ムシ）四百人も死失家内ニても姉と番頭弐人外
助からす藤兵衛平五郎方ニて者爺と小供弐人外助から
す其他家内死絶の家数しらすといふ
丹波島川上三ヶ所岩山突出水嵩其水上数ヶ村土中□（ムシ）つ
ミ壱村に残れる人三人五人十人と聞え死失のミおほし
とそ此川の塞かりたる所破れて急に水突出る時狼煙を
あくへし其時川下のもの山ヘ逃けのほるへしとしめさ
れしとそ又其場所見分ありしに御領主かきりにて手に
及はす江戸伺ニなりしといへり去月廿九日の地震ニて
松の山温泉ニて弐百人程草津温泉にて四百人程死失何
れも焼失高田も不残焼亡のよし今町馬喰半七ハ善光寺
在小市の馬市へとて馬の数ハしらす二タ綱にして廿日
立ニてのほせけるが廿四日夜ハ野尻辺に泊リ此難ニあひ
たれと馬人とも無事宅にて此大変をきく廿九日立ニて
迎のもの両人遣す途中何れの地にて引逢者也二日二タ
夜人も馬も何も喰ハすに艱難せしよしにかたれるとそ
○四月十六日出石田甚兵衛書簡震災の沙汰去月中の地震ニて
信州山崩ニて筑广川の上水内川落合の辺堰留此辺大川
も渇水せしか去九日右場所破れ初たりと往来の人の噂
ハあれと十四日朝まても夏川にひとしく偽りを伝ひ来
しものよと思ひ居たりしに同日未ノ時頃より俄に出水申
ノ下リにハ八合餘にも及へりとて川へりの里〳〵にて法
螺貝も吹立ものさハかしく刈谷田川も込水にて今町橋
の辺も青渕立流水せすしかる所与板領原村渡リ場下堤
破夫より逐々引□（色カ）つきて漸人気しつまりたり昨夕十五日与
板ヘ水見舞のもの遣ハせしに稲荷町ハ過半床に居新町も
堀つゝきニてハ所々押水せしとそ関根村島田村抔ニてハ
堤の上通る所もなきほとに家具の損ねるものを取あけ
積置しとそ又死人のかゝりゐしを押なかせしか四人あ
りしときけり
氐計云忰か許よりいひおこせたる書に十四日昼四ッ時
頃より出水夕方大水同夜七ッ時頃与板領仁ヶ村堤切ニ
相成右大水に家具死人牛馬猫犬鼠等の死たるか数多
流来候当十日信州出立参候者之咄ニて山崩川押埋候
場所者九日ニ切払少々宛水落候趣申候
○四月十六日水原穴澤氏の返書ニ豆田村と申人家わつか
有之水原ノ葉郷也相並ひ籠田村有之両村人家少々有之
両村共水原ノ端郷ニ御座候別ニ何レ之唱ひも無之候
同昼川浦□（付カ）村々善光寺辺にくらへてハ格別之儀も無之
候得共人家潰イタミとも弐百八十程有之死亡之もの無
之怪我人御座候由但御陣屋元ニ壱人死失いたし候趣御
座候右救方として四百三十五両当御支配水原村市嶋徳
次郎細山清七佐藤友右衛門和泉屋忠蔵芋川徳太郎下條
佐藤帰左衛門市嶋次郎吉其外古嶋権兵衛近藤甚助右九
人高下割合出金□表ヘ元〆高尾俊介ニ佐藤友右衛門和
泉や忠蔵付添右金子持参去月晦日立当月ハ泉原ヘ帰陣
帰村ニ御座候右之段御返事申上候
四月八日善光寺みさきや帳面や也清左衛門三條より□崎や喜助方へ
贈リたる書の中此度当地三月廿四日夜四ッ時大地震大
火にて壱間も不残焼失其上死人餘リ沢山故今タ其数不
知飯山と申所右同断稲荷山右同断山中新町と申所右同
断之上山よりどろおし出候壱間も不残其下ニ相成其外
□在共いたみ所其数不知乍併下拙家内無事ニ罷在候
間乍憚御休意思召可被下候
氐計いふ清左衛門ハ国元の大変を余所にして三條に
逗留せしハ不審ニ似たれとも我家の無事を幸ひ取引
の都合ニよりて家をかへりミさるにや去にても地震
を旅中ニしりて国の一左右を慥ニ聞て立かへらてあ
る歟其故を不知
未四月十八日三條石田理右衛門より佐藤茂右衛門芝田□急用として贈れ
る書に藤内殿御差立ニ付啓上仕候然者信州大変之絵図
面御同人ヘ遣し入御覧申候間御覧被下度候尤巨細ニ筆
頭ニ難尽候間藤内殿より御聞被下度候信濃川上山崩ニて
水関留メ居候所近々破出候ハヽ如何様相成可申哉も難斗
右川筋町在共大心配ニ御座候右絵図面者忰桂治松本ニて
写持参十五日夜罷帰申候処不容易儀ニ付十六日当日陣
やヘ絵図面差上委細ニ申上候所昨朝急々御陣内より右場
所迄見届ニ御同心方両人御出立ニ相成申候尊公様も此
図御城下ヘ被仰立新発田様ニ而も川前多分御領分御座候
ヘ者御用心被為遊候哉御擔持被成下度候右ニ付一ト先ッ
御帰村御村方御配慮被成候方専一ニ奉存候右申上度急
キ乱筆御用捨被下度候早々已上
（中略）○信濃国御代官 飯島池田岩之丞駿府より出張中野 森八左衛門 中
ノ条 川上金五郎外ニ出張 御影ニ在」 御旗本太田隠
岐守高五千石伊奈郡 松平飛驒守高五千石更科郡松平采女高五千石小縣郡佐久郡
近藤信濃守高四千三百石伊奈郡以上弘化丙午改昇栄武鑑
○名主善之助殿星野菅蔵金藤石太郎
役所入用ニ付信州絵図所持有之分借用いたし度此段拙
者共より御頼申候様御奉行御沙汰ニ付申遣候以上 四月
廿四日
信濃地図御出役等ヘ御貸申無之段及御断候ヘ共地震場
考絵図書掛之分夕方窪田様ヘ持参右ニて御用立候哉ニ
申候処貸呉候様被仰聞ニ付則御かし申候
（中略）
○地震火事等の変につきてハ善悪ともにすゝむものある
へしそは貧富にかゝはらす無常じんそくの教を是とし
て多慾をはなるゝもの是善事也こをいたく信して浮世
にあきはてたなとゝ諦めて髪を切すて遁世する又自ら
火に入て死すなンといふものハ愚の甚しきもの也街道
に取捨ある金銀衣服器材の類何にても人めをしのひて
大集候おのか利となすもの悪なり其変にあひ裸身にて
飛出し寒サ堪かたく取すてアル衣服を着又食事をもなさ
て飢渇にせまり路傍にアル酒飯を飲喰ひするものよき
にハあらねと少々ゆるさるへき所も有へきや
○寛保二年壬戌八月朔日千隈河ノ洪水に溺れ死もの数千人
此水災六郡伊奈諏方筑摩安曇等無事」といふことあり此時も山崩等
ありての事なるへきや只長雨なとにて洪水せし自然の
事ならは各遁るゝ術をなして死をなすほとの事ハある
ましく必急水ならてハと思へはなりかの国にてかゝる
大変なるに我国にて此時変難ありしこと見聞なしこは
橋は流失申候
水内村
水湛ヘ水上迠
八リ程
此辺水湛候節巾廿丁
此処四月十三日迠溜り候
水深サ四十弐間
十三日七ッ過破れ出候
此処十三日破落跡未タ八九尺
湛居候得共上ゟ水流レ居候
一[三|サ]水村内半分ハ未タ水中
半分ハ山ノ上ニ而無事
一十三日破出候節水高サ
六丈四尺有之候由
一小松原家数百六七十軒之処
百軒余十三日水大流
相残六十軒程山ノ上ニて無事
一四ッ屋村家数百軒程不残突流し申候
一小市村山ノ上廿軒程残其餘者
不残押流し川原ニ相成申候
虚空蔵山
右小松原四ッ屋村小市村辺迄者水ノ丈ケ六丈四尺ニ押来
夫より水下□幅三里程ニ相成川両側田畑一円ニ押流し
候由ニ御座候
一松代様御領分山中并川中島共
山崩地震焼失共〆家数壱万弐千軒
破損いたし候 死失人数三千六百人馬三百四疋
御高之内六万石破損之由
一善光寺死失人旅人共壱万三千六百八十人此内同所之
人七千人程之由
一いなり山死失人 七百人
一飯山同断 六百七十三人
一牟礼と荒町ノ間吉村と申所家数百拾五軒之所内五十
五軒山ぬけニてド口下ニ相成死失人百六十人
一小松原ノ下川端土俵ヲ積重上候高七尺程専ら松代様
御人数を以御用意御普請被成候処ヘ十三日不時ニ破
れ出急水故人足五六百人程相流候由
右者当御陣内より為見届十七日ニ御出立 廿四日御帰
陣ニ付承リ候間如此申上候已上
四月廿六日
佐藤茂左衛門様
理右衛門」
松代陣所小松原村四月八日出役渡辺甚左衛門
水中村々
水内 上条 新町 穂刈 大原
日名 山平村 三水 竹房 塩本組
牧野島 吉原 今泉
右之外水冠大岡辺多
四月八日朝五ッ半時見極御届之写
外之谷山中両縁不残抜
土色白く雪ノ如ク相見申候
飯山城より下流妻有庄外丸村辺まて川中に廿余所の滝
ありて水行をさゝへし故はか〳〵敷はきは（カ）らひのつか
されはなるへし今ハ素滝ほかハとりさらへぬれはさゝ
へる所別になく此度の山崩にて湛ひし水押切一時に突
出したらは一旦大水をなして人をおとろかすこともあ
るへけれと其間長からされハ少しくこゝろを用ひなは
堤を押破るほとの事ハあらさるへし
四月廿九日清野屋槙平帰着ニ付尋問之趣十日町辺千曲
川夏川にもなき減水にて歩行わたりにせらるへきとこ
ろありと聞けるよし夫故渡銭常ハ拾七八文之処十文ッヽ
なりといふ十日町にても信の路ヘ追々人差出し□川の
塞リ破れ候ハヽ早くしらすへきよしを申付急を告させ
候由十四日暁七ッ時十日町ヘ水押来小千谷ヘハ同朝五ッ
時前壱番水押来候由古財（材）木をひろひ上たるもの妻有
より小千谷下迄太造有之由
十日町組ニて新座村源七六日立候て信濃ヘ見届ニ参十二
日帰着迄の筆記絵図とも十日町蕪木某ノ許ニて写来候
分信州地震崩山抜場見届控
一川中島四里四方之処大半潰家死失人も多分有之候趣ニ
相聞候ヘ共末タ区々之風聞ニて村数を始家数死失人聢と
相分リ不申候
一稲荷山家数八九百之処惣潰出火死失人も有之候趣ニ相
聞候
一上田様御城下家数壱万程之処惣潰御領分も外様よりハ多
分之痛ニ相聞候
一松本より岡田刈屋原間宿青柳大見善光寺より越後路潰れ
候程ニハ無之由候得共大痛之由風聞仕候
以上四条槙平承形（カ）以下源七聞合形（カ）書留
三月廿四日夜四ッ時青倉村凡壱里程奥より抜出家弐軒潰
壱人死失
一上堺村家五軒潰残家半潰と相見候
一戸刈村三ヶ一潰残家半潰死人拾六人
一水澤村潰家右同断死人不相知
一飯山町惣潰之上焼失尤下リ入口少々御城塀不残崩幕打
廻し御座候右御城壱丈も土中ニ落込候との沙汰ニ御座
候潰焼家数不承土蔵五十戸前斗焼残リ候由死人五百余
人と申噂ニ御座候
一志津广村五分通潰残家痛
一大久保村右同断
一皆□（佐、カ）峠之内弐三軒宛有之候家者皆潰ニ相成候
一上今井村大倉村之辺痛家ニ而潰家者少々之様子ニ御座候
一浅野村三分通潰家七分通リ痛家
一神代村九分通リ潰家壱分通リ痛家
一三才村右同断
一荒町村三ヶ一潰残痛家
一吉田村五分通リ潰焼残五分通之内半分潰家半分痛家
一善光寺町之儀本堂経堂鐘楼本願寺無難御座候但本尊様
北ノ方麦畑ニ而御開帳外寺々町々小路浦通不残潰焼失丹
波島船渡場ヘ参候所町端凡弐町斗焼残死人壱万弐三千
人との沙汰ニ御座候ヘ共区（カ）ニ而家数不相知
一窪寺村九分通潰家壱分通痛
一小市村右同断
一小松原村右同断
犀川御普請ニ付松代様より御出役郡奉行三人一日宛交代
御先手惣奉行壱人道橋方奉行壱人御代官様壱人御賄方
役三人其外御下役様方大勢御出張日々人足三千五百人
宛と御普請也尤安庭村大抜之御用心川中島防之為と相
見候御陣所之儀者小松原村之上松原之中段ニ御座候扨
又川中島之もの抜山押切水押出候を恐南方之山こしニ
引越小屋を懸住居致迷惑成義ニ御座候
一犀川入口小松原村より大抜場迄道法弐里余ニ御座候右場
所ヘ往来筋之内難渋之処数ヶ所欠崩数多漏水溜リ殊ニ穂
玉村と申下タ之方漏水溜リ候所もろ〳〵と涌上リ湯花流
出申候大抜より上新町と申処凡家数三百軒余御座候町不
残崩焼失致直様惣町水中ニ相成候
一才川筋山中谷々之儀ハ外々とハ格別之大地震ゆるき候
由山々小澤迄一体ニ崩れ言語ニ難演大変ニ御座候
一川中島之内中野御支配所并上田様御領分少々入組斗松
代様御領分斗死人是迄痛之分凡三千五百人程未追々死
人注進御座候由ニ相聞候
一小松原村松代様御陣所より安庭村大抜之場所ヘ一日ニ三
度ッヽ代リ々の御出役ニ而水嵩溜リ候を御見届被遊候
松代様より小松原御陣所ヘ御出役御名前
御代官南澤甚之助様
郡御奉行竹村金五郎（カ）様
御賄所出役池田三七様
五明富之助様
渡部甚右衛門様
但御同役三人一日代出役
御先手惣奉行横田甚五右衛門様
道橋方奉行宮嶋守人様
飯山より高田通
一中曽根村と申所家数四十軒斗之処生残リ候人数四十壱
人其他ハ死失ニおよひ候よし是ハ富倉峠抜出し潰れ候よ
し
一中条村百軒斗之処ニ而死人五拾七人馬拾五疋死失之由
相聞候
一笹川村と申処弐拾軒土下ニ相成候よし
一牛ヶ首村と申処ニ而壱人たすかり候而巳ニて家数弐拾軒斗
之処土下ニ相成候
一吉村と申所山崩れ凡家数六拾軒之処皆土下ニ相成然ル
処越後之者三人連ニ而右之場所通リ掛候処土中ニさけひ
候声聞え候故三人ニ而土弐三尺堀除候処家之棟ニ取付泣
居候故助ケ出し候由尤土下ニ相成候日より十二日目ニ而助
命いたし候由
一笹澤村と申処池之堤押崩家三軒押潰壱軒ニ而七人ッヽ死
失致候よし残壱軒ハ無難ニ遁候由ニ御座候
是迄源七書記
○此条槙平見聞形（カ）
一四月十二日山中新町山抜才川〆切置候場所十三四里水
溜候処も□（ムシ）水ニ而猶又北方ヘ壱里四方水湛候を同日松代
様より御出役之上くみくつしを以打払候処水勢壱丈余
ニ而押出し川続村々数ヶ村家数何程ニ候哉押流千曲川小
千谷辺迄古家古屋根川巾いつぱいニ押流誠ニ前代未聞
之出水ニ御座候此後大湛之場所押切候ハヽ猶々大変ニお
よひ可申候寺壱ヶ寺酒造家弐軒押流太鼓酒桶等妻有ヘ
流れ来候事
（中略）
○村上藩中の人上下四五人と聞ゆ三月廿四日の夜善光寺
町に止宿して地震にあひ連のものに構はす壱人潰れ家
を遁れ出たる跡其家焼失翌翌日にも□（ニ）や焼失家の火を
しめせし所ヘ行同士とゝもに我居しあたりと思ふ所に
ある死骨を拾ひて居たる所ヘ連れのもの両人来りて互
に無恙よろこひをのへてのち弐人のものより御手前ハ
何をして居られしとふ壱人答其許達の焼死せられし事
に思ひ心あてに其許達の屍なるへく思はるゝ所の死骨
を拾ひて各方の家におくらむとする所なりといらへせ
しとそ麁忽なるしわさなりかしもとも連れたる僕は壓
れ死せりとそあハれむへし
○同し町の地震潰家より水原の人追々遁れ出たるが出火
の災をのかれて居ところハたかへるなりはた三人とも
に各連れの人の生死をしらす夜あけて東西にさまよひ
あるきうちに両度まてゆきあひて□互にかほ見合其人
なりやと思へとも各面部に疵を請髪毛やけ失せたるな
とにて面体かハりあれはしかと取すゑかねてありしに
三ヶ度めに其許ハ誰〳〵にハおハさぬやと名乗あひ声
かけてやう〳〵夫としれてこゝろおちつきぬとそ実に
さもあるへし
○五月四日中之嶋にて刈谷田川を堰留む其夜より水嵩ま
さりて門樋に水かゝりありしとそかくすミやかに水ま
さりたちは堰ハ保ちかたけむと思ひゐしに左にはあら
て五六日もよく保ちたりときけりさらハ防き方のよろ
しきにやと思ひかへせしにさにハあらて三月廿四日夜
地震のをり此川水をこみあけたる事すてに前にいへる
かことし是はかりかは江筋の水行さへもさゝへること
大面組の和谷源兵衛等がいへるを考れは水をせくほと
の川筋ハ何れともなく川床高くなれるなるへしさらは
かの堰上の門樋に水のかゝり早きハ川床の高くなれゝ
はなるへし
（欄外）「堰ハ田植稲を育るためのこゝろかまへな
りはしめ水かゝりのよろしきを誰も〳〵うれしく
思ひしも後になりてあまり水多く溢れて稲を害せ
り是もまた塞翁か馬の類ひなるへし」
○善光寺表地震の時二階まてもよく潰れたるを不審に思
ひしによく思へは近頃土蔵造瓦葺の家作となれゝはな
るへしそは板屋ふきなれは押への石をふり落し上軽く
なれと萱ふきと同しく上の重リハもとの儘にして厚壁
の傾く重りに鉤倒されしならんか尤皆潰にハあらて建
る家も交りて何れはよく焼たるなるへしもの皆得失あ
りあくまて丈夫もまたよからす又弱〳〵しきもよから
す只中庸のしわさなるこそ何事もよかるへきや
○地震変事読売
此度未ノ三月廿四日の夜四ッ時とおもひしころ大ぢし
んゆり来リ善光寺ハ惣つふれミなやけ宿坊はたこやあ
またの道者そく死けがにん数しれす中ニ藤屋両家わた
や凡七百人ほとツヽとまり有しニゆうやう十七八人
ツヽたすかりしと也其中ニ残しハ大くわんじんしやか
堂山門本堂也善光寺より上ハたんばじま七分つぶれし
のゝ井同いなり山つぶれミなやけ是より松本迄宿々い
たまぬ所なし松本ハ三分つふれ江戸道ハ小もろ迄いた
まぬ所なし上田ハ三分つふれ松代惣つふれ飯山ミなや
け善光寺より下ハあら町通一り半ほと皆やけむ□同柏
原惣つぶれのしり七分関川同是よりゑちこ高田迄いた
まぬ所なし善光寺より飯山の間しぶ村田中村おんせん
バ也惣つぶれ同所より五リ北すミだ村と申所ちくま川ヘ
三十けんつきいだし五六十人死す或ハ池田村近辺の山
さい川へつきいだし水かミハ九合ほとの水ニて村々な
かるゝ所もあり松本迄上水ニ相成候よし此山水一度ニ
なかれ出れハ松代ハひとなかれニ相成候故西山本ヘしゆ
つぢんこれあり水なかれいたし候てのろしをあいづニ
いたし山ヘにげあがるとの事也又松代よりたんハしま
并ニ善光寺の川原出ぢん有也さて善光寺をはしめ御城
下宿々村々死人いく万人ともかすしれすまことに古今
まれなる言語道断なれハ筆紙ニつくしかたくこゝにふ
しきなるハ奥州の人伊勢参宮ニ八人つれニておそく善光
寺ヘつきふちや平五郎宅の木小屋ニとまり此小屋つふ
れす八人ともぶじなるハ全く伊勢様へしんじん参リい
たし候ヘハ神のごりやくなるか有かたし〳〵
心たにまことの道にかなひなはいのちすとても神や
まもらん
○小千谷人素明高橋長左衛門俳家なり六月十四日清野屋
に来相見古稀近うして松島をミて居ておもふか故かな
栗橋にて水あとの壁に残りて秋の風こは丙午水難の跡
をよきりての句也小千谷盆踊甚□ぶし此地の人祝盃
を採る時天神林の吹をうたふ「天神林梅の花一枝をり
て笠にさす笠にさすよりしまさき女良衆の手にあけよ
□入村西南山のがけの上に天狗さくらといふ有廻リ道
して木の下にもゆかるゝとそ夏の土用になりて此木の
葉或ハ黄にも白くもミゆる是を里人天狗の土用干とい
ふさくらハ吉のかとも思はるゝとそ此村に王塚后塚と
いふふたつ並ひてたてり玄純云大臣塚也如法寺村の温
泉三月廿四日の地震後火を用すともよろしきほとにあ
たゝかになりてわき出るとそ
真人村の端郷若栃にて狸狩はしめハ同村庄兵衛といへ
るものゝ企也後なるハ小千谷へ願ひて日の丸のはたを
たてゝかりしとそ
○水原信のや某か妻善光寺に詣て地震にあひしに其夫宅
にありて其死生をしらさりし時人げんにても其さき
〳〵の晴雨を弁し晴雨考なといふものもかけるを衆人
にたふとまるゝ仏か開帳なとゝ号し諸国の人をおのか
膝許へ招きよせ地震にころさすなとゝハ不届至極の奴
ッ善光寺野良頰見（ママ）たくてもないといひしこゝろをかし
けれされとも人情としてしかるへし
（中略）
池の島喜三郎長岡ヘ聞合ニ参分家平五郎より年寄を
以大（カ）奉行萩原要人様ヘ御伺之上品々書立候書面前略
飯山御家中宮本惣三郎より江戸詰平野氏江之書状
一廿四日夜四ッ時前頃大地震乍恐二の丸御殿始として両
御舘御門々御櫓御塀不残御家中一軒も無難之家ハ無之
侍分之内男女死人五拾五六人夫より以下ハ数相分不申候
同長家之内ニて死人無之候御賄方景松栄助大納戸役関
次太夫殿水野藤右衛門□家□内位之事ニ御座候私方
ニても母少々怪我いたし候得共命ニハさわり不申候今日
頃ハ腰少々立候様ニ相成安心仕候焼失者小西要人宅より
是ハ同人孫共三人ッヽ死ス柏木久左衛門死去矢矢（口カ）野
伝七（次カ）郎宅焼御側本田初（勘カ）右衛門殿焼家内子供弐人死弓町
長家不残焼小川長家不残焼家并死人多御座候得共略ス飯
山中川屋不残焼失地震故土蔵迄壱ッも残不申焼寺御堂
適々無難ニも御座候得共半潰ニ御座候此節善光寺開帳
ニ而諸国より参詣御座候所同所不残潰レ御堂山門残リ死人
者何千人と哉不知同所藤やと申宿屋壱軒ニ而五六百人餘
も死去其外之宿屋ハ右ニ準在家八十軒ニ六七軒ハ潰高田
より昨日飛脚参候同所ハ家之潰レ候程之事ハ無之趣申聞
候乍去曲家ハ沢山有之趣先ッ飯山よりハ少々軽ク御座候
由御実家ハ御安事被成間敷候当所者地震折々御座候間
安心相成不申未タ何レも野宿罷在候天地開て前代未聞
之事ニ御座候扨々かゝる時節ニ生れ候も能々罪深き地
獄之形様ニ御座候私宅抔ハ仕合ニ而焼失も無之故道具抔類
ハ不残堀出し申候御安事被下間敷候先ッ差当リ困リ候も
のハ水油蠟蠋ニ御座候一度ニ急危ニ潰レ直様火事故町中の者何
壱ッ出し候ものも無御座候井戸〳〵も不残砂吹出し埋
候故呑水ニ困リ大迷惑仕候何事も是ノ書ニ而御察可被下
候以上
□如此書ふりイ三日認
四月十二日
昨十八日善光寺権堂村より参候書状之写
一当三月廿四日夜四ッ時前善光寺御山之内町々在々飯山
松代両城下不残其外近在寺々神社堂一時ニ潰候義目も
当られぬ次第ニ御座候横町始メ所々より一時ニほのふ上
リ大火となる其外所々焼出し薬種屋よりいんしやう焼
出し誠ニ地雷火国崩本ノマヽと者地獄の有様斯あらんと被存候
善光寺八町之町と申ハ御寺領之内家数五千軒余其外小
路裏町廿ヶ所権堂村田町村と申両村御座候善光寺八町
ノ町中ニ而即死壱万七千人餘怪我人数不知其外旅人の
儀ハ幾千人共かぞへがたく本堂山門此二ヶ所ハ少も痛不
申御無難ニ御座候此義も誠ニ不思議の次第ニ御座候善光
寺八町ノ町西ニ当リ朝日山又其裾ニ鈴花川と申山澤より出
候大川有又善光寺一里南丹波川と申大荒川御座候善光
寺大門丹波川入口舟渡し右入口鈴花川水分リ口小川筋
八幡川と申有之其川々等泥吹出し又ハ井戸水も皆泥ニ
なり右丹波川鈴花川両川水一水も不来候故皆々不思儀
ニ思ひ忙然として居候処廿六日夜七ッ時より鈴花川より水
出し候故少しハ安心仕候丹波川の水上水内郡水内村水
内之橋と申ハ日本第一の橋ニて両方より懸出し長サ廿二
丁右橋之下の平水五六丈も有之岩山両方より抜出し右
丹波川水さいぎり只今ハ一水も不出右ニ而川中嶋と申処
村数何百ヶ村とも不知皆々千曲川在々当分東山ヘ逃行
候此所山中三万石申所ニ而所々村々より逃登リ誠ニ如市中
ニて新町笹平村と申所皆町同様の場ニ而誠ニ繁花之地ニ候
得共右新町始何百ヶ村とも無水底ニ相成夫故山中の儀只
今ニて者水海同様ニ而町々在々居所ニ当惑之体左ながら
乱勢のこ（カ）とく右ニ付真田信濃守様より毎日水先御見分騎
馬武者五六騎ツヽ又注進の武者櫛のはを挽か如く水元
山の上ニのろし一ヶ所弐里程下リ又壱ヶ所御城下ニ一ヶ所
右三ヶ所ニ而合図之のろし出即刻ニ信濃守様御出馬当節
野宿ニ相定リ罷在尤右丹波川之儀者此後右場所ニ而水海
ニ罷成候哉又者右通リ之流ニ相成候哉唯今ニ而者相分不申
其外色々不思議も有之候得共筆紙ニ難尽荒々申上候以
上
四月五日
一当十四日大水之儀者彼の才川突出し之場所高サ三丈余
廣サ十八丁程堀割ニて込水一時ニ流出水下タ人多死又飯
山より二里北の方川筋小杉むらとかり村右両村夜中ニ水
押懸ケ十八軒流家人多ク死ス
一長岡様御領分堤通リ村々出水御手配之義一向御用意無
御座候
一諸家様より追々御聞合を始御見舞御使者等御差出し不
被遊候趣長岡様ニ而者殿方ニ而御出座為在候哉御伺申上
候処是迄使者等一向差遣不申尤此後差立候ハヽ可申入
旨被仰聞候
右聞合形乍恐以口上書奉申上候以上
未四月廿一日
名主喜八郎
大庄屋宅所
信州長沼塔中勝念寺より文通写
大地震潰扣
長沼より二里西
一善光寺
死失人八千人程内三千人ハ旅人
惣潰之上焼失
但本堂三門経蔵ニ（ママ）残る大勧進居宅半潰焼残
其外本願上人始坊舎不残寺社町家不残
焼失端々少々焼残申候
善光寺死失人壱万四千人と申説も有之分明ニ相分
リ不申候
更科郡善光寺より四里南
一稲荷山宿 惣潰之上焼失死失人百人余
植科郡善光寺より三里東南
一松代 大半潰 死失人少々
善光寺より三里余北在村
一吉村 死失人七十人余
半分ハ潰半分ハ山ぬけニて家人共土中ニ埋申候
同所より四里北
一牟礼宿 惣潰十三軒焼失死失人弐百人余内七八十人旅人
同所より七里北
一飯山惣潰焼失本丸も焼失之由ニ候へ共かくし置申候死失人家中七十人町家五百人余
其外宿々村々水内郡者大半潰申候更級郡大半潰高井
郡ハ潰者少分ニ御座候
善光寺より東南之方山手
一山中潰之上大満水松代領三万石水入村廿八ヶ村松本領有之死失未知
右者善光寺より六里程川上ニ水内組有ゟ夫（ママ）ゟ一里下ニて
名所虚空蔵山と申岩山抜北ノ方其上ニ岩倉山と申山抜重
リ左リノ方犀川を遮リ川下ヘ一滴流レ不申山中地名一万石
程之所湖水ニ相成候由此水万ニ一度ニ押出候ヘハ善光寺
平一円水中ニ相成候間諸人安堵之思無之気も魂も天外
ニ飛狂気之如く有様ニ御座候併右満水之儀多分川上山
中ニ而湖水と相成可申と役人申居候誠ニ此度之儀者地震と
申満水と申古今未曽有之大変ニ御座候当所抔より組合七
ヶ村ニて番々ニて川上抜場ヘ人足遣し日々騒動仕候先ッ
只今之処ハ異説区々ニ候間追々委細申上候
信州長沼勝念寺
変事○四月廿日江戸飯塚久利文通之内善光寺藤屋多五郎方五
百七十壱人泊リ有之内追々三十五人家根を破リて逃出
申候残リハ焼死即廿七日松代侯より死人御調有之候処自
他国ニて凡六万三百余人と之事一震にて地面六七尺もも
ちあかり其儘居付候間町家不残潰直様火五ヶ所より発し
候間家之底ニ生居候迄も一時ニ焼失仕候飯山城崩町家
より出火死人不知数松代御城内大痛迄ニて出火無御座候
町家潰多分出火無之怪我人不知数稲荷山不残焼失里人
六百拾三人死去拾人不知数八幡焼失尤御社内者末社ニ
至迄無事ニて霊現如此川中島多分土中ニ埋候村方有之
松代領山中と唱□（ムシ）一郷三万石余犀川上山中者凡七八里
程之湖水と相成数村水底ニ相成里人ハ山上ヘ逃去小屋懸
致罷在候四五日已前ノ白気甚敷棚引申候貴国ハ如何御
座候哉海岸御堅メ之義ニ付京都より被仰渡候趣向差上申
候是ハ珍敷事ニ御座候
近来異国船時々相見候趣風説内々被 聞召候雖然文道
□修武事全整候御時節殊ニ海辺防禦堅固之旨被 聞召
候間御安慮候得共近頃其風聞屢有之彼是被為懸叡念候
猶此上武門之面々洋[変|ハン]之事不従小虜不畏大賊運籌策神
州瑕瑾無之様精々御指揮候ハヽ弥可被安宸襟候此段可
有御沙汰候事
右者弘化三丙午八月廿二日武家伝奏当郷より所司代酒井
若狭守ヘ如此御達ニ御座候
（中略）
○方丈記鴨長明抄録又元暦二年の頃大ないふる事侍りき其
様よのつねならす山ハくつれて川をうつみ海ハかたふ
きて陸をひたせり土さけて水わきいていハほわれて谷
にまろひ入渚こく船ハ波にたゝよひ道行駒ハ足の立と
まとハせり况や都のほとりにハ在々所々堂舎塔廟一と
してまたからす或ハくすれ或ハたふれぬる間塵灰立上
りて盛りなる煙のことし地の震ひ家のやふるゝ音いか
つちにことならす屋の中にをれハ忽に打ひゝけなむと
すはしり出れは又地われさく羽なけれは空へもあかる
へからす龍ならねハ雲にものほらむ事難しおそれの中
に恐るへかりけるハ只地震なりけりとこそ覚侍りし其
中に有武士のひとり子の六七ハかりに侍しかついひち
のおほひの下に小家を作りてハかなけなる跡なし事を
してあそひ侍りしか俄にくつれうめられてあとかたな
くひらに打ひさかれて二の目なと一寸ハかりうち出さ
れたるを父母かゝへて声をおしますかなしみあひて侍
しとそあはれにかなしくミ侍しか子のかなしミにハた
けきものも恥をわすれけりと覚へていとおしく□（理カ）かな
とそ見侍しかくおひたゝしくふる事ハしハしにてやミ
にしかとも其餘波しハ〳〵絶すよのつねに驚くほとの
地震二三十度ふらぬ日ハなし十日廿日過にしかハやう
〳〵間とをになりて或四五度もしハ一日ませ二三日に
日名ノ上ニ橋木といふ村あり松代松本領々界其上
栃沢舟場野平此三村迄水附此より松本迄八里
内二里程山路
此辺山也
小松原
御べ川
水三尺程
此はし大日名辺迠
サカ流し
千曲はし
此川抔至而小水
大安寺
高サ四十間
岩落
長サ余百間
善光寺
一度にと大かた其名残三月ハかりや侍けむ四大種の中
に水火風はつねに害をなせと大地に至リてハ殊なる変
をなさすむかし斉衡の比かとよ大なゐふりて東大寺の
仏のみくし落なとしていみしき事とも侍けれと猶此た
ひにハしかすと□□人ミなあちきなき事を惑ていさゝ
かこゝろのにこりもうすらくかとミし程に月日かさな
り年越しかハ言の葉にかけていひ出る人たになしすへ
て世の有にくき事我ミと栖とのはかなくあたなる様ま
たかくのことしいわむや所により身のほとにしたかひ
て心をなやます事ハあけてかそふへからすもしをの
つから（れか）身かなハすして権門のかたハらに居る者ハふか
くよろこふ事ハあれとも大に楽しふにあたはす歎ある
時も声をあけて泣事なし進退やすからす立居につきて
恐れをのゝくさまたとへハ雀の鷹の巣に近つけるかこ
としもしまつしく富る家の隣にをるものハ朝夕すほき
姿を恥てへつらひて出入妻子憧僕のうらやめるさまミ
るにも富る家の人のないかしろなるけしきを聞にも心
念々にうこきて云々
（中略）
○松本人の話せる地震の模様并地利
木曽川より西の山迄何れの処も五里斗其内越中飛驒より
出水ありあつ沢川といふ野平より二里程上ニ忍野といふ
村ヘ出つ又□ヶ岳より出る水あり高瀬川といふ是も同所
ヘ落る皆大河也忍野より下犀川といふ
善光寺より松本迄拾六里潰れ場之方新町より十三里其下
□リニ而潰場 関川より高田迄少々のいたミ
○善光寺如来縁起といふもの仮名書にするもの五本
元禄五年有序あり其中天平宝字六年壬寅四月廿四日大風吹大
地震動善光寺におゐて破損なし治承三年己卯三月廿四
日巳刻天火ふり金堂回廊焼失文永五年三月十四日夜半
西門より出火一宇ものこらす正和二年三月廿二日酉刻
炎焼応安三年四月三日夜寅の時炎焼応永三十四年丁未
三月六日午刻東の門失火一宇ものこらす又善光寺如来
♠浮檀金一光三尊弥ママ陀尊并脇侍観音勢至
（中略）
○地震変事遠藤七郎左衛門より見せ候ニ付
御代官高木清左衛門信州中野御支配所之内
村高四万千弐百八拾六石余 九十壱ヶ村
家数六千八百七拾弐軒 人数弐万弐百拾五人
潰家弐千九拾五軒内拾三軒拾三軒焼失土中埋
半潰七百八十弐軒
潰高札場拾弐所
潰郷蔵弐拾弐ヶ所
潰堂宮寺六十七ヶ所
怪我人千四百六拾人
即死人五百七十人
同馬百五十六疋
同牛弐疋
右書上写
○最寄替 越後国頸城郡
御代官所
一高弐千七百拾六石七升八合
稲原 下廣田 本郷 沖柳 上廣田 岡木 廣井
長岡 米子 長岡新田 〆拾村
是者柳原式部太輔御預所より請取
同国同郡
当分御預所
一高三万三千百七十九石三斗四升四合
行野 相岡 牛ヶ鼻 中野 菖蒲 上舩倉 下舟倉
次川 信濃坂 二本木 高沢 小浦田 樽田 仁上
福島 室野 峠村 湯本 湯山 尺水越 天水島 度
倉 中尾 来川 上鰕池 下鰕池 古戸 観音寺 猪
野名 藤内名 橋院 坂下 小間 新山 小谷 水梨
黒倉 東浦田 西浦田 中立 山新田 藤原新田 南
浦田新田 浦田口 五十子平 赤倉 三桶 松口 海
老 沢口 千嶽 大荒戸 小屋丸 小荒戸 大平 田
澤 和田 本郷 上方 上道 大島 虫川 細野 坊
金 下猪子田 松崎 真荻平 円平坊 戸澤 切越
小黒 芹田 石橋 高谷 谷村 真光寺 安塚 下方
坂尾 神山 牧野 熊沢 有島 菱田 長走 桜島
法定寺 平方 坪山 横住 平山 嵩澤 山岩室 山本
今熊 末野新田 払澤 末野 猿俣新田 青野村 山
□新田 田沢新田 梅田新田 石川村 上吉野 岡崎
新田 五野井 越柳 神田 上吉野新田 福岡新田
下吉野 大原 石神古川新田 石神新田 石神 飯室
飯室新田 塔ヶ崎 □ 川浦 島倉 柳林 錦野村
新屋敷 米岡 吉岡 三王新田 鶴町 東原 田中
釼 下池部村 四ッ辻 上池部 並木新田 坪野 本
山新田 坪野 木和田原新田 儀明 蒲生 池尻 小
池 名平 田野倉 仙納 節平 犬伏 松代 下□
板山 岡村 田□ 大印内新田 山印内新田 印内
日向 大蒲生田 横川新田 顕聖寺 猿俣 長坂 国
田 国田新田 杉坪 岩沢 大賀 名木山 横川 高
沢入 石谷 尾神 大栃山 川谷 小蒲生田 下柿野
東俣 釜渕 上猪子田 上柿野 田代 蓬平 今澤
清水 桐山 大平 中猪子田 小谷島 菅刈 貧池
苧島 中子 瀧沢 片桐山 井野口 三村新田 新[保|ホ]
今保新田 所山田村 岡田 今保 大光寺 宮崎新田
島倉新田 桑曽根 田中 村岡 田中新田 塔輪
〆弐百拾ヶ村
是者石原清左衛門より請取候分
同国同郡
当分御預所
一高千三百廿壱石九斗五升弐合
角川古新田 重川新田 浦梨子 米岡古新田 角川
荻野 〆六ヶ村
是者柳原式部太輔より請取候分
○七月廿日暁七ッ時過地震震方長き事も三月廿九日夕の
と大体同しく覚ゆ
（中略）
乍恐口上
一此度犀川堰留メ水湛場所見届ケ被仰付慥ニ見届候所去四
月十三日七ッ時頃ニ候哉大堤小堤共ニ一時ニ切落候儀相
違無御座候乍去大堤切場所北之方ニ大石残リ南之方より
水壱丈計リ高ク流落候尤此所大石大岩之類ニ而壱里計リ
之内川筋浅相成中々容易ニ右之川ニハ相成申間敷と相見
ヘ申候右ニ付未タ水上ハ水弐三丈も湛居候ヘとも最はや水
入拾七ヶ村之内十四村者陸ニ本之まゝ相成今弐三村水中ニ有之候
由ニ御座候尤満水之節ハ水廿丈も湛居候由ニ候ヘハ左も
可有之哉とも被存候右ニ付此程ハ水下之御百姓安心致
候との事ニ御座候
一松本領松代領御料山中一円ニ湖水ニ相成居候儀ハ間違無
御座候へとも山中ハ不残松代様御領分ニ而水上少し松本
様御領分有之候由ニ御座候
右場所松代様御高之内山中三万石と申て七八万も有
之よし宜敷場所□（与カ）申候尤表山中裏山中ニて両谷ニ御
田地多ク御座候由ニ御座候
一水湛場所松代様御切落し御手段又ハ糸魚川大龍川等へ
御切落し之儀ハ一向無之事ニ承リ候此儀ハ水湛場所少し
上[南|ミナミ]之方ニ小山有之此山常ニ水ふみ土甚々和らかき所
ニ而此度洪水ニ万一抜落候てハ松代様御城下真直押之場
所ニ而御上ニも御心配被為遊候へとも水堤場所切落ハ人
力ニ不及右ニ付堤切落チ候ヘ者此のろし又小山切落候ハヽ
此のろしと合図ヲ定置御年（手カ）重之御方御両（カ）方斗右小山之
近辺ニ御陣取被遊候との事ニ御座候
一山中水下之村々此節ハ小家掛等致又ハ農業ニ出候ものも
相見ヘ申候
一諸家様方御手宛之儀ハ未タ一切無之由ニ御座候善光寺大
勧進様御本堂右之方畑中ニてかゆ被下候所一見仕候松
代様ニても御城下ニ而かゆ被下置候由ニ御座候
外ニ堤切場所麁絵図面壱枚信州地私共通筋地震場見
分之所覚書手帳壱冊奉差上候
甚八
弘化四未年
権左衛門
大庄屋元
弘化四年三月廿四日夜四ッ時信州大地震ニ付犀川山抜
ニ而水溜リ場見届ケ罷越候道筋見別聞書覚帳
四月廿四日八ッ時出立今町権左衛門
〃与三郎
四月廿八日信州入
地震場見別之所聞書覚
一野尻宿百軒程之内潰家七十軒
死人十八人
一一里柏原宿右同断潰三十六軒
死人十六人
一半リ古間間宿也潰家九分五リ
死人廿八人
一小玉村同断皆潰死人十弐人
一一リ半むれい宿皆潰死人百七十人
内有（ママ）者廿四人
中程燈矢有
一吉村
右者新町宿迄之間ニ在也本のまゝ此所山よりどろ水おし出し家数
五十弐軒人百八十四人馬八疋不残とろ之下ニなり死ス
私共通リ候節壱人ほり出シ其所往来馬留未タふよ〳〵致
おり候
一二リ新町宿
是より善光寺へつゞき村々八九分通リ潰死人相不知
同一リ廿八日善光寺泊リ
一善光寺
大門丁 呉丁 東横丁 西横丁 権堂 田町 ガン石
新町 伊勢町 東門 西門 タツ町 桜小路 あミた
相之木 あら町 横山
〆不残潰又焼失
内権堂少し呉町少し焼残る
外ニ
御山内 二王門 坊三十六軒
寺四ヶ寺不残焼
一御本堂 御山門 御宝蔵 大勧進
右四ヶ所無事
此節御本堂戸しまり参詣出来不申候如来様右手二
三丁はなれはたけ中ニてかり堂立御開帳
善光寺 権堂 両所之死人
四千百九十三人権堂ハ松代様御領分ニて如此旅人死人未書上ケ無之
同廿九日善光寺より犀川水溜リ場所江罷越候[道|ミチ]筋村々見
分之聞書左之通
善光寺より一里
一小市村九分通潰又流失
是より水溜リ場所ヘ凡三里犀川谷間南北村々見別聞書
一吉久保村 潰
一瀬沼村 〃
一井森村 〃
一藤沢村 此村山崩不残牛馬共ニ死失家数四十軒余
一山村山
一大安寺村 潰
一下平村 〃
一下長井村 〃
一岩倉村 此村山崩者（てカ）川ヘ押出ス牛馬共ニ死ス家数三十
軒余他行いたし候もの三人残居候由ニ御
座候
一今泉村 潰
一氷熊村 〃
一水内村 〃
此上水溜リ場所ハ長井村南ハ岩倉村此山くすれ犀川止リ
小堰場是也（細字）此上半道斗リ上ニ大堰場也北ハ上長井村南ハ
コクサウ山此山おし出し大堰ニ成ル此堰南北四百間川
成ニ長サ六百間斗リ高サ三十丈斗リ水溜リ水上迄七里半位
此水下十七ヶ村水そこニ成三月廿四日より四月十三日迄
凡廿日斗リ水溜リ深サ廿丈右之堰四月十三日切落し只今
三ヶ村水下ニ成居候由最はや川下水なん心遣無之候
松代様御領分中書上ヶ写
一潰家八千五十壱軒
外ニ堂宮社家土蔵物置申立不分明
一死人弐千八百六人
怪我人九百廿五人
牛馬弐百弐疋
一松代様御城下之死人弐十五人
一善光寺権堂死人四千百九十三人
一水ナン 三十壱ヶ村
水失 家数
六百廿七軒
一石砂泥入 千八百軒
但四月十八日迄御届ケ之分
中之條御支配書上ケ
一死人百八十八人
但廿八ヶ村之内
潰家并流失五百四十九軒
但弐千三十五軒之内
外ニ
土蔵四□壱ヶ所
物置百六十六所
〆
地震場大小
一第一ばん 飯山
一〃二ばん 新町
五百軒程之町也
一〃三ばん 善光寺
一〃四ばん 稲荷山
〆
○弘化四丁未年大地震并山崩大火水押人死田畑水損有増記
以上刻本上書
信州善光寺大地震焼失水押之次第
弘化四丁未年三月廿四日当山如来開帳中ば（ママ）の事ゆへ山
内并市中一統賑ひ夜分ハ万燈白日の如く繁昌之所同夜
亥ノ刻俄に大地震大雷の如く寺院并市中一度ニ揺ユリか潰し闇
夜となり程なく数ヶ所より出火大火となり家毎ニ泣さけ
ぶこゑ天地にひゝき無難にて逃出たる者ハ父母妻子兄
弟を助んと艱苦をなし火を消さんとするものも無之
銘々野田ヘ逃出唯忙然たる有様也近郷村々より親類縁者
ヘ欠付潰れ家の下ニていまたこゑあるを掘出し相助又
火を防がんとなせ共中々力に及す火勢ます〳〵盛んに
して風者未申の方より吹立如来御本堂既にあやうく見
ヘル所御屋根上三門之屋根上数多の人影□（形カ）八方へ火廻リ
飛火を防候地震ニもゆり潰れす焼失も無し夜明テ御屋
根を見あぐれハ数多人壱人も不見誠にふしぎなる事ニ
候松代様より御防人数多勢御召連御出役有之候六川御
陣中よりも左之通リ下後丁火先ハ消口ニ相成候同夜命助リ
候ものハ不残野中に伏雨露にあたり地震ハ止ミ不申火気
ハはけしく二日二夜焼誠に難儀歎敷事言語に絶え候
一御山内ハ大本願上人様御境内諸堂不残衆従徒カ弐拾壱院中
衆十五坊妻戸十坊不残焼二王門御堂庭小間物店茶屋む
しろ張の見せ物小屋類三丁余不残焼失別当大勧進様半
潰れニ而残る経蔵鐘楼堂万善堂無難御本堂ヘ毎夜通夜の
旅人数百人こもり候処同夜ハ別而多くこもり候処壱人
も怪我も無之無難ニて出る難有事候
一御寺領町家焼失之分大門町上下長野町西町上下西之門
上下阿弥陀院町立町御門前御長家桜小路あら町新町い
せ町横山小路岩石町東西横町岩石小路武井東町上下廣
小路花屋小路新小路鐘鋳もじ七ッ釜後町上中権堂町并
裏茶屋町外ニ河原崎横大門片羽是ハ非人共也当時御如来
様御仮家丑寅の方堀切と申野中に有之別当大勧進三寺
中并掛りの御役人守護有之無滞御開帳相済申候
一山内壓死人住僧八人衆徒ニて三人中衆ニて五人
一市中壓死人弐千人余
一善光寺より北国道筋地震揺潰れ候所々横山不残潰れ相
之木村潰れ之上数十軒焼失押鐘村吉田村大半潰越後国
関川宿迄宿々村々潰れ但し善光寺より関川迄道法十里
程の間ニ候此通筋之内吉村と申所近辺の山抜家人共土中
ニ埋候越後高田半潰れ今町ハ三月廿四日より四度之地
震不残潰れ之上同月廿九日大風大火ニ而不残焼失ニ候
一善光寺より飯山ヘ八里有之候此海道三才村石村浅の村半
潰れ村々ノ内大水ニて田畑水損多く有之飯山様御城不
残潰れ□一面ニ地所壱丈余高ひくに相成市中一面ニ高
く浮あがり不残潰れ其上出火ニて残リなく焼ケ飯山地く
ぼニ而折々水損有之候所ニ候得共今度ハ平地一面ニ高く相
成候処水難ハ無之候得共死人数多有之候同所より越後国
ハ谷通リ所々潰れ多く満水ニ而田畑水損新潟迄数ヶ村有
之凡道法六十里之間大荒と申事ニ候
一三月廿四日夜大地震犀川日々に減水丹波しま舟渡壱ヶ
所ニなり候此川上ハ裾花川と申より流出候処流水是又
日々に減水追候水施ヘ日タへか丹波川水絶ヘ歩行ニ而往来いたし
候所川中しまはじめ村之騒立銘々最寄の山林ヘ小屋を
掛其所ヘ退き出水を相待候所三月廿八日暁七ッ時ニ裾花
川上鬼無里村之内川浦と申所廿四日地震ニ而山崩水
たゝめ候場所押切一時に流水増し出候得共格別之大水
ニ而も無之村々安堵いたし候此川上山中地糸京原村と申
所藤沢組拾八軒家数有之候残家四間人数八十四人死梅
木村城腰と申所四間皆潰人数廿八人死此所一人も不残
大田組九間有之候所一間も無之人数五十三人死外識（ママ）人
多死村中只一人残居打（折カ）村あらいぐミ家数十三間有之人
数五十七人有之候所一人も不残念仏寺村臥雲院是ハ御
領分内之まれなる大寺也谷ヘ落チ出焼の上土中埋此村
近邊ハ皆潰の上土中埋元之通之所山中ニ数多有之候得共
小細ニハ相別リ不申候
犀川満水之事
丹波島舩渡シ川上更級郡水内郡両境水内橋之近邊赤岩
村と申所山抜数十丈之深谷を押埋又其外安庭村と申村
ニ而二ヶ所山抜谷を埋急流を関留数日水湛るゆへ新町村
穂刈村牧之島村始メ数十ヶ村水中ニ埋民家うら之谷奥く
深く水湛凡八九里ニ及御領主より御出役御手当有之偖川
中嶋村々へ厳重御下知有之急災除以石俵大土手ヲしつ
らい御用意有之候民家銘々以最寄西ハ小松原山岡田山
東ハ西条山保科山野中ヘ小屋を掛老を先ヘ立妻子を連米
穀味噌等をはこび村々ニ両三人ツヽ番人を残しいかだ
等組置右騒ニ而宿々継立も差支矢代宿越後国関川宿迄
御武家御荷物始人足持ニて川東通リ往来有之候扨又犀
川里ヘ出口小市村舩渡有之処水絶ヘ川中ニ小山出来出水
之節ハつきかけ其節村々難渋ニ付数千人の人足罷出石
俵ニて大土手三重ニ筑立水除有之候尚又大術方仰セ本ノマヽら
れ水湛之山上よりのろ煙をあげ山々ニて是をうけ即
座ヘ（ニ、カ）さと方村々江知□以合図村々ニ残リ居候番人共其外
通リ掛リ之旅人等山の手逃候様ニ合図有之候又松代様
より御助舩数十艘御用意ニて最寄村々へ御つなぎ有之且
又数ヶ所ニ大釜を御立被成日々御焚出し有之数千人ノ人
足江食事御手当其外厚き御仁慈之御手配難有御事ニ候
偖数十日相立候而も出水無之故中々急ニハ出申間じく大
山深谷を埋め候間一度ニ押切候事ハ有まじと順水ニ追々
出可申抔と申[触|フレ]村々江立戻リ耕作ニ取懸リ候者も有之候
所四月十三日夕七ッ時俄に小市口ヘ大山ノ崩るゝ如く数
十丈の大水溢れ出水声三四リの間震動いたし真先ニ小
市村一とまくり村家土蔵酒蔵等数十間流失小松原村中
志満村四ッ屋村近邊の大木迄流氷施鉋カ村半流同村一重山
唯念寺此時源海上人入定直縁出現し給ふ也丹波嶋宿廿
軒余流南之方御弊川限リ村々平一面水中ニ相成小森村
流失真嶋村流失いたし千曲川江押入寺尾村江水あがり
松代ヘつきかけ候所御城裏ニ先年新規ニ御筑立被置候高
土手ニ而水を除候故綿内江水入不申夫より川東高井郡木
嶋平西ハ水内郡越後国新潟迄凡六十里余之間川邊村々
水損ニ而老父母多く死候
松代様御触之写
大地震後引続大水難ニ及候所場所ニより多少ハ有之候得
共彼是御領内一統之変災横死三千人ニ及潰家壱万軒余
怪我人夥敷有之何共欲歎敷次第言礼語ニ絶ヘス依之当座之御
手充筋之義勿論往々取続之義迄厚く御憐愍可被成下候
難有御趣意之程銘々相弁心得違無之安堵罷在如何様
ニも相励[之|ミ]可申候若当座之御手当筋行届兼候村々ハ可願
出村役人共等閑ニ罷在難渋人別之内万一離散致シ候様の
事有之候而ハ無念之事ニ候難渋人別之者共も村役人等閑
ニて格別之難渋ニせまり候次第申立も不致猥ニ離散等致
し候てハ不相済事ニ候右体のもの有之バ厳重ニ外口（ママ）可申
付候重々変災軽き村方又人別之内冥加之程を存付御救
方ヘ献上物致し或ハ融通方専ら心掛合力施行等致し候
者も相聞ヘ奇特至極之事ニ候追而褒美可被成下猶又此上
ハ銘々相励ミ致出精候ハヽ一段之事ニ候村役人承リ届右奇
特之者名前訳柄可書上之候且多之村々ニ付若救方ニ洩
候もの有之候てハ御趣意ニハ相洩候間村役人共能々相心
得弥深切ニ取扱小前末々迄不洩様ニ可相触もの也
四月十八日
再御触之写
去月大地震已来満水等非常変災一統難渋之時節ニて小
屋掛其外作事多之義ニ付大工職人等幾重ニも致出情（ママ）可
相励候万一心得違ニ而作料日雇是迄定之外餘分受取候
てハ不相済事ニ候其旨急度相守心得違無之様実意ニかせ
ぎ可致旨諸職人有之村々役人より申通し銘々其段可心
得もの也
四月廿日
松代様御領内御調方写
一御領内損高 三万二千八百五十石余
内田方壱万八十五石余畑方弐万弐千七百二十石余
一民家潰 七千六百七拾軒余
四十九軒 焼失
弐百軒 焼失之上湛水ニ入
内 六百軒 湛水ニ而浮出
三百軒 山抜土中江埋
六千五百弐十軒 潰
一壓死人弐千七百七拾人余 治定難申立
社家壱人 僧十人
内 男千二百二十人余女千五百四十人余
但三百五拾人程山抜土中ヘ埋死骸相知不申
一壓死穢多八拾人 内七十人右同断
一弊（斃カ）牛馬二百六十七疋 内六人（ママ）右同断
御領内両変災村々銘々ヘ為御手充御金子白米被下置候
御仁慈之程恐入誠ニ難有御事ニ候
右西（ママ）紙半枚八行書墨附九頁上紙共拾壱枚にて摺出すこを
写かけていまた功を終すさるを八月十五日忰□助か来に
けれは十六日かきつかせ♠ぬ