[未校訂]一六九 西埼玉地震の被害状況
煙突倒壊等多数 重軽傷者十一名
高崎の被害は激甚
高崎地方の強震につき二十一日午後一時までに高崎署に
達した被害報告は左の如く多数に達し負傷者も十一人に
及び思ひの外ひどい被害であった、なほ相当の被害ある
見込みで引続き調査中である。
△下横町興禅寺高さ七尺煉瓦塀二十五間倒壊△上州銀
行南支店煉瓦塀落つ△八島町森平友次別荘高さ一丈の
石塀三十間倒壊△新田町臼井啓蔵方煙突高さ六七十間
倒壊△本町群工商会表廂間口四間落つ△南小学校教舎
一棟間口四十間の瓦全部落つ△石原塵芥焼却場煉瓦煙
突高さ七十尺倒壊△石原山口弥吉方煉瓦倉庫間口六間
奥行三間倒壊△常盤町岡惣一郎方煉瓦煙突三十五尺倒
壊外に高さ三十五間のものと六十間のもの二本半壊そ
の際同家雇人山下和蔵(三一)は煉瓦に腰部を打ち重
傷△相生町筒井庄二方九十尺の煙突上部十尺折損じ醬
油倉庫上に墜落屋根機械等多数破壊し被害約一万円△
常盤町坪野五郎妻たけ(三二)は油揚の鍋を運び出さ
んとして火傷△赤坂町滝川喜平方土蔵及母屋塀落つ△
柳川町□藤峰五郎方煙突高五十尺倒壊△連雀町浦野政
之助土蔵屋根十坪落つ△鞘町医師神岡耐司氏長男善一
郎(六ツ)は落ちて来た屋根瓦が前額部に当り負傷△
実践女学校の塀三坪落つ△元紺屋町飯島藤平煉瓦塀高
さ二十尺倒壊△東校生徒二名は避難の際ガラスの破片
で負傷△北校で同様三名が頭部に負傷△元紺屋町向井
林造方屋根八坪落ち煙突高さ十六尺倒壊△羅漢町丹後
とし方高さ四十尺煙突一本倒壊△通町安国寺煉瓦塀九
尺倒壊その際通行中の通町斉藤福次長女とし子(四ツ)
は破片のため胸部打撲△砂賀町天田長三郎方土蔵屋根
二十坪落つ△通町堀越方間口二間奥行四間半家屋半壊
△新田町五三信沢いの(六四)は驚愕のあまり心臓麻
痺を起して即死△高崎北倉庫上毛絹糸の工場塀二坪落
つ△新紺屋町一二羽鳥源四郎方土蔵半壊羽鳥延次(三
八)は重傷△寄合町七藤村彦之丞方土蔵の塀落ち△同
二九大村直造土蔵半壊△群馬郡大類村大字宿大類一三
〇六関計衛方物置倒壊△群馬郡倉賀野町醬油醸造業方
でも塀落ち雇人負傷
高崎南部は亀裂多数
近来にない強震のため高崎市の南部方面では多数の亀裂
箇所を出したが中にも寺尾二五六桜井才吉方宅地では亀
裂箇所から三尺あまりも鉱泉様の水が吹き出したので目
下調査中である。
八高線鉄橋破壊 碓氷隧道も復旧せず
信越線第一トンネルは強震のため線路が低下した為不通
となり当分復旧の見込みなく、又八高線の倉賀野町地先
清水鉄橋は破壊した為これ亦当分の間復旧の見込みなく
何れも折返し運転を行っている、又信越線烏川鉄橋も岸
壁に亀裂を生じたが徐行あれば危険ではない
高崎市内電話も一度不通
強震のため市内の電話線も一時不通に陥ったが間もなく
復旧、高崎東京間は午後二時半に至るも不通である
地震中に出火
強震襲来と共に高崎市民は一斉に戸外に飛び出し大自然
の脅威に呆然としている折も折新喜町の相沢製糸から発
火し警鐘が乱打され何れも周章狼狽したが幸ひにも大事
に至らず消し止めた
(『上毛新聞』昭和6・9・22)
流言蜚語に悩んだ その夜の高崎市民
曾てなかった強震の襲来に家屋倒壊負傷者を多数出した
高崎地方では此の種の災害にありがちな流言蜚語が盛ん
に飛び、何時頃には又大ゆれがあるとラヂオで放送され
たとか何処其処では多数の死傷者があって大騒ぎをやっ
ているとか取りとめともない説が流布されるので、高崎
署では午後五時頃市内各交番に強い余震はない旨の掲示
をはり出させたがそれでもおびえ返った人達は夜がふけ
ても容易に寝付かず専売局前の如きは昼間の中に早くも
堀立小屋が立てられ、又通町の寺の庭には多数の筵が敷
かれて婦女子の避難するなど大騒ぎをやり選挙騒ぎはお
陰で影が薄くなった
(『上毛新聞』昭和6・9・23)