地震史料集テキストデータベース

[未校訂]第九節　天災地変
第五項　地震
安政之地震＝安政元年拾壱月四日数日前ヨリ大音囂々ト
鳴リシカバ、人心呆然驚歎不思議ノ中ニ暮シ居タリ。料
（ハカ）ラサリキ、神ナラヌ身ノ大地震トハ、見ル〳〵大地振動
シ来リテ地ヲ裂キ溜水ヲ流失シ、道路ヲ亀裂崩潰シ、橋
梁ヲ毀シ、家屋ヲ倒潰、或ハ半潰シ、其ノ勢獰猛ニシテ
益々毒手ヲ振ヒ、人畜ヲ斃シ、其ノ數沢水賀、和田、潮
海寺ニ数人ヲ算ス。其ノ悲鳴♠哭ヲ發シ、痛呼、衰歎ヲ
發スルニ及ンデハ、眞ニ狂煥地獄モ斯クヤト覺エテ戰慄
セザルヲ得ザリキ。人々今ハタヾ顔色蒼然トシテ薮中ニ
テ暮スニ過ギサリギ。此ノ悪魔少焉ニシテ退去スベクモ
非ズシテ壱個月餘モ間歇的ニ連發シタレバ人心今ハ浮世
ノ塵慾ヲ離レテ、生ヲ求ムルニ急ニシテ、タヾ食ヲ得レ
バ満足至極ノ有様トナレリ。サレバ地震動ノ間歇ヲ得テ
ハ、有福家ノ倉庫ヨリ米穀ヲ♠キ出シテハ、餉キ、近所
隣家諸共地上ニ敷キアル道板或ハ莚上ヲ傳ヒ歩キ集マリ
テハ食シ居タリ。
此ノ時薮中ニテ出産シタル子ノ銘名ニ寅吉ト附シタル如
キハ時ノ甲寅ノ兄弟ヲ取リタルカ。
沢水賀の記（山田氏所蔵の帳簿）小山壊レ、民家半潰、
全倒數多カリケレバ、以后ハ地震予防上掘立小屋ニ住
居スベキ事ト、領主ヨリ布令アリタリ。又、領主ヨリ
潰家ハ、米壱斗、銭壱貫文、半潰家ハ米五升、銭五百
文、給與ナシタリト。
（注、「新収」第五巻別巻五―一、一〇五三頁上2以下の
文書の原文）