地震史料集テキストデータベース
[未校訂]三 地 震
一七 弘化四年三月 善光寺地震記
（表紙）弘化四未年三月廿四日夜
地 震 記
子種新田
橋 野 氏
一 弘化四丁未年三月廿四日夜四ツ時大地震して夜中震
動不止、一同驚入地（1）炉之火をぼてをかぶせ其上ゟ水を
懸ケ能く火を消し、家内一同前田稲積田ニ夜明迄居り
候、上ノ衆并家籠近習一同右田ニ夜明方迄居申候、ど
ん〳〵と大音いたし震り来申候、国中一同ニ震込候様
相成候哉与心配仕候、此地震少し過候と信州飯山辺大
火と相見申候、夜明迄不止候、内ノ土蔵ノ壁北かわ不
残落申候、家ノかべニも少々疵付申候、村中一同産（2）神
様江参詣仕候
廿五日天気、産神様参詣、地震不止、大井平見舞行、同
村ニ而も土蔵ニ疵付候、昨夜大地震ニ而森り村字三法山与
申処崩出し青倉与境沢へ押出其音も夥敷いたし候処、山
崩とも不知地震之音成か昨夜中心配仕候、大木押出し当
村抔少々寄（3）木取り申候、水も留り居り来り候間昨夜之内
ニ大躰之大水出候得共直ニ引申候、其外信州上筋数々山
崩有之趣承り昼後大井平へ参り候処、此間タ飯山ゟ善福
寺へ医師来り居其迎ニ飯山ゟ来り上境ゟ上筋飯山町不残
震崩其上大火ニ而焼失いたし候趣大変事ニ而人死候ハ数
不知と申候、千曲川水急ニ減し各々不審成事と心痛而已致
候、又々大地震も可有之与一同驚居申候、上段ゟ下筋者格
別不震候
廿六日少し雨降、産神様江参詣仕候、地震不止、森へ見
舞ニ行、山崩見ニ行、大変之抜ニ而塩尻之方へ押上候、
高サ三四丈与相見申候、森り青倉境川橋木四ツ廻り迄流
し登り候、千曲川水昨日ゟ追々減水ニ而廿四日前之半分
ニ相成候、承り候得者信州善光寺も不残潰し皆焼失仕候、
千曲川水減水ハ信州山中犀川山崩ニ而水せき留同州丹波
嶋川水少も不流程之由風聞有之、中々不容易義ニ而渡舟
も心配仕候次第今日来るか明日来るかと待居候
廿七日天気、産神様江朝夕参詣仕候、地震不止、千曲川
水増々減し追々犀川水堤之次第丹波嶋渡舟なしニ而罷通
候もの数多、此辺通行いたし実之咄し承り候得者尚以怖
敷相成一同勢力を失ひ罷在候、乍併一度切出候処へ者参
間敷哉咄、
高田并今町辺大ニ痛候
廿八日天気、産神様江参詣、地震不止、信州水留之取沙
汰数々有之候、今日小千谷陣屋御代官飯田儀兵衛様此辺
地震変難御見分ニ御出佐々木長之助様御附添、是ハ十日
町陣屋御提役也、宮野原村御泊り、名左衛門御機嫌伺ニ
罷出候
今日、寺石ゟ信州犀川水堤ミ見届として枝足滝難所ニ付
同村ゟ両人差立申候、千曲川水極旱ニ而水かれ切候時分
ゟも少し舟場下岩不残出申候
廿九日、天気、産神様江参詣、御代官様宮野原村ゟ当村
御通行寺石番所見分夫ゟ外丸江御越被遊候
今日昼九ツ時頃、大地震ニ而村中一同打驚き直ニ大滝江太
神宮様参詣、村中参候、京大丸様十日町縮市ニ御下りニ而
信州水堤之場所見届被参候咄之由、大井平ゟ用心いたし
候方宜敷旨被申越候
今昼之大地震ニ而村々一同門ニ小屋をかけ食事抔皆小屋
之内ニ而焚き申候、夜分も小屋之内ニ寝候、家内ハ能く
火をしめし置候、火之用心堅固ニ仕候、今夜天ひかる事
稲妻之如く也、夜中不止候、廿四日ゟ今以暖なる事夏土
用之ことし
（中略）
晦日
弥々信州水堤大変ニ付用心いたし候方宜敷趣故土蔵之籾
升ニ入置候分叺ニ入候、極大切之書物等箱ニ入油紙ニ包
内へ持来り荷繩を懸ケ用心いたし置候
（中略）
四月二日
地震も少々軽ク相成水留之沙汰替る事なし
三日天気、産神様江参詣仕候、信州犀川水ニ見届ニ寺石
ゟ差立候もの今夕方相帰り候処、兼而聞及ふ通り大抜ニ而
凡抜出し長壱里余当時水堤居候処八里余深サ六拾丈余も
有之趣岩石ニ而容易ニ抜出処へ参間敷哉ニ候へ共人力之
不及事ニ而用心いたし候方専一の旨申候得共乍去里数隔
テ有故格別之義も有之間敷と別段ニさわぎ不申候、灰
雨・下反り・小下り・田中・下足滝等ハ先日ゟ片付申候
四日天気、産神様江参詣仕候、水留り之取沙汰替ル事な
し、日数積る程心配なり、大風時々吹き
（中略）
十三日天気、産神様江参詣仕候、今夜九ツ時分ゟ水増出
鶏鳴頃大満水ニ相成信州犀川水堤ミ一度ニ切出し夜明方
迄水相増信州ニ而人家多ク流レ家道具・家かや・うす・
桶大変ニ流来候、鶏明時分ゟ大ニ流レ始申候、夜之内ニ
大井平亀岡へ為知候
十四日天気、満水ニ而村中川端ニ詰居水大増ニ相成候
ハヽ家内取片付可致積ニ候、亀岡本新田人足ニ来候得共
片付候義不仕候、尤昼飯酒抔為給候、寄木等多ク取申候、
村方之ものハ不取候、大井平御主人・宮野原・小池・中
子・相吉・城原近辺村々水見物又ハ加勢ニ来候、水嵩サ
ハ舟場大石ゟ壱丈程下タ迄とゞき申候、寺石笹戸嶋へ皆
水懸り申候、上子種水之落候下タ迄懸り申候、先稀之大
水ニ御座候、鶏鳴時分ゟ昼八ツ過迄家道具・家かや・う
す・桶其外夥敷流来候、七ツ時分ゟ水落始り申候、夜五
ツ過迄ニ大ニ落申候
十五日天気、産神様江参詣仕候、千曲川水大ニ落チ寺石
渡舟出来申候、各々水之引方余り早キ様ニ存候処、信州
水堤今以不切由、此間出候ハ小抜ニ而未タ大堤ハ其儘有
之抔之風聞有之皆々不安心候
（中略）
十七日
折角一同手伝ニ来リ呉候間中子ゟ人足十人頼御用書物大
井平保坂へ送る、亀岡善右衛門方江も送る、夫道具石物
等者不送積ニ候得共上筋灰雨反り小下り等之取沙汰承候
へ者片付之様子故亀岡新田本田共頼土蔵穀もの諸道具善
右衛門方へ不残送り、大井平ゟ人足少し貰候保坂ゟハ御
主人様并下男馬不残上両家江手伝ニ来り被呉候、信州堤
水不残来ル与存候得共風聞而已ならす箕作ゟ為知赤沢之も
の咄故大騒仕候上ニ而片付候、村方もの者片付不申候然
ル処箕作村ゟ又々為知来ハ御同前心配仕候山中溜り水之
義最早七分通出払候由今度中之条御出役様今晩西大滝御
泊ニ而被仰聞候、尤も水元御糺之上ニ御座候間安心可仕
旨申来候、仍之一同安堵仕候、翌日ゟ少々入用之もの内
へ取り同月廿三日村方亀岡之もの昼前頼不残取寄申候、
大変之騒ニ而不書尽、千ノ一を記候
（後略）
（子種 橋野英雄氏所蔵）
注（1） 地炉 ヂロ いろりのこと。
（2） 産神様 ウブガミサマ うぶすながみ 土地の
保護神の意。
（3） 寄木 ヨリキ 流木。