[未校訂]三 日本海中部地震
1 地震と津波の発生状況
昭和五八年五月二六日、この日は朝から晴れ上がり、
気温一四度、湿度六六%、西北西の風五・三メートル、
気圧一〇一七ミリバール(北部分署観測)の絶好の五月晴
れに恵まれた良い天気であった。正午の時報が終った瞬
間、大地が揺れ巨大地震が始まり、そして十数分後に、
これまで日本海では経験したこともない大津波が襲い、
八森町の海岸部を直撃、どろ海と化し瞬時にして大惨事
となり、自然の力の成す恐ろしさはまるで生き地獄その
ものであった。
(イ) 地震
発生 昭和五八年五月二六日
午後〇時〇分一八秒
震源 位置 東経一三九度五分
北緯四〇度二一分
八森町西方沖九〇キロメートル
深さ 一四キロメートル
規模 マグニチュード七・七
震度5(強震)
命名 「昭和五十八年(一九八三年)日本海中
部地震」
正午の時報が終わった瞬間、大地が揺れ巨大地震が始
まる。最初前後、左右の横揺れが続きそのあと上下の揺
れが多くなり、一分間以上も続いた。
秋田地方気象台では、上下動五センチ、水平動六セン
チまで観測可能な強震観測用地震計の針が振り切れ、そ
れ以上の揺れを観測できなかった。
弘前大学理学部地震火山観測所に設置されている強震
加速度計に記録された日本海中部地震の特徴は、記録開
始時刻から約一五秒後と約四〇秒後付近の二個所に振幅
の大きなピークが見られ、二つの大きな振幅がそれぞれ
一〇秒程度継続していることが観測されている。
日本海側における過去の記録をみると、昭和一四年五
月一日、マグニチュード七・〇の男鹿半島地震、昭和三
九年六月一六日、マグニチュード七・五の新潟地震があ
るが、日本海中部地震は、これらを大きく上回るもので
地震エネルギーの大きさで比較すると、新潟地震の倍に
相当した。また、この地震の前震には、五月一四日二二
時二九分にマグニチュード五・〇の地震が、日本海中部
地震の震源地付近で発生しその後も同じ附近で発生して
おり、東北大学では震源が決った地震だけでも二四回以
上観測されている。
また、今回の地震には活発な余震活動が伴い五月二六
日一二時五六分マグニチュード六・一、六月九日二一時
四九分マグニチュード六・一、同日二二時〇三分マグニ
チュード六・〇、六月二一日一五時二五分マグニチュー
ド七・一を始め七月三一日現在で、有感のもの二九八回、
無感のものを合せると二、七七八回に達した。
津波
地震発生とともに気象庁では、午後○
時一三分、中部地方の日本海沿岸に津
波警報、同時一四分、東北地方から北海道の日本海沿岸
に「オオツナミ」の津波警報を発令した。しかし住民は同
時一九分頃のNHkのテレビで津波警報を知るが、津波
の来襲ははるかに早く、同〇時七分深浦、同八分男鹿、同
一五分八森、同二四分能代、同二七分船川へと襲来した。
津波は、地震断層の運動による海底地殻の変動がその
まま海面に伝わって発生する。日本海中部地震では、海
底で、西落ち、東上りの低角の逆断層が生じたと推定さ
れ、隆起部前面の東部分が沈下したことによって発生し
た。
津波の襲来方向は、県境から八森地区へ向ったことも
あり、襲来方向に弱い海岸部が大きな被害を受けた。も
表8―9 到達時間及び最高水位
漁港(地区)名
到達時間
第1波
第2波
最高水位
(m)
岩館本港
12:15
12:19
+4.3
岩館分港
12:16
12:20
+4.3
小入川
12:16
12:20
+4.3
滝の間
12:19
12:23
+4.3
茂浦
12:20
12:24
+4.3
椿
12:22
12:26
+3.8
泊
12:23
12:27
+4.3
※秋田県・波跡調査資料より
しこれが逆の方向であったとすれば今回の災害以上の大
惨事となったものと考えられる。
2 災害状況
日本海中部地震による被害は、北海道から山口県にお
よぶ一三道府県にわたり、とりわけ秋田県北西部と青森
県西部の市町村での被害が大きく、死者一〇四人、負傷
者三二四人、住家の全壊一、五八四棟、半壊三、五一五
棟、被災世帯五、五三三世帯、被災者数二一、五一七人
に上った。この大惨事は、道路など交通網、電気、通信
施設などの遮断により、一時八森町は陸の孤島と化した。
また、今回の被害は漁船、漁具、住家、倉庫、工場など
の非住家、商店など個人的財産の損失が大きく、住民生
活に与えた影響が非常に大きかったのが特徴である。
(イ) 国鉄五能線
沿線各地で地盤沈下やレールが曲がるなどの被
害により、東能代―能代間を除く各区間で不通
となり、東能代―岩館間が五月三一日開通する。
六月一六日陸奥森田―深浦間が復旧し五能線全
線開通となる。
(ロ) 国道一〇一号線
町内では通行不能になるなどの被害はなかった
が峰浜村、能代市で一時通行不能となる。
(ハ) 町 道
流積物のたい積、岩石の倒壊により八路線が、
通行不能となったが、三路線は当日中に除去し
一部通行を確保する。
小入川岩館線、滝の間繋線、椿漁港線、流積物
の多い五路線については、五月二七日復旧工事
を着工し七月二日竣工完成する。
岩館海岸線、七軒町線、滝の間海岸線、茂浦海
岸線、塚の台海岸線
(ニ) 電気
電柱の倒壊や傾斜によって、午後〇時半から同
三時半までの三時間にわたって停電した。
(ホ) 電話
電話交換機のパンクを防止するため、通話が制
限され、平常どおりとなったのは翌日からとな
る。
(ヘ) 水道
浜田、椿、椿台地区で配水管が破損し断水とな
ったが、給水車によって生活用水を確保し、復
旧は当日夜遅くになった。また、各地区の水源
が地震の影響で濁水となり、三日間にわたって
給水制限される。
表8―10 八森町の被害状況
区分
件数
被害見積額(千円)
備考
人的被害
死者10人(町外5人含む)
負傷者20人
被災世帯5世帯、被災者数22人
〃 17 〃 〃 77〃
住家
全壊
16棟
161,600
〃 16 〃 〃 60〃
半壊
34棟
133,620
〃 34 〃 〃 126〃
流失
1棟
10,100
〃 1〃 〃 1〃
一部破損
64棟
19,200
〃 64 〃 〃 235〃
床上浸水
48棟
24,000
〃 48 〃 〃 167〃
床下浸水
48棟
2,400
〃 48 〃 〃 173〃
計
211棟
350,920
〃 227 〃 〃 836〃
非住家
277棟
144,040
農地
9.75ha
14,163
田埋没4.15ha、田冠水5.6ha
文教施設
4か所
2,804
八中、観小、岩小、北保育園
道路
14か所
80,339
国・県道3か所、町道11か所
橋りょう
2か所
1,421
河川
1か所
629
港湾
2か所
1,423,000
水道施設
14か所
1,538
治山
2か所
18,300
林道
4か所
899
漁船
216隻
901,600
5t以上12隻、5t未満46隻、船外機船158隻
漁具等
77,650
建物35棟
商工業関係
494,455
海岸施設
3か所
70,000
畜産業関係
13,651
豚舎1棟、豚110頭
農業施設
2か所
3,759
合計
3,599,168
3 対策状況
(注、省略)