地震史料集テキストデータベース

[未校訂]「大安寺再興願」（鏑木家蔵）
謹而口上書
一。和州七大寺之随一大安寺之儀。先年大概書付指上候。
推古天皇御建立之勅願寺。境内八町四面之大伽藍也。
然ルニ後小松院御宇至徳二年神社仏閣等悉ク致炎上候。其
後鹿苑院殿義満公御建立被仰付候。此時境内四町四方也。
此堂社又天正慶長之大地震ニ不残致破滅候。然共鎮守正
八幡宮一社并霊宝等。于今相残候。彼四町四方之境内堂
社破滅以後次第ニ致減少。只今芝原凡二町余四方程相残
候。南之端松林之内ニ八幡宮御座候。又大道之北ニ当リ建
武ノ岡杉山ト申伝社跡在之候。是者建武年中兵乱之時。
依神託ニ男山八幡之御神躰ヲ暫奉遷候社跡也。
一。拙僧大安寺再興之儀ヲ奉願候因縁者。私四代以前之
僧高雄高珍ト申候者迄者。代々大安寺之住侶ニ而御座候得
共。天正之比大和之領主寺領悉被没収。其上同十三年之
大地震ニ堂舎及大破。又慶長元年之大地震ニ堂舎悉致破
滅。住居難成候故。高雄者海龍王寺江引退。暫致住居相
果申候。高珍者円証寺江引退致住居候後ニ。西大寺之室
坊之内。二之室并花蔵院ヲ茂致兼持候。其高珍之弟子高
喜ト申者御座候。則円証寺之住持ニ而。般若寺之坊之内。
妙寂院并西大寺之坊之内大慈院ヲ茂後ニ致兼持候。其高喜
弟子ニ高秀ト申者御座候。則海龍王寺円証寺二之室致兼
持候。拙僧儀者其高秀弟子ニ而御座候。高秀者師匠。高
喜依遺言。数年大安寺再興之儀ヲ奉願相果申候。私儀者
又師匠高秀遺言仕候故。彼寺再興之願心ヲ相続仕候。
一。右之通。筋目ニ御座候故。於東大寺ニ御門跡様方御
授戒会之砌茂。従大安寺致出仕。彼寺之寺役相勤来候。
又厳有院様御納経御焼香拝礼。私師匠高秀。大安寺海龍
王寺相兼奉勤候。常憲院様御納経御焼香拝礼。先例之通
ニ被仰付。両寺相兼独礼ニ拙僧相勤申候。且又大安寺霊
宝等茂私致守護罷有候。
一。師匠高秀数年奉願。次ニ拙僧相続奉願候趣者。大安
寺者天神真筆之縁起之通。三国通聞之名所。数代之天子
御尊崇之大寺。仏神御影向之霊域。天下太平安楽之旧
跡ニ而御座候処ニ及退転。芝原之躰ニ罷成候段。誠以歎敷
奉存候。仰願以御慈悲彼相残候旧地少分ニ而茂。被為仰付
被下候半者。奉加ニ而茂仕致建立。右霊宝等ヲ致安置。大安
寺之名跡ヲ立。八幡大菩薩之増法楽。弥天下御祈祷仕度
儀。奉願候。右之願他之指障一円無御座候。又彼所之者
共茂指而障ニ罷成候儀。無御座候由。申候。
一。去ル五月。於江符（ママ）ニ寺社御奉行本多弾正少弼様江右
之願申上候処ニ。五月晦日御寄合江私被召出。南都之御
奉行所之御添書。致頂戴指上候半者。御取上可被成旨。
本多弾正様直ニ被仰付候故。先早速其趣。当御奉行様江
奉願候処ニ。私罷登可奉願旨。被仰出候故。御尤千万奉
畏。早速帰著仕候。仰願。以御慈悲御添簡之儀。偏奉願
候。以上。
正徳元年卯七月　海龍王寺高籤（黒印）
御奉行所
（太田博太郎）
（般若寺十三重石塔）
　『大和名勝志』の「般若寺十三重石塔図」（挿図61）に
は上二重と相輪が落ちて基壇上に置かれた状況を画き
「慶長元年
丙
申
閏七月十二日墜落ス」と書込む。寺蔵「日記」
の元禄十三年修理時の南都奉行所へ差出した「覚」にも
第十三・第十二重の納入品について「以上ノ宝物者慶長
元年七月十二日地震ニ墜落。自其以来経蔵ニ入置候」と
記す（『大和名勝志』にもこの「覚」が見える）。前掲『南
都般若寺勧化帳』にも、「爰に慶長元年七月十二日の大
地震に件の石塔九輪并上の二重地に落侍り夫よりこのか
た代々の住侶是をかなしふといへともいまた一簀の功を
はじめず」と見える。
一　元禄修理に際し南都奉行所へ差出した「覚」は、元
禄十二年十一月九日から同十三年九月十日に至る石塔
の修理に関する日記の、同十三年五月二十六日の条に
見える。また『大和名勝志』にも記載されている。明
治については『般若寺宝塔出現霊仏奉納目録写』（明
治三年）がある。
「覚」
南都般若寺十三重石之塔者聖武天皇御建立也。自往古
般若池ノ傍ニ在霊石置第二級ニ。欠石眉令不混余級ニ也。
塔之高サ五丈台基三丈八尺。或舎利梵経金仏等収蔵有
之。上皇於此ノ霊地ノ下ニ[瘞|ウツム]紺紙金字ノ大般若経ヲ云云。
仍号般若寺ト。
石ノ之塔ヨリ所ノ出スル宝物品々覚
一。第十三重目舎利殿一基内ニ仏舎利
大五粒
小三十八粒
大小合
四十三粒。右ハ第十三重目ニ収蔵在之所也。慶長元年
七月十二日地震墜落。自其己来経蔵ニ入置候。
一。第十二重目。細字法華経　八巻。同　梵網経　上
下巻。同　無上大乗無量義経　一巻。同　観普賢菩薩
行法経　一巻。惣合拾二巻一箱ニ在之。一。第十二重
目。唐本法花経　全部一巻箱入。
以上ノ宝物者慶長元年七月十二日地震ニ墜落。自其以
来経蔵ニ入置候。
一。第十重目。紺紙金字ノ経巻　水精ノ軸一。同　金ノ
軸一。同木ノ軸一。同竹ノ軸ハ朽申候。以上ノ経紙
等皆朽申候。一。琥珀ノ玉六分四方内ニ仏舎利二十粒余。
外ノ殿器ハ朽候故無御座候。
右此第十一重目ノ石過半破故。第十重目ノ蓋石ハ二ツニ
破候ニ付。年々水入リ申候。辰ノ五月十六日二
（ママ）
三重ノ石
地江下シ申候。
一。第四重目。閻浮檀金阿弥陀如来　一軀。御長ヶ髪
際ヨリ御足マテ八寸五分。頂上ヨリ惣御長ヶ九寸五分。同
八角台基高サ四寸指渡シ五寸八分。一。同十一面観音
像　一軀。御長ヶ一寸八分程。一。唐本ノ法華経　全
部一巻箱入。以上第四重目ヨリ出申候。辰ノ五月十九日
ニ此四重地江下シ申候。
一。石之塔廿部（ママ）壱ノ図　一枚差上候。
（中略）
元禄十三年辰五月廿三日　妙光院高瑱