[未校訂]大地震にて命ハ千両にも売買ならず
明和三戌年正月廿八日暮六ツ時大地震 就中津軽御殿中未聞
の大地震にて、御城下辺新田筋上磯青森家蔵夥敷震り潰れ、
即時潰れ家より出火、変死せし男女老少千人斗り、青森の本
町、潰れ家の下にて声あり、われ近江屋の何某也、家下タに
敷れたり、命を助ケくれバ金子□みに任せ遣すへしとさけ
ぶ、此声を聞人、命を助けまいらせたらバ、思ふ程千金の謝
礼も請べき事なから、今に地震[小止|ヲヤミ]ハなし、彼の人の声ある
家ハ潰れて火四方より燃え上るなれバ、危きに飛込ん事先ツ
人の命よりわか命ノ千金にも替へがたしとて聞入れる人な
し、終に焼死けると也、是命ハ貴きも賤しきも千金にもかへ
かたきもの也、又此地震之節転(ママ)労町風呂屋に大勢入込居れ
り、前に上り居たる男女三人して未風呂に居る人数の[脱|ヌギ]置し
衣類を夥敷盗取地震最中にかけ出しに米町辺にて此三人の盗
人共小見世に打敷れ、盗みし衣類持なから三人諸共死ける、
盗まれし男女ハ風呂ヤも無異なれや裸にハなりけれと皆々助
りけり、盗人共ハ[短的|タンテキ]の報ひ歟予ハ二月十一日に青森へ着三
月初方帰宿せり