地震史料集テキストデータベース
[未校訂]（注、他出ある部分は省略）
一当方去月廿四日夜四ツ時過大地震有之、家内一同打驚庭江
出度障子明候迄にて、庭口江も出兼柱抔江取附居候程強
く、行燈抔大きくゆれ既ニ油たれ候斗ニ御座候、其夜続て
七拾度程も有之候得共、最初程強き事無御座、併誰有而伏
り候事抔一切出来不申、翌廿五日何度与申数覚不申不絶有
之、夜中ゟ少々減し廿六日ニは十五度程、同日夜ゟ又々減
し今日迄も一昼夜ニ五・六度宛ニ相成候、右故季候甚不宜
日々曇り風立出而不順ニ御座候、扨上田より下川中島・善
光寺迄十里程有之、右川中島辺大変成趣、川中島辺ニ当領
分五千石有之村五ケ村有之、分地松平飛驒様領分五千石有
之各領分五ケ村之内稲荷山宿ゟ廿五日早朝飛脚参り、稲荷
山居家大躰潰れ其上出火にて死人多く、外村々居家潰候程
近ニ付同日夕大友出役翌廿六日又々飛脚参り、郡奉行医師
両人致出役候、善光寺辺ハ大変成事追々風聞承り廿五日夕
より旅人 （ママ）股引脚半等無之からすねにて当町通善光寺辺之
儀咄し通り候儀町家にて承り風聞咄しゟも河之辺大変成
趣、善光寺本堂と山門斗り残り大進（ママ）初として居家不残潰れ
其中ゟ火十一ケ所より燃上り死人夥敷、善光寺開帳中ニ付
土地之者旅人入交り死人数相知不申、爰許と違上田ゟ三里
下坂木宿ゟ下川中嶋辺ハ地震格段強く、居家三・四尺も上
り候て落し候事故聢ト建候家作程一番ニ潰れ、横ニ家之た
をれ候抔と申事ニは無之真直ニ潰れ候趣ニ御座候、藤屋と
申旅籠屋江四百人余も泊り右之地震にて旅人皆外へ逃出候
を制し、皆戸を〆壱人も外へ不出故多分死失いたし候趣、
右ハ喰逃ニ而も被致てハと戸を〆不出、旅籠賃も壱人前三
匁宛ゆり取候抔と申風聞、外何と申旅籠屋ニ候哉何事も正
直ニ致旅籠賃壱人前百五拾文宛取地震之節皆外へ出し候事
故地震穏ニ相成候と内エ荷物等心能出し候頃ニ而致焼失候
抔と申風聞も有之、多く之旅籠屋ニ候へ共死失いたし候者
夥敷、其中ニ火不掛潰家ゟ無難ニ被掘出候者も余程有之候
也、当家中之内家内三人連にて善光寺へ参り、帰り之節当
領分川中嶋今里村庄屋方ニ泊り居家潰れ壁の下ニ成疵等ハ
一切無御座候共気を打致死去候、連之弐人ハ無難ニ罷帰申
候、近郷之庄屋母町方ニ両三人致死失候外、上田之内ニは
死失いたし候もの無御座候、稲荷山宿居家大躰潰れ出火等
ニて宿内死人百七拾人程、旅人も多く泊り死人数相知不申
趣、松代真田様御殿潰れ御城最初之地震ニ痛之、其後晦日
之地震ニ御櫓潰れ以前大主様御立抜と申事ニ御座候、松代
家中屋（ママ）町・田町大躰潰れ、矢代宿・戸倉宿抔も後之地震に
余程居家潰れ候趣、飯山本多様御城下大躰潰れ御家中之内
以下を除き五拾六人死去、在町へ懸ケ七百人死失、此七百人
ハ風聞にて未御調は附不申趣、御櫓斗ハ残り候趣、其上地
われ平地八寸程もワれ泥出峪様之所抔ハ八寸ゟ余分にわれ
候趣、山ゟ大石抔落大木抔もたをれ、其上出火ニ而余程流
失いたし候趣、松代・稲荷山・善光寺ニ而も地われ泥出火
も出候趣、火之出候と申ハ越後にて火出候所有之、矢張右様
之火にて外へ取附候事抔出来不申と之事ニ御さ候
又承り候へハ松代御領分朔日迄之御届書左之通
死人弐千六百拾三人
怪我人八百六拾三人
潰家五千弐百三軒
外御城下死人弐拾四人
但山中三万石御調不分
松代御領分山中三万石之内犀川と申川有之、此川は木曾之
方より松本御領分通り夫ゟ山中三万石之内を通り川中島へ
出、松代里七万石之平田畑用水之扶ニ相成候川ニ御座候処、
右山中より川中嶋辺に水内橋と申有之、右之橋下へ当り地
震にて大なる岩落、右之川へ落、其上余程の山三・四町程
も川之方へすり寄候故川水聢と留り中々容易に切割等出来
候抔と申品ニは無御座奇妙奇大成る事之由、右之川水二ケ
所にて聢と堰留候ゆへニ丹波島川水一切参り不申、水之流
口一切附不申、去月廿四日より今日ニ至迄昼夜なく水留り
候故、山中辺一円ニ湖水と相成、湖水之大なる事目も不及
最早長五里程ニも相成と申事ニ御座候、川幅ハ山沢之事故
一里二里程所ニ依て有之趣、深き所此節凡百丈余も水溜り
候趣、山中之新町抔と申所は至て宜所之由と承り、是等ハ水
之中程ニ相成外村廿二ケ村も有之、多分水之中ニ相成と申
事ニ御座候、右之川水夜中ニ留り候事故右村々之者逃候義（ママ）
も出来兼多く水ニ溺死失いたし候者多く、右湖水之内ニ長
持簞笥之類其外家財道具類数不分、居家共ニ水に沈居候趣
ニ御座候、右之水元之川筋辺江抜候事なれ（カ）は松代御城は真
向飯山辺迄大変事と可相成と松代より右之水万一山抜水切
れ出候事なれハ其節狼煙打揚可申、其節一同山江逃登り候
様申聞有之候と申事ニ御座候、右之山下通りニ松代領之村
々余程有之、則川中島当領分分知とも村々多く入交り之地
故、夫迄ニ不至一同山へ登り居候処、松代之家老出張土地の
百姓当領分之百姓共右之川筋通堰留候山切割水通し候様、
下知ニ不従ハ切捨て可致抔驚へ（ママ）は百姓共後難を恐れ命有而
之物種と多分之百姓共一切下知ニ不従と申風聞ニ御座候、
飯山にても右等之後ハ百姓共後難を恐れ当分東在野竹村と
申処へ飯山之百姓六人参り、上田ゟ東之方ハ地震も無御座
と承り参り候、在所辺穏ニ相成候迄日雇稼ニてもいたし度
と申立参候由
川中島当領分村々年寄女子共之類難渋と聞為救、当城下末
ニ扶小屋等掛右之難渋者百人余も参り候義ニ御座候、当城
内にても右之地震にて潰等は無御座候得共居家所々痛之、
領分在中之内ニは余程居家潰れも届候へ共松代之引前（ママ）ニて
ハ誠ニ僅斗之儀にて届候得共併川中島領分五ケ村ハ余程義
ニ御さ候、当家中之内右之地震にて五六ケ所之井水留り懸
私妹方之井水一切留り奇妙成事ニ御座候、其外大分溜候所
も余程御座候
右等之儀追々承り候ニ付余り大変珍事ニ付前後ニ相成候へ
共荒々認懸御目候、右之内虚説も可有御座川中島并善光寺
辺之儀は咄ゟも大変成事ニ御座候へハ、此余ニも如何様成
義可可（ママ）有之哉も不相知右之手
（カ）
ニ限地震もつよく人死も多
く有之哉と申ハ何れ何ニかたゝりニ而も可有之扨々可恐事
共也、川中島甲越之合戦永禄四年酉九月ニ御座候、当年迄
三百年少し余ニ相成候、其節之人死も大変成事ニ御さ候、
松代家老小市村辺江陣取幕抔打幡抔打建狼煙抔之容易後難
之下知之有様昔甲越之合戦之義似寄候義と存出（カ）し申候
右様成儀は前代未聞開闢以来之大変とハ此度之義ニても可
有御座奉存候
信濃之国ハ昔ゟ変之有之国と御座候へ共相違も無御座、今
以地震不相止昨日抔は五度程強くゆり申候、扨々不案心成
事ニ御座候
未四月十一日認置
御地江之便延引ニ相成候内又々左之通承り申候松代□ニ而は
山中之山抜水押出し候事なれは、御城ハ真向ニ付要害として
水除之宿り築御普請初り候ニ付御領分者ハ勿論他領之者たり
とも働呉様ニと松代江壱ケ所郷中江壱ケ所八枚程成釜十程宛
も並へ終日飯焚、壱人前結二ツ宛ニ塩存附何方ニても人足参
り次第相渡候趣、酒茂半切ニ入置杓何本も附置勝手次第ニ
為呑、右之通人足共ニ心能呑喰等為致しと申ハ人足共ニ急き
之普請故格段ト為働候仕法と被存候、当領分者も参り働候趣
扨家老陣取居候場所ゟ引取尤替りハ残し置引取候事と被存
候、右家老引取候跡にて百姓共之申候ニは恩田様ニは御引取
被成左候へハ誰も我ハおしきもの哉然ラハ我等共も骨折働候
ニは不及引取可申抔と嘲笑候抔と申風聞、右引取候後二日立
候と（ママ）山抜水押出し候趣、当領分稲荷山江兼而ゟ出役いたし居
候役人方ゟ去ル十三日夕七時頃山抜水押出し候ニ付一同山江
逃上り、北原村・戸部村之間へ新川出来真黒濁之水押出し候注
進之趣ニ御座候、其後色々区々ニ申候、最初之包（ママ、堤）は其儘ニ而
濁水段々溜り下之包斗切れ候趣之処、又々上之包迄も切れ、
二日少余斗之内ニ湖水之水七分通りも押出し候故、山中新町
之土蔵抔ハ其儘出居家ハ一切相見へ不申抔と当町方ニ山中親
類有之見廻ニ参り承り罷帰り相咄候よし、川中島之者とも此
度之押出し之義ハ兼而より用心いたし居候故人々損しハ余り
無御座、旅人ハ余程死候趣之風聞、又一説ニは松代ゟ下舟渡し
ニ而一旦（カ）之水故破船いたし余程人死有之趣ニ承り申候、此度
之水ハ飯山辺迄之内ニつばへ候処二ケ所程も有之河之辺水一
円ニ相成と申事未実説不相知候、川中島ゟ飯山へ懸而之人死
壱万人余ニ而も可有之と申風聞ニ御座候
評ニ曰、恩田数日陣を張引揚候以前定而斥候度々山中へ可遣
下知、物見等不功者故容易ニ当分山抜水押出し候儀ハ有之間
敷見切候か又ハ数日陣を張居候儀甚退屈難儀ニ付引揚候事と
被察候、其跡にて山切れ水押出し候と申ハ兼而之見切相違致
し候故人足共ニ嘲笑され其上狼煙并鐘打候相図も後レ候と申
事故人死も多く有之趣、御城ハ要害之宿りも恩田骨折ニ而漸
出来候処此度之水右やどり上江水壱丈余も乗越やどり不残崩
れ候と申事、右之やどりへ当り水猶々激し作物等別て押なか
し候と申事、是等も見切違扨々□し遣事かな
此一両日ハ地震相止ミまづ安心ニ御座候、未一昼夜ニ二・三
度程宛至而軽く有之候と申者も有之私は覚不申、何卒此分に
て止切ニ相成候様祈り申候事ニ御座候、御心易きにまかせケ
様成悪評迄認懸御目候四月十九日認置
右は信州上田藩士栗山顕左衛門と人（ママ）より之来状
弘化四丁未四月廿一日附之北越高田表庄田角左衛門ゟ
来状
此表去月廿四日夜五ツ時過頃大地震ニ而潰家も多分御座候、
乍去死人等は無御座候得共私抔は子供四人之処、弐人ハ年丈
罷在候得共両人之子供ニ掛り漸々罷出候仕合、又々廿九日昼
時大地震ニ御座候得共、廿五日ゟ仮小屋相建罷居候間此時ハ
不難ニ御座候、就而は信州松代様・飯山様・善光寺等ハ大地
震之上出火人々多死人御座候由、此表ゟも参居候者とも召連
帰り候ニは信州野尻・柏原・牟礼・善光寺不残潰申候ニ付、
其内ニモ七分通り死人、三分無事ニ御座候由、牟礼と申所ゟ
善光寺迄三り里余之処吉村と申村方家数三十五・六軒御座候、
此村方抔ハ山崩れにて四・五軒残り跡ハ土の下ニ相成候、翌
日ゟ右崩れ所道ニ相成右下ハ家死人ニ御座候、何分善光寺三
月朔日ゟ開帳御座候所、諸国ゟ人々多入込罷在候ニ付、善光
寺藤屋平五郎と申旅籠屋抔ハ七十何人之泊り、家内之者ハ不
及申泊り旅人不残死申候由、此節も少々宛山鳴仕震申候故今
以小屋ニ罷在候、先ツ地震ハ此節少々ツゝニ御座候得共松代
様御領分之内丹波嶋船渡此上ミのちと申山方ニ□□ニ御座候
所、此上ニ小市と申渡シ御座候、此下ニ両方之山崩れニて川
の中ニ大山壱ツ出来、夫故十五・六日丹波島川水留り松代様
始メ右山切りぬき候とて五・六百人之人数罷出居候内、去ル十
六（ママ）日夜五ツ時過頃右川中ニ出来候山の下抜大水と相成、松代
様御領分之内三十五・六ケ村不残流多分之死人ニ御座候由、
右ニ付飯山様ニも右川筋下方ニて千クマ川へ水出、飯山様御
城留候迚も多分人足出候処、大水ニて（ママ）ニ付川流之人数是又多
分御座候由、おそろしき事斗御座候、尤山の図仁右衛門方へ
為持遣置候間御入用ニ御座候ハゝ御取寄御覧可被下、其外当
家中ニは潰家も無御座候得共持分之内ニは多分潰家多御座
候、先々着々相認御覧入候、先は時候御見舞旁如此ニ御座候
恐惶謹言
四月廿四日認（注、図は七二六頁）