[未校訂]S29・12・31 大富村史刊行会
十一月四日に雨が降り、翌日早朝あたりは何か暗黒な陰気な
感じがして気持が悪かつた。人々は皆何か不吉な事があるに
違いないと不安にかられている折柄、午前七時頃轟々たる音
響と共に地震が起つた。殆ど歩行困難で見る間に中天暗くな
り四面が灰色となつたと云う。加えて強風が吹きすさび、其
の内に土地に亀裂を生じた。其の巾、ひどい所では一尺乃至
一尺五寸にも及び、その中からは赤黄色の水が湧き出る所も
あり、或は水の湧き出る所もあつて近来稀な大地震であつた。
この為本村に於ても潰家ははつきりしないが約二百余戸であ
つたという。この震災に伴つて諸所に火災を起しこの為の被
害も多大であつた。この大震あつた後も約一年間位は俗にい
う「揺り返し」という微震動があり、人々もこの間何かしら
落着かなかつた。古老の言によれば、夜間といえども戸締り
をせず、或は戸外に床を作つて寝て夜をあかしたという。