地震史料集テキストデータベース

[未校訂]S45～S49　東京大学史料編さん所著・東京大学出
版会
（十一月）
一是月四日　辰ノ刻江戸地震アリ、本日ハ山鹿流操練ニ付、
巣鴨へ早天ヨリ立越シ、夕刻帰ル
日比谷御邸ハ処々壁ナト落チ居リ、留守ノ家来トモ大ニ
驚キテ談アリ、南部侯ノ長屋ハ余程破損ノ由、花川戸ヨ
リ出火、芝居小屋三個所、其他焼失ト聞ク
一同四日　遠州・駿州地震、荒井宿・豆州下田高浪、人蓄（ママ）死
傷数多有之
（参考）
静岡人萩原四郎兵衛筆記ニ曰ク
四日朝五ツ時、静岡大地震也、気顚倒驚愕ス、人家
崩、皆々往来ニ出デ、小屋掛、火番鉄棒（
火ノ番ノ
持ツモノ
）烈
敷、米ノ義モ追々引下リ、当国ノ外取引無之趣、先達
而ヨリ都テ直段四五匁引下リ候趣申来ル
高行云フ、此時魯艦下田ニ滞泊シタリシガ、突然海潚（嘯）起
リテ艦底暗礁ニ触レ、殆ト覆没セントス、之ガ為ニ如何
トモナスベカラズ、海嘯ヤミテ上陸シタレドモ、陸上又
無人ノ境タリ、而モ英艦ノ各国諸港巡視警戒スルアリ、
依リテ幕府ニ厳談シテ、同国戸田港ヲ借リテ修覆ヲ加へ
ントセシモ、損傷甚シク、海水浸入シテ遂ニ沈没セリ、
サレド意気毫モ沮喪セズ、更ニ我ニ求ムルニ木材・諸工
ヲ以テシ、其乗組ム船工・鍛工ヲ長トシテ、「スクネル」
船二艘ヲ作リ、北海ニ向ヒテ去ル、此時ヨリシテ我ガ国
ノ造船術ニ、一歩ヲ進メタリトゾ
十一月五日　土佐大地震、畿内及南海・東山ノ三道モ亦震
フ、土佐地震ニ関シ
小倉氏筆記ニ曰ク
夕七ツ時頃地大ニ震ヒ、国中其災ニ罹ラザル所ナシ、中
ニモ高知及ビ近傍江廻リ諸村尤モ烈敷、屋宅・倉庫土崩ノ
響、男女老幼号泣ノ声、水鳥驚起ノ音、地震ト共ニ人ノ
耳目ヲ驚カスノミナラズ、河水濁リテ減少シ、井水時ニ
涸レ、堤破レ、樹木抜チ、加之、北町ハ烟天ヲ焦シテ、
数百千家ヲ焼滅シ、海嘯亦尋テ来ル、諸処ノ堤之ガ為ニ
破レ、遂ニ潮江・新町・下知・比島・田辺・島・新木・
高須・葛原等一面ノ海トナル、海上ハ人家・諸道具乱流
セリ、海嘯ハ去来定ラズ、一日数度ニ及ビ、北町・原野
新町人家皆水ニ沈ム、浦戸町朝倉町ノ人家二丁四方焼失
ス、其余ハ皆大破セリ、上町辺ハ土地堅固ナルヲ以テ、
潰家少ク傷家多シ
右ニ付藩ヨリ幕府へノ届書ヲ左ニ録ス（
以下、政録
ニヨル
）
(注、「史料」第四巻一六七頁の被害と同じにつき省略、
但シ左記は「史料」第四巻と異なる土蔵・納屋　三千九百六十軒　（欠字アラン）土堤　三千五百五十二間　破損)
（参考）
一十一月六日　同四日、諸国ノ地震ニ付、御老中阿部伊
勢守ヨリ御渡之御書付、左ノ如シ
覚
此度度々地震有之候ニ付而ハ、此後之義モ難計、名々
立退方之義心得モ可有之候得共、兼々火之元ノ義厳重
ニ手当致シ置、早速立退候様、向々へ可被達置候事
一同六日　大守様御自筆御書付、左之通リ
先日国元大地震ニ付、此儘因循ニ居候ハヾ、国家累卵
ノ危ニ可至、因テ御暇之義願置候故、帰国之上屹度可
致省略、乍去、方今天下之形勢文武ヲ以士気ヲ培養致
候儀、一日モ廃ガタク、然ル上ハ、手許ハジメ冗費ヲ
省キ、イヅレモ非常之覚悟肝要ニ存候　以上
（参考）
一同月七日　村田仁右衛門ガ市原八郎左衛門及浅井始馬
両氏ニ送リタル書簡中ニ
一昨日前代未聞之大地震にて、其後塩入等も致し、殊
の外大変ニ候、右ニ付、少将様・若殿様方始、御方々
様御機嫌能、何等被為替候儀御座不被為在、恐悦奉存
候、云々
（参考）
一十一月八日　高知ニテ村々ニ立テタル高札ニ曰ク
此度ノ時節ヲ伺ヒ盗業イタス者ハ、貴賤ニカヽハラ
ズ、召捕勝手次第、若手向ヒ致ス者打捨テタリトモ不
苦
右之通被仰付候事
御郡方
（参考）
一同十四日　御勘定方ヨリ左ノ御触アリ
此度ノ大変ニ付、御町方御貸付銀、当暮御取立ニ相成
分、当年闕年被仰付、来卯年ヨリ何々壱ケ年延ヲ以御
取立被仰付、尤当年割払上納相済分ハ、其儘ニ被仰
付、未割済不申分、右之通被仰付候ニ付、御支配中へ
御触聞可被成候　以上
十一月十四日　柏原内蔵馬
又左ノ御触アリ
一此度大変ニ付、迷惑且費用等上下一統ノ事ニ付、依
右、銀未不融通顕然ノ儀ニ付、極難渋ノ面々ハ、依
願、公借払方闕年被仰付之
一扶持米忽差閊候面々ハ、依願、御円（囲）籾ノ内ヲ以、相
応拝借被仰付之
但返上ノ儀、追テ御詮議被仰付筈
一居宅破却、外輪囲且仮己屋等ノ為メ、竹木御用意被仰
付置候条、依願、相応代銀立ヲ以、別紙（
別紙
略之
）ノ通
被渡之
但望ノ面々ハ、差出、来ル廿日限頭へ取揃、御山
方へ差廻筈、尤御城下竝四ケ村住居ノ外ハ不被渡
候筈
（参考）
一十一月十八日　梅原伊豆守（神官）覚助ニ与へタル書
翰中ニ曰ク
右の次第無難ニ逃申候、実ニ不安事ニ出会、今夢の
心地ニて御座候、乍恐　少将様御苦心被遊候ニ付、
平穏の祈念日々執行仕候様被仰付、神前ニ相勤居申
候
（参考）
一同月中旬頃　御仕置役ヨリ左ノ通リ
去秋、御政事御改革被仰出、御手許ヲ初諸事御省略
ヲ以、海防御手当当（衍）被仰付候折柄、此度ノ大変ニ依
テ、又々御入費莫大ノ儀ニ付、御勝手向必至ト御差
泥ミニモ至可申、依之、追々江戸表ヨリ被仰出候儀
可有之候へ共、惣テ遊慰・飲食ニ耽候儀ハ沙汰ニ不
及、音信・贈答・饗応等、無益ノ費一切停止ニ候
事
一御家中初以下々々迄、潰家或ハ及破損候居宅、雨露
凌ノ為メ加修覆ハ勿論、結構ナル作事是又禁制候
事
一右時変ニ付、家作成就迄家内者共当時四ケ村ノ内立
退候儀、分限ニ不抱（拘）、願ニ依テ勝手次第
一近来銀米不融通ノ折柄、当時ノ大変ニ付、盗賊等ノ
仕業施申間敷、旁昼夜厳敷改方ニ為及候間、御家中
ハ勿論、夜分途中往来ノ者、覆面頭巾其余不作法ノ
輩於有之ハ、改方ノ者ヨリ不審且屹度致制度候様、
申付候ニ付、御家中之者ハ、其主人々々ヨリ無油断
可示聞置候
右之通被仰付候ニ付、御侍中ハ別テ風俗正布質素ニ相
基、又分限相応実用ノ武備相立、平常海防御手当ノ心
掛肝要タルベク候、若心得違ノ輩於有之ハ、屹度御沙
汰可被及候
右之趣我々ヨリ申達候様、御奉行中被仰聞候様、御
支配中へ可被仰聞候　以上
（参考）
一十一月廿二日　御仕置役ヨリ左ノ通リ
此度ノ事変ニ付、諸職人并日雇働等致候者、於働向ニ
御定分過分ノ賃銭不可貧（貪）取旨、支配々々ヨリ及示聞候
条、御家中初白札以下相雇候向々、御定外ノ賃銭遣間
敷候
右之趣我々ヨリ申達候様、御奉行中被仰聞候条、御
支配中え可被仰聞候　以上
十一月廿二日　御仕置中名前
（参考）
一同廿四日　幕府ヨリ御使品川式部大輔ヲ以テ左ノ如シ
一銀百匁　日光御門跡
此度国々大地震并洪波ニ付、世上為安全御祈禱料ト
シテ被遣之
上使太田摂津守
一銀百匁　増上寺方丈
同断ニ付被遣之
（十二月）
一同廿二日　土佐ニテ左ノ通
覚
此度之地震ニ付、御屋敷御玄関初諸所イタミニ相成、
著坐等差閊候ニ付、来元旦、中老初組頭御物頭等、爾
来於御同所ニ少将様エ申上御祝詞、於三ノ丸御受之筈
一（安政二年正月）
同十七日、太守様江戸御発駕ニ付、御見送ニ罷出ル、
但梶橋邸御門内ナリ、
右ハ御常例ニハ無之候得共、昨冬御国許大地震ニ付、御
願之上、早ク御暇出デ、御帰国被為遊タル也
一（安政二年四月）同月廿九日　浦戸入港、夕刻永国寺町邸ニ著、同夜扚
田村ニ転居ス
尤モ留守中大地震ニテ、家屋破損、且斎藤御叔父上帰
国ニ付、兼テ扚田村へ家宅相求メ候趣ニテ、同夜扚田
村へ引越シ候ナリ
大地震ニテ家屋半潰ト相成、其上潮入ト相成リ候故、
屋敷裏ノ藪中ニ己屋掛シ、留守一同住居致シテ、夫ヨ
リ扚田村へ引越候、杓田村大谷茂次郎扣山ノ岸ニテ、
僅々ナル地面ニ百姓直平ト申者住居之家屋ヲ買求メ候
事、家屋代ハ八銭三百目也（
土佐ニテ一匁
ハ八十文也
）
六畳
四疊
二疊
四疊ハ押入ニ用ヰル
土間
納屋
（参考）
一（安政三年）正月十一日　寅年地震以来損害ノ状況ヲ幕府ニ申ス、
其書ニ曰ク
土佐国去々寅年強地震ニテ、破損所等委細其節及御
届候、以来兎角高汐ニテ、堤押切田、島汐湛ニ相
成、且度々風雨出来、虫付等ニ而、去卯年収納ニ至
リ、損毛高左ノ通
一六万七千九拾八石八斗二升
右之通御座候　以上
正月十一日　松平土佐守
一若山先生ノ返翰、左之通リ
貴札拝見候、余寒難去候処、弥健勝ニ御加寿被成珍重不斜
奉存候、弊屋無異送光いたし候、扨此度之大震御聞及の通
に御座候、不可言天意御座候、拙家ハ無別条候得共、住居
向は余程の破損ニ相成申候、早速御尋被下御厚誠之程千万
辱奉存候、就ては阿部侯も御住居総潰にて、御妾其外即死
人数多候も御刀壱本にて漸く御這出し被成候由、竹藪の先
見も用立不申、一笑に御座候、当正月は黒（墨）夷入津可致候
間、量（重カ）御断ニ相成候ては如何成行可申哉、心配の義に御座
候、武辺不絶御講習と奉存候、兎角見苦敷死を不致様心掛
之外、致方無之と存候、先は年賀まで早々如此候
不乙
正月十五日　若山壮吉
佐々木三四郎様
尚々本山君度々御書通辱奉存候、是よりは御無沙汰ニ打過
候、御次手に御伝声奉願候、御自愛専一ニ候、
本文竹藪云々ハ、寅年諸国地震ニ付、阿部閣老庭面ニ竹
藪ヲ仕立、立退キノ用意致候トノ風聞其頃有之、閣老ニ
モ余リ周密ノ用意ナリト笑ヒシコトアリタレバナリ