[未校訂]二 文政十三年地震
破損の事誠に夥しといへとも 其一二
一大仏大石かけ、さし直し一丈余の石ころげ落る。○耳
塚五輪土中へうづもる。○三条大橋破損。○白川橋くづ
るゝ。○同茶屋つぶるゝ。○木屋町積木ことごとく崩
るゝ。○大徳寺大にあるゝ。此外遠方の寺社の事は、未だ音づれをきかず。
○惣じて、神社・仏閣の石燈籠、又は玉垣、あるひは寺々
の石塔、こと〴〵くたふるゝ。其外寺社、貴賤の家々破
損の事は一々記すにいとまあらず。誠に都は大騒動、前
代未聞の事ども也。
右は遠方の人々都に御親類有之、日夜音信案じ給ふ
人々のため、在増を書記したるなり。中々其騒動は都
にのぼりて見分し給ふべし。
文政寅とし七月新版
大地震忠臣蔵九段目抜文句
風雅でもなくしやれでもなく、藪へ這入る山科の百姓。
七月二日七ツ時ヨリ松原河原ニ於テ三夜ノ間夜通仕候間夕方にけ〳〵敷御出可被成候
ジドロサイク[大亂陀獮動不寢|おゝらんだゆき〱ぶね]
乍憚口上一此度地土路細工天地自然のからくりにて寺社の石燈籠
鳥居は不殘ゆり落し土藏は菱のごとくゆがめ築地高壁一
時にゆりたをし古き家たいはいがまんの細工に取組三日
めに至り出火用心のため町中一統水鐵炮にて水氣の立登
り火事の沙汰も相納り家根瓦修覆に差掛り忽大工日雇の
人間は一人にて二人前の働を御覽に入ますれば豐に萬歳
の程奉祈上候 已上
月 日 大婦志作
詞もしどろ足元もしどろにみゆる、ふりうりの商人。
御見舞のおそひは御用捨、ゑん国よりの書状。
これあげられぬとさし出す。癪おこした人へ万金丹。
乗物かたへにまたせ只しとり、参内有御大身。
たすきはづして飛で出る、びつくりした下女。
谷の戸明た鶯の梅見付けたるほゝへかほ、少しおさまつ
た都の人気。
おたづねに預り御恥づかしひ、町家の天千者。
思ひよらぬ、藪へにげ入京の山猫。
思ひがけなき御上京、見まいに登たしつやみ。
今日参る事余の義に非ず、さいそくがてら見舞にくる金
かし。
御用意なされ下さりませ、神社に御千度がはじまるの。
聞てはつと思ひながら、伊勢きく上方の噂。
様子に依ては聞捨ならぬ、上に取引有下の人。
娘はわつとなき出し、びつくりころ〳〵女共。
しやうもやうもなひわゐな、くへ込だ所々の井戸。
尋常に座をくみ手を合せ、寺々の和尚だち。
日本一のあほうのかゞみ、くわ原〳〵といふた人。
そりや真実か誠かと、八坂の塔のこけた評判。
思へば足も立かねて、ふるふこふしをやう〳〵に、四五
日ゆりつゝけに水汲老人。
ほんにこうとはつゆしらず、ぎをんの鉾の折れた前評。
ほしがる処は山々、われ落つた名寺の瓦。
此程の心づかひ、七月二日より毎日ゆりつゞけ。
恥しいやら恐いやらどうも顔が上られぬ、鹿島のことぶ
れ。
むかしより今に至るまで、伊勢のやけたはしらせぢやと
云老人。
水門・物置・柴部屋迄、あけ立のそんじ。
ヲゝ夫にこそ手だてあれ、河原へ畳しきて出ている丁人。
用心きびしき、四門に詰る大勢。
しやうじのこらずばた〳〵〳〵、じしんさい中。
敷居と鴨居にはめ置て、われた戸を無りに入れ寝る。
あすの夜舟に下るべし、京のおく病者。
ひらきみればこはいかに、かみなりかと思たしやうじの
内。
こぶしはなれて取落す、水汲丁稚のつるへ。
うんと斗りにがつぱと伏、道行老人。
御深切の段千万忝存じまする、諸国より見舞人。
名残おしさの山々を、京半分見物して下る道者。
地震にて損じた家は明たまゝ戸ざさぬ御代と世直りや
せん
此度の大地震にて、天子玉座を離れ、御庭に出御なり
て、夜を明し給ふ程の事にて、一統道路に迷ひ、数百の
変死有之、これを聞さへも胆つぶれ侍るに、其中にて、
かかる戯れ言を板行になして、商ひて銭をむさばる国賊
有。かゝる者共何んすれぞ此変に命を失はざりし事にや。
座本 嵐切ツ太郎
昔咄と思ひかけなき今度の大變天地震動昼夜はけしき虚空の物音
壁も瓦も落てくたけて殿舎もかたむき大地も裂けて吹出す泥水
頃は文政六月の始大地震花洛聞書 由里續
神社佛閣公家も町家も上下の騒動家に傳はる重器古物もみぢんと
成たる名家の蔵々たをれて己前に奇瑞をあらわす小鍛冶の長刀
由利出宰相不塚の呉方
齋南富士九郎
震動次郎家成
夫亦由留藏
へたくた成平
目斗宇五九郎
うろたへ照手の前
桑原勇治郎
足元千どり
立たり居之助
家もとの垣平
由利田折助
慈眞坊行典
びつくり佐四郎
大橋由留木左衛門
渡り兼太郎
壁もおちた
闇割田倉藏
ふるいや萬次郎
青井頬太郎
唐縅灰快子
其儘捨太郎
娘あしなへ
こけつまろび
砕田戸庄司
柱茂弓藏
始終曾々路
止む野尾松江
一統修理之進
地築能四郎
足弱假居之介藪影
蚊ケ谷喰夕右衛門
長歌
這出道十郎
浄瑠璃
竹本切太夫
同
竹本蚊や太夫
三味線
音茂千吉
狂言作者
藪の内群集兵衛
込ツ田蛇十郎
動々鳴戸之助
恐猪三郎
家藏ひずみの三郎
雨賀森藏
寺町一藤太
倒田平藏
老母四つ葉井
片意地勇吉
みぢん古隼人
鳥邊野荒藏
傾城龜山
丹波の琴治
庭にかり居姫
十方に呉松
永居の雪隠
不案新四郎
割手飛駄兵衛
大谷水八
奥方おどろき
澤久賀國奈郎
西陣大荒惣太
機から落太郎
八坂の塔六
多折茂仙藏
こしやうの内侍
東寺の藤藏
内藏之助菱成
道具目無太郎
いがみの門太
御室仁王門
崩留三位師家
突張り幸四郎
取頭
にくむべし〳〵。(後略)