[未校訂]○(六月)十二日。未の刻頃、大地震。百年已来には無き珍事な
り。町々屋敷方の土蔵損じ、ねりへい(練塀)くづるゝ所数多。
広井にては、横三ツ蔵・堀切、大分ねりへい崩れし所あ
り。高へいにもきずつき、ひヾわれし所あり、西掛所の
やらい門、南の方とつなぎへころびかゝる。若宮の北が
まへのついぢ、大にくづる。石灯籠はころび、或は廻り
し所多し。寺々の墓所の石塔、大分ころぶ。西美濃の内
にて、或寺くづれて天井落、うたれて死するもの廿七人、
あやまちせし者三百余人ありとぞ。法談最中故なる由。
また、或所にて、大松、地の下へいり込し由。上へ出た
る所、残り壱丈ほど有よし。或は地さけ、泥を吹出し、
田も畠もわからぬ様になりし所もあるよし。然れども熱
田の宮中のみは、此地震なくして、折節、参詣の人は是
を知らずといふ。実に一奇事也とて、熱田中の人々、松
かヾりをたきて籠る由なり。此度、破損せし所々はいま
だ委しくは不知。法花寺町常徳寺の門くづる。八事の大
塔も損ぜし由。七ツ寺の塔も、あう(ママ)ちてのちにはくる〳〵
廻りしが、されども無事成しとぞ。側の茶屋のもの共、
甚おどろきたるよし。桜の町時の鐘、落しと沙汰せしは
[虚言|うそ]なり。火の見やぐらの上番の者、咄せし由。上より
見おろせば、町々の屋根、浪の打ごとくにうねりしとぞ。
其うちに、瓦をふり落すも有、ひさしのおちたるも一目
に見へて、おそろしき様子なりしといふ。北在葉栗郡の
内も、諸所損ず。此前夜、[心宿星|しんしゆくせい]、月をつらぬく。大変
の知らせなるよし。
○地震の後、空に銀河見へずといふ。一両日の間也。
○今度、地震にて、西びわ島問屋町の内、井戸水、俄に
にごりあわだちしゆへ、さらへにかゝりし処、大きなる
あわび浮上る。六字名号有、側に蓮如の字ありとぞ。
○廿七日。夜、北西の方、在辺、雷つよし。地震少し有。
○此節、噂に、廿六日は大雷、廿七日は大地震、廿八日
は火難のよし言ふらせしゆへ、町々[言次|いゝつぎ]ありて用心きび
しく、仏神に祈り信心する所も有。
○廿九日。夜四つ頃、雷つよく大雨。此時、雷、下納屋
八角堂の辺へ落る。桑名町下、石井氏へ落る。前津聖天
屋敷といふ下屋敷へ、雷落て、家二軒雷火。愛智郡山崎
村雷火。知多郡横須賀村雷火。家数六十軒類焼。但し、
これは雷火にはあらずともいふ説あり。或落書に、
よい歌を誰ぞよんだかあめつちの
しきりにうごくじしんかみなり
○此頃(七月)、白きとび、空に舞よし、沙汰あり。
○今日、諸所町々、御日待をして、或は天王をまつり、
遠州へ代参を立るもあり。跡月、地震より大雷打つヾき
し故、いろ〳〵取さたをして、おどろく事有べし、火災
があるべしとの、御託宣等の事を言ふらせしによって也。
朔日、熱田参り夥しかりしも、此節の人心、万事恐れ入
たるゆへ、神を信心する故、かくの如しとぞ。
○当月初、地震・雷難等の災除のため、熱田宮にて、御
祈禱被仰付し由。長久寺にても有之よし。此故にや其後
は天気よし、何事も無由、御託宣のよし。