地震史料集テキストデータベース
[未校訂]（前略）
一浜名の橋は人皇五拾六代清和天皇貞観四年天朝に四ツの
橋をかけ玉ふ、浜名の橋は第二の橋なり、長五拾六丈・
広壱丈三尺・高一丈六尺二十余年をへて破壊するを以
て、陽成天皇元慶八年九月朔勅給て彼国正税稲一万二千
六百三十束改作焉と三代実録に出、夫より十一度修覆あ
り安徳天皇寿永二卯年橋焼て百五代後柏原院永正七年未
ノ八月廿七日高浪の大変にて橋其外駅里一面の海とな
る、猪の鼻は是より先淳和天皇天長十丑年ひと度流失あ
りしと伝ふ或明応八年未六月十日高浪ノ変アリ
今切之事
今切と成る事は永正七年八月廿七日又明応八年六月十日高浪大変あり
前沢の西荒海切通海水一面になる、橋本の駅日ケ崎猪鼻浜
名橋海辺の民家不残流失す、溺死数をしらす海辺の田畑壱
万五千余白砂となる依而白菅より若江村へ往還を作り前沢
駅迄船にて通路する領主船越之もの四拾余人地所免許せら
れ上下の渡船いたすとや、明応より百三年後慶長五年に御
関所すへられ神君関原御陣の時江間与右衛門与力同心相具
し、関守番所は山崎村の形部左衛門か家を引て船小屋の隣
にたて、同六年御代官彦坂又右衛門荒江支配と成る、元和
元年一統なし給ひ御関所地所広め御作事有て御法度正敷荒
江并東西海へ法令御触あり、此時御関所へ五十石附給ふ、
服部権太夫同杢之助与力拾人・同心弐拾人江戸より在番と
して江間氏に代りて相勤在番の士志都呂村に屋敷有之代り
合相固る、今切渡船由緒之儀は人皇百七代正親町院天正十
弐年神君三河国より遠州浜松の城へ入給ふ時甲州勢を避け
んため三州小松原村より潜に浜辺通りを越し給ふに漁翁源
左衛門といふ者奉越無難浜松の城へ移し奉る節右御褒美と
して御直判の御判物今切船守中へ下させられ右之御判物に
彼は誰や分やと重き御差名を蒙れ今切渡船役場にて一腰を
許され相勤るとや、其後関東へ御参勤初り大小名往来三百
余人と相定る此時舞坂荒井と宿名文字代る船路廿七町船賃
百三拾四文と御定被下、其後永禄九年又高浪の変あって渡
船通路難成代官野田三郎右衛門御関附五千石之村々に人歩（ママ）
を出させ船路修造なるといへと母已来高浪あらは御関所亦
も危からんと公へ申立藤十郎山といふ所へ関を移し大明神
の社船小屋ともに先規に依て関内に立て番頭成瀬滝右衛門
・佐野与八郎与力同心廿騎は三十ケ谷と云所に長屋を立て
相勤る、城町は御関所附と申有之城町斗引移る其後元禄十
五年吉田領主久世出雲守殿御関所領せられ在番の番頭与力
同心江戸或は馬郡篠原辺に住居するものゝ内与力三人・同
心五人御関所法式諸事取斗案内として久世家へ家来分と申
請永く奉勤る、此時より番頭両人・給人拾八人・改役六人・
同心弐拾人南北小屋敷を立て相勤る、此時は船路壱里船
賃百八拾弐文となり今切の湊口通路よく諸国の大船入津在
る所にも廻船百艘余出来海川の漁都合よく荒井の駅繁栄せ
り、六年を経て、宝永四年寅（ママ）十月四日未刻より大地震にて
津浪打こゆる事丈斗りにして三度に及ひ、荒井駅家数三百
四拾八軒・船四拾八艘・溺死弐拾壱人、同五年に御関所并
宿中一統中の郷村地へ引移り、御繰（カ）地（他）四拾弐屋敷と八町八
反壱畝九分居屋敷に割附下され、内五町五反三畝拾分は地
所無之山にて下さる、引移りてより新居の文字に改右津浪
の後今切口広く成て折々風浪に船路危く、其後又高浪の変
あって渡船成かたく、本坂越の往来既に三四年におよぶ、
依之公へ願ひ伊勢平八郎見分して湊口普請初り、白須賀笠
子の林を伐出し数多の杭を湊口へ打て船路出来ぬれ共、風
波之節はいまた危けれは吉田城主牧野大学様へ申立、舞坂
孤島の北廿三町汐除の蛇籠を築出し、船路通路成就す然れ
とも高浪に洲砂押いり浅瀬となり渡船差支是久申立、蛇籠
囲の内定浚仰付られ、今にて船路壱里拾八丁船賃弐百七拾
五文と定る。
昭和七年七月十八日新居町浜名橋本教恩寺（時宗）の
本を借り写取る
新居の里 疋田櫃治