地震史料集テキストデータベース
[未校訂]寛延四年辛未四月二十五日
○同日丑ノ刻大地震、所々水涌出又ハ泥砂吹出シ、城郭・
大手門・蹴出倒レ、土居廻リ崩、士屋敷并ニ長屋共潰、家
大破、市中同断、春日町ヨリ出火弐拾軒焼失、焼死拾四
人、此他陀羅尼町・稲田町・☓☓町ヨリ出火
同廿六日江戸表へ不取敢注進、目付壱人発足ス、家中并ニ
町方見分トシテ徒目付罷出ル
藩士為救評定所台所ニテ粥ヲ焚出シ、廐ニ於テ町方救トシ
テ粥焚出シ同廿九日迄施行ス。但町方有徳者迄夥敷来テ、
一時救助ヲ受、其外盲人等ヘハ別ニ手当アリ
藩士以下潰家及ヒ傾敗ノ向江雨露為防、渋紙・莚・繩等相
渡ス。但千石ヨリ百石迄渋紙壱枚・繩一束ツゝ、長屋住居
之分ハ一ト棟渋紙二枚・繩幾束、足軽以下茅簀二三枚ツゝ
相渡ス
一同二十七日今朝又々強震、家中并町方潰家アリ
一評定所大破ニ付、庭内ニ畳ヲ敷、渋紙日覆ヲ設ヶ大中老
并ニ諸役人罷出ル
一家中并戸潰レ、堀ノ水ヲ以テ米ヲ炊キ難渋ニ付、井無之
処一町ニ壱二ヶ所宛急掘リ致シ遣ス
一桑取谷・名立谷・能生谷村々震強、山崩等多有之旨ニ付、
取調ノ為メ役々差出ス
同二十九日潰家取片付ニ人足日雇候得共、更ニ出ル者無
之、稀ニ米穀ヲ渡シ雇候得ハ出人有之
五月朔日町方并ニ寺社死人潰家大破等取調書町奉行ヨリ
出ス
一家中破損為見分大中老壱名ツゝ罷出ル
同四日町方為見分目付弐人罷出ル
一佐州ヨリ江戸表差出金通行ノ頃ニ候得共、鉢崎金蔵破損、
宰領旅宿可致処モ無之ニ付、佐州奉行所へ家老ヨリ書状
ニテ掛合ノ処、途中止宿不致候ハゝ通行可相成哉取調ノ
儀申来ル。依テ駅路取調候処左ニ
一鉢崎関所山崩、馬足相立不申、青海川地内弐ヶ所馬足相
立不申候
一鉢崎ノ大橋落、是又馬足不相立由、右ハ牧野駿河守殿御
領地ニ有之、此他今ニ日々刻々少々ツゝ震スルニ付、米
山峠筋岩石転落危害ノ様子不少云々、飛札ヲ以テ申遣候
事
同十三日西浜三谷為見分、郷手代罷出、猶十七日ニ至リ、
郡奉行・在方勘定人等西浜筋ヨリ鉢崎・青海川筋江山崩
見分ノ為出張取調ノ上、此震害ヲ幕府江御届ニ相成候明
細書如左
越後国頸城郡高田城下并ニ榊原式部大輔領分
震害御届書
一侍屋敷百五拾七軒潰
一同四拾四軒大破
一切米取長屋六拾三棟潰
一同八棟大破
一足軽長屋六棟潰
一侍并ニ足軽当時屋敷無之ニ付差置候町宅五百軒余潰
一家中死人三拾三人、内男十五人、女十八人
一家中町方共怪我人多ク御座候
一家中町方共井戸多ク潰申候
一町家弐千九百弐拾弐軒、内弐千四百九十六軒潰、三百廿
六軒破損
一同土蔵百九十六ヶ所、内四十六ヶ所潰、百廿六ヶ所破損
一同死人弐百九拾二人、内男百十八人、女百七十四人
一同宿役馬弐疋損
一同怪我馬八疋
一町方商売酒・醬油・油等之水物器悉破レ損失多御座候
一地震之節町火事三ヶ所
一神社五ヶ所社家共潰
一寺院六拾九ヶ寺、内三拾八ヶ寺、堂塔并境内建物共潰、
三拾壱ヶ寺大破
一…………（ママ）弐拾七軒、内三軒潰、拾四軒大破
一修験道八軒潰
一寺社僧俗死人三拾七人、内男廿三人、女十三人
一領中山抜崩川欠四百七十三ヶ所
一林崩三ヶ所
一用水江堰堤川筋等破損百六拾八ヶ所
一水難ニテ損失ノ村方外ニ荒川瀬違一ヶ所大破
一郷中潰家弐千九百拾九軒、但焼失家共
一半潰家三千百六拾弐軒
一同死人五百五人、内男二百四十五人、女二百六十人
一生死不知者二百六拾二人
一死馬八十五疋
一痛馬五十二疋
一死牛拾二疋
一郷中寺百ヶ所、内四十三ヶ所潰、五拾七ヶ所半潰
一同社弐拾四ヶ所、内二ヶ所潰、拾八ヶ所半潰
一同堂拾五ヶ所、内九ヶ所潰、拾八ヶ所半潰
一同庵五ヶ所、内二ヶ所潰、三ヶ所半潰
一同塩屋百三軒、内弐拾二軒潰、八拾壱軒半潰
一土蔵七拾二ヶ所、内三拾ヶ所潰、四拾二ヶ所半潰
一郷蔵四ヶ所、内二ヶ所潰、二ヶ所半潰
一斗蔵六ヶ所、内四ヶ所潰、二ヶ所半潰
一樋拾七ヶ所潰、一橋五拾二ヶ所落
一高札場三ヶ所、一徃還道筋破損五拾四ヶ所
一同壱分ヨリ八分通迄損候村方六拾ヶ村
一同畑并百姓家亡所之村方九ヶ所、但此ノ九ヶ村ノ内長浜・
有間川・虫生・岩戸ト申四ヶ村北国海道ニテ四里程ノ間
山崩、徃還道筋并ニ村方共ニ山ノ下ニ相成、人馬往来一
切相成不申候
一同壱分通ヨリ九分通迄損候村方百七拾ヶ村
一大瀁郷用水江通保倉川筋へ抜落大破
一塔ヶ崎溜池大破
一矢代川筋大破、田畑所々損失
一鉢崎佐渡御金蔵大破
一同所関所外往還道山抜ニテ大破
一同塩浜三分一通リ山ノ下ニ相成
右潰家半潰共ニ
〆九千百四拾八軒
外ニ長屋七拾七棟潰半潰共ニ
死人八百六十七人
外ニ弐百六拾二人生死不定
死牛馬〆九拾九疋
外ニ六拾疋痛馬
右は先達テ御届申上候通、在所地震ニ付、領中田畑苗代損、
山崩、用水堰道橋損シ并城中侍屋敷町潰家、死人、右之通
ニ御座候、且城内破損所多ク御座候ニ付、以別紙申上候、
田畑損毛石高ノ儀ハ収納ノ上ニテ追テ可申上候
右之通御届申上候 以上
寛延四年五月二十二日
榊原式部大輔
高田城破損箇所
一本丸ノ内
一本城門蹴出破損
一三重櫓破損
一居間并上段ノ間裏座敷向大破
一玄関并中戸大破、番所潰
一玄関前大長屋潰、地所々裂、台所向破損
一侍番所大破、桝形ノ内地裂
一東不明門并蹴出門損、内廐破損、同処釜屋潰、北不明
門大破、門外地大裂、土蔵壱ヶ所大破、本丸・二ノ丸・
三ノ丸・土手所々千五百七拾間大裂、同土手数ヶ所
堀ノ内江崩入、本丸・二ノ丸塀所々倒
一二ノ丸ノ内
一武具土蔵壱ヶ所大破
一嶋ノ茶屋潰
一本丸外腰掛大破
一柳門大破、両脇土手大裂
一三ノ丸ノ内
一御用米蔵二ヶ所大破
一同所蔵五ヶ所潰、
一東仕切門土手敷迄切裂、道筋大裂
一侍長屋五棟潰、地所々大裂、
一南門大破、同門内勘定所建家二ヶ所潰
一南門外道大裂徃来難成
一狐門外道大裂
一大手門ノ内
一大手蹴出門倒、左右塀倒、土居崩、同所橋台迄地大裂、
瓢簞郭地悉裂、瓢簞郭入口鍵ノ手大長屋并侍番所共潰、
千人夫長屋潰、地大裂
一外郭ノ内
一評定所建家大破、同長屋拾ヶ所大破
一向大長屋潰、同所廐潰
一市ノ橋外大長屋潰
一土手所々大破、城内外共橋不残大破
右之通ニ御座候、委細ノ儀ハ絵図面ヲ以テ申上候 以上
但シ絵図不伝
寛延四未年五月二十二日 榊原式部大輔
右大地震ハ当郡及ヒ近国迄モ大災ナル儀ト雖モ、此ニ明記
スル処ハ高田領六万石余、数凡百ヶ村并城市ノ破壊而已ニ
シテ、公料代官地并他領・御預地等ノ儀ハ其支配云々ノ取
調へ故、後世ヨリ明細ハ知ルことアタハス。然シテ当時高
田領ニテ聞込又ハ此震災ニ付キ取扱ノ手続キ等荒増如左。
一四月二十七日、藩士救助トシテ夫々米金手当有之候㕝
一町方潰家壱軒ニ付三拾八匁余、半潰壱軒ニ付拾五匁余
破損家へ六匁五分ツゝ、郷中潰家壱軒ニ付弐拾五匁、其
以下半潰ヘモ夫々救助相成候事
此震災ニテ諸役所大破ニ付、仮屋簀囲ヲ以テ仮役所ヲ設ル
コト如左
一弐間七間 大中老
一弐間六間 領奉行・町奉行
一九尺三間 普請奉行・城代・奏者番・勘定奉行・守役・
目付・郡奉行
一弐間三間 物頭
一九尺四方 医師
一九尺二間 賄役・中間割場
此他何レモ仮小屋、家中市郷トモ仮小屋ニテ野宿同様ノ景
況ナリ。
郡内山崩破壊ノ内、別シテ西浜谷々浜方トモ大震ニテ居田
村（朱印地）有間川宿ノ間甚敷、桑取谷ニテハ中桑取村地
内ヨリ所々山崩ニテ桑取川所々水潮ヲナシ、夫レガ一度ニ
押流シ、有間川駅橋場ニ出テ築キ徃還駅内トモ河トナリ、
為之五拾八人ノ災死アリ（当時人員弐百七拾人ノ村方ト
云）、其惨檐タル景況ハ駅内大震ノ為メ全潰、内五軒ハ山
崩ノ下ニナリ、又海中大岩石破砕シテ四五丁土砂ヲ押上岩
下トナリ、或ハ山々崩壊海中江七八町モ押出シ、長浜駅ト
ノ間字長走ノ難場モ山壊シ海中へ押出シ、徃来為メニ自由
ナラス（此後浜徃還ヲ廃シ山徃還トナル）、然シテ長浜駅
ハ左程ノコトナシト雖モ、虫生村ニテハ人家拾五軒山崩ノ
下ニナリ、六拾壱人圧死（当時百人ノ村ト云フ）、三拾人
他出、弐人ハ海稼ニテ幸ト助ル。外牛六疋・舟十四艘山下
ニナル。岩戸村家数拾四軒、内六軒山崩レ埋リ、八軒潰レ、
人数百一人ノ処廿三人山下ニナル。牛七疋・船九艘モ同シ
ク埋リ掘リ出シモナラサルヨシ（此西浜有間川ヨリ鳥ヶ頸
迄ハ高田城主榊原家ノ領地）、此他名立駅ハ上名立・下名
立卜二ツニ分レアリケルニ、上名立ノ裏山一重モ崩レテ海
中ニ埋没シテ、人馬雞犬ニ至ル迄悉ク没失ス。圧死人八百
余人モアリ、其跡今ニ草木モ不生真白土ニテ壁ノ如ク立チ
テアリ。此他西浜至ル処山崩等多シト雖モ、当時他領ノコ
トニ付キ明細ハ後世ニ伝ハラス。故ニ略ス。
四月二十五日大地震ヨリ五月十日頃迄百余程震、閏六月中
迄毎日四五度ツゝ少々ノ震ヒ有之、夫ヨリ次第ニ軽ク、七
月十一日頃ニハ日々二三度ツゝ八月中モ同断ニテ、九月三
日暮頃余程ノ地震、十一月六日亥ノ刻、同八日丑ノ刻両度
震シ、翌申年正月二日モ小震アリ。
此大震ノ前日四月二十五日ハ昼空色薄赤ク風モナク、霞曇
リニテ空合近ク暑キ事六月ノ時候ノ如シ。同日暮頃鳥東ノ
方へ飛行クコト数多シ。然ル処其夜右ノ変事アリ。又藩士
清水某五智辺へ遊歩ス。農家ニ清水アリ。氏至ル毎ニ其清
泉ヲ汲テ飲、此日汲見ルニ濁レリ。ヨツテ僕ニ命シテ近辺
三四軒ノ并水ヲ汲見ルニ同シ。帰宅ノ後并ノ水ヲ汲セ見ル
ニ又薄濁リアリ。依テ氏驚テ家内ニ語テ云、井水濁ル時ハ
地震スト古老ノ云リ、必ス今宵変アラント深ク慎ヲ加フル
処果シテ此ノ変アリトナリ。
地震ニ付諸寺ノ釣鐘震ヒ落シ、鐘ノ音モ絶テ不聞、廿九日
昼八ツ時ヨリ時鐘所ニテ東本願寺掛所ニ有之太鼓ヲ持来
リ、鐘ノ替リニ時ヲ報告ス。此ノ時ヨリ時ノ鐘ニヒゞ入
ル、今ニ此疵アリ。故ニ響キ往古ノ如クナラスト伝タリ。
九月五日、幕府勘定所ヨリ左之旨達有之、
御領分越後ノ国北陸道徃還道筋地震ニ付、破損ノ所々今度
御普請ノ者別紙書付ノ通七人被差出候、其旨被相心得諸事
指支無之様可被致候。
元〆 渡部伝之丞 葛葉作十郎 青山喜平治 今井勘助
荻野藤市 渡辺伝右衛門
普請役下役 橋爪善兵衛
同十三日此七人外竿手ノ者三人高田着、今日ヨリ西浜通居
田村ヨリ長浜村迄渡部伝之丞・荻野藤市掛リ、有間川ヨリ
鳥ヶ首迄葛葉作十郎・橋爪善兵衛、幕府領名立大町ヨリ筒
石村迄青山喜平治・今井勘助ノ持場ニテ高田領ハ凡四里程
有之、十月二十七日迄ニ普請出来、二十九日高田出立帰府
相成ル、但、鉢崎・青海川徃還筋山崩之分ハ西浜徃還ヨリ
軽ク、故ニ幕府へ御普請難申立、依テ村々自普請ニテ追テ
領主ニ於テ手宛申付ル。
十一月十八日、金壱万両幕府ヨリ拝借被申付、因テ城内并
ニ家中普請等ヲ引弐千両ナリ。在中并ニ家老三人知行所田
中組江貸渡候旨、其筋掛リ申渡候、千両ナリ町方同断、此
他領中大難村方ヘハ別段手宛致スト雖モ略ス。寛延四年改
元アツテ宝暦ト成ルヲ以テ世ニ宝暦大震トモ通称ス。此大
震ヨリ八十七年前、寛文五年十二月二十七日ノ大震ハ松平
越後守当郡領主時代ニテ、明細ノ調届書等アルヘキ筈ナレ
トモ後世ニ伝ラス。故ニ略ス。依テ之レニ継クニ弘化ノ大
震ヲ記シテ、高田城市街ヲ設ケテヨリ三度ノ大震トス。