地震史料集テキストデータベース

[未校訂]冬十月二日夜二更過都下大地震、其初海中ヨリ電光ヲ發シ、
水邊及卑濕ノ地特ニ甚シク高燥ノ地ハ稍輕シ。人家多ク崩壞
シ、失火五十餘所ニ及ヒ、壓死九十萬人ト云。余東臺吉祥院
ニアリテ此災ニ遇フ。坐席傾キ辛フシテ庭前ニ遁ル。須叟ニ
シテ震稍輕シ。因テ家ニ歸ラントシテ辭シ去、寺門倒レ奴僕
ノ舍壓シテ僕下ニ叫ブ。衆ト共ニ之ヲ救フ、歸路御成道殊ニ
甚シク、筋違門ニ入レバ稍ユルシ。余家幸ニ傾クノミニシテ
家族恙ナシ。失火ハ東臺ヲ去ルトキ吉原ヲ初トス。家ニ至レ
バ所在火起リ紅焰天ヲ輝シ啼叫ノ聲地ヲ轟シ。寒心言ベクモ
ナシ。○中略官幸橋外淺草廣小路深川海手新田ニ濟院ヲ設ケテ
救活ス。東臺法王亦臺麓及深川永代寺中ニ救育舍ヲ設ク。此
日早朝余ガ知己本石坊第三街伊勢屋太助ノ家ニ一卜者年七十
餘ノ翁來リ告曰、今夕恐クハ大震アラン、愼ムベシト。主人
驚テ其故ヲ問バ、答曰余每朝起テ井中ヲ試ニ、今日水減スル
コト數尺、故ニトスト。主人亦其井水ヲ見ルニ果然リ。是即
天然ノ地震機記シテ後鑒トス。