地震史料集テキストデータベース

[未校訂]十一月四日の朝四ツ半時再震動、所々土藏土塀石塔石燈籠不
殘崩れ諸人皆畏れて色を失ひ、竹林或は廣野に小屋をしつら
ひ、居宅財寳金銀を捨て置逃走る。凡半時計り此時海鐵砲と
申して洋中にて砲音の聲聞へ、西の方に當りて空中に折々ド
ン〳〵の聲甚敷、諸人瞻を冷し、只御念佛を唱ふる外他なし
小屋にて飯を炊き夜を明し、翌五日になり、日輪の色赤く輝
き、晝七ツ半時大に震出し、其時には家屋不殘倒れかゝり、
其音甚しき事言語には述かたし。人々魂天外に飛び、色を失
ひ泣きさけぶ聲四方に起る。日暮迄大震す。橫町不殘家倒れ
潰て、元鍜冶町、雜賀町邊別當屋敷往來不成、家根の上を步
行して出火を防ぐ。就中橫町、別當屋敷、馬町、初の地邊烈
敷ゆり潰れ、女二人被押殺、橋本御石碑倒れ、全龍寺殿御石
碑倒れ、御代々樣の御石碑皆倒、全龍寺、本廣寺本堂倒れ、
庫裡大に狂ひ、妙躰寺本堂無事庫裡破却、專光寺、長德寺、
光行寺堂破、淨泉寺堂傾き、東仙寺其他諸寺院門戸を破却し
皆瞻を冷す。御役所半崩れ、假御役所出來、所々より出火、
火方寄りて直に鎭む。時々突浪川口より入り來り、熊ノ地材
木、中の鼻迄上る、其夜五ツ時又々中ゆり、皆小屋にて念佛
を唱へ夜を明し、其後より時々大ゆり絶間なし。
津浪
浦神にては床より五尺上り死人七人。
向ヒ浦、高芝無事。
太地、水ノ浦、人家流レ。
勝浦、大浪人家ヲ浸シ。
天滿下地、流家一部落不殘流レ行ク。
濱ノ宮、大半流家シ甚敷、三軒殘リ。
宇久井、三輪崎、無事、但シ濱ノ地形が低クナル。
鵜殿、井田、阿田和、市木、有馬、木ノ本、流家ナシ。
新鹿、二木島、人家流レ人死ス。
尾鷲、甚敷家藏悉流レ、三百五十人死亡。
長嶋、流家多ク二十四人流死、二鄕ノ浦十二人流死。
右。