地震史料集テキストデータベース

[未校訂]安政元年、
一十一月五日、天気、一兩日以前より小さき地震、屢搖り候處
申中刻に至り、夥敷搖りに而、市中江川浦一統惑亂致、海
中に而は大砲の如く、俗に海鉄砲と相唱へ候鳴續に而、タ
方迄止み不申、市中大分潰れ家有之、貴賤老若之差別なく
あわて驚き、上を下へと及騷動候處、海中よりは高浪寄せ
來り、本町、片町、紺屋町は不殘、袋町小阪の下迄、下長
町は中程迄、背戸川田地、御堀筋は不申及潮上り候而、井
戸、雲隠之分ちもなく、誠に目も當られぬ有樣、古今未曾
有之騷動、筆紙に難盡、一統之當惑、譬に物なし。依之銘
々居宅を捨置、或は鍋、釜、蒲團、其外日用之物を相携、
権現宮社内能堂、繪馬堂、護摩堂、松雲院、本願若宮、其
外湊村田畑へ小家を掛け、迯去、生きたる心は曾而無之、
何れも念佛題目等を相唱へ、夜を明し申候。右に付而は川
口に掛り有之候大船、いさば船數艘、潮に押登され、大橋
にせがへ、大橋半分押破り、大師川を越、秋津水車場迄押
登し申候、片町御堀筋は、潮勢格段に強く候哉、土橋落候
而、上片町迄さし込申候。然る處同夜五ツ時比、又々大搖
りに而、津浪は同樣に上り申候。其間小搖りは休みなく續
けに而、又又四ツ過ぎ大搖り有之、七ツ半頃より大搖り三
度、小搖りは數不知事に有之候。然る處同日夜五ツ時過ぎ
ゟ、町内所々より出火、同七日曉迄、市中大半燒失致候。
右に付、火消御役人方も御出張有之候得共、何樣大混雜に
て消人足も少く候に付、何共致方無之、誠に哀成次第に御
座候。
覺
町燒失、潰家共、棟数七百五十軒餘、
内　三百五十五軒　家居燒失、三百六十六ケ所　土藏同、
十四ケ所　座敷同、三ケ所　寺燒失、百千軒家居土藏潰れ家、
五軒　家居流失。
一米四千三百六十九石餘　流失、燒失。
一死人九人、
内　五人　流失、四人　燒死。
〆
右に付、御上みより稿（藁カ）數千把、竹繩等、近村より爲出、権
現松原へ救小屋掛け、小前之者爲凌、每日粥焚遣し候。叉
本町北新町へ、諸品小賣小屋を建、諸代品物、下直に賣遣
し候。米白米壹石百四匁、燈油五十六文。
一同日十八日、左之通御達、
此程之天災に付而は、浮説訛言を申立候者も有之哉に相聞
甚以不埒之事に候。畢竟右等之儀流布致候而は、自然人気
を相惑せ候道理に付、此趣、小前末々迄、急度可被相通（達カ）候。
一家普請、勝手次第、早々取掛り可申事。
一諸色賣物店開、右同斷。
一材木板類、高直に賣捌候儀、不相成候事。
一日雇工賃、平日之通、增賃不相成候事。
十一月十八日