地震史料集テキストデータベース

[未校訂]諸國大地震幷出火
一京・大坂・堺・河内・伊賀・播州・丹波・丹後其外國々少
少すゝは不同有共、大躰同時同樣大地震。誠にまれなる珍
事也。十六日暮方迄七十三度。
一奈良六月十四日八ツ時よりゆり初メ明六ツ迄少々ゆり、十
五日朝九ツ時ゟ大地震ニ而、町家壹軒も無事なるはなし。
勿論壹人も其家ニ居事ならす、皆々野又は幸福寺其外廣丈
明地抔ニ而夜明し、大道往來之者壹人もなし。皆内を〆寄
せ何れに居る共不知。每夜野宿ニて目も當られぬ次第也。
南の方清水邊不殘家崩れ、木辻四辻損家斗り崩れ、傳川町
々貳歩通殘り、北の方西奧手通三歩殘り、北番西町手具通
南北大崩、川久保町大崩、家貳軒殘る。中の方細川町・北
向町・北風呂町、右三町別し而大崩。其内とも三條通ゟ北
は少々崩れ、惣而奈良中大損し、前代未聞之大變也。死人
百五拾五人、子兒五拾人、けか人數知らす。古市・大津も
家四五軒殘る。十六日暮方迄七十三度大地震也。
一伊賀上野十四日夜九ツ時ゟ大震ゆり初メ、御城大手御門大
ニ損シ、市中凡六歩通四歩通は菱に成、鍵の辻ゟ出火ニ而
黑門前迄燒失ニ及ふ。夫ゟ嶋の原と云所迄、大川村ト云所
迄、螺の爲ニ一面ニ泥海の如くなり、其混亂筆に盡し難た
し。十六日暮迄七十五度之大地震也。
一郡山幷南大和六月十四日夜九ツ時より少々ゆり始メ、八ツ
時に大地震、職町壹丁ゟ同四丁迄家崩、凡貳拾八九軒崩、
其外市中凡三歩通家崩、其外奈良同樣也。死人凡百廿三人、
子兒十七八人、怪我人多し、誠にあわれ至極なり。是十六
日暮迄小七十三度ゆる。
一南大和ゆり出シ同時、怪我人少々、死人なし。家少々宛崩
れ。
一江州六月十四日夜九ツ時より少々ゆり始メ、七ツ時ゟ大地
震ニ而、三井寺下ゟ尾花川と申所迄家數百軒餘り崩れ、其
外膳所城少々損シ、大山抔も四五軒すゝ七八ケ所崩れ、此
内の人六歩通押ニ打れて死ス。四歩通助る。石山は別して
大成る岩抔も崩れ落誠ニ大損し、其外御城下在迄大損シ、
是も十六日暮方ゟ六十八度ゆる。
一勢州四日市六月十四日夜四時よりゆり始メ、六ツ時より大
地震ニ成り、家數三百軒四百軒ニ餘り燒失、凡死人百四五
拾人、不知人貳百餘人。其外尾州勢州其邊の國々大ニ損し。
一越前福井六月十三日五ツ時ゟ塩町鍛冶屋町ゟ出火、東西南
北共不殘燒失。其朝大風ニ而九十九橋ゟ貳百町斗り、寺院
百ケ所兩本願寺とも燒失。近在拾ケ所燒失。其夜四ツ時ニ
鎭り申候、又十四日夜八ツ時ゟ大地震。田地抔泥海と成り
所々の家崩し、死人凡四五拾人。誠ニ其混亂筆ニ盡し難た
し。十六日夜暮迄ニ大小六十三度ゆる。