地震史料集テキストデータベース

[未校訂]弘化四丁未年春三月廿四日、天気殊に清朗にして、
〓の間は晴渡、星も相見候処、五ツ時過よりも陰、夜
に相成、四時前電光有之候をは、須坂陶器場職人
久兵衛、米子村におゐて見受、其外見受候者有之、
正四ツ時頃、滔々の音とひとしく大地震に而、頭
上に百千雷の落掛るやう相覚、尤強弱は有之候得
共、信州水内、高井、埴科、更級、筑摩五郡、越
後国頚城郡江掛、凡東北之隅より西南江掛、長さ
五拾里に至るべく、幅広きは十五六里一般にて、
響きは京都、江戸を始め諸國、同刻に有之、越中
能登、震強相聞へ、当國殊更に強きは、飯山、善
光寺、山中と唱候数村、次は川中島平ケ（ゟカ）松代千曲
川北村々、北国街道牟礼辺より関川辺五ヶ宿、次
は千曲川添東西数拾ヶ村、次は須坂、中野、小布
施、其外高井、水内、埴科、更級四郡一般、次は
矢代、戸倉、坂木より中之條、上田辺、西は池田、
大町、松本江掛け、其余小縣、佐久、安曇三郡迄、
右に准じ、神社、仏閣、堂塔、村里、山沢、田畑
に至る迄、一時に震潰し、人畜圧死、怪我等、算
之上るに暇あらず、就中、善光寺は開帳中にて、
別而諸国参詣多く、扨此度之地震は、古来も承り
およびざる急変にて、大震」二動、直に倒潰の事
に付、多分は地震と存ずるもの無之、強盗にても
押込候哉、又は天狗の所業と存、同章ふためき、
人事を失ひ打伏居、適々心意迯出度立上り候而も、
足本四途路に相成、即時に天井、屋根等落掛り、又
は向先三四尺も逆さまに上り候故、進みがたく、後
ろ江振帰えい候得ば、潰掛り候故、誠に得計無之、圧
死人多く出来いたし、其上町八町之内、并町続吉田
村より石堂、吹上まで、凡二里近きの間、湯屋拾四
五ヶ所、料理茶屋数軒、娼家其外旅籠屋向も、いま
だ起居候方に而は、焚火有之、旁即時出火、所々一
時に燃上り候付、怪我人其外存亡共、掘出し方不行
届、殊に夜陰之儀、在町一般之事故、〓駈付候而も
掘出候道具も無之、助命相成候もの稀にて、或は
無疵にして気息絶するもあり、たま/\呼吸有之候
而も、重みに食しかれ、其侭焼死するもあり、或は
身体無異之ものも、掘穿つもの無之、火掛り相果る
ものも有之、或ははり、むな木に押付られ候処へ、
助け人來り候而も手段無之、其内、其内火掛り、其
侭に立去候跡に而、彌煽々と燃来り、髪の毛其外半
焼に相成、苦痛堪かね候うち、不思寄右之木片に〓
付はね返り、不思議に助り候ものも有之、或は父母、
兄弟、妻子、眼前即死にいたるべく候得共、火掛り、
無據手足を握り、髪之毛を握り詰、生別れ。又は其
侭にて遺言等いたし、すご/\立別、または何とか
助け候様恨〓り候を聞捨、又は迚も詮方無之候迚、
概念を進め、または情なくもそこにてしねといひ
て迯去り候族も有之、又は炉辺に四五人居候女、
潰候節煙出し穴江這出、不計命を助り、または端
近に居候もの庭江はねいだされ　又は戸棚、大火
鉢、箪笥、長持、其外にて落來り候屋根、其外を
かきむしり、遁出候ものも不少、または掘出され
候類ひ多端にて、憂患喜歎、暫時之間に有之、家
々人別、千熊万象無限事に付、迚も筆紙に盡がた
く、千万之内、一二を印し候而巳也、就中、哀れ
に相聞え候は、藤屋平左衛門土蔵に、五拾人程伏
居候旅人、震動を巧みを以て落し天井にいたし候
と心得、うごめきながら、金子は不残出し候間、
命許りは助呉候様、声々に叫び候内、掘人に頼候
などの儀も有之、松代町和泉屋にて承り候由、何
某弟は、善光寺商家江養子約束いたし置、兄弟其
夜堂庭に遊び居、大変に付、直に養家江駈付、瓦
はぎ取候得共、屋根厚く、掘出し候手段も無之、
下には家内不残達者にて申聞候は、迚も隣家湯屋
火勢も強、助りがたく、斯ては家財塵許も譲り候
ものは残申間敷候得共、約束いたし置候事に付、何
卒名跡許も跡立呉候様、遺言いたし候を、屋上にて
承り届、すご/\罷帰り候よし、又悪むべきは　か
〻る悲歎をよそに見て、おのが家財畳建具、不残持
出し候ものも有之、上田在眞田村のもの、同行拾四
五人、大門町旅籠屋に泊り、皆潰候処、此宿の隠居、
中風にて端近に居り、漸片手にて屋根をむしり出、其
上右旅人之内健成男壱人掘出し、其者と貳人にて、
口元の女を掘出し候処、此女、右男と元より訳有之
候様見へ候、即時に二人にて立去り候風情故、同行
者掘出し、并隠居をも外江連行呉候様申候処、又
々片手にて一人掘出し、終に拾貳人引出し、家内も
助り、漸迯去候よし、掛る人非人故、残拾貳人も甚
だ憤り、帰村候はゞ、名主江相断り、男女とも追払
可申旨申之、路次仁礼宿にて茶屋の噺には、両人又
々此辺に立戻り候旨に付、所々相尋候得共、知れか
ね候よし、また奇特なるは高井野村説蔵と云大工棟
梁、折節町中に居、〓に弟子其外相集め、鋸、鋮、
鉋、其外道具にて、六働いたし、都合貳拾八人迄助
出し、須坂横町刀屋杢兵衛弟子、岩石町に出張居候
何某、伊勢町湯屋より亦棟にて遁出、直に本堂江駈
付、霊佛遷座之手伝いたし相〓候付、大勧進僧正の
品に付、即刻衣類を貰ひ、此節坊住さへ不参に而
当惑之折節、万人に勝れ候心掛にて、直に家人に
相成候由、其外死力を盡し助け出候者も、〓には
有之、又幸なるは、大門町和泉屋裏に居候彦兵衛
儀、妻は常参いたし、子は隣家之家内と風呂に入、
不思議にも抜出、自分は大酔いたし、障子際に臥
居候処、大震に庭にはね出され、三人共無為に遁
去候よし、須坂上町傘屋九兵衛親共、淀ヶ橋之も
の有之候間、頼母しく存居候内、迚も此下にはな
し居候処、暫く過、又又何者ともしれず掘出し呉
候由、又当領分綿内村名主彦三郎母子兄弟にて、
藤平に泊り、二階にて梁に打潰され、姉は呼吸有
之候得共、自由難計、老母儀は別條無之、二階窓
より迯られ候様子に付、姉申聞候は、彦三郎之子
をば助け、二人にて遁出呉候様申聞候得共、老人
之儀、火中之事、旁母漸這出迯去り、忰（孫カ）の生死不
相分候処、此忰老母之跡より遁出、路頭に迷ひ居
候処江仁王之如き人来り、饅頭を与へ、何れに参
り度哉と相尋候に付、善光寺近在に押田村に親〓
有之候間、右江参り度と申候得ば、富に引提、現
に存居候、右親類庭先へおろし、行衛不知相成、
天より翌日綿内江送り候よし、又いさぎよきは、
諏訪の家中徒士之よし、両人止宿、一人立出候得共、
一人は押敷かれ、迚も難叶、白骨に相成候而は、多
人数印も無之儀迚、首をとり持参可申哉と申聞候処、
覚悟いたし、印を上候様申に付、首級許り持帰り候
よし、大門町柏屋亭主之咄しには、潰候得共、瀬戸
物入置候大棚丈夫に而、旅人彼是七拾人、家内とも
一人も怪我無之、まぬかれ出候由、其外怪説奇談、
数多噺有之、霊佛を崇め遇候而、朝日山江遷座有之、
光明赫々、紫雲棚引候を見受候抔と、却而聞悪く、
去ながら霊仏之奇特も有之事にや、本堂、山門、不
思議にも相残り、且本堂に籠り居候参詣人数百人、
一命をまぬかれ、其夜より本堂〓え遷座、翌日より
参詣絶間なく繁栄いたし候、其余は御霊屋を始、仁
王門、本願上人、大勧進、坊住、家中、町在、不残
焼亡、大略圧之通、
一二千百九拾四軒、　潰之上焼失、大本願、大勧進、家来、并門前、其外八町之内、
一百五拾六軒、　潰候而不焼失、同断、
〆貳千三百五拾軒、外三十五軒、〆貳千三百八拾五軒、善光寺領箱清水村、
一四拾六人、　大本願家来之内焼失人、男女〆、
一九拾貳人、　大勧進家来之内、同断、
一貳千百七拾五人、　善光寺町人別、同断、
一四拾五人、　大本願門前町家、同断、
一千貳拾九人、　寺内宿坊止宿之旅人、同断、
外町家止宿旅人分は、一向相分不申、数千人有
之よし、
一怪我人、数不知、
一三拾五軒、　寺領穢多、非人之分、
〆
外町続き町々は、他領、他支配に付、除之、　
宿坊之他、旅人万人余に至り候よし、両藤屋、綿
屋には、四百人程も止宿之由、右に准じ、外旅籠
屋数拾軒、宿帳主人親類に至迄、一人も不残死亡
焼失に付、員数之処迚も不訳、無縁之白骨山の如
く、近頃本堂之傍に、深さ壱丈余、幅九尺程之大
穴江堆く埋込、其外縄張いたし、白骨積置候、半
焼の死骸、其外奥気鼻を穿ち、狼出、小屋掛之内
小児等をねらひ候よし、大震、其夜凡九拾度にも
至べくや、中小動数不知、最初二三震に而出火と
相成、所々一時に燃立候間、白蓋之如く、元より
水貧（乏）しき場所故、消防の手段無之、焼次第故、翌
々日迄焼残り有之、稀には強（豪）傑之もの相働き、大
利を得候も有之、田中村之者、村方總代に而、松
代役所帰り、権堂娼家江遊に行、大変に付、旅宿江
立越、総代印形を取出し、其節助候様人声致し候迚、
猶又立越、三四人掘出し、野田江出居候処、〓着に
而寒く相成候に付、又々火中を尋ね、血之付たる蒲
團を三四枚引出し、夫に而凌候よし、江戸横山町之
同宿数人、藤平に止宿、迯出し候処、番頭差押、信
州は大地震決而無之、鎮り候様、大手を広げ差留候
内、番頭も一同に圧死、先へ迯出候下男帰府、主人
家にて腹立候得共、致し方無之、赤坂種徳寺下男も、
近辺之同志に被誘引、或旅籠屋に止宿、是又一人残
り帰府、申訳いたし、中には疵を蒙り、裸にて辛く
命を助り、帰府之者も不少、京地其外遠国同行之災
難に逢候者、筆紙に尽しがたく、松本之御家老友成
角右衛門も圧死、家來而巳立帰り、また或人弟を
助け、親類岡田江は行がたく、本堂辺に而冷気難堪、
坊住に有之蒲團を盗着用、飢候迚、権堂明屋江入、串
柿を盗給、助り候よし、其外諸國之商人、荷物積込
代呂物焼失、損毛不少、江州中村茂兵衛、呉服物五
百反、外古着等、焼亡のよし、ケ様之類ひ、自他算
勘いたし候はゞ、数千万両に至るべく、圧死焼死之
苦痛不堪聞、叫喚の苦み、焦熱大焦熱の悲み
も、斯やとおもひやられ、古今未曽有之天災、目も
あてられぬ事共にて、すべて世上の風聞より大造と
被存候訳は、多くは善光寺に而危難に〓候もの、
其節目に触候処と、道路之有さまを〓候而巳にて
飯山をはじめ、本海道之外、夜道又は人の存ぜぬ
村里山中辺土等に、地裂池成高低出来、又は名有
高山缺崩、泥砂水吹出し、新鋪清水湧出、是迄の
井戸埋込、川床高く震上げ水溢、其外大造成変地
有之候をば、微細に不存事故、評判より実事之方
数多有之候、大本願上人は高運に而、江戸青山善
光寺に被成御座、今般之開帳にかぎり光〓無之、
はたまた町在手当救助筋も有之候得共、大造に而
不行届に有之よし、生残候ものも、家財衣食焼亡、
度を失ひ、仮小屋に空鋪罷在、須坂其外市場江米
壹貳升づつ、軒別に日々の様買に罷越、飢渇人も
相見申候、夫故是迄豊〓に而驕奢に超過候ものは、
貧富処を換へ、魚價其外共栄曜之品は、下直なる
事に反し、哀成事共に御座候、扨又飯山は、越後
に隣、善光寺より六里余東北に当り、地震も最初
之様に相覚、傾倒も前書同様、御城本多豊後守様御居城也、御
櫓、御門、御住居共震潰、地形も余程低く相成、
御家中潰家、半頽等不少、焼失は無之、町家之分
皆潰、是も出火に而皆焼失、驚動震潰焼亡も、善
光寺に替る事なく、死失は御家中は拾六人、町方
許に而三百七八拾人之旨、三月廿六日、娘遣し置
候広田孫太夫ゟ郡奉行相勤届、申越候、在方之分は、いまだ
員数も不訳候得共、手入無之村は、三ヶ村而巳と申
事故、大〓之儀に而、別而北國往還石村神代迄、川
谷芋川江掛ケ大損傷、吉村は三戸山山崩いたし、一
村に而両三軒も残し、其余は不残土中江埋込、人亡
不少、其後十四五日を経、一人掘出し候由、生米を
喰、泥水を飲、助り居候旨、富倉峠又平出城跡甲越軍之
節、謙信侯持城に而、割ヶ嶽と唱候是也、山上広く水の手宜敷所也、低く相成、扨又飯山焼亡
之砌、産婦を残し置迯去候もの有之故、我を助けぬ
かと憤り、三度迄火中江飛上り候而相果候由、富家
米屋栄右衛門は、仁心有之者にて、蔵を開き、米五
百俵之内三拾俵残し置、直様施行いたし候由、〓〓
駒沢勇左衛門継母儀も、里方鈴木氏にて、実は圧死
いたし候、或は柱を伐候迚、誤て女の足を切付候類、
数多有之、須坂上町彦左衛門儀も、新町牛治と両人
に而泊り合、漸掘出され迯帰り、其外飯山領数十ヶ
村、山崩、田畑、人家震潰、算に〓あらず、扨又松
代も、両所に准じ、御城眞田信濃守様御居城なり、御門、御櫓、塀、
御住居も、実は潰れ候よし、御本丸に亘り、七尺程
之口而、余程長く地裂いたし、廻り之者落入らんと
致し、夜中大守公にも被成御覧候由、廿四日夜、廿
八日、九日迄に、追々潰有之、御城普請に付、大工
左官其外百人も、五月朔日迄に御出來之旨に而、
這入有之由、御家中潰家二十七軒程、死亡凡三拾
余人之旨は、長門守候者承り帰申候、其外地震并
満水に付、死人、怪我人、潰家流失、左之通り、
一死人、　貳千九百四人、
一怪我人、　千七拾壱人、
一溺死馬、　貳百四拾四疋、
一同牛、　貳百拾八疋
一潰家、　五千八百七拾三軒、
一半潰家、　貳千九百九拾五軒、
御城下町家
一潰家、　百三拾貳軒、
一半潰家ｍ　百拾三軒、
一死人、百五人、
村数三十三ヶ村、山崩之下になり、或は一軒も不残流失之よし、
一家流失、　六百貳拾七軒、
一砂泥水入家、　千八百軒、
三月廿四日夜より四月廿七日迄、地震数〆九百八
拾五度と申者有之、猶又今日ま〓、拙者日記書抜
別記有之、就中、松代領山中数十ヶ村、地震強く、
山崩、山抜、数拾ヶ所、殊更に変地之内、不思議
成は、廿四日〓〓犀川水一滴〓無く、干上りに
他国にては丹波川と唱、千曲川と同様成大河にて、急流成事、たとへぬるに物なく、丹波島と善光寺之間を流れ、牛島村御内
辺にて、両川落合、一流に相成、越後新〓の湊江落入候、越後にては信濃川と唱、虚空蔵有之に付、虚空蔵山と相唱候、
二ヶ処大崩いたし、本願一時に〆切堪上、其外同流
江落込候土尻川も、二三ヶ所大崩にて堰留、椐花も
水源、戸隠山鬼無里村山奥より流失候、大崩、三四ヶ所堰留候、此外枝川同
様に而、河中島数十ヶ村上げ堰、水之水利を失ひ、
松代領は九里の間、田畑震潰亡所、圧死多有之由、
妹聟之養子樋口健之丞、眞田侯御近習役相勤居申候、直咄し、扨又上
田領松平伊賀守様御領分也稲荷山、皆潰焼亡故、三四百〓余之
死亡有之、旅人を合千人にも及候旨、松平飛騨守様
御知行所川中島鹽﨑、條ノ井水（村カ）、其外五千石之内、
八分通震潰、死亡百人程之由、右支配人東福寺源太
夫ゟ、当方郡奉行共江申越、扨又須坂之儀は、石地
故歟右に比方候得共（者カ）、地震も軽き方には候得共、長
門守住居、并諸長屋向、大破にて、壁落、切くわせ大
閲、鴨居、廂落掛り候類、少からず、町家も右に准
候得共、皆潰は一軒も無之、拙宅縁虹梁、貳尺程大
裂、貳寸余東江突出し、廂北江三寸程開候而巳にて、
格別之儀無之、勝善寺破損所不少、勝手之間震潰、
其外天井等落候場も有之、ねり塀大崩等相見申候、領
内山手村々、小破而巳、千曲川添綿内村、高梨村、
八重森村、沼目村、小島村は、潰家又は半潰、田
畑は勿論、居宅地形共地裂数ヶ所、大なるが四五
尺、小なるは糸のごとく、地底の泥砂水等吹出し、
臭気強く、八重森村田の中大吹出しの砂、路上江
降掛り、夜陰行人は、夕立と疑候程之儀、人家土
台を床上江掛、貳尺余裂広げ、地形礎を二尺余も
別に震出し、大割之中江三間棹入候ても、底水に
而手答なく、小島村用達休太夫宅庭に、異形之跡
付有之、夜中見留る者は無之候得共、亘り七尺程、
幅八寸程、丸く蟠り、○図アルモ、略セリ、地中江、窪く跡付
き、鱗之形、四足之跡も、朧に相見え、頭之方と
覚、隣家縁の下大割辺に付有之、俗説とり〴に
申候、潰家其外、大略左之通、
一潰家、流家、　三百八拾壱軒程、
内本家三拾八軒、土蔵雜蔵其外、三百四拾軒
余、
一半潰、損傷とも、　四百貳拾軒余、
但本家、
一泥水入、　四百拾三軒、
但同断、
一水破村高五千石余、
内池成水押に而、水荒場、余程相見へ、
一壓死　拾三人、
一溺死　五人、
一怪我人、数不知、
半馬、死亡無之、
〆
掘出雲守御領分六出張陣屋付矢島村、丁子塚村、
羽場村、草間村、中山田村之内中鹽等にて、四拾軒
程潰、善光寺町續問御所村、下後町と唱候町也、善光寺同様之
潰にて、死亡も六七拾人にも至り候由、中野陣屋下
御代官高木清左衛門様御支配下中野村は、須坂より
は少々軽き様に相聞候、御支配下中野村は、須坂より
は少々軽き様に相聞候、御支配下村々にて、千五百
軒程、死亡七百人程と承および候、小布施、中野に
准じ、其外神代辺、牛馬之怪我にも当惑いたし候由、
中尾村小彌太と申候肚男、頭打敷かれ、皴だらけに
相成居、目の玉も一寸程飛出し、翌廿五日四ツ時頃、
漸掘出し候得共、運よく助り、其内腫出し、大怪我
之よし、小児などにも、頭長く相成生候ものも、所
々に有之候よし、竹原村、十七人づれ善光寺江参詣、五
人残、皆怪我致し、角間温泉江湯治致し候由、地震
後、犀川本願干上り、跡江所々温泉湧出、都而いづ
方之湯も、熱気強く相成候由、且当国筑摩、小縣、
高井等之諸郡に有之候、野沢、渋、田中、角間、別
所、浅間辺等、熱く覚候よし、また山辺には、地
震に裂候割口より火気を吐、乾候蘆藁等差出候得
ば、火燃立候旨、千保村より矢島村江嫁候女、棟
木に壓死、血煙り立ち、子は頭ひづみ候而巳にて、
活残り候由、善光寺近辺山西山、是迄無之白く缺
崩場多く相見候、菅平山低相見へ候、本島平之内、
飯山より千曲川東に当る、三十ヶ村程、余程損傷、潰家多有之、上田海野
町、五月廿日夜、地震強く破損、越後国高田は、
三月廿四日夜より、同月廿九日之方強く、潰家出
来之由、当国赤沼村川原新田にては、潰家過半、
大割目、地中より火三ヶ所出候よし、山中辺、同
断、火所々より出る由、上松村昌禅寺住寺（持）、善光
寺西町妾宅に而一緒に壓死、頭三ツに割、檀越之
もの腹立、葬送も取賄不申由、ブラン（コ脱カ）堂薬師、　
左甚五郎作、権現瀧九十犬二尺、は、別條無之候得共、瀧下
大損、道路悪敷相成、大岩本堂を打越、軒端を傷
候、缺所之前江落候由、草間村大破、掘抜之井戸、
水出不申、却而其脇ゟ穴明き、水湧出候、江部村
大震、人家潰家多有之、上田相応之者、権堂娼家
林屋江遊に行、三百両持参之よし之処、墨斗一本
焼残而巳にて焼死、金子者紛失之よし、此亭老鹽嫗
一人助り出候許、家内不残、妓女七人圧死、是に准、
米屋其外に而も、妓女沢山死失、川中にも死骸有之
候よし、越後国水原の豪家一島彌三郎、従者五人、
医師其外十一人召連、廿三日、善光寺江着、綿屋仁
左衛門に止宿、一人切迯出、外不残圧死、途中咄致
候男藝者に逢、羽織を着せ、自分懇意之者、中野、
牟礼辺に有之、旅装束相整、同道帰国のよし、水内
郡山村山、土中にて土龍の土を上げ候様に、大ラね
り相見へ候由、高井郡相之島村に、七本指有之候
異形之跡、土手に残相見候由、村山村にも、雙方江
のたばり候異形の爪之跡有之、領分五閑村、地割砂
泥吹出し候傍に、廻り壱尺も有之大蛇、一二尺づ
〻に切、吹出され有之候間、同村名主藤右衛門、高
梨村民蔵抔、及見候由、荒安辺大震、潰家地割多、
馬足今以立かね、戸隠山同様、飯縄原所々大割有之、
片鹽村大破、其外算上るべきに隙無之、松本御城内、
松平丹波守様御居城なり、余程、痛有之、御家中潰家二軒、其余這
方不能臣細、文略いたし候、千曲川西小川用水、揮
而地震後色赤く〓有之、井戸は多く埋込、地陸高低
出来、川東百々川、雙方より土堤川の方江寄、水行
狭相成、諸川も右に准じ、山中辺高低、或は一町も
出来、存の（外脱カ）変地所々に有之、南山の岸に有之神社、
北山峰江附、青麥其侭に而変地之類少からず、廿四
日後、気候不順にて、多分冷気勝に〓〓、此上〓
〓等流行可申哉難計、右就地震仕、〓御用御勘定
直井倉之助様、松村忠四郎様、御普請〓衆、四月
七日、御沙汰にて御越有之、今以御取調御逗留有
之、且諸侯方始として御見舞候者、其外見舞の奉
札、遠近往來引もさらず、窮風救方、焚出し手当、
普請、諸寺諸社祈禱、并亡者追〓之法会も、自他
鍛々有之、熱く〓憚多く文略、北国通路留り居、唯
加賀國大聖寺松平備後守様、途中江御出掛ゆゑ、
無御據大水押切、前日（月カ）四月十二日、無理御通行有
之候而巳、加賀様地震前之日、善光寺御通行相
済、御高運と一同申合せ候、其外浮説実談、日々
喧しく相唱、今以大中小震動相止不申、当惑至極、
古今怪有之天変に御座候、
信州須坂
堀　長門守内
丸山舎人
未五月廿八日
山科
醍醐宮様御内
櫻本御坊成就院権大僧都快存様
六條
東本願寺御門跡様御内
下間大蔵卿法印頼弼様
愛宿下
片桐助作様御内
笹田彌一様
室町頭
木下道正庵御内
高橋喜間太様
長崎櫻馬場御宿老
浜武治兵衛様
押小路柳馬場
徳大寺大納言様御内
香川式部様
御在京
勝善寺朗秀様
弘化四年丁未春三月廿四日夜亥之刻之地震、別帳細
記通、信州八郡殊に強く、山川、田畑、村里、震〓
し、人馬其外圧死夥しく、千曲川に劣らぬ犀川〓〓にて
は丹波川と唱、之儀は、水源木曽鳥居峠より初り、筑摩、安
曇、更級、水内四郡〓経歴、川南北高井、水内両郡
牛島、松代領、綿内須坂領、辺に而、千曲川と落合、一添（〓カ）に
相成候大川に候処、震動にて、同刻中岩倉山、虚空〓山とも
唱候、二ヶ所大崩いたし、亘り高さ厚さ其外、略図に委
し、凡は大留り長さ廿町程、高さ十五丈余、高さ不
分明、本瀬一圓に〆切、追々湛上、右犀川江落込候
土尻ドジリ川、小市上にて落合候、二三ヶ所山崩堰留、同鹿谷川、
新町より五里程上手、西北より落合候　此水上滝、大きは幅九尺、厚さ二尺も有、四十八滝と唱、二ヶ所山
崩堰留、椐花川、戸隠裏鬼無里の郷より流出候、山崩堰留、小市下にて落合候、
其外枝川、処々留り、松代領許にて、諸山小崩ま
でにて、四方九千余之由、諸流湛上候に付、山間
の村里凡三十五ヶ村、数里の間、水中或は水底に
相成、泥中に相成り、直に流家いたし候民家も不
少、多分大留り岩倉山辺に流寄、別て迂（逆カ）流いたし
候に付、舟にて流家を焼捨候得共、屋根而巳焼候
て、水際より焼不申、巨燵矢倉の大きなる様に焼
残り、湛上候水は大湖の如く、日々多きは丈余、
少きは五尺ほどづ〻増水いたし、多分最初の口へ
押切溺（溢カ）出可申候歟、または押切申間敷とも申之、
小市小松原辺より水先の村々、川中島、且松代御
城江も、突掛可申哉に付、川中島用水口辺、南の
方は山の口にて、北山崩七分も有之事に付、別て
危く、迚も普請無覚束は候へども、押切候節、少
しはためにも相成候事に付、松代重役出張、急普
請数百間の間有之、岩倉山辺に相図の狼煙相設け、
寺院其外にては早鐘撞候つもり、人家は渾て近辺
の山え立退、肚健の者、村役人など、一村に四五
人づ〻番人残し置、多人数山上江小屋掛候事に付、
大造に相見、家財食具、都て日々運び上げ、引続
當領内にても、川附村々立退、其外水防手当等申付、
地震の儀は、日々相震、諸山鳴動、四方八面にて、
士庶人渾て人心地も無之、右の内土尻川は、四月九
日、山崩押切、出水いたし、所々水破いたし、此川
筋の上げ口、此度地震御用にて出役御勘定直江倉之
助様、松村忠四郎様、御普請役差図にて用水揚げ口、
水に逆らひ候普請出来のよし、か〻る難渋の中に、
山中某村、地震にて是迄無之水湧出し、此上の危難
無之候得ば、田方に相成、却て幸を得候よし、さ糺
共新町千石余、其外三千五百石程一村、水にて損亡、などは、山中の一村にて、
人家も三四百軒有之、商家軒を並べ、辨（便カ）利宜敷所、
地震にて出火、火中に水押上り、大半焼亡流歿、水
底に相成、所謂水火之難超過いたし、其外村々も是
に准じ、水源見届として足軽衣笠喜兵衛差越し候処、
東は岩倉山平林、佐（三）水、今泉、吉原、竹房、牧之島、
馬場美濃守居城跡、下市場、和田、川口、大井、西は水内、上
條、新町、穂苅、大原、日名、橋本、十知津、船場、
野平、古坂、阿井、大日向、草尾、梶本、其外数村
水入、松本領合（〓）村まで水突、広きは一里程、或は拾
五町程、山間の模やうにより広狭有之、水死人も多
分にて、水内の橋と申は、本名粂路橋と唱へ、当国にて名高き名所、又は白〓端とも号す、
佐水の先にて、大崩より一里ほど上手、犀川の急流〓懸り、〓〓
一本も無之、南北より刎出して、長さ拾八間、横
九間の曲橋にて、下は碧潭藍の如く、橋より水際
まで八九尺有之、両品峩々として、苔滑に、激浪
皚々、雪のごとく散じ、角に細滝糸を美くし、眺
望絶勝の地にて、且のづらしき橋梁也、眞田侯の普請所、〓干付
掛替千両のよし、橋辺滝と鳴る、往古は□□と唱候、人の申伝有之、難所
有之、本瀬滝坪まで、巌石あまた有之、其中間を筏乗おろし候名人稀に有、是又吟（詠）の一景なり、候もの、
いづ地行けん、山岳変じて海と也候処、四月十三
日八時頃より、例の岩倉山、別て震動の声格別に
強く、遠近に相聞へ、其節当番壕内〓人、重倉雄
碩両人、水源見とゞけに参り合、近辺の山上に罷
在、始終見受候趣は、大崩の場、北の隅より釼形
に水気越、無程七時頃にも候哉、是より以前、数日漏水致し、半腹より滝
落候よし、一声〓々〓々、天地も覆かと思はれ、巌石
土砂、一時に押破り。赤黒の浪、天に漲り、暫時
朦朧と霞のごとく、また雲の如し（〓カ）、水煙り立塞り、
天地も見えず、雷霆頻にて、恐怖の次第、舌頭に
盡しがたく、十九日十九夜の湛水に付、大波は小
松原辺の喬〓より○高〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓、山
口屏風のごとき巌石、雙方にこれあり候を、〓出候
節、是にあたり、ひと度は水勢を〓りとめ、二度渦
巻候内、山村山三組とも暫時差込、名たかき荒神堂
も、行方しれず相成、二〓めに、右の両岩押抜き漲
出、小松原より東南へ押出し、本瀬は四方に分れ候
へ共、渾而一面の水と成、南は桑原八幡辺まで、川
中島寸地ものこらず、四三里四方へ溢出、長さは員
数無之、矢代、雨ノ宮、松城御城江も、千曲川を押
よせ、余ほど突懸、御城下町、少々水入相成、千曲
河同流に相成、川辺は申におよばず、善光寺近辺、
須坂近辺、下流の方は飯山をはじめ、越後新〓に至
まで、屈曲凡七十里余、次第に水入水押、或は水破
いたし、土手堤押切、川〓付候場数百ヶ所、当領内
綿内村三千石余、枝村廿四可ヶ村の内、二ヶ村遁れ候
而巳にて、水冠水押に相〓、其外高梨村、五関村、
八重森、沼目、小島の五ヶ村、水中に相成、鹽川村、
水車屋下まで水突、田畑の大破は不申及、流家不数
知、流死人も余程有之、流來人家数千有之、川中島
辺へは、三十人持ほどの石数多、小石数しれず押出
し、此辺別て大破、押堀池成出來、永荒の場数しれ
ず、小市村酒家は富豪にて、〓〓に金子入置、或は
大柱の中へも貯へ、酒桶に一ぱい銭をつめ、文庫蔵
へ入、大縄にて縊り、端をば窓より大木にじつと
繋置候ヘ共、大木根とも押抜き、其外土蔵も堀流
し、行衛なく流失、右に准じ、家財、金銭、五穀、
其外何によらず、一時に押はらひ、万家一村、是
等に准じ流失のことに付、損亡筆紙につくしがた
く、地震よりも遺財無之、甚しき事ども也、其患
難一二をいはゞ、大柳の木に取付、終夜鳴叫び、
助命相成候もあり、或は流家燃出、流ながら火中
泣叫候ても、助舟も無之、そのま〻相果候類ひも
有之、或は傾より屋上にて、産の気付出産、引水
の前、漸々産婦を助けおろし候へば、直に血逆い
たし候婦人も有之、或は樹上に舟を繋ぎ置き、家
内乗移り、其木あぶなく相成候に付、無據綱を切
候へば、一瞬の内に牛島村土手へ矢のごとく突よ
せ、不思議に助り、或は今里の枝郷川中島四ツ屋
村は、大鳴動いたし候付、のこらず山へ迯去、唯
一軒老人産婦有之、手伝の者も無之、其内水中相
成、是而巳不思議に相遁れ、その余總村壱軒なし
に失候よし、是等一大奇事と可申歟、或は小市村
何某の、かね四百両、財布に入置候ま〻、牛島河
原石間に有之、洪水後、同村の〓両入拾取、小市
へ相とゞけ候処、半金受取候やう、金主申之候得
共、不受納、扱人出、〓〓の礼金受之、有体領主へ
申立候由、或は牧島村のもの、急に水押來り立退兼、
夫は柿の木江〓上り、妻は桃の木江這上り、子ども
二人は、眼前流失いたし、生甲斐なしとて、入水を
申聞候付、夫申候は三十両〓中に有之間、子供の追
善も出来候へば、止り候やう能々申諭申候に付、夜
中天を頼りに致し居候所、夜明け候得ば、柿の木共
に流失、跡方もなく相成候や、一目見、そのま〻入
水いたし、四五町ながれ、〓浅之土手へ打寄せ有之、
助け人呼候処、息出候得ども、かくは悲歎に逢、兎
角死たがり候付、番人厳しく付置候よし、或は綿内
村善法寺地中浄玄寺、水練達者に付、それをたのみ
居候処、居宅危く候に付、〓出候処、水勢つよく、
殊に平生の洪水とちがひ、流れもの芥の類、始終流
れ来り、中々以しのぎかね、漸々押遣々々、山手へ
游付、幸き命助り、足軽小泉熊蔵も、同様にて助り、
或は郡奉行駒沢式左衛門、騎馬にて出役の処、口取
梅吉、若党荒井利三郎、一同に相成、馬に後れ水に
追れ、漸々大橋村民家屋根へ上り候へども、覆り
可申、終夜の苦心絶入候処、漸引水に相成り助り、
或は村の医者、其外五六人、平気に相成居候内、迯
難く、無據屋根江上り候処、傾動候に付、はしごに
て土蔵江移候得ば、直に潰れ流失、又々土蔵気づ
かわしく、其隣大成家江〓子一盃漸懸わたし、天
江移り候後、暫く過土蔵も流失、且上流よりは折
々火の燃居候人別（家カ）ながれ寄り候ゆゑ、一生懸命に〓
働き、鳶口棒などにて突やり、通夜難儀致し、や
うやく相凌ぎ、同村は別て水中火事にて、消防人
も無之、水は有ながら焼次第故、屋上のもの、永
火の責に逢ひ、須坂辺にて見渡候得ば、夜中なが
ら向村火事に付、顕然と相分り、八重椙（森）村との間
を流家矢のごとく、数軒絶間なく流去候を、眼前
見受申候、或は三抱、五抱程の大木、根ながら処
々江流寄せ、村山喜作は名高き水練にて、いづれ
も立退候あとにて游出し、高梨村まで床付、或は
金三両首に懸居候間、助け呉候様、流ながら相叫び
候得ども、助け人なく流死、或は山王島にて、金
五拾両首に掛、十両宛配分いたすべく、たすけ呉
候様、流ながら叫候に付、三人にて相助け配分金
の外に残金有之に付、是をも無理に掠奪いたし、
跡にて相顕候儀を恐れ、すぐに川江流しやり候を
見受候もの有之、中野役所江訴出、差押られ候よ
し、或は大川を火の付候屋の上にて、三人泣叫候
内、忽ち碎け、流死いたし候よし、中尾村五郎右
衛門弟虎治、赤沼村屋の上にて見受、今以眼に付
候由直噺、或は大木流　來、氷鉋村酒屋三拾間も
有之候酒造蔵を、〓ざしに突貫き候よし、或は綿内
村辺より川中島へ掛け、夜中大なる火の玉、折々飛
行致し候を、足軽丸山熊太郎、田村九十郎、たしか
に見受候よし、或は牛島村安楽院鐘撞堂、百々川江
流懸り、鐘は中島村下田の中に振落し、八分程埋り
有之、寛保二戌年立日流候儀、口碑に残り候得共、
斯〓の儀承り不及候、立日の類ひは、一軒に十許り
宛流来り居候を見受候、領内土屋坊村幸吉、水練達
者ゆゑ、制札を守護候処、宅も流失、一時に芥等流
れ来り、終に父子三人共、水死いたし、同村豊吉も
溺死いたし、凡溺死の者、自他夥しく有之、水先川
中島は、却て覚悟よろしきに付、各村立退き候へども
川下川付村々は、却て水に馴居候ゆゑ、、平気に落付
居、且貪欲、旁震動の音、押来候水声をも承知いた
しながら、立退も遅からずと、悠々いたし居候処江
急に押来、多く泡を食候族多く、兼て当領にても触
達し候へども、猶注進後足軽等数十人差出、厳敷申
聞き、領内は為立退候間、水死も甚少く、元地震にて、
村里、田畑、川々土堤、破壊のうへの事に付、格別
に水破いたし、別て夜中江か〻り洪水故、水防不行
届、去ながら自他人命を助け候もの不少、大略死亡
流家等は、別帳地震之部に有之、爰に略す、善光寺、
墨阪（須坂）、小布施、中野、飯山等は水難を遁れ、凡中（川カ）中
□（島カ）より新〓に至まで七八里、千曲川左右は不及
申、水源ほど、場廣に押水突切押堀、石砂置いた
し、大荒相成候、相図の狼煙も、中にて請候儀間
違、不行届処も有之、領内は川口より四五里下流
の方に候得共、三ヶ所に相図の大砲を設置、水源
見届、其外諸家水見の者、晝夜奔走、早鐘、拍子
木撃伝へ、出水前後とも、騒々敷事かぎりなく、
其虚に乗じ、盗賊相働き、或は謀にて、十三日前
の儀、夜中松代城下を高張を檐ぎ、衣類水に浸し、
切れた/\と高声に呼はり駈通り候に付、大騒動
相成、既に大守公御立退にも可及処、一向跡形も
無之儀にて、早々召捕れ候よし、其後厳しく相成、
御立退無之内は、決して騒申まじきと御下知有之
候由、同藩町田源左衛門、算術に達し、出水の期
測量いたし、相はかり候日積り通に押切候よし、
中野陣屋御代官高木清左衛門様、廻村にて長沼名
主伴七方に止宿の処、急に出水、一人も不差構、
地震にて迯出され、鎗持壱人被附添候哉、其内水
首丈けに相成、漸々髙き方の南郷村江立退、民家
に止宿いたされ候よし、地震以来、種々風説いた
し、米子の川、山崩にて押切、大水須坂を浸し候
とて小布施村辺村々、鐘太鼓を打、騒立候由、是
も賊の申触しに〓に相聞候、延徳地名、延徳二年決水にて、有束の大沼
干上り、四方に相成候場にて、地名と成候よし申伝候、沖、国風の唱にて、田畑の広き所を沖と唱候は、往古の水海の名
残に有之よし、古老申伝候なり、川辺村に、島或は川、鹽の字付候村、すくなからず、木島平、むかし村上義清
越後江寓身の期、幣とする地、別而湛上、小島村の高札流れ、延徳
の沖に建ち、其四周、流家凡百軒ばかり流寄、遠見
にては、一村立候やう相見、越後國三條江は、十五
日に壱丈余の水嵩に相成、死人不数知流出、人家其
外流物夥しく、長岡御城牧野備前守様御居城なり、下も、水廻し
に相成候由、川中島氷鉋唯念寺は、親鸞上人の𦾔地
にて、申伝の古墳も有之、是を穿候哉、又は山中辺
より入定の僧にても堀穿流失候や、人の乾物懸り有
之、足のすね、並より余程長く、合掌のま〻、皮肉
たゞれ不申、干物に相成居候を、長持に入置見せ候
に付、貴賤群衆、徳付候由、氷鉋役所江つかはし候
足軽梅本芳蔵、一覧の咄なり、高梨村に蛇沢山流
寄、人家江這渡り候付、無據打殺し候処、こやしを
檐候桶に入、四五村も有之候由、その中に青色の太
き蛇も居候よし、又壱筋太さ一尺余も有之、頭大薬
〓ほどにて、長さ六七間も有之蛇、百々川添に居、
上流より杉丸棒にても流寄候やと、人足等立寄候処、
する/\川水へ這入隠候よし、百百橋修復に差出
し置候足〓手籠役宮崎良吉置噺し、〓〓にては弁
をとゞめ、長持、箪笥、その外種々〓〓上候向も
有之、悪心ものは、領主へも申たてず、金〓其外
衣類、財宝、潜かに拾ひ取、捜出し、隠居候族も
有之よし相聞へ、五閑村にいぇ、〓付入有之古刀正
　　　　　　　━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
宗、コミに 命本阿彌金上一子充〓〓 ┃
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　○　○　○　信立┃
などの銘は、　 永禄三年十○一月十五日┃
　　　　　　　━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┩
金象眼にて彫
付有之、訴出、牛池村次郎右衛門は、三月二十五
日より犀川押出し候覚悟にて、十九日之間、家財
食具に至るまで片付、毎日釜壱ツの〓江、家内中
椀一ツ宛持寄給（食）候而巳にて、十三日水と承り、す
ぐに給かけ候ま〻に致し置、不残迯去、田地はあ
らし候へども、居宅の損毛少しも無之、心がけよ
ろしく相聞、其外壁迄打抜、〓（〓）屋にいたし置、助
り候者も稀には有之、岩倉大崩押切候跡、いまだ
十分の二は缺残り候て、夫だけの湖水に相成居、
鹿谷川の儀も押切不申、掘割普請中に付、猶水難
の程難計、此節一の崩大波峯上は、広さ百六拾間程にて、
見届足転村上新蔵申立には、水杭有之、五月廿二
日七時ゟ同廿四日九ツ時までに、九寸増水のよし、
四十八滝の滝下迄、壱里余も有之、松本領、松代領
〓の〓のよし也、犀川押出しの節、小松原其外最寄
の村々にては、土蔵の〓〓大石にて突通し、打抜候
も数多なるよし、地震洪水の〓災にて、窮民救助、
諸家〓〓有之、手〓〓〓〓、憚り多く文略、多人数
の内には、世（〓）産成りがたしと、乞食に相成候族も不
少、すでに五月中、拙宅にて〓を呉候処、難有がり
候風情、大に相違に付、相たづね候処、大原とかい
ふ所の者にて、災難の次第〓かに〓出候付、裸の子
供両人江、やれきぬ三ツ、愚婦よりかつげしよし、
其後六月四日、又々奉り、厚く礼申出候由、須坂中
町政右衛門にても、三人連の者、右の風情見受候に
付、いたわり、米并銭二百文とらせ候得ば、感涙を
ながし候由、是は佐水とかいふ所の者のよし、か〻
る族も少からず、地震といひ、水難といひ、近代不
承天変にて、数万のうちには、孝悌忠信の輩もすく
なからず、此災にか〻れるは、如何なる余殃とも申
にかりがたく候