地震史料集テキストデータベース

[未校訂]弘化四年三月廿四日、信州大地震、人多く死す、江
戸も此依、少しの地震あり、
今年三月八日より、川中島善光寺如来の開帳あり
て、諸国より参詣群集する事、稲麻のごとし、然
るに浅間山煙、常よりも減たるを怪しみ居たるに、
三月廿四日、晝夜快晴にてありしが、夜四ツ時頃、
俄に大地震ひ出し、立地に家屋を覆し、圧れて即
死する者、幾千人と云ふ事をしらず、善光寺近辺
の旅店は、参詣の輩泊り合して、この禍に逢うふも
の有、ともに数へがたし、無程此の倒れたる家よ
ろ火燃出て、大火と成る、善光寺の本堂は、傾き
たる侭残り、其餘は悉く灰燼となんぬ、この時、
山中（内）にのがれて、利益を蒙り、一命を全ふせしも
の数多ありしが、雷鳴の如き響ありて、尚ゆり出
し、夜明に及ぶ迄八十余度、四月、五月にいたり
ても、猶止事なし、大地はさけて泥砂湧出し、其
聞へ人家堕入、丹波島より二里川上、虚空識山廿
町程崩れ、犀川へ落入、洪水溢れ、丹波島川水押
出し、左右湖のごとし、焼死の人馬、幾といふ事
を知らず、或筆記に三万人とあるは、大凡の積り
にて、證としがたし、水内郡は、殊に甚しかり
となん、其他山崩れ、水溢れ、一村を流す、たま
／＼生残るものも片輪となり、米穀盡て飢に迫り、
道路に悲泣す、この間、地震は止時なく、用水は
泥水となり、両違にして濁に苦り、程なく官府よ
り小屋を建られて、この窮人を育し、食物を給は
りけるとぞ、殊に近年の大厄にして、聞く毎に戦
慄す、開帳の前、門前へ大〓る高札を建しに、一
夜にしていづちか失ひ、行方を知らず、再建るに、
又行方なし、三度にいたりて、晝夜尚番人を付な
り、是この凶変を知らしめ給ふさとしならんと、
跡にていへりとぞ、