地震史料集テキストデータベース
[未校訂]越後國蒲原郡三條町大地震大變之事幷出火人
死事
一文政十一子年十一月十一日之夜暮六ツ時ゟ星の落
ル事蛍の飛が如く又雨の降か〓く、諸人不思議の
思ひをなし所に、翌十二日朝五ツ時頃東南の方ゟ
鳴出シ五六里四方大地を動り上候事五度也、六度
目には東御坊を始メ六里四方の町在々寺院過半ゆ
り崩し先ツ震初二名高キ三條御袤十五間二拾貳間
の本堂八九尺程五度ゆり上六度目にはゆり崩し候、
誠に其日は如何成因縁に哉凡千人斗の参詣有之所
内に居候ものは木に打れ死るもの有又は手足を木
に敷れ泣さけぶも有、又外へ逃出る者ハ大地の割
口へ落込死るも有、木の下大地の割レ死にて泣き
さけぶ共誰有て早速助ケる者もなし、その内ニ大
地の割口ゟ火燃へ出し御坊臺所邊え移り大火に成、
八方へ火廻り候得共地震中場の事なれは誰火の消
者もなき故一面の火を成、御開山聖人手づから作
らせ給ふ御木像を始め御染筆の御名號并御代々の
御書御判物數通本山代々ゟ御影等幷御坊開基ゟ傳
來之宝物不殘燒失諸參諸老若男女共即死の者は祖
師の御木像と共に生なから火葬に相成、木にしか
れ半死半生のもの故遁る事不叶泣きさけび居候内
に老若男女所化僧ニ至迠五百餘人無是非相果候、
夫ゟ阿弥陀堂も拾壱間四面の本堂火移りゆりつぶ
れ、御本尊始七高祖代々の御影不殘燒失、寶蔵大
藏薪部屋幷厩屋とも不殘ゆり崩シ燒失、釣鐘は蓮
家之落入、堂は崩大門高塀みぢんに崩れ燒失、惣
方壱度ニ一面のほのふと成生ながら火あぶり同前
泣きさけぶ声眼前に遮り、大極熱の地獄なりと聞
人々驚かぬ者はなかりけり、此時生きたるものは
皆々うろたへ泣わめく斗りにて平生御聴聞の安心
は何の御用やら誰か壱人念佛申ものもなく即死の
残り半性の者は御助け／＼と聲かぎりなくよばは
り、在家は勿論寺々の坊主達迚も念佛を打忘れが
た／＼ふるいしてうろたへ泣居たり、中々おそろ
しき事言語筆紙に演盡しがたし、平生御催促の安
心 勧化法談の時黄色なる声して汝かゝ共の賽銭
貪り門前町の遊女に費し誠に佛罰哉、又ハ神國に
産れなから神明を麁略いたし候神罰哉、平生王法
を以て表とし内心には神へ上ル錢あらば此方之上
よ、神明宮へ上ケると祖師上人の御意に背道理抔
と申勧メ候故に此度の天罰哉、又は神罰哉、生な
がら地獄へ落入候者共右御坊所境内斗りにて五百
餘人恐しき事也、扨又御坊所門前町兩側諸國ゟ參
詣人并往来の諸人旅宿の者二階作り又ハ三階作り
にてりつぱなる家作にて昔ゟ賣女大勢召抱置諸人
の金銭を貪取候悪所故是も同時ニゆりつぶれ御坊
所の火移燒失す、中々逃出る事不叶して百人余燒
失す、夫ゟ本町通りゟ船町通東本願寺小路大町通
リ二之町通此町内ニ村上内藤紀伊守様御陣屋有、
御家中方様々被思召候得共地震の事なれば弓箭鉄
砲にても埒明不申詮方盡てぞ見へにけり、一の町
通り三の町通四の町通此所ニ上州高崎樣御陣屋有、
五の町通り六の町通小庄 町此所ニ村上様御陣屋
有り、振町通此町ニ五十嵐川在川向ゟも火燃立三
條町方何れの町もゆりつぶれ候事故追々火移り惣
方一面に炎となり、老若男女牛馬等迠不殘焼死候、
逃出候者へ木に打れ死るも有、又地震にて割口へ
落入る者も有、割口貳三尺ゟ貳三間深サハ貳三間
ゟ八九間十間迄も在之、地震ゆり候事故歩行事不
叶如件足元ゟ割口へ牛馬共落入死るもの數知れず、
又割口ゟ燒砂吹出し候所も有又熱湯のわき出る所
も有、又ほのふ吹上り所有、後には惣一面の火と
成、人も木も家も牛馬もゆりたをされ大地震の有
樣前代未聞の事共也、扨又其中に不思議在之、三
條町中の産神八幡宮御社在り、大社なれは末社も
多く有今度の地震少しも障りなし、大鳥居石燈篭
數拾本境内の立木に至迠少も障る事なし、何れ此
御宮へ迯行候ものは少の愁なく一心不乱に祈念し
て居候よし、其外町在共に五六里四方の内大社小
社に至迠宮地の分神居ます所は地震少もゆる、事
なし、石燈篭は不及申鳥居立木は壹本にてもたを
れる事なし、誠に此度の地震は神國にて不思議な
る事に候、其後命有る者に今に地震の氣があると
いゝ氣文悪敷病気に成者もあり、又は地震に割口
へ落込半死半生にて悲むものもあり千差万別なり、
扨燒屋敷に而骨拾ふ者もあり、ふすぶり候死骸集
め自分の屋敷にて火葬にして弔寺もなし僧もなし、
涙ながらに納るも有、此度の大變中々萬端筆紙に
盡しかたき誠に十分一の事記置也、
一三條御坊始諸宗寺院地震崩の事
附燒失又半崩死人の事
東本願寺末菊池山淨圓寺 半崩 東下寺福宝山宝林寺〓燒失新発意奥方もり子〆三人死
東下寺正樂寺ゆり込潰燒難なし東方願教寺ゆり込潰火難なし
同断 善生寺 右同断
禪宗曹洞宗
萬年山 福生寺 崩燒 大日山 宗正寺半崩庫裏惣崩
少林山 定明寺 半崩
法華宗
本國山 實淨寺 本堂半崩ゆり込屋根少し相見へ
浄土宗
極樂山 極樂寺 三棟造惣金箔塗唐作半崩也多宝山 宝塔寺 半崩
真言宗
藤沢山 淨□寺 半崩 安樂寺半崩庫裏入込
德正寺 半崩燒失僧家來四人死 永樂寺 崩燒失僧壱人死
右の外東末寺多ク候得共塔頭の寺院房舎數しれず
燒寺多ク御座候得共筆に盡し難く追而可記、
一三條町並ニ在中入込ミ御領所幷地震崩燒死人之事
村上領内藤肥前守（町在七分通リ地割レ 三分割口四五尺ゟ拾間余リ
同領 上双呂村（大分通り地割レ同断此辺割口ゟ熱湯わき出る
同領 時田村（同断割口ゟわき出て山の如し緑青色の砂也世にたぐいなき匂ひ也
其外村上樣御領崩れ燒數不知
上州高崎樣御領三條町在共大分通燒失
村上様御領三條町在共ニ大分通燒失數不知死人
百三十四人
不〓德左馬助樣領分七分通崩燒男女百五拾貳人
死
柴田城主水口伯耆守樣御領三分通リ崩焼死人貳拾
人
三條在忠崩燒失死之事
見附宿五百軒程町寺拾ヶ寺崩燒死人男女子供百
六拾壱人牛馬犬とも弐百四拾疋程
三條町ゟ今町宿は三百軒程也、是も甚以大崩寺
方町家土蔵物置小家迄不殘燒失、死人百五十人
余、但宮地障なし、
加茂町宿にては崩斗燒失なし、木にうたれ死ス
人七拾人、尤宮地は少も障なし、地震割口より
緑青色の砂吹出し、其匂ひの悪敷事世に類なし、
壱度かぐ人は立所にて気絶し、又は病人になる
人もあり、
今町宿にて三尺斗りとも見へる白足なる四足な
るやうな化者出るよし、
大は地震ゆり出候へは何れも山を見掛て走り行
たるあり、後にはかつゑに及候得ハ町方へ帰り
焼けくすぼりし死人を喰てたすかりしも有、又
在町ゟ町々へ用向にて出る人々多く燒死の分見
付次第に俵に入、馬に附帰るも有、又町方に同
は壱軒は七人迄死たる家もあり、是等は其家々
の屋敷にて灰寄して片付る者もあり、寺方迚も
大混雜の事故弔ふ事なし、自分／＼の勝手次第
何事に而も其儘打捨置也、
一摠見村不濱德左久助樣御領分にて化生のもの出
て人を□たる事あり、
一万願寺村中新田より壱里の原有、此所へ晝過よ
り化生のもの出、姿は聢は目に見へ兼候、白き
綿の樣成ものに行當るよとおもへば□ゟ細き物
にて打とおもふと、惣身骨崩れ骨なしになりた
るもの廿人もあり、又即死の者拾人余もあり、
不濱德左久助御家中へ段々御吟味被仰付候得
共、姿のなきもの故無詮方其日を送りける、
辺に鉄砲の名人有、常々心掛ケ有者故に鳥渡隣
村へ行にも鉄炮不放持参して罷出、然に向の方
に何か白き物あり、雲ならは天にて有筈、地よ
り出るは難心得と思ひ、右鉄砲を持て貳匁玉を
込み、薄白き所を的となし、火蓋を切れは、杵
の化生の物に當り、立寄見れば猫ほとなるもの
にて手足は小兒の如し、顔は甚タ□□手尺には
水かきあり、春には四五分程の導き鼠色の毛あ
り、腹には毛なし、鳴声はしちりきを高く吹出
したるをく、誠に此世に是迠見ぬ珎敷もの成り
と、夫ゟ德左久助樣之御注進申上候處御見分被
仰付、右化生の物も地震の割口より出候ものに
や、水かきと云イ毛の短き所は□□の如し、其
後影干にして不濱樣御預り、
御公儀樣え御□□の様子に御座候鉄炮の名人鉄
砲支配被仰付、當座の御褒美として金子貳百疋
双見村百姓万左ヱ門と申もの右鉄砲の名人かく
まひ置候故御扶持も被仰付哉と皆々誉ぬ者はな
かりけり、
一地震の事聞こ付地震迚地斗に而はなし、雲も一
面ニ其氣立候哉たち鳥とびからす等迄皆々ふぬ
けに成立あがつては落地に居る所も鷄も初めは
鳴て立上り候得共みな／＼ふぬけになりとば／＼
して居候、鳶鷹迚も鳴事せずして遠方へも不行
唯うろ／＼として居候、世界中灰の降りたる如
くにて四方とも見へ分らす肝心の念佛さへ打忘
れ夢中に成此世からいましめの地獄を見て心の
内にて恐入誠に神力の尊き事は限なし○中略
右は越後國三條町大地震にて大變の趣荒増噺を
聞花咲一山主奥州え帰村之節三條に宿し、國元
の土産として亭主より直物語を承り書記をかれ
しを冩もの也、