[未校訂]十七日、埜村といふ處に至るに、ひるつかた地震大
にふりたり、暮行ころ、又いさゝかのなへふりぬ、
十八日、けふもなへふるこゝちせり、鮎川にいたり
てとへば、日毎になへのいさゝかはらぬ日もなう、
箱井の寺なる塔の、ふりこぼれしなと語る、
九月○八月ノ誤二十五日、涌本の浦なる菅大臣の祠に詣な
ん、夜經より空のけしきことに、海濁り、星の光く
もらはしう、寒風山はうす霧たちこみたるやうに見
ゆ、いはゆる巨濤つなみの寄り來ん、あやうし、身におふ
はどのものは負ひつゝ人にもほの語りあひて嶋田と
いふ處に来つゝ、相知りたる人の一日二日はとゝま
りてなとねもころに聞へて、夕つかた烹粢にしとぎといふも
の、あるは濁れるとよみきをかみして撰につぎ入れ
て、それに稲穂一ふさをひたして、これなん穂酒と
いひて神に備ふるは、阿仁の山里にて穂祭てふため
しあるにひとしう、いにしへぶりもめつらしかりき、
けふは刈場の餅とて、家擧りてことしよねのもちな
ん喰ふめるためし也、