地震史料集テキストデータベース
[未校訂]六〇 房州沓見村大地震二付破損ノ品々
元禄十六年十二月
（注、「新収」第二巻、別巻一九三頁に既出なるも、解説
があるため再録する）
房州沓見村大地震ニ付破損ノ品々
一堂社合八ヶ所 但大神宮 八幡宮 山王宮 釋迦堂
弥陀堂 薬師堂 観音堂 虚空蔵堂
一家数合六十八軒
内藤兵衛家一軒別儀無御座候 其外六十七軒ハツブ
レ申候
一人数三百九十四人 内九人ハ相果申候
一御蔵 ツブレ申候ニ付小屋懸仕昼夜共番人置申候
一馬十九疋 内七疋死申候
一牛二十五疋 内八疋死申候
一田方之内 一町八反五畝余 当荒
一畑方之内 二町七畝余 当荒
一池数合テ六ヶ所 堤ワレ申候
一納米二十一俵二斗三升二合 御蔵ニ有
一浜出シ置候薪五六百束程帰リ申候由船主方ヨリ申來候
一百姓中之諸道具不残損申候
右ハ十一月二十二日ノ夜大地震ニ付破損仕候御見分奉
願候処ニ早速御両人御越被成下我々モ立合村中御吟味
之上如斯ニ御座候以上
元禄十六年未極月十一日 沓見村名主 権右衛門
年寄 吉右衛門
同 惣兵衛
同 小兵衛
六嶋与兵衛殿
岡山織右衛門殿
（豊田村誌抄録）
解説
この文書は行縄寛家に伝わっていたものであるが、文書
は最近焼失して存在しない。「豊田村誌」（大正初期編）に掲
載されており、次のように述べてある。
『元禄の地震―元禄十六年の地震は意外の災厄にして
沓見村三給の一たる上組のみにても其損害の尠なからざる
こと次の如し、全村の損害推して知るべきのみ。今本村沓見
行縄鎌太郎所蔵の古文書原文の侭を左に掲ぐ「以下前掲史
料六〇」案ずるに六嶋岡山の両人は領主能勢日向守内の人
にして災後二十日に江戸より出張したるなるべし。書中薪
五六百束帰り申候の帰りは覆へりの意ならん。』
この文書を引用した『房総災害史』で吉村光敏氏は『文中
の堂社の内「大神宮」は沓見莫越山神社「弥陀堂」は真勝寺
「観音堂」は円鏡寺「虚空蔵堂」は慈眼寺ではないかと思わ
れる。云々』としているが、沓見村は当時相給であり、この
文書が能勢日向守支配の沓見村上組の状況を同支配の六
嶋、岡山の両人に報告しているので当然沓見の上組の堂社
でなければならない。吉村氏は本尊が同じであることから
旧豊田村内の他地区にある社寺を誤って当てはめ推定した
のであろう。現地の状況から次の通りと推定するのが至当
であろう。（ ）の中は現小字名、いずれも沓見区内であ
る。
大神宮（安長谷）現神明社、八幡宮（山王）、山王宮（山
王）ともに現八幡神社。釈迦堂（柳作）、弥陀堂、薬師堂
（入台）、観音堂（掛）、虚空蔵堂、これ等にはそれぞれ相
当する堂または祠を存している。