[未校訂]七 中井侍直下の天竜川が割れる
昭和二十年(一九四五)一月十三日にマグニチュード
六・八の三河地震が起き、死者二三〇六人という大きな
災害となった。震源は愛知県蒲郡市近傍で、当地から八
〇キロメートル離れた中央構造線に近接した場所である。
中井侍の宮沢和巳さんの体験では、中井侍でアカシ(松
の根)堀をしていた。地面が激しく揺れて落石がたくさ
ん飛んできた。死ぬかと思い、とっさに尾根に逃げて難
を逃れた。すぐ家に帰ると、母が言った。天竜川が真ん
中から割れて黒い底が見えた。次の瞬間、水が両岸から
ぶっつかって水しぶきが噴き上がった。宮沢さんが見た
のは濁った天竜川で、間もなく上流からの澄んだ水に押
し流されていった。
この地震は第二次大戦中で軍が報道管制したため一般
人は知らなかった。けれど、当地では天竜川に大きな亀
裂ができるほどの大きなゆれが発生したと考察できる。