[未校訂]二月二十三日
私たちはミルン教授(1)に招かれて、帝国大学を見学した。
大へん興味深かったが、特に彼自身の担当している地震
学部門に興味を惹かれた。この大学で約一二〇〇人の日
本人学生が、多くの西洋人教授の下であらゆる部門の知
識を学んでいるが、その教授たちはそれぞれ自分の専門
分野で卓越した人たちばかりである。この優れた教授た
ちは日本人学生は極めて利発で聡明だと言っている。ミ
ルン氏は私たちを博物館と図書館に案内して、大へん面
白いやり方で、色々なことを教えてくれた。この大学は
比較的近年に最初小さな規模で始まったものだが、まさ
に驚くほど立派な施設へと発展した。私たちはミルン教
授がたくさんの地震観測用の科学的器械を、一括して設
置している穴蔵の奥まで入ってみた。彼はそこで今晩地
震があるかもしれないと私たちに警告した。それを聞い
て、私は公使館に戻ってから、大切なシナの花瓶や鉢を
ソファの上に注意深く横にして置いた。結局、地震は一
度も起きなかったので、私はとてもがっかりして、何か
欺されたような気がした。
(原注1) ミルン教授は現在(一九一二年)英国に住んで
おり、地震についての最高権威者の一人である。
[訳注](John Milne 一八五〇―一九一三)イギリスの
鉱山技師、地震学者。一八七六年、日本政府の招きで来
日、工学寮、工部大学校、帝国大学で鉱山学、地震学を
教えた。日本の地震に刺激されて地震を研究し、地震計
を考案して日本全国に九六八の地震観測所を設置し
た。日本地震学会を創立し、地震の組織的研究の端緒を
開いた。一八九四年帰国。
(注、地震の記事なし)