地震史料集テキストデータベース

[未校訂]（〔五五七〕十一月十一日　摂津国嶋上郡高浜村庄屋西田
半右衛門ゟ江戸山田惣兵衛宛書簡の一部）
一当月四日朝五ツ時頃ゟ五日七ツ時迠、京・大坂・摂・河・
城大地震、御知行所も当夏同様ニ而驚入、此度ハ、夏之
地震ゟ少シ軽クママ様相心得候得共、何分度〻ニ而、自然家
居等も痛ミ在之候ニ付、格別之儀も無之候得共、少ゝ宛
家根そんし、壁抔落、種〻損候所等、少ゝツゝ出来、甚
困リ居、其上、今以、折〻少ゝ宛地震いたし、扨ゝ不怪
事、如何可相成哉と心痛罷在、何卒、最早平和ニ相納リ
候様、奉祈居候御事ニ御座候、乍併、御知行（所）も此儘相納
リ候ハゝ、格別御心配被遊被下候程之事ニ無御座候間、
此段御案（安）意思召可被下候、江戸表ハ格別之御儀も無御座
候哉、御窺奉申上候
一當月五日七ツ時頃、大坂邊ニ而不怪地ひゝきいたし、如
何之事と何れも申居候処、大坂天保山邊沖ゟ大津波参リ、
安治川幷木津川へ堀之大舩数多ゆりあけ、尤、俄ニ山の
ことく波参リ候事ゆへ、天保山ゟ、安治川口ゟ、川之橋
不残数多之舩ニ而押ツフシ、家居抔も夥敷そんじ、右大
地震之事ゆへ、舩へ乘川へ罷出居候人夥敷所、右之始末
ニ付、死人等何程共不相分候得共、夥敷事之噂、扨ゝ不
怪事、何共奉驚入候、右躰之事存候得者、御知行所抔ハ
誠ニ難有事与奉存、村中一統、氏神へ御千度仕候而、半
日休日相歓祝仕候事
一御藏米賣拂之儀、扨ゝ六ヶ敷米相庭ニ而、何分不時節ニ
而、酒造家抔買入相見合候趣ニ而、思話敷買手無之、先
月廿日頃、程克口在之、十一月朔日渡しニ而、九拾壱匁
ニ廿石、役（約）束致置候処、段〻下落ニ而、彼是申候へ共、
約束相済候事故、右直段ニ而押而及引合、又候、少ゝ相
ば相直リ候ニ付、廿石、八拾五匁ニ而荒役（約）束太（大）躰出来候
処、先方段〻下落ニ付、余程損賦参候ニ付、彼是申相頼
居候得共、不聞入、強引合致居候義ニ御座候、然ル所、
右之大変ニ而、弥不入氣、酒造家抔も、弥以、買入相見
合、又候、金詰ニ而、大坂相ばも段〻下落、当時米買手
無之、賣〻ママ参リ候時者、七十五匁位抔と申、米買壱人も
参リ不申、地方も商人も見合、当時売〻（ママ）出来兼、右之始
末ゆへ、八拾匁位ニ者、当時之姿ニ而者六ヶ敷、種〻心
配仕居、銀方之所も右之始末ニ付、融通差押相引合居、
何分今暫、人氣相納不申候はねば、地方売〻（ママ）相庭も不相
定、無據相見合居候義ニ御座候、何卒、少しも早ゝ相庭
相直リ、程克御米御拂方出来候樣奉祈居申候、先者右之
段申上度、書余重便之節奉申上候、恐ゝ謹言
十一月十一日　西田半右衛門
山田惣兵衛樣
（〔五六三〕山田惣兵衛ゟ西田半右衛門宛書簡の一部
一御女（ママ）樣御縁組御整ニ付、貴殿幷杢太郎ゟ、爲恐悦、御目
録金百疋幷百姓一統ゟ同断被献、御披露申上候処、御悦
被遊、過分之儀ニ思召、厚宜可申進旨被仰付候、御女（ママ）樣
ニも弥御日柄も能、当月十六日ニ御引移リ被遊、至而御
樣子も宜被爲入、御同意恐悦奉存候
殿樣御初　御惣容樣ニも御安堵被遊候、右御入用金殘十
五両之処、当月中ニハ江戸着之儀無相♠趣ニ御申上被成
候間、其通リ与者存候処、当地当月四日四ツ時比、餘程
強地震有之、先御屋敷ハ少も御無難ニ御座候得共、所〻
大破損所之御屋敷有之、尤、場所ニも寄候哉、中ニハ御
家作丸潰れ相成候所も有之、其中ニ御屋敷無御別条無（ママ）之、
誠ニ恐悦之儀ニ御座候、其節承リ候ハゝ、箱根ゟ先者、
伊豆之下田辺抔大つなみ与申事故、其辺斗之事ニ思召候
処、尤、此節風説ニ者、大坂も矢張大つなみニ而、天保
山抔ハ巻込候由、御聞込、御知行所辺者如何哉与御案し
被遊候間、早速書狀ニ而も可遣与存候処、飛脚之者書狀
受取不申、別段ニ飛脚仕立候ハゝ格別、通例之便リ者受不
申趣ニ付、被遊方無之、然ル所、今度、御相番樣ニ而、松平
次郎左衛門樣与申御方、大坂表江御代人ニ御登リ、来月二
日当地御発足ニ付、右之御方樣江御頼被遊、此狀差進申候
御女（ママ）樣御片付金幷御賄金等不被差越候ハゝ、如何可被遊
哉与、日〻御心配被遊候、御知行所辺、地震等ニ而、格
別成義有之候ハゝ、飛脚ハ止リ居候共、誰か御届ニ者出
可申筈之処、今日迠、其沙汰無之間、少〻者御安心ニ思
召候、此度之地震つなみ者、是迠ニ無之、大変之樣ニ風
説有之候へ共、人之噂斗ニ而、実抔ハ更ニ相分不申、尤、
取沙汰者、兎角ニ拾倍ニも申ものゆへ、いかゝ可有之哉、
誠ニ不宜事斗、種〻有之、御同意心痛いたし候、天保山
ハ、弥波ニ巻込れ候哉、此上、御知行所水道之爲ニ者如
何御座候哉、其辺も深御案思被遊候、大坂表江参リ候、
ヲロシヤ舩者、関東ゟ之御差圖ニ而、下田仲（沖）江参リ候樣
被仰遣、右参リ居候処江、件之大つなみニ而、舩も損シ
候与申事ニ御座候、駿河　御城中も地震ニ而餘程損し申
候由、人之咄しニハ、先達而、いつ之事ニ候哉、日光山
も大雪・大雷ニ而御座候由、是迠、日光山ハ雷鳴有之候
共、落候事ハ無之処、此度ハ夥敷落申候よし、誠ニ不思
儀（議）事而已、恐愼可申事ニ御座候、先者御報旁用事申進度、
如斯御座候、恐〻謹言
十一月廿七日認置　山田惣兵衛
西田半右衛門殿
猶〻当冬者、昨冬与者♠、寒氣も強、当月十六日迠者、
暫く濕も無之、からいてにて厳敷御座候処、十六日暮ゟ
雨降、夫ゟ雪ニ相成、殊之外氷抔厚、一統風邪等流行ニ
而、遁候もの者稀成位、嘸〻地震等ニ而、家作も潰候も
の抔、痛申事与存候、此比者、少しゆるみ、一昨夜ゟ雨
天ニ相成、昨日も折〻雨降、今朝も強雨ニ而、昼前より
快晴ニ相成申候、江戸表菜大根ハ大当リ、大根之直段、
沢山漬ニいたし候、干大根百本ニ而弐朱迠者致し不申品
ニ而、四斗樽江漬切不申位、尤、丈も長く、樽江支申候
美事之出来ニ御座候、只今之分ニ而者、麦抔も宣哉与存
候、何卒、諸作相應ニ出来、世上穏ニいたし度存候、何
も重便迠萬〻申残し候、以上
（〔五五七〕十二月五日認西田半右衛門ゟ山田惣兵衛宛書簡
の一部）
一當年者、前代見（未）聞之年柄ニ而、春夏ゟ大地震・大風・大
津浪等ニ而、諸國大荒之趣、種〻取沙汰、扨ゝ奉驚入候
御事、乍併、上方筋、先便荒増奉申上候後、大風・大雪
等も有之、尤、地震も只今ニ折〻有之、日夜安き心者無
御座、銘〻心配者致居候得共、先〻今日迠、別条之義無
御座、勿論、江戸表之儀も実節（説）ハ不相分候へ共、當月十
四日・十七日頃大地震抔与も風聞致候ニ付、是亦如何と
御案シ奉申上、早速、高井武右衛門へ聞合候所、格別之
事無之、尤、御屋敷近辺、聊別条無之趣申呉候ニ付、安
堵仕、乍併、前文始末ニ而、道中筋隙取候始末承之候ニ
付、前段之通、六日限ヲ以、暮御仕舞金奉差上申候次第、
乍恐、御同前ニ此上天下泰平靜謐御祈奉申上候ゟ外御座
有間敷奉存候
（〔五六三〕（安政二）二月廿七日　山田惣兵衛ゟ西田半右衛
門宛書簡の一部）
一当二月十一日出御狀、金七両三分入、同廿二日着致申候、
右四便御狀之趣、委細致承知候、其表未折〻少〻ツゝ之
地震有之候由、当地ニ而も、折〻地震いたし候、既ニ、
当月十二日、加賀・能登・越中・越後大地震ニ而、潰家・
怪我人・死人等も多有之候趣ニ、此節専ら風聞いたし候、
同日、東海道倉沢峠者津波ニ而崩申候儀も風聞いたし候、
右同日者、江戸表も餘程地震いたし申候、右同日、江戸
表者大雨ニ而風も吹、雷も鳴申候、十三日ニも厳敷雷鳴
ニ御座候、右故、時候甚不順ニ御座候、一躰当春者暖ニ
而、此節ニも至リ候ハゝ、綿之入たる着類候ハ不入樣ニ
も可相成抔与人〻申候位之処、其後雪催有之、降者いた
し不申候へ共、雨斗ニ而も、誠ニ寒氣強、夫ニ雨降候節
者風吹、天氣ニ而も烈風者度〻有之候、漸〻此両日者、
例之上巳比之時候ニ相成申候、右故、病人多、既ニ
殿樣ニも、当正月十二日ゟ、俄ニ御胸痛相發、殊之外之
御難渋ニ而、四五日者、甚御難儀被遊候、其後者、先早
速御胸痛も御快被爲入候処、御腹内筋張、御腰痛強、時
候之不宣候故、何分すら〳〵と御快不被爲入、漸此節者
御快被爲入候、右御取込等ニ而、書狀も大延引いたし候