[未校訂]二十九日 廿九日[朝|あした]のま雲たてど日影ほのめきしが、[夕|ゆふ]
付ていとあわたゞし気に風たち、いかづちなり、雨ひと
しきり降出ぬ、と[思|おも]ふ程になゐさへふりぬ。きのふけふ
の気色物らほしつる人、あるは大路ゆきかふ人南あわて
ぬべき。
たゝまくをしみつる花の[名残|なごり]は[夢|いめ]のまにて、「雪とは
名のみ」とながめけむ卯の花も青葉にしげり、月かはら
むとす。今朝はいとよく打晴はた雲折々たつ。此ごろ時
よりもいと[涼|すゞ]しう若き人こそひとへも[着|き]め、いふ[甲斐|かひ]な
き身は[厚肥|あつごえ]たる[衣|きぬ]ども打かさねぬ。かゝる程に昼くだち
[昨日|きのふ]にひとしう雨俄に[降出|ふりい]でかみなりはためきぬ。しば
し有てはた打[晴|はれ]なゐふりぬ。[二|ふつか]日三[日|か]、はかり合せたら
むやうなる気色也。